政界の韓国化
今の日本は30年前の韓国と酷似している。
1981年の大統領選では全斗煥大統領が選出され、同じ年の総選挙では与党民正党が圧勝を収めた。野党も「体制内野党」の側面があった。それまでの有力な野党政治家は軒並み追放されていた。
2012年に安倍政権が樹立して以降、翌年の参院選でも、今回の総選挙でも、3年連続で圧勝を続けている。
一方ここ数年で野党はどんどん凋落している。野党第一党の民主党は2009年から3年間政権与党だったが、民主党に政権交代させた鳩山元首相は2012年の総選挙で政界引退。鳩山氏と菅直人元首相とともに民主党の「トロイカ体制」を支えていた小沢一郎氏も、2012年に派閥議員50人を率いて離党を決断。民主党のスローガンをそのまま政党名にした「国民の生活が第一」を立ち上げた。現在は「生活の党」になったが、たったの2議席しか取れなかった。民主党の方も、党首の海江田万里が落選し、比例での復活もできなかった大敗北となった。「結の党」と合併して拡大した野党第二党の維新は投開票前に負けを宣言し、みんなの党は選挙寸前に消滅し、渡辺元代表も落選した。自民党に対抗できる政権交代能力のある政治勢力は今現在存在していない。
そもそも、思えば民主党政権時代から「大政翼賛会」の兆候があった。
自民党は農協などの業界団体を支持母体とし、民主党は連合の労働組合が支持母体だった。だが民主党政権が樹立すると、農協などは民主党支持に回った。労働組合も当然、与党の支持勢力である。これによって「政権与党を支持する組織集団」がやたらと増えた。自民党に政権党が戻っても、連合と「政権与党」の急接近が続き、おそらくこれが昨年の参院選と今回の選挙での民主党の敗因であると思われる。
民主党最後の野田政権下では社会保障と税の一体改革に関する民主・自民・公明による3党合意が行われた。菅直人政権で持ち上がったTPPに当初自民党は反対していたが、安倍政権が樹立するとまんまと公約を破ってTPP推進は引き継がれた。今度は手のひらを返したように民主党が「TPP反対」を訴えるようになっている。
今の野党は、表面的には自公政権と対立しているように見えても、実質的に補完し合っているような側面が強い。みんなの党の末期は渡辺代表が自民党との連携を試みていて、維新を割った次世代の党は安倍政権の強硬策をさらに後押しするよう促す方針を掲げていた。「体制内野党」があまりに多いのだ。
・・・とまあ、わずか5年もしないうちに日本の政治は目まぐるしく変化し、まさに韓国のかつての政治構造とそっくりになっているのだから、世の中どうなるか、わかったものではない。
そして、韓国化するのは、政治構造だけではないのだ。
日本経済はこのまま破綻するかもしれない
1988年のソウルオリンピック開催を建国以来の一大プロジェクトに位置付け、政治・メディア・経済界が一直線に突き進んでいたのが韓国の80年代だ。
何かに似てないか。まさに2020年のオリンピック東京開催をめがけてまい進し続ける日本そのものだ。五輪招致キャンペーン当時からして、多くのタレントがメッセージを寄せる広告物が東京の町中やあらゆるマスメディアに乱舞した。私は1998年の長野五輪を記憶しているが、あの時だってここまでしつこくはなかった。できたばかりの北陸新幹線で長野県に行ったらさすがにグッズだらけだったが、東京にいる限りは、五輪の話題は海外の大会と同じくらいしか入っていなかった。
五輪を仰々しい「国家行事」に位置付けるのは、ハッキリ言って独裁国家の常だ。ナチスドイツなんかまさにそうだったし、ソ連邦のモスクワ五輪とか、最近だと北京大会もそうだろう。北京五輪の開会式はいかにもプロパガンダめいた盛大なもので、シドニー、アテネ、ロンドンなどの2000年代の大会と比べるととても異質だった。開催に合わせて、膨大な箱物建設をしまくったことは言うまでもない。ちなみに韓国は、五輪が決まった時点ではまだ独裁国で、「五輪の成功」を条件に民主化を成し遂げたのは1987年のことだ。
今の日本のムードだと東京五輪ももしかすると、その類になるんじゃないかと思ってしまう。「もともと独裁国で、五輪を契機に民主化した韓国」より状況が悪いということだ。なぜなら戦後70年自由な民主国家だったはずの国が、五輪を目標に定めた途端に逆行するのだ。それは1940年の「紀元二千六百年記念行事」と同じノリなのかもわからない。EXILEやAKB48が日の丸をなびかせてパフォーマンスする開会式が目に浮かびそうだ。
では韓国は、オリンピックによって繁栄しただろうか。実際には違う。経済政策も公共投資も特定の層にばかり恩恵が偏重していて、たとえばソウルの郊外はスラム群が広がったままだった。何より、その後の1990年代にIMF危機が生じ、韓国経済が破綻してしまったのだ。その時ヒョンデ財閥やデーウ財閥が解体された。
日本もこの道を辿るものだと思われる。アベノミクス政策は「トリクルダウン理論」に基づいてい行われているが、実際には景気の良くなった企業は限られている。一部の大企業や公共事業で直接潤う土建業者だけが良くなっている。中小企業はむしろ悪化してさえいる。そしてその大企業にしても、経営陣が保守化し、旧態依然するガラパゴス化や「日本病」を患っている。1980年代なら「安くて壊れにくい大衆家電や自動車」を作れた国は日本しかなかったし、若い人材や働き盛りの団塊世代が沢山いたからいいが、いまはコモディティ化でもっと安いものをアジアで作れる時代だ。日本は少子超高齢社会で、「歯車になる人間」がそもそも少ないし「消費する人間」も減っている。アジアの新興企業の方がグローバリズムに適応するセンスのいい経営者がいるわけで、偽りのアベノミクスバブルから冷めた頃、東京五輪が終わった2020年代には自動車会社や家電会社が余裕で潰れると思う。それこそ、韓国と同じように。
韓国から反面教師とするべきこと
韓国から学ぶことは多い。多かれ少なかれ、同じ道をたどるのであれば、未来を「先取り」する方がいいと思う。
IMF危機の時、韓国の若者は大量に海外流出した。優れた仕事のある先進国に移民に行った。欧米にニューカマー(2世、3世ではない韓国出身者)の韓国系移民が多いのはそのためだし、日本の新大久保だってその時出来上がった街だ。以前は韓国人街ではなかったのだ。
20代以下の若者であれば、「移民に行くすべ」を今のうちに培うべきである。語学もそうだし、寿司職人になる技術とか、専門的な技能を持ったほうがいいだろう。今あなたがどこかの自動車会社のホワイトカラー労働者でも、10年後に会社が残っている確証はないから、ドイツのどこかでクリーニング屋を開業するくらいの心構えがあると上等だろう。
マスメディアの人間であれば、行きつく先は「言論統廃合令」のようなものだと考えた方がいい。朝日新聞が潰される可能性もあるし、逆に御用となって生き延びようとすることもあろう。でも、韓国が民主化を成し遂げてからは、政府のプロパガンダとなったテンジョンニュースは「韓国メディア史最大の汚点」として見られるようになっている。たぶん、日本でもいずれ「愛国ポルノ」や「過剰な演出をして政権をヨイショするワイドショー」を厳しいまなざしで振り返る時代はきっとくるはずだ。
同族嫌悪がナショナリズムを煽る
さて、韓国で反日ナショナリズムが過剰になったのも1980年代ごろのことだ。1970年代までは日本統治時代を知る日本語世代が多くいて、朴正熙大統領も親日家だった。幕末の偉人を尊敬するがあまり「維新体制」なんて政策をやったりしていた。
全斗煥大統領すらも実際は親日家だったという話もある。だが、反日路線を行ったのは利益のためではないだろうか。国民の不満を外に仕向けることで、いびつな政権基盤を堅持するというものだ。
そして、もっというと韓国における反日は「今の日本」への憎悪ではない。日帝、つまり戦前の日本(大日本帝国)への嫌悪だ。韓国人は今の日本と戦前の日本を区別している。日本人がナチスドイツと現在のドイツが別物だと解釈することと同じだ。(ネトウヨはバカなのでまずこの時点で思考停止を起こしてしまうが・・・)
韓国人は「日帝」を批判し、「日帝強占時代」への「逆コース」ととらえかねない事象があると反日ムードが高まるのである。
戦前日本は「戦後韓国」ととてもそっくりだ。
戦前の日本政府は、完全な民主主義を有していなかった。第二次世界大戦でアメリカに負けるまで制限選挙を行っていて、大正デモクラシーの時期をのぞけば統制の側面が多かった。政治と軍部と財閥が切り分けられずにもたれ合って発展したのが明治維新以来の大日本帝国だった。だからそれらをGHQは解体した。
このDNAが植民地統治と言う形で朝鮮半島に行きわたり、戦後もそのまま残ったのが韓国である。だから、独裁政権が長引いた。軍人が大統領になったり、財閥と癒着し合ったのである。韓国社会の特徴や問題点の多くは、日本の戦前と重なるものが多い。ハッキリ言って、今もそうだ。
そして、2010年以降の日本は急速に「韓国化」している。
テレビを付ければどのチャンネルも連日のように同じ番組をやっている。これは韓国のキー局と類似している。娯楽だけならまだいいが、ニュースすら同じ話題を同じ切り口で同じトーンで、同じような政権ヨイショで報じている。これは完全に以前の韓国だ。
愛国ポルノ本やネトウヨは韓国の問題点として「大卒の若者に働き口がない」と言っているが、今の日本はそうなっている。有力大学卒以外は大半が不安定なサービス業や介護に就職している。
「日帝よりはましな韓国」とか「韓国よりはマシな日本」とか、そういう愚かな内向きな発想ほどダメなものはないと思う。韓国は無事に民主化を成し遂げたが、その背景には光州事件と言う痛ましい出来事があったし、IMF危機を乗り越えて、やっと、カンナムのにぎやかでぎらついた消費文化も星の数ほど存在するケーブルテレビが多角的な報道や韓流コンテンツで満たされている現状がある。
そうした歴史のある国が隣にあるのだ。だからこそ、今の日本の体たらくを、日本人は絶対に直視しなければいけないだろう。