2014年10月31日の追加緩和に関して纏めてみた駄文集
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ご案内の通りQQEで2年で2%で逐次投入しない筈の黒田日銀が追加緩和を実施したのですが、色々と論点があり過ぎて何なので11月3日(〜5日辺りを予定)に色々と書き物をしておりまして、ネタが多いのでこちらにまとめて置いておこうかと。
・政策ロジック編:政策効果の検証が全くないという点と2%物価目標に対する考え方についてのロジックについて
・展望レポート確認編@:全体の説明が雇用情勢一点突破になっている上に潜在成長率が下がっているとはこれ如何に
・展望レポート確認編A:どこまで逝っても雇用情勢以外の説明に説得力が無い件
・展望レポート確認編B:リスクアセスメントの話とか金融政策運営の話とかちょこちょこ違和感がありますなあ
・コミュニケーション&フィージビリティ編:騙し討ち金融政策ですなという話と来年フローで110兆買えるのかという話
お題「こりゃビックリの追加緩和:その1政策ロジック編」
で余りにも論点が多いので幾つかに分けてこれから徐々にアップしていきます。まずは政策ロジックの面からツッコミ所を幾つか申し上げようかと思います。本当は土曜日からアップするもんなのですが例によってぐうたらと頭を眠らせてあまり動いていなかったので週明けに向けて祝日だが月曜日なのでリズムを取り戻す為に書くというものです。
○全体を一応確認しつつ追加緩和はわかったがこれまで行った政策効果の検証は無いのかという点
やや時間が長かったのは展望レポートの楽観見通しで揉めたのかと思っていたらこんなに早く「降参」するとは思ってませんでした。いやはや話が違うじゃねーか。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2014/k141031a.pdf
「量的・質的金融緩和」の拡大
『(1)マネタリーベース増加額の拡大(賛成5反対4)(注1)
マネタリーベースが、年間約80兆円(約10〜20兆円追加)に相当するペースで増加するよう金融市場調節を行う。』
実際は足元が70兆円のペースで拡大しているので「10〜20」と書いてある20兆円の方はイカサマにも程があってまずこの時点で毎度おなじみのイカサマプレゼンが出ていますがその話はまた後ほど。
『(2)資産買入れ額の拡大および長期国債買入れの平均残存年限の長期化(賛成5反対4)(注2)
@ 長期国債について、保有残高が年間約80兆円(約30兆円追加)に相当するペースで増加するよう買入れを行う。ただし、イールドカーブ全体の金利低下を促す観点から、金融市場の状況に応じて柔軟に運営する。買入れの平均残存期間を7年〜10年程度に延長する(最大3年程度延長)。
A ETFおよびJ−REITについて、保有残高が、それぞれ年間約3兆円(3倍増)、年間約900億円(3倍増)に相当するペースで増加するよう買入れを行う。新たにJPX日経400に連動するETFを買入れの対象に加える1。』
MB拡大ペースを年間10兆円分引き上げるのですが、従来の70兆円の枠組みの時に20兆円拡大するという事になっていた短期国債およびその他固定金利オペや貸出支援がどこからどう見ても無理になり、現実問題として短期国債入札までもがマイナス金利に突入してしまい、そこら中からカチコミが飛んできているのは兎も角として、この調子で来年も継続するとなると短国金利がどこまでマイナスになるのかもわからんという状況でしたので、短期が買えなければ長期を買えば良いじゃない攻撃を行ったのに加え、当初QQE導入した時よりも発行年限が新規発行分でもストック分でも長期化したことを踏まえて買入の平均年限を長期化しましたという話だが、短期のフィージビリティは一息ついた(が結局これだけの長期国債を買ったら担保足りなくなるだろうし、そもそも誰が当預を積むのかという話もあるがそれも後ほど)けど今度は長期国債市場の方に無茶苦茶なプレッシャーが掛かるという話なので、結局国債市場は長期も短期も将来的に碌な事にならないのは自明。
でまあおじちゃんあまり詳しくないのですが、ETFとREITってこれフィージブルなのですかねえ。何か1兆円のペースをいきなり3兆円とか3の数字合わせみたいな言葉遊びの勢いで3倍にされているのですけどインデックスばっかり強くなるとかREIT物あるのかよとか大丈夫なんですかねえ。
・・・・・・・とまあそういうことで盛大に戦力の逐次投入が実施された訳でございますが、何せ今回の施策の説明に関して声明文および会見(会見テキストはどうも週明けのようなのでそのネタはまた水曜にでも投下予定ですけど今回の会見放送見たら黒田さん顔ひきつってましたよね)での説明を見ますと「下振れ対応」なのは判るが、そもそも論として昨年4月5日のQQE実施において何度も黒田さんは「必要かつ十分な措置を実施」したと説明していましたし、その後の展望レポートなどでも含めて2回の消費増税についても織り込んだ見通しを出していた筈なのですよね。
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2013/kk1304a.pdf
『(答) 今回、必要な措置は全て採ったと言ってよいと思います。もちろん、経済も金融も生き物ですので、その時々の状況をみて、必要があれば躊躇なく調整していきますが、2
年で2%の物価安定目標を達成するために、現時点で必要な措置は全て決定したと考えています。』(昨年4月4日総裁会見の4ページより)
そらまあリーマンショックみたいな外的ショックが起きれば2年を待たずして何らかの追加緩和を実施するのも仕方ないのですが、今回の声明文の説明がどうなっているのか確認しましょう。再び今回声明文から引用します。
『2.わが国経済は、基調的には緩やかな回復を続けており、先行きも潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。ただし、物価面では、このところ、消費税率引き上げ後の需要面での弱めの動きや原油価格の大幅な下落が、物価の下押し要因として働いている。このうち、需要の一時的な弱さはすでに和らぎはじめているほか、原油価格の下落は、やや長い目でみれば経済活動に好影響を与え、物価を押し上げる方向に作用する。しかし、短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがある。日本銀行としては、こうしたリスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するため、ここで、「量的・質的金融緩和」を拡大することが適当と判断した。』(今回の声明文、以下同様)
消費税増税の影響という当初予定通りの事象に加えまして、原油価格の下落というのを入れていますが、そらまあ高値からは下がっているけど別に価格ショックという程の物でも無いですし、大体からして原油輸入国の日本では原油価格が下がって別に困る話ではない(まあさすがに書いてありますが)訳で、この原油価格の下落を捕まえて外的ショックというのは無理があります罠というところです。
・・・・・・・・となりますと、そもそもの経済物価見通しがおかしかったという可能性があるのですが、基本的に消費税そのものは理念的には短期的に言えば駆け込み需要とその反動がチャラ、中期的には消費税で減少する可処分所得分が財政による分配によってどのようにカバーされるのかという点がポイント、とまあそういう話になりますので、経済見通し云々よりは「そもそも論として過激なまでに行っているMB拡大政策が妥当なのか」という点を考え直さないといけないのではないでしょうかねえ。
なお、今回若干良心の呵責でもあるのか声明文の3番がちょっと面白くなっていますけどね。
『3.今後も、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う2(注3)。』
前回の声明文の当該箇所ではこのように記述がありました。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2014/k141007a.pdf
『6.「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う(注2)。』(これは前回10月7日の声明文)
ご覧になれば判りますように、今回はさすがに恥ずかしいと思ったのか『「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており』というのが抜けておりますが、ただまあ総裁会見の説明ではやはり効果を発揮している的な説明をしていたように記憶しておりまして(詳しくは週明けに出る会見要旨を見る)、結局の所MB投入は効果がある(キリッ)という話になっているのですよ。
しかしですね、少し考え直して頂きたい訳でして、そらまあMB拡大は金融緩和方向になる(少なくとも量的な意味での引き締めにはならん)のですが、そのMB拡大の定量的な効果に関してのレビューも無い状況で「足りないから追加すれば良いじゃないか」というのは、戦局が好転しないから兵士を輸送船で送り込めば良いじゃないかと言いながら大した護衛もつけずに丸腰同然の輸送船を送り込んでバシー海峡でガンガン沈められるわ無事に到着しても物資も武器弾薬も無いので結局使い物にならないわとなっていたどこぞの国の戦争末期とどこがどう違うのかと小一時間問い詰めたい訳でありまして、そらまあ作戦参謀でございと言って椅子にふんぞり返って動員する方は数字合わせだけしてれば満足かも知れませんが、バシー海峡で海の藻屑にされてしまうが如き仕打ちを受ける金利市場関係者としては何の為にその動員を行っているのかきちんと説明しろやと蓆旗でも立てて押し寄せたくなる心境であります。
ええまあQQEの当初導入時に関しては定量的な部分ってやってみないと判らない的な所もあったかもしれませんけれども、既に始まってから1年半も行ったのに未だに定量的なレビューが何もないとか非伝統的政策だから判らんで済ますには余りにも無茶苦茶な話で、これがまあ市場機能とかその辺に対して特段毒にも薬にもならない話ならああそうですかでスルー出来る可能性はあっても、ここまで市場にプレッシャーを掛けた上に、更にもっと強烈なプレッシャーを掛けて金利市場そのものを壊そうとしているのですから、これまでのMB拡大政策がどのように2%物価目標に対して効果があったのか、そしてこれから拡大する予定のMB(および資産サイドの構成)がどのように効果を出して2%物価目標を早期に達成できるのか、という点について「量を出せば効くに違いない」とか「気合」とかでは無いきちんとした見方というのを「政策委員会として」示して頂きたいですし、まさかそのような事は無いと信じていますが、「2じゃインパクトが無いから3だ」みたいな木っ端役人の数字遊びをベースにしてこの追加緩和の数字が作られたなどとい事では無いという事を(日銀レビューみたいな「日銀の見解ではなく個人の見解です」的な逃げの入ったモノではなく)政策委員会としてきちんと示して頂かないと、ほとんど丸腰の輸送船でバシー海峡に送り込まれる方はたまったもんじゃないですよと申し上げておきましょう。
とまあそういう事でして、話の途中で決定内容の確認もしたのでグダグダになったので改めて纏めますと、今回の決定を見て明らかになったのの一つが「政策手段の妥当性に対する効果測定も検証も行っていない」という事でありまして、これだけの市場へのプレッシャーおよび価格形成を歪ませるような副作用を発生させても実施する程の定量的な効果が本当にあるのかのレビューも無ければ先行きの見通しも無いとか、戦争末期で敗戦待ったなし状態のダメダメ軍隊のようで落涙を禁じ得ません。
つーかですな、MB拡大の定量的効果が明らかでこの追加によって確実に早期2%物価目標達成出来るのであればそらまあ一時的なプレッシャーは耐えるしかないでしょうとなりますが、そもそも1年半MB拡大を盛大に実施したのに実は足りませんでしたという状況なのにここから追加して意味があるのかというのもありますし、大体からしてフィージビリティを検証(は後でやります)するまでも無く年間80兆円の国債買入残高拡大とか何年も継続できるとは到底思えない(というか1年持つのかも分からん)のですが、そのフィージビリティが爆発する前にきちんと2%目標が達成されるというグランドデザインが全く示されない(示すも糞も検証していないのだから無理)のに3だから80兆円とか悪乗りプレゼンのノリで政策投下して大丈夫かとしか思えん。
○そもそも2%物価目標に関する定義もちゃんとできていない点について
さてさて、今回の特徴は何せ「実務家の政策委員が全員反対に回った」という所でして、毎度の木内さんは兎も角として、石田さん、佐藤さんに加えまして、基本的に今まで執行部提案に反対はしなかったし、講演などでも執行部見解のリファーから大きく外れる事のなかった森本さん(前職は東電副社長)が反対に回ったというのが前回のQQE実施とは大きく異なる点です。
まあ反対した委員の理由はさすがに今回の決定会合議事要旨では詳しく出るでしょう(それより10年後にじっくり読みたい)とは思いますが、声明文では反対理由に関しての説明は無いのが仕様なので理由は足元では想像するしか無いのですが、今回の追加緩和決定理由に該当する声明文の項番2を見ると大体状況が推測できるというものです。ということでさっきの項番2を再掲。
『2.わが国経済は、基調的には緩やかな回復を続けており、先行きも潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。ただし、物価面では、このところ、消費税率引き上げ後の需要面での弱めの動きや原油価格の大幅な下落が、物価の下押し要因として働いている。このうち、需要の一時的な弱さはすでに和らぎはじめているほか、原油価格の下落は、やや長い目でみれば経済活動に好影響を与え、物価を押し上げる方向に作用する。』
という所まででは追加緩和をする理由になっていません。以下がポイント。
『しかし、短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがある。日本銀行としては、こうしたリスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するため、ここで、「量的・質的金融緩和」を拡大することが適当と判断した。』
ナンジャソラとしか申し上げようがない説明ですけれども、期待インフレ率上昇のメカニズムとして、
http://www.boj.or.jp/announcements/press/kaiken_2014/kk1401a.pdf
『そういった政策のアナウンスメントに対応してフォワード・ルッキングに上昇する部分もあると思いますが、実際に物価上昇率が上がっていく過程の中で、いわばバックワード・ルッキングに予想物価上昇率が上昇していく要素も、両方あると思います。』(本年1月22日総裁会見の6ページから)
ということで、バックワードルッキングにアダプティブなインフレ期待形成、というのがあって、この説明ですとまずはその点を意識しているというのもあるのでしょうが、「好転している期待形成のモメンタムを維持」とは何ですねんと考えた場合に「2%物価目標」に対する実務家の皆様と日銀執行部(および腰ぎんちゃくの役にしか立っていない曲学阿世の学者審議委員諸氏)の見解の相違というのが見えてくるように思えます。
つまりですね、「期待形成のモメンタム」というのはよーするに「とにかく勢いで2%を何とかヒットさせる」ことによってバックワードの期待形成も更に強めて2%インフレ予想をアンカーさせたいというお話でありますし、これまた会見での総裁の説明が(記憶に間違いが無ければ)明らかにそういう趣旨の説明になっていて、CPI(中長期的には総合なのですが短期的にコアでしょうかね)2%という数値をできるだけ早期に叩きだしたい、というのが今回の「実際には途中でゴメンナサイしている追加緩和」になった訳でしょう。
一方で木内さんの場合は2%は中長期的に目指すという話ですし、佐藤さんの場合は2%目標という概念についてよりフレキシブルに考えるべきであり、足元のCPI数値を過度に重視するのではなく、よりフォワードタ―ゲット的な説明ですし、石田さんも佐藤さんと似たような話をしていました。森本さんは今まであまりその辺に触れていないのでよく判りませんけれども、実務家として考えた場合にやはり同様に足元のCPIヒットを過度に重視するあまり、国民厚生的に必要が無い施策を実施するのは如何なものかという論点なんでしょうなあと想像しますが、こればっかりは議事要旨を見ないとよく判りませんのでとりあえずこの会合の議事要旨担当の方には出来るだけ分かりやすい記述をお願いいたしたく存じます。
まあそんな訳でして、2%物価目標というのはあるけれども、それに対する具体的な形がどうなのかという点について政策委員会での意見が分かれているということで、そらまあ超コンセプチュアルに言えばフィリップスカーブの切片が2%であり、景気が1サイクル回る中でCPIが平均すると2%程度で安定推移する、という点は全員一致だと思うのだが、足元の数値をどう評価するのかという点で意見が大きく異なっていると思われますし、まあフレキシブルインフレーションターゲットの考え方からすると反対している実務家の皆様の見解に分があると思いますし、実務家の皆さんはこの追加緩和で起こり得る様々な副作用も勘案して実務家として賛成しがたいという事になったと思いますので、今回の反対4票しかも全員実務家で賛成しているのは執行部と腐れ学者2名というのは非常に重い意味を持つと思います。
まあそもそも追加緩和をしたら何で物価上昇のモメンタムが強くなるのかがさっぱり判らない(だいたいからして追加緩和ったって単にMB拡大ペースをちょっと上げているだけ)のですが、まあそれは兎も角としましても、検証という意味で言えば先ほどの「政策効果の検証」の他に「2%の物価数値をを短期的にヒットさせに行くのが本当に妥当なのか」という点についても、先ほどのMB拡大と同様に当初の決定がアプリオリに正しいのでその通りに突き進むだけ、という政策当局者としてあるべき姿勢を逸脱しているのではないかと思われるロジックが絶賛展開されている、という点にこの追加緩和の先行きが危ぶまれる訳です。
いやまあこれによって2%物価上昇して、しかも経済は良くなる(ただの円安コストプッシュ物価上昇だったらそれは短期的には物価上昇だが中期的に見た場合には購買力の低下から需要の低下を通じて先行きのデフレ圧力を高めるだけ)というのであれば別にこれはこれで勢いと気合で結果オーライかもしれませんが、そうなるメカニズムも結局期待と気合だけなのですからまあ先行きは暗いですよね。
2014/11/03
お題「追加緩和に関する論点その2:展望レポートの見通しを点検するとボロがボロボロ」
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1410b.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1404b.pdf(前回4月)
超長くなるので何回かに分けます(って結局アップするから同じなのだが)。
決定内容の方で皆さん(ってワシもそうですが)ビックリしていて肝心の展望レポートにおける見通しの方へのツッコミが瞬間反応できなかったかと思いますが、展望レポートのとりあえずは基本的見解部分に対してツッコミを入れると色々とボロがあるので逐語確認をしていこう、というかなり無謀な企画を投下します。
土曜日の昼に背景説明を含む全文が出ておりまして、本当は全文を逐語確認をすると更に味わいが深いのと、そもそも前回の展望レポートでも基本的見解部分と背景説明部分で微妙にニュアンスが違う所があったりしてかなり面白かったのですが、今回は前回4月と比較しながら色々と確認していこうと思います。
というのはですね、今回ロジック崩壊の謎追加緩和を実施した訳ですが、そもそも論としてこれだけの謎緩和を実施するのですから、先ほど申し上げたような「MBの定量的効果」についてもそうなのですが、じゃあこの政策を追加投入した結果何がどうなって物価が上昇してインフレ期待が上昇して2%物価目標が達成できるのかという点を確認するのは展望レポ―トなのであるので、メカニズムを確認したいという話な訳ですよね。
○結論から先に申し上げると「労働需給」以外に物価が上昇する明確なメカニズムが無い
まあ小見出しの通りでして、まー大体そこしか物価が上昇します(キリッ)の説明のしようがないという事もありますが、ものの見事にメカニズムが労働需給に関する話に集中しておりまして、雇用所得環境の改善が弱まったらどうするんでしょうねえとしか申し上げようが無いかなーり脆弱な話が以下展開されるのでお楽しみに。
それから政策のそもそも論に関わる部分なども最初の方からいきなり飛び出すので中々面白いのですけれども、結局基本的見解の部分を何度読んでも労働需給以外の状況は物価2%達成に背を向けている状態にしか見えない説明になっています。
なお数値については予想通りで手前はGDPと物価が下げ、2015年度はGDPほぼ横で物価は下げて中心が+1.7なのは兎も角として大勢見通しの上限が+1.9で全体の一番強いので+2.0という下げ方。2016年度はGDPが微かに下がっているけれども物価は変わらず、という中々謎の数値になっていますが、これって「追加緩和込みでこの数字」ですからねえ・・・・・・・
○物価見通し時期とメカニズムの説明が更に雑になっているエグゼクティブサマリー
最初の『<概要>』が全体纏めです。
『2014年度から2016年度までの日本経済を展望すると、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けると予想される2。』(今回)
『2014年度から2016年度までの日本経済を展望すると、2回の消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。』(前回4月)
ということでこちらは同じ。
『消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)は、当面現状程度のプラス幅で推移したあと、次第に上昇率を高め、見通し期間の中盤頃、すなわち2015年度を中心とする期間に2%程度に達する可能性が高い。その後、これを安定的に持続する成長経路へと移行していくとみられる。』(今回)
『消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)は、暫くの間、1%台前半で推移したあと、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、見通し期間の中盤頃に2%程度に達する可能性が高い。その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していくとみられる。』(前回4月)
でまあこれに関しては直近の金融政策決定会合声明文も比較したいのですが。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2014/k141007a.pdf
『消費者物価の前年比は、暫くの間、1%台前半で推移するとみられる。』(10月7日決定会合声明文より)
となっておりまして、今回の展望レポートで物価先行き見通しの文言を変更しています。つまり従来示していた「1%台前半」という数値が「現状程度のプラス幅」となりまして、その現状とは何ぞやと言いますと直近公表された全国コアCPIが消費税抜きで+1.0%となっている事から、物価の先行き見通しについて手前の部分を下げた格好になっていまして、その期間に関しては従来の「暫くの間」という半年程度を意味するとされる文言から、より期間の短い「当面」に変更になっています。
数値が下がっているのは、以前の会見で黒田総裁が1%を割らないという趣旨の発言を行ったことに対するヘッジ文言でありまして、これで目先1%割れの数字がヒットした時の申し開きが出来た形になっていますが、そこの数値を下げた以上半年程度の期間を意味する「暫くの間」というのを入れると、そもそも論として最初にご紹介した展望レポートの物価見通し2015年度+1.7%という数字がどこからどう見ても無理という話になる(+1.7%と出ている数値は年度平均なので、足元の弱さが継続して発射台が低くなると達成に対しては相当厳しくなる)ので「当面」としない訳に行かなかったのでしょうな。
でまあその辺の操作をして先行きに関しては同じとしているのがもうだいぶ無理がある。
『従来の見通しと比べると、成長率の見通しは、駆け込み需要の反動の影響や輸出の弱めの動きなどから、2014年度について幾分下振れている。物価の見通しは、2015年度については、国際商品市況の下落などから幾分下振れるものの、2016年度については概ね不変である。』(今回)
『従来の見通しと比べると、成長率の見通しは、輸出の回復の後ずれなどから、2014年度について幾分下振れるものの、物価の見通しは、@雇用誘発効果の大きい国内需要が堅調に推移するもとで、労働需給が引き締まっており、この傾向はさらに強まることや、A中長期的な予想物価上昇率の高まりが実際の賃金・物価形成に影響を与え始めているとみられることから、概ね不変である。』(前回4月)
となっていまして、従来との見通し対比の部分の文言がこれまた実に味わいがありまして、成長率の見通しに関して従来無かった「駆け込み需要の反動の影響」というそもそもそれって見込んだうえでの成長率見通しでは無かったのかと小一時間問い詰めたい文言が入っており、消費増税の影響を読み誤りましたというのを本人たちは言わないのでしょうが、どこをどう見てもそうですよねとしか申し上げようがない表現になっているのが味わいがありますな。
更に申し上げますと、物価の見通しの所がもっと味わいがありまして、まず2015年度の所にある「国際商品市況の下落など」からというこの「など」の文言が実に怪しげな雰囲気を醸し出しておりまして、ではこの「など」とは何ですかと小一時間問い詰めたい。
そしてもっと面白いのは、先行きの物価上昇メカニズムに関して前回の展望レポートでは引用した通りにメカニズムの説明があるのですが、今回はその物価上昇メカニズムに関しての言及が無く、要は物価上昇メカニズムが薄弱であるという事を意味しているんでしょとしか申し上げようが無い辺りも実に香ばしい所ではあります。
○中心的な見通し:おいこら潜在成長率下がっているぞという話など
続いて『1.わが国の経済・物価の中心的な見通し』の『(1)経済情勢』から参ります。
『わが国の景気は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動などの影響から生産面を中心に弱めの動きがみられているが、基調的には緩やかな回復を続けている。4〜6月における成長率は、自動車などの耐久消費財を中心に駆け込み需要の反動の影響が大きかったことや輸出が弱めの動きとなったことなどから、大きなマイナスとなった。また、夏場には天候不順も、個人消費の一時的な下押し要因として作用した。もっとも、駆け込み需要とその反動といった振れを均してみれば、潜在成長率を上回る成長が続いている4。また、今回の景気回復は、雇用誘発効果の大きい国内需要に主導されていることもあって、雇用の増加と労働需給の引き締まりは、着実に進んでいる。』(今回)
『わが国の景気は、消費税率引き上げの影響による振れを伴いつつも、基調的には緩やかな回復を続けている。輸出は弱めとなっているが、国内需要が堅調に推移するもとで、景気の前向きの循環メカニズムはしっかりと作用し続けている。国内需要は雇用の誘発効果が大きいため、2013年度の成長率の下振れにもかかわらず、労働需給は概ね想定に沿って引き締まり傾向が強まっている。』(前回4月)
まずご覧になれば判るように、前回対比で文章が長くなっている時点でヘッジクローズ満載の香りという訳ですが、前回対比で異なっているのが「生産面の弱さ」への言及が最初にある部分、次が足元までの弱い要因に関する言い訳文言が入っていて、消費増税駆け込み需要の反動、輸出の弱さ、夏場の天候などを言い訳としております。
従って今回は前回あった「景気の前向きの循環メカニズムはしっかりと作用し続けている」という文言が外れ、「雇用の増加と労働需給の引き締まりは、着実に進んでいる」という表現に替わって(生産が弱いのだから前向きの循環メカニズムとは言えないでしょうからね)、これから先にも頻発するのですが、最初に申し上げたように「雇用情勢の改善」一点突破でメカニズムを説明して行きましょうという流れが鮮明なのが特色です。
ま、それ以外に説得力のある改善メカニズムを示すことが出来ないんすけどね(迫真)!!!!!
・・・・・・・・・・とまあそれよりももっと重大なのはここの脚注4にとんでもない記述があるのですよ。
『4 わが国の潜在成長率を、一定の手法で推計すると、このところ「0%台前半ないし半ば程度」と計算されるが、見通し期間の終盤にかけて徐々に上昇していくと見込まれる。ただし、潜在成長率は、推計手法や今後蓄積されていくデータにも左右される性格のものであるため、相当幅をもってみる必要がある。』(今回)
『3 わが国の潜在成長率を、一定の手法で推計すると、このところ「0%台半ば」と計算されるが、見通し期間の終盤にかけて徐々に上昇していくと見込まれる。ただし、潜在成長率は、推計手法や今後蓄積されていくデータにも左右される性格のものであるため、相当幅をもってみる必要がある。』(前回4月)
ちょwwwww潜在成長率推計が下がっているとはどういう事やねんという話でして、後の方でありますけれども先行きの成長メカニズムの説明の中で前回も今回も「規制改革や成長戦略、企業の生産性向上や内外需掘り起しで中長期的な成長期待や潜在成長率は次第に高まって行く」という説明が入っているのに足元では下がっているとはどういう事ですかという話でもありますし、より深刻な問題としては、そもそもの物価目標2%に関連する話に繋がると思うのですが、「そもそも潜在成長率が極めて低い状態の中で、2%の物価上昇率を短期的にヒットさせるべく政策運営を行う必要があるのか」という点が浮上するのではないかと思うのですけどどうなんでしょうかねえ。
○先行きの見通しは雇用情勢一点張りのメカニズムにしか見えない件について
『先行きを展望すると、国内需要が堅調さを維持する中で、輸出も緩やかな増加に向かっていくと見込まれ、家計部門、企業部門ともに所得から支出への前向きの循環メカニズムは持続すると考えられる。このため、わが国経済は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。』(今回)
『先行きを展望すると、国内需要が堅調さを維持する中で、輸出も緩やかながら増加していくと見込まれ、生産・所得・支出の好循環は持続すると考えられる。このため、わが国経済は、2回の消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、基調的には潜在成長率を上回る成長を続けると予想される3。』(前回4月)
まず輸出の見通しが「増加していくと見込まれ」から「向かっていくと見込まれ」に下がっているのと、好循環メカニズムで示されている「生産」も諦めてしまって外れておりますので、従いまして「所得が上昇しないと循環メカニズムは持続しません」という完全なまでに雇用一点張りの見通しになっていますので、賃金が上昇しないと話が始まりませんという所でして、先の方でも当然ながら「お賃金は上がります(キリッ)」という説明はしているものの、それ以外のメカニズムが無いというのがダメじゃんというのに加えまして、そもそも足元の需給ひっ迫がそれこそ設備のペントアップじゃないですけれども一時的なペントアップ需要によるものだとしますと結局の所好循環という風にはならないんじゃないですか大丈夫ですか検証しているのですかというお話ではございます。
『こうした見通しの背景にある前提は、以下のとおりである』(今回)
という所で一旦アップします。
2014/11/03
お題「追加緩和の論点:その2展望レポート基本的見解のロジックを鑑賞(経済情勢メカニズム編)」
さあ続きですよ!!
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1410b.pdf(今回)
http://www.boj.or.jp/mopo/outlook/gor1404b.pdf(前回4月)
○経済が見通し通りに推移するメカニズムに関して鑑賞
さっきの続きから。
『第1に、日本銀行が今般拡大した5「量的・質的金融緩和」を着実に推進していく中で、金融環境の緩和度合いは一段と強まっていくと考えられる6。すなわち、「量的・質的金融緩和」のもとで、名目長期金利の上昇圧力は抑制されている一方、予想物価上昇率は全体として上昇しており、実質金利は低下している。銀行貸出残高は、緩やかに増加している。このような緩和的な金融環境が民間需要を刺激する効果は、景気の改善につれて強まっていくと考えられる。』(今回)
『第1に、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を着実に推進していく中で、金融環境の緩和度合いは一段と強まっていくと考えられる4。すなわち、「量的・質的金融緩和」のもとで、名目長期金利の上昇圧力は抑制されている一方、予想物価上昇率は全体として上昇しており、実質金利は低下を続けている。銀行貸出残高は、緩やかに増加している。このような緩和的な金融環境が民間需要を刺激する効果は、景気の改善につれて強まっていくと考えられる。』(前回4月)
ということで、基本的に言ってる事が4月の展望レポートと変化していないというのは、これ即ち先ほどの政策ロジック編で申し上げましたよう所の「政策の効果測定や検証が出来ていない」という話のような気がしますがそれは兎も角として、実質金利に関して前回「低下を続けている」とあったのが「低下している」に変わったのは何ですねんというのがまず最初の疑問。名目の金利に関してはどう見ても下がっているのですから、予想物価上昇率が横ばいであっても実質金利は「低下を続けている」とするのが妥当でして、然るに「予想物価上昇率は全体として上昇しており」とはどういう事やという所でワロタとしか申し上げようがない。
その他の効果として貸出残高の緩やかな増加とかあるけど、そもそも論として「緩和的な金融環境が民間需要を刺激する」という前提そのものに関してのレビューは全然なくて、実質金利が下がれば消費や投資が拡大されるという置物理論についての検証は皆無のまま推移しているというのが如何な物かと申し上げざるを得ない。
次が海外経済ですが、この調子で前回分まで全部引用しているととんでもない量になってしまうので、基本的にゴリゴリ突っ込まない部分では前回分引用を割愛しますね。
『第2に、海外経済については、先進国が堅調な景気回復を続け、その好影響が新興国にも徐々に波及する中で、緩やかに成長率を高めていく姿を見込んでいる。』(今回)
ちなみに前回との違いは新興国に関して先進国の回復が徐々に波及「していく」だったのが「する」となっている点で、新興国改善について微妙ではあるが若干上げている感じです。
『主要国・地域別にみると、米国経済については、家計支出を起点とする前向きな循環に支えられながら、徐々に成長率を高めていくと予想される。欧州経済については、債務問題に伴う調整圧力が残り、物価上昇率の低下傾向もみられるものの、個人消費の底堅さや輸出の増加などに支えられ、緩やかな回復を続けると考えられる。』(今回)
米国は前回よりも強い表現、欧州は物価に関する表現が加わっているのと、先行きにあったマインド改善の文言が抜けていてやや弱くなっています。
『中国経済については、当局が構造改革と景気下支え策に同時に取り組んでいく中で、僅かに成長ペースを鈍化させながらも、概ね安定した成長を続けると想定している。その他の新興国・資源国経済については、国・地域によるばらつきはあるが、先進国の景気回復の波及と、緩和的な金融環境を受けた内需の持ち直しから、成長率を緩やかに高めていくと見込んでいる。』(今回)
中国は同じ、新興国は金融市場の落ち着きが云々という前回にあった文言が抜けて微妙に上方修正です。
『第3に、公共投資は、経済対策の押し上げ効果から高水準で推移してきたが、本年度下期中には緩やかな減少傾向に転じていくと想定している。』(今回)
これは前回の見通しを横に伸ばしただけ。
『第4に、政府による規制・制度改革などの成長戦略の推進や、そのもとでの女性や高齢者による労働参加の高まり、企業による生産性向上に向けた取り組みと内外需要の掘り起こしなどもあって、企業や家計の中長期的な成長期待や潜在成長率は、緩やかに高まっていくと想定している。』(今回)
ここも前回と同じですが、先ほどの所で申し上げましたように、既に足元で推計される潜在成長率が低下している中でこの説明って何なんですかと小一時間ではある。
では年度別展開を。
『以上を前提に、見通し期間の景気展開をやや詳しく述べると、2014年度下期については、個人消費は、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響がしばらくは残るものの次第に減衰し、雇用・所得環境の着実な改善が続くもとで、底堅く推移すると見込まれる7。』(今回)
『以上を前提に、見通し期間の景気展開をやや詳しく述べると、2014年度については、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動の影響から、4〜6月の成長率は、耐久財などの個人消費を中心に、いったん落ち込むと予想される5。もっとも、雇用・所得環境の改善に支えられて、個人消費の基調的な底堅さは維持され、駆け込み需要の反動の影響も夏場以降、減衰していくと考えられる。』(前回4月)
ということで雇用環境に関して「着実な」改善とここだけは自信満々のようで、雇用所得環境改善の一点突破で突撃というのが良く判りますな。
『設備投資は、企業収益の改善や金融緩和効果が引き続き押し上げに働くもとで、長年の投資抑制による設備老朽化に対応した更新投資や、労働需給の引き締まりを受けた省力化投資、為替相場の動きも踏まえた国内拠点の再構築などの投資ニーズの高まりがみられることから、しっかりと増加するとみられる。この間、輸出は、海外経済が回復するもとで、為替相場の動きも下支えとなり、緩やかな増加に向かっていくと考えられる。こうしたもとで、鉱工業生産は、在庫調整の進捗もあって、緩やかな増加に復していくと予想される。』(今回)
『この間、輸出は、2013年度末にみられた駆け込み需要への対応から国内向け出荷を優先する動きや米国の寒波などの一時的な下押し要因が剥落するもとで、先進国の成長率が高まっていくことから、緩やかながらも増加に転じていくとみられる。設備投資についても、企業収益の改善や設備稼働率の上昇、金融緩和効果などから緩やかな増加基調をたどると見込まれる。以上の内外需要を反映して、わが国経済は夏場以降、潜在成長率を上回る成長経路に復していくと予想される。』(前回4月)
ということで、語順が変わっているので何ですが今回の語順で整理して見ますと、設備投資の先行きが強くなるメカニズムとして説明しているのを順に見ていくと、まずは「収益の改善」「金融緩和効果」なのですが、収益の改善が輸出企業の円ベースの収益改善なのであれば経済には好影響かも知れんが、それ単体で設備伸びるかよという話で、金融緩和効果も同様なのですが、それが直接的に投資に繋がるというのをアプリオリに正しいとして良いのでしょうかねえと思われるところです。
前回の時点では「設備稼働率の上昇」というのが説明にあって、まあそれは確かに生産拡大に伴う設備投資だから王道ですなあというのがあったのですが、今回はその部分が抜けていて以下にあるようなそれは前向き循環メカニズムちゃうやろという物しか出ていないのが実に残念というものです。
つまり「長年の投資抑制による設備老朽化に対応した更新投資や、労働需給の引き締まりを受けた省力化投資」というのは基本的に一時的な効果でありますし、省力化投資されたらそもそも労働需給が緩和するだろと思う次第でして、何ちゅうかそれを持って設備が伸びるというのはどうなのかねと思います。それから「為替相場の動きも踏まえた国内拠点の再構築などの投資ニーズの高まり」とは言いますが、そもそも海外生産になっている要因の中に為替以外の「需要地に近い所で生産する」という動きもある訳ですし、円安が一時的にしか進行しないのであればそう為替だけの要因でホイホイ生産拠点を動かしてくるとは思えん。
それともっと意地の悪い話をすると、国内生産拠点に回帰というのは「コスト勘案して国内の方が安くてウマー」という事でもあるのですが、それって結局の所「生産拠点としての国際競争力を為替調整でしていますよ」ってな話で、それは海外の労働者との相対比較で日本が安いという状態になったという話なので、それって単に為替調整で日本が海外対比で相対的に安くなったつまりビンボになったという話であって、本当に国民厚生上正しい姿なのでしょうかねえとは思うのでありました。
『2015年度から2016年度にかけては、2回目の消費税率引き上げによる振れは予想されるが、@緩和的な金融環境と成長期待の高まりを受けた国内民間需要の堅調な増加と、A海外経済の成長による輸出の増加に支えられて、前向きの循環メカニズムは維持され、潜在成長率を上回る成長が続くと見込まれる。』(今回)
『2015年度から2016年度にかけては、2回目の消費税率引き上げによる振れは予想されるが、@緩和的な金融環境と成長期待の高まりを受けた国内民間需要の堅調な増加と、A海外経済の成長による輸出の増加に支えられて、前向きの循環メカニズムは維持され、潜在成長率を上回る成長が続くと見込まれる。』(今回)
でまあここのメカニズムは往生際悪く同じになっています。
『2016年度までの成長率の見通しを、7月の中間評価時点と比べると、2014年度については、駆け込み需要の反動の影響や輸出の弱めの動きなどから幾分下振れるものの、2015年度と2016年度については概ね不変である。』(今回)
あっそう。
○物価の見通しもひたすら雇用情勢の改善による物価上昇の話のオンパレード
次が『(2)物価情勢』である。
『消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比は、このところ1%台前半で推移している。』(今回)
『消費者物価(除く生鮮食品、以下同じ)の前年比は、プラス幅を拡大しており、このところ1%台前半で推移している。』(前回4月)
現象面なので比較することも無いのですが兵どもが夢の跡っぽいので引用してみた。
『物価上昇率を規定する主たる要因について点検すると、第1に、労働や設備の稼働状況を表すマクロ的な需給バランスは、消費税率引き上げに伴う駆け込み需要とその反動の影響を受けつつも、雇用誘発効果の大きい国内需要の堅調さが雇用の増加をもたらすもとで、労働面を中心に着実に改善傾向を続けている8。すなわち、失業率は3%台半ばとみられる構造的失業率近傍で推移しているほか、現在職探しをしていないが求職意欲を持つ人々なども含めた広義の失業率も低下傾向を続けるなど、労働需給は着実に引き締まり傾向が強まっている9。企業は、駆け込み需要の反動による需要の落ち込みを一時的とみているとみられ、前向きな雇用スタンスを維持している。こうしたもとで、所定内給与がはっきりとした増加に転じるなど、賃金の改善も続いている。また、非製造業を中心に設備の不足感も強まってきている。このため、マクロ的な需給バランスは、本年度後半にプラス(需要超過)基調が定着し、それ以降、プラス幅が一段と拡大していくと考えられる。そうしたもとで、需給面からみた賃金と物価の上昇圧力は、着実に強まっていくと予想される。』(今回)
需給バランスに関しては基本的に労働需給が改善してますぜ凄いですぜという話なのですが、とにかく労働需給が改善しているという話を一生懸命にしたいらしく、前回は(引用しませんが)この部分11行だったのが今回は15行に絶賛拡大しておりまして、涙ぐましいアピールの跡が見受けられます。
ということで需給ギャップに関しては労働需給改善の一点張りで勝負に来ておりますが、もう一つの予想物価上昇率を鑑賞してみましょう。
『第2に、中長期的な予想物価上昇率については、やや長い目でみれば、全体として上昇しているとみられる。こうした予想物価上昇率の動きは、実際の賃金・物価形成にも影響を及ぼしていると考えられる。例えば、労使間の賃金交渉において、企業業績などに加え、物価上昇率の高まりも意識され、ベースアップが久方ぶりに多くの企業で実施された。企業の間でも、従来の低価格戦略から、付加価値を高めつつ販売価格を引き上げる戦略へと切り替える動きがみられている。』(今回)
ま、この辺もまた前回と基本的な話は同じなのですが、「ベースアップが久方ぶりに多くの企業で実施された」(キリッ)ってのにはそもそもの政府からの要請もありーの、消費税増税するから仕方無い罠的な話もありーのでございまして、本当にそれがインフレ期待に基づくものなのかねというのは甚だ疑問でありますし、毎度説明されて耳タコなのですが、企業が付加価値高めつつ販売価格を引き上げる戦略云々に関しても結局全体的な意味ではコモディティー化の流れがそう簡単に逆回転するとも思えないので、ミクロの話としては面白いのですが全体の一般物価に関する議論でこの話を持ち出すのはどうかという気がします。
『先行きも、日本銀行が「量的・質的金融緩和」を推進し、実際の物価上昇率が高まっていくもとで、中長期的な予想物価上昇率も上昇傾向をたどり、「物価安定の目標」である2%程度に向けて次第に収斂していくと考えられる。』(今回)
あっそうという所ですが、前回はこの部分、「実際の物価上昇率が1%を上回って上昇する中で」とありましたので、これは即ち日銀が目先1%割れ突入も覚悟しているということを示す訳ですな。最初のエグゼクティブサマリーにもありましたように。
『第3に、輸入物価についてみると、このところの為替相場の動きは、消費者物価の押し上げ要因として作用する一方、原油価格をはじめとする国際商品市況の下落は、当面物価の下押し圧力となる。』(今回)
『第3に、輸入物価については、国際商品市況や為替相場の動きを反映して、エネルギーを中心とした押し上げ効果は本年夏頃にかけて減衰していくと予想される。』(前回4月)
ということで原油が当面下押しという話が入りましたな。
『以上を踏まえ、消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)の先行きを展望すると、当面現状程度のプラス幅で推移したあと、次第に上昇率を高め、見通し期間の中盤頃、すなわち2015年度を中心とする期間に、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高い10。』(今回)
『以上を踏まえ、消費者物価の前年比(消費税率引き上げの直接的な影響を除くベース)の先行きを展望すると8、暫くの間、1%台前半で推移したあと、本年度後半から再び上昇傾向をたどり、見通し期間の中盤頃に、「物価安定の目標」である2%程度に達する可能性が高い。』(前回4月)
ということで、とうとう「2015年度を中心とする期間」に正式に降参してきましたが、岩田副総裁の辞任マダーという所なのですけれども、国会で既に「説明責任を果たすのが重要(キリッ)」と意地汚く地位に執着する姿勢を明らかにしましたので、説明責任とやらを果たしてもらおうじゃないかという所っすな。
『その後は、中長期的な予想物価上昇率が2%程度に向けて収斂していくもとで、マクロ的な需給バランスはプラス幅の拡大を続けることから、強含んで推移すると考えられる。2016年度までの消費者物価の見通しを7月の中間評価時点と比較すると、2015年度については、国際商品市況の下落などから幾分下振れるものの、2016年度については概ね不変である。』(今回)
基本的な見通しは同じです。
#では次はリスク認識と金融政策部分になります
2014/11/03
お題「追加緩和の論点:その2展望レポート基本的見解のロジックを鑑賞(リスク要因&政策編)」
ということで展望レポートの続き参ります。
○上振れ下振れ要因では輸出の所の降参ぶりと雇用の自信満々振りが好対照
続きまして『2.上振れ要因・下振れ要因』のまずは『(1)経済情勢』から参ります。
『上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、第1に、輸出動向に関する不確実性がある。輸出の伸び悩みが続いている背景には、新興国経済を中心とする海外経済のもたつきや世界的な投資活動の弱さに加え、わが国製造業の海外生産移管の拡大といった構造的な要因も影響している。』(今回)
『上記の中心的な経済の見通しに対する上振れ、下振れ要因としては、第1に、輸出動向に関する不確実性がある。このところの輸出の弱さの背景には、基本的に、わが国経済との結びつきが強いASEANなどの新興国経済のもたつきの影響が大きいが、わが国製造業の海外生産移管の拡大といった構造的な要因も相応に影響している可能性が高い。』(前回4月)
ということで、一番外しまくっている輸出の部分ですが、今回やっと海外生産移管に関する構造的な要因について「影響している」と認めた(今までは影響している可能性云々)のは降参モードという感じですが・・・・・・・・
『先行きの海外経済を巡るリスク要因としては、米国経済の回復ペースやそれが国際金融資本市場に及ぼす影響、欧州における債務問題の展開や低インフレ長期化のリスク、新興国経済における構造調整の進展度合い、地政学的リスクなどが挙げられる。また、わが国企業の先行きの内外生産ウエイトについても、為替相場の影響や生産移管のペースなどに伴う不確実性は高い。なお、海外生産の拡大は、輸出を抑制する要因であるが、子会社からの配当など、企業収益の押し上げを通じて成長に寄与する面もある。』(今回)
『このため、新興国経済の先行きや、欧州債務問題の今後の展開、米国経済の回復ペースなどの海外経済の動向やわが国企業の内外生産ウエイトの状況次第で、輸出は上下双方向に変動する可能性がある。』(前回4月)
だいたいこうやって文章が長いのは往生際が悪い状態になっているというものでして、内外生産ウェイトに関しては設備投資の先行きにあるように今後国内回帰が起きるといいなという話をしているんでしょうし、海外生産の拡大で子会社からの配当で企業収益の押し上げ言いますけど、それって別に国内の雇用に必ずしも結びつくかどうかは謎じゃないですかね、というのは毎度お話をしている通りです。
『第2は、消費税率引き上げの影響である。1回目の消費税率引き上げに伴う駆け込み需要の反動減や実質所得減少の影響はなお残存しており、引き続き見極めていく必要がある。また、2回目の消費税率引き上げがどのような影響を及ぼすかについても、その時点の消費者マインドや雇用・所得環境、物価の動向によって変化し得る。』(今回)
これは前回分引用しませんが、前回は消費税率引き上げの影響は大丈夫という話でしたので今回は明らかに下げとなっています。
『第3に、企業や家計の中長期的な成長期待は、規制・制度改革の今後の展開や企業部門におけるイノベーション、家計部門を取り巻く雇用・所得環境などによって、上下双方向に変化する可能性がある。』(今回)
『第4に、財政の中長期的な持続可能性に対する信認が低下するような場合には、人々の将来不安の強まりや経済実態から乖離した長期金利の上昇などを通じて、経済の下振れにつながる惧れがある。一方、財政再建の道筋に対する信認が高まり、人々の将来不安が軽減されれば、経済が上振れる可能性もある。』
この2つは前回と同じです。
では『(2)物価情勢』を見てみましょう。
『上述のような経済の上振れ、下振れ要因が顕在化した場合、物価にも相応の影響が及ぶとみられる。それ以外に物価の上振れ、下振れをもたらす要因としては、第1に、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向が挙げられる。中心的な見通しでは、実際の物価と賃金の上昇率が高まっていく中で、人々の予想物価上昇率も一段と上昇していく姿を想定しているが、その上昇ペースには、実際の物価の動きやそれが予想物価に及ぼす影響の度合いなどを巡って不確実性がある。』(今回)
前回はこの部分がこうなっていましてですね。
『第1に、企業や家計の中長期的な予想物価上昇率の動向が挙げられる。中心的な見通しでは、実際の物価や賃金の上昇率が高まっていく中で、人々の予想物価上昇率も一段と上昇していく姿を想定しているが、どのようなペースで上昇していくかについては注意する必要がある。加えて、消費税率引き上げに伴う幅広い品目の一斉の価格上昇が、人々のインフレ予想に与える影響についても注意してみていく必要がある。』(前回4月)
アダプティブなインフレ期待の高まりに関して記述しているのは前回も今回も同じですけれども、今回はそのアダプティブなインフレ期待の高まりが足元の物価上昇モメンタムの鈍化で弱まる件について懸念して追加金融緩和を実施した、ということになっていますので、記述が思いっきり弱気トーンになっています。
でまあ今回のは上記に更に続くのですけどね。
『この点では、来年度に向けた労使交渉において、過年度の物価動向や先行きの物価見通しが賃金にどのように織り込まれていくかが重要である。また、このところ、消費税率引き上げ後の需要面での弱めの動きや原油価格の大幅な下落が物価の下押し要因として働いているが、この下押し圧力が残存する場合、予想物価上昇率の改善が遅延するリスクがある。』(今回)
ということで、先ほどの所でもありましたが、要するにインフレ期待を押し上げる為には賃金が上昇しないとどうもならんという話をしている訳ですな。
『第2に、マクロ的な需給バランス、とくに労働需給の動向がある。中心的な見通しでは、労働供給面で、近年の高齢者や女性による労働参加の高まりや最近みられているパート労働の正規雇用化が、今後もある程度続くことを前提としているが、この点を巡っては不確実性がある。とくに、通常の失業率に加え広義の失業率も低水準となっているだけに、人手不足感が一段と強まる可能性がある。』(今回)
ここだけ嘘のように強気の話になっていて、前回対比でもここの表現は強くなっていますので、まあ何度も申し上げておりますように、今回の展望レポートのメカニズムは雇用情勢の改善一点突破になっているのですが、そもそも何でMB拡大ペースを引き上げると雇用情勢が改善するのかさっぱり判らん訳で、今回の追加緩和のメカニズムの説明はどうなってるんだと小一時間ですな。
『第3に、物価上昇率のマクロ的な需給バランスに対する感応度、すなわち、企業が需給の引き締まりに応じて価格や賃金をどの程度引き上げていくかについて留意する必要がある。この点、消費税率引き上げ以降の消費動向が、先行きの企業の価格設定行動にどのような影響を及ぼすか不確実性が高い。』(今回)
こちらについては「この点」以下のやっぱり需要が落ちて物価が上がりませんでしたの可能性について言及が入ったのが前回と違う所で、やはりダメじゃんという風情ではありますな、うんうん。
『第4に、国際商品市況や為替相場の変動などに伴う輸入物価の動向や、その国内価格への波及の状況によっても、上振れ・下振れ双方の可能性がある。』(今回)
これは当たり前の話なのでまあヨロシ。
○金融政策の点検作業だが「物価のリスクが下に大きい」だと?????
最後の『3.金融政策運営』部分である。
『以上の経済・物価情勢について、「物価安定の目標」のもとで、2つの「柱」による点検を行い、先行きの金融政策運営の考え方を整理する。まず、第1の柱、すなわち中心的な見通しについて点検すると、わが国経済は、見通し期間の中盤頃、すなわち2015年度を中心とする期間に2%程度の物価上昇率を実現し、その後次第に、これを安定的に持続する成長経路へと移行していく可能性が高いと判断される。』(今回)
こちらに関しては2015年度云々が明示されたというのは前の方でもご紹介したとおりです。
『次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検すると、中心的な経済の見通しについては、輸出の動向や消費税率引き上げの影響など不確実性は大きいものの、リスクは上下にバランスしていると評価できる。』(今回)
『次に、第2の柱、すなわち金融政策運営の観点から重視すべきリスクについて点検すると、中心的な経済の見通しについては、輸出の動向など不確実性は大きいものの、リスクは上下にバランスしていると評価できる。』(前回4月)
あらら消費税の影響入りましたなあ。
『物価の中心的な見通しについては、中長期的な予想物価上昇率の動向などを巡って不確実性は大きく、下振れリスクが大きい。』(今回)
『物価の中心的な見通しについても、中長期的な予想物価上昇率の動向などを巡って不確実性は大きいものの、リスクは上下に概ねバランスしていると考えられる。』(前回4月)
ちょっと待てお前下振れリスク対応で追加緩和を実施しているのに何でリスクアセスメントが追加緩和込みで前回対比下振れになっているんだと小一時間問い詰めたい。大丈夫かこのアセスメント。
『より長期的な視点から金融面の不均衡について点検すると、現時点では、資産市場や金融機関行動において過度な期待の強気化を示す動きは観察されない11。もっとも、政府債務残高が累増する中で、金融機関の国債保有残高は、漸減傾向が続いているが、なお高水準である点には留意する必要がある。』(今回)
『より長期的な視点から金融面の不均衡について点検すると、現時点では、資産市場や金融機関行動において過度な期待の強気化を示す動きは観察されない9。もっとも、政府債務残高が累増する中で、金融機関の国債保有残高は、このところ減少しつつも引き続き高水準である点には留意する必要がある。』(前回4月)
えーっとすいません、既に散々っぱら国債を購入した挙句にペースを引き上げる決定をしているのに今更金融機関の国債保有残高の話をしてどうするんですかというか、人の心配するよりもてめえの心配をしろと小一時間。
『金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(今回)
『金融政策運営については、「量的・質的金融緩和」は所期の効果を発揮しており、今後とも、日本銀行は、2%の「物価安定の目標」の実現を目指し、これを安定的に持続するために必要な時点まで、「量的・質的金融緩和」を継続する。その際、経済・物価情勢について上下双方向のリスク要因を点検し、必要な調整を行う。』(前回4月)
ということで最後の文言は一緒でして、こちらには「所期の効果を発揮しており」とあるのに、冒頭のエグゼクティブサマリーの部分ではこの文言が削除されているというのは何なんでしょうというか、良心の呵責でもあるんですかというかな話ですな。
ということで展望レポート基本的見解の全文鑑賞会となってしまいましたが、何度も申し上げておりますようにメカニズムが全て「労働需給が改善して需給ギャップも改善するし経済物価情勢が良くなる」攻撃一点張りで勝負しておりまして、労働需給コケたらそもそもQQEとは何だったのかという話になる筈なのですけれども、再び兵を集めて輸送船で送り出すという作業になりそうなのがオソロシス。
2014/11/04
お題「追加緩和の論点:コミュニケーションについて&オペのフィージビリティについて」
ということで追加緩和の論点ネタ続きであります。
#うひゃー最も見たくないアレな物体がモーサテに出てるからチャンネル変えるか
○騙し討ちキターということで旧法時代に里帰りですねわかります
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2014/k141031a.pdf
今回の声明文における決定に至る理由の部分を引用しましょう(しつこいですが)。
『2.わが国経済は、基調的には緩やかな回復を続けており、先行きも潜在成長率を上回る成長を続けると予想される。ただし、物価面では、このところ、消費税率引き上げ後の需要面での弱めの動きや原油価格の大幅な下落が、物価の下押し要因として働いている。このうち、需要の一時的な弱さはすでに和らぎはじめているほか、原油価格の下落は、やや長い目でみれば経済活動に好影響を与え、物価を押し上げる方向に作用する。しかし、短期的とはいえ、現在の物価下押し圧力が残存する場合、これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがある。日本銀行としては、こうしたリスクの顕現化を未然に防ぎ、好転している期待形成のモメンタムを維持するため、ここで、「量的・質的金融緩和」を拡大することが適当と判断した。』
でまあ今回はアダプティブなインフレ期待の維持というような話と、モメンタム維持という文言に見られますように物価の上昇に勢いを付けたいというのがあるのは把握しました。
・・・・・というのは判るのですが、直近までの黒田総裁をはじめとする執行部の見解はこの声明文の「しかし」以前の話しかしておりませんで、この「しかし」以降の話は別にしてませんでしたよね急に何を言い出しているんですかというのが誠に遺憾としか申し上げようがないことであります。
会見(はテキスト出たらやりますが)での説明ではやたらと早期に2%をヒットさせる事に拘った説明をしているように見受けましたし、声明文にある「モメンタム」というのも踏まえて考えますと、急に「何でも良いから強引に2%に引き上げに行かないといけません(キリッ)」という話に急転換したとしか思えませんで、その間のプロセスがさっぱりワカラン
http://www.boj.or.jp/announcements/press/koen_2014/data/ko141018a1.pdf
2014年10月18日
日本経済と金融政策── 日本金融学会2014年度秋季大会における特別講演 ──
だいたいですな、この前執行部の腰ぎんちゃくと思われる宮尾さんの講演でも、
『国民の望む「物価の安定」とは、単に物価が上昇するだけでなはなく、雇用、賃金、企業収益の改善などを伴いながら、経済がバランス良く持続的に改善し、その結果として、物価の緩やかな上昇が実現する状態を指します。』(上記URLの宮尾審議委員講演より、以下同様)
ということでモメンタムとかそういう話じゃなかったですし、
『その目標を、消費者物価上昇率で「2%」としたのは、経済の成長力や競争力強化へ向けた幅広い主体の取組みが進展し、持続可能な「物価の安定」と整合的な物価上昇率は上昇していくという認識に基づいています。』
って言ってるけど今回の展望レポートでは潜在成長率の推計値を引き下げているんだから、そうであったらそもそも論として「短期間で2%」を目指す事自体が妥当なのかという議論になってしかるべき(よりフレキシブルに考えるのなら話は別だが)ですが、そういう話も何も無しで急にロジックがワープしている辺り何ちゅうかお前ら昔の「衆議院解散と公定歩合についてはウソをついてよい」時代に戻ったのかよとしか申し上げようが無くて、新日銀法とは何だったのかという話になりますな。
○プレゼンの「3」は悪乗りに過ぎる件&追い込まれるのが先か爆発するのが先か
でまあ会見の中継も当然ながら見たのですが、そこに用意されているフリップが「3」を並べているのにもう血圧急上昇ですよ先生(ちなみにETFとREITが3倍で7年が10年までになるので年限が最大3年で長期国債が50兆から80兆だから30な)。
えーっとですな、前回が2倍だからとりあえず3の数字を出してこけおどしをしようという事なのだと思いますが、何度も申し上げておりますように、展望レポートのメカニズムとかも単なる「労働需給の改善で需給ギャップ改善」「賃金上昇で経済の前向きメカニズムが回る」という労働市場一点張りになっていますし、先般来申し上げておりますように、そもそも論としてMB拡大の効果についてのレビューも説明も無い状況なので「追加緩和やって物価目標行くんですか」というのが信用されてないでしょうから、株価とか為替が頭打ちになると早速催促相場になって「じゃあ次は4ですか」という事になるんでしょうね。
何か薬使っている内に効きが悪くなってもっと薬をとか言って更に強いのをやっているうちにラリパッパ状態になっているとしか思えないプレゼン振りに落涙を禁じ得ないですが、良く良く考えてみると今回の政策はMB拡大ペースは10兆円増えただけで、短国拡大できないから長期に振り替えたのと、ETFとREITの買入ペースを拡大した(これがどの程度の定量的な物なのかは株の人に聞かないとよく判らんのでパスしますが)という内容ですので、「3」という数字でも出して威勢よくプレゼンする(のと騙し討ちしてサプライズ演出する)のしかできないのかねとは思う所であります。
つまりですね、今回逐次投入(逐次投入にしては小出しじゃなくて有り金勝負っぽいが)を開始しましたので、次回に関しては市場から催促攻撃が来て「4」を出すしかないですなという話になるでしょうし、別に今回の施策によって「安定的な2%」のタイミングが近くなるとは到底思えない訳ですから、今回の追加の賞味期限いつまででしょうねという話になりますし、次はより無茶振りな「4」を出さないと効きません罠、というラリパッパ状態の拡大から廃人コースというのが見え見えなだけに実に辛いですな。
だいたいですな、この次で申し上げますが輪番のフィージビリティを簡単に考えますと、来年のフローの買入ペースがカレンダーベースの国債市中発行にかなり接近してくるという状況であって、一方で2%物価目標達成がどうのこうのという話をする訳ですから早いうちに実際の物価が1.5%位まで上がらないと話にならないという状況なのですが、オペのフィージビリティを勘案しますと2%以前の1.5%水準に行くよりも前に債券市場の方がオペ回らなくなって爆発する方がオソロシスという話でもあったりしますorzorz
○来年の長期国債買入はフローベースで110兆円(以上)とな
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2014/k141031a.pdf
声明文にありますように今回は年間80兆円ペースで長期国債の買入を拡大ということになっております。
http://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/mei/mei.htm/
日本銀行が保有する国債の銘柄別残高
直近の数字は10月20日の残高になりますが、こちらの残高から来年の償還銘柄の額面を拾って来まして(2年324-335、5年88-94、10年268-276、20年28-30、変国8-10、物国4-6)全部足し合わせると29兆9833億円となりますので、既に現時点で来年の償還額が貫録の30兆円となります。
これから買う中でも来年償還物があるでしょうし、大体からして1年以内輪番での買入は1年以内で償還が来るので、それも加えるとフローベースでの来年の長国買入額は110兆円以上になるという事ですが、ここで今年度のカレンダーベース市中発行額を見てみましょう。
<カレンダーベース市中発行額>
http://www.mof.go.jp/jgbs/issuance_plan/fy2014/calendar131224.pdf
なるほど当初ベースで155.1兆円かまだ45兆円少ないな・・・・・・などと瞬間思ってしまいそうですが、よくよく考えるとここには1年短国が入っていますので、長期国債の市中発行額を計算する際には27.5兆円引かないといけないので、カレンダーベースの市中発行を昨年並みで置くと長期国債の市中発行が128兆円程度の所にフローベースで110兆円を購入するということで、これを新発国債引受と言わずして何というのでしょうかという大変にアレな話で、しかもこの日銀ちゃんは短国買入で見られましたように別に割高割安とか適正価格とかいう概念が無く高級掃除機のように盛大に成行で国債を買ってくるというのは既にご案内の通りで、その結果短国市場が見事に死亡してしまった訳ですから、どこからどう見ても次に死亡するのは債券市場(まあ既にだいぶ死んでいるのですが)です本当にナムナムという所ではございます。
○ということで買入の方も相当苦労しそうですな(買入予定表キタコレ関係)
夕方5時前くらいに出てましたっけ。
http://www.boj.or.jp/announcements/release_2014/rel141031e.pdf
当面の長期国債買入れの運営について
『日本銀行は、長期国債買入れについて、当面、以下のとおり運営することとしました(2014年11月4日より適用)。なお、来月以降は原則として、毎月、最終営業日に公表することとします(次回は11月28日に公表する予定)。』
何せ今回は量をどどーんと増やすので実際に買うにあたってちゃんと回るのかというのが心配されるという状況でして、もはや平均残存を揃えに行くとかそういう細かい話を気にするよりも「物理的に回るのか」というのが重大という流れになりそうなので、様子を見ながら毎月変更するのは買入する方としてはそうなるなあとは思います。
でまあそれはそれで仕方ないとは思うのですが、年間フローベースで110兆円の買入を行い、しかも買ったものを全く売らないというオソロシスな投資家(ついでに言えばレポ市場への品貸しも消極的(国債補完供給はT+0じゃないと出てこないし5営業日までしかロール出来ないとか市場基準で言えば「買い占め締め上げ投資家」にしか見えません)という人の動きが毎月可変というのも何ともアレな話ではございます。
つまりですね、日銀の買入内容が債券市場の需給に圧倒的に影響を与えていくのが明白な中で、買入の内容が毎月変わるという事になりますと、債券市場の読みで一番重要なのが「来月のオペ明細がどうなるのか」って最早それ相場でも何でも無いですがなと思います。
それから金融市場局気が利かねえなあと思うのはこの公表が「月末」となっている事でして、どうせ月末ったって月末の引け後に公表だと思うのですが、月末というのは債券インデックス対比で投資を行っている人たちが翌月のインデックス更新に対応して売買をするタイミングでございまして、翌月のイールドカーブに思いっきり影響を与える案件が月末の引け後に出てくるとなりますとインデックス系の投資家は月末にインデックス更新の売買するの非常に困るんですけど、まあこれは25日くらいに公表することにしてくれれば済むだけの話ではありますので改善をお願いいたしたく存じます。別に金融市場局で出すものだしタイミングの問題だったら数日前に倒すのも別に問題ないでしょと思いますのでよろしゅうに。
では内容に関して。
『1.買入金額 毎月8〜12兆円程度を基本とする。ただし、政策効果の浸透を促すため、市場動向を踏まえて弾力的に運用する。』
政策効果の浸透云々よりも「買入が出来るか」という感じだと思いますが、これだけのレンジを取っているのは何でですねんというのはあります。今後の買入はオープンエンドになるので、償還ペースに合わせて買入の増減をある程度やって、残高の増加ペースをできるだけ一定に近くしたいという積りなのでしょうかねえ。
『3.国債種類・残存期間による区分別の買入金額 別紙のとおり』
ということで別紙の方ですけどね。
1年以下:1,100〜2,500程度×2
1−5年:5,000〜12,000程度×6
5−10年:4,000〜6,000程度×6
超長期:1,300〜4,000程度×5
変国:偶数月1,400程度
物国:奇数月200程度
ということですが、今生きている紙と比較しますと、中期の上限が7000億円から1.2兆円、超長期の上限が3500億円から4000億円に引き上げられていまして、これはとりあえず中期の買入を思いっきり増やして残高を稼ぐという事でしょうが、中期って今さらポートから外すほど玉持っている人いるのかよと思いまするに実にいやーな予感しかしません。中期の金利が馬鹿低下するのか買えなくなって輪番の買入が長期にシフトするのかよく判らんですが兎に角開けてみないと判りませんな。
ただまあいずれにしても月額10兆円近くの買入フローとかどう見てもこれ1年持たせられるのかも微妙じゃないのと思われますし、金利先高観でも出てくればそらまあ日銀に売りたい人はワサワサ出てくるかもしれませんが、今回の追加緩和決定が物価を2%に上げる事に直接的に繋がるとは到底思えない(円安で瞬間芸で押し上げは出来てもそれはただのコストプッシュ)という風に思っている中なのでそう簡単に売りが出てこないでしょと思いますけどねえ。
あと、今回追加緩和のどさくさに紛れて長期の下限を4000億円に下げて現状追認しているのですが、そもそも今生きている紙の時点でもとっくの昔に1回の買入額が4000億円でして、追加緩和のどさくさに紛れて下げてくるとか姑息にも程がありまして相変わらずディテールを見ると市場をナメトンノカという感じではありますな。
ちなみに、これ買入資産サイドの話だけしましたが、そもそも論として「これによって拡大する超過準備を誰が持つのか」という事を考えますともっと絶望的になる訳で、誰が超過準備を持つのかと考えますと結局短期市場とかにも盛大にプレッシャーが掛かってくる事になるんでしょうなあと非常にくらーい先行き見通ししか出てきませんが、これで物価全然上がらなかったらおまえら常盤橋公園の便所に頭突っ込んで反省してこい(くらいでは済まないが)という所ですな。
#なお、年内の短国買入に少し負担が軽くなる筈(その後は上記の理由でやっぱり酷い事になると思われますががががが)なのですが、いつものパターンだと5日に保有銘柄残高が出るのでそこで長期国債の方も含めて計数確認をアップデートする所存