あざなえるなわのごとし

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日本のドラマが安いのは、カメラワークのせいでもある


日本のドラマが安っぽく見える原因、備忘録 - pal-9999の日記
安っぽさ、ってのはなかなか難しいところだなーと思いつつ。
でも、照明だけじゃなく画面作りのせいでもある(要素として大きい)よね、と言うのが以下。







アップかロングか

コメントに

lyiase - 『日本のドラマが安っぽく見える原因、備忘録 - pal-999…』 へのコメント

一番安っぽい原因と思うのはカメラワークかなあ。海外のドラマはキャラが良く動きパンフォローとかしながら取るのが一般的。一方、日本のは引きで取ることが多く、カメラが固定されてることが一般的。たぶんこれ。

2014/11/04 10:18 にブックマーク

というのがあったんだけども、日本のドラマは比較的寄りが多いんですよ。真逆。
日本のドラマは物語(シナリオ)ではなくてキャラ(人物)だから。

その代表例がトレンディドラマとか月九ってやつでして。

【剛力彩芽 福士蒼汰 山村紅葉】au「800MHz トレンディドラマ」篇 30秒 - YouTube
ものすごく教科書的ですが、CMなので要素が凝縮されてる。

それぞれの顔を撮り(アップ、ショルダー)関係性を表現するときのみロング(引き)を使う。
寄って、切って、寄って、切って、引いて、切って、寄って、切って。
ひとつのカットが短い、それを繋ぎまくる。

この感じが日本のいわゆる「ドラマ」によく見られる。
ロング、回しっぱなしで撮ることも出来るけど、でもやらないし観ない。
渡鬼くらいですか。
カットを切らないしあまり寄らないので舞台っぽくなる。

仮にカットによる熱量を並べると

熱:アップ>>ショルダー>>>バスト>>>二ー>>ロング:冷

演出的にはこんな感じ。
これは

人物、キャラクター:アップ>>>ロング:世界、シナリオ、関係性

とも同意。
背景を入れ込まないことで視聴者のキャラに対する入れ込み方が変わる。
アップにすることで、画面の情報をキャラだけに特化する。

切れば早くなる


ヒールのアップ→手すりを掴む手のアップ(見切れ)
→首切り→目から下だけ見切り→顔上見切り
→正面からエリカ様アップどーん!

安い!!
めっちゃ安い。
この安さ、大映テレビですらやらない。
ここまで来ると、もはやコント。
どこかで大内順子のコスプレの内村が出てきても違和感ない。



「BOSS」はひどいですねぇ……10秒で10カット。
このドラマを5分観れたことが無い。

でも、当時のこれの評価って高かったんですよね(最高作品賞だとか……)。
無暗に情報量を増やすことが良いと全く思えないですが。

長回しの強度と短いカットの意味と


三木聡が、ななみんを撮ったショートフィルム(演出 三木聡)。
これはカリカチュアライズした小ネタのマンガみたいなものなので。
短いカットを詰む意味がある。
反対に、カットを切らずにワンカットで無駄なことを延々撮ったのが下の桜井(演出 三木聡)。

どちらが見やすいかと言えば、上のななみんの方が圧倒的に観やすいのが良くわかるかと思う(推し云々はさておき)。
絵が変わらないと単調になるので変化が欲しくなる。

この映像の場合、テロップが振り、桜井の演技がボケなので成立してるし、映像を切るとそれがブレる。
※両方、乃木坂のCD特典用



長回しが印象的な山下敦弘の映画「リンダリンダリンダ
この映画は全編長回しと引きが多い。

演奏シーンが極端に引き。
ペ・ドゥナ越しのピンボケの観客。
舞台の上。これも引きで全景。非常に温度が低い。
そしてペ・ドゥナ越しに香椎由宇
演奏始まる。

そのまま寄らない。
代わりに舞台の全景の引きに戻るとさっきまでダラダラしてた観客が舞台下で暴れてる。
この静→動を表現するために同ポジでの引きを使ってる。

メンバーを映すときも右横から、引き、ペ・ドゥナ越しの観客と、寄り(アップ)を全然使わないのも面白いし同ポジの多様も興味深い。

作り込まれた作品

たとえば英国のジョン・ルーサーなんかは作り込みが高い。
もう劇場用映画ですか?ってくらいのレイアウトをしてる。

Luther Season 1 Love in the world - YouTube
この通路を進むアリス・モーガンへ正面から寄り(ドリーズーム)
→電話を受けるアリス・モーガン(右後方から、ピンは電話を中心に)
→車中のジョン・ルーサー。背景だけ動き
→そして再びアリス・モーガン。ここでもズーム。
ブラインドを間に挟むことで暗喩的に関係性を示唆してる。

褪せたカラーパレット、真っ白な通路に真っ黒なコートのアリスモーガン
人物は冒頭のアリス・モーガンしか動いてないのに、常に背景が動いてるんですね、ここ。
サイコパスなアリス・モーガンには、ドリーズームのような不安定な撮影が合ってる。



ついでにジョン・ルーサーからもう1つ。
最初のカット。
アリス・モーガン左に空間。
このバランスの悪さが、シリアルキラーサイコパスなアリス・モーガンを表現してる。
ジョン・ルーサーも左寄りで右に空間。対象的なんですよね。
ピントは、二人だけに合う。
そしてハンディで微妙なブレが入り、不安定感がある。

次に引きの画面。
手前の二人より背後のビルに目が行く。何となく歪み伸びるようなビル。
手すりは斜めに伸び、不安定感が増す。無機質な街並みの中。
ここだけ、固定カメラで全体にピントを合わせてる。
二人の認識と外世界からの認識は違う。

アリス・モーガンが一歩踏み込み同じ画面にジョンを入れる。
関係性との暗喩。
...などなどこのあとも続くんですが、ほぼほぼ被写体を中心から偏らせ安定感を与えない。

引きの画は固定カメラ、人物はハンディであえてブレ。
視聴者は観ていて多分気付かないけど、この微妙なこだわりが画面に意味を与えてる。

【過去記事】


でもじゃあ海外のドラマは全てイケてるかというと当然そんなこともない。
スタートレックとかは安っすいわけですよ。

TNGは頑張ってますけどね。
でもスターウォーズ辺りと比較するととても安い感じがする(映画・ドラマの差異はあれども)。

カメラワークもほぼ正面のバストショットとロング(引き)が交互ですね。
CGを挟み、ロングで背景も入れ込むことで、SFとしての強度を高める。
SFは背景やセットも役者のひとり。
宇宙が舞台である、ということを強くアピールする必要がある。

でも安い。
その安さが良いからこそギャラクエのB級感だって面白い。

Galaxy Quest - Trailer [HD] - YouTube
最近の劇場版よりこっちの方が全然好きですが。


あと「ビッグバンセオリー」みたいなシチュエーションコメディは寄りが無い。

固定カメラ、舞台っぽい見せ方が多いですね。
フルハウスとか、奥さまは魔女とか伝統。
キャラを見せるドラマだから、ハンディで動きを見せる必要が無いシナリオ勝負。
撮り方と作品の相性というのもあるわけで、何でもかんでもハンディとかドーリーとかパンすりゃいいってもんでもない。

日本のドラマだけどこだわってる

日本のドラマが全部ダメってわけでもない。
岩井俊二「打ち上げ花火、下から見るか? 横から見るか?」

この作品の場合、駆け落ちの二人とその他の二つに別れていて、山崎裕太&奥菜恵パートは二人の関係性なので、2:00~に見られる奥菜恵ごしの山崎裕太(ピンは奥菜)などパートに合わせて構図が切られてる。
3:10辺りの(母親が連れ戻すシーン)の山崎目線でカメラとピンがぶれ、不安感を煽る。

もう一パートは友だち同士で花火を見に行くから(00:40辺)誰かと誰かではなく集団の切り方をしてるし、ハンディで動きを出してる。移動じゃないんだけど、ここを固定の引きで撮ると合わない。

岩井俊二は小津を意識したり、この頃からカメラにはかなりこだわってる。

最後に

LUTHER/刑事ジョン・ルーサー シーズン1 BOX [DVD]
リンク先記事の言うように、照明の質感もありますし、フィルム、ビデオ撮影もあるのかもしれない。
最近はHDでの撮影になったりもして、ディテールがハッキリしちゃうのは難しいところ。
画質が向上する=映像的に素晴らしい、ではないので。

無駄なアップ多様&意味のないカットの切り方&工夫の無い構図と繋ぎ方が、更にドラマを安っぽくしてる要因の一つ。
本来は意味が無いのに切ったりするのは好ましくないんだけど、テレビドラマは変化と速度のためにカットを切って見せる。
画に変化を付ければ演技がどーであれそこそこ持つ。
でなければ視聴者は、画替わりしない→つまらない、退屈と感じてしまいチャンネルを変える。

トレンディドラマだのジェットコースタードラマだの。
全て情報量を増やすため。


原因は才能なんだか、予算なんだか知りませんけど。
どーせ画面だの演出なんて素人はわかんねーんだし、と思って作ってたら安っぽくなった。
「BOSS」程度で評価されちゃうような世界なので。

そりゃあいろいろ安いのは必然。
新版 映像制作ハンドブック (玄光社MOOK)