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2014-11-03

たいへん大雑把に説明するボイトレ史。


古いボイトレ方法


現代的、科学的なボイトレ法が研究される前は、

「表情、姿勢、手や脚や腹の動きをコントロールするのだ!」という「外形上に働きかける間接的なトレーニング

か、

「声を特定の場所に置いたり響かせたり飛ばしたりするのだ!」という「イメージに働きかける抽象的なトレーニング」

しかできませんでした(雑な説明)。


「直接的」で「具体的」なトレーニングってのは、なかなかできるものではありませんでした。

なので、

「才能がある人は模倣で伸びることもあるけど、才能無いやつには何を言ってんだかさっぱりわからん」

「トレーニングの属人性が高すぎて、あるトレーニングが他の人には全く効果ないなんてこともざら」

「声に良い気がする…と思ってたトレーニングが実は思い込みで、実は効果なかったり逆効果だったり」

ということが頻発してました(雑な説明)。



科学的ボイストレーニングの祖、御三家


で、そんな状態から、

科学の目を通して「直接的」で「具体的」なトレーニングを考えていこう

と、たくさんの人が色々と研究して色々なトレーニング法を確立していきました。


で、そんな中で特に名の知られている人をとりあえず3人上げていくと、


「コーネリウス・リード」


「フレデリック・フースラー」


「リチャード・ミラー」


…の3人になるのかなー、と思う。

(ややアマチュア合唱畑の人間っぽいチョイス)



雑に説明するコーネリウス・リード

ベル・カント唱法―その原理と実践

ベル・カント唱法―その原理と実践

1950年原著が出版)


キーワード→「声区の融合」「母音の純化」


・現在よく言われている「ミックスボイス」とかの理論の元祖に当たる人

・「声区」という概念の整理と、それを融合させる方法を研究した

・いわゆる「胸声」と呼ばれる声と「頭声」と呼ばれる声では、声帯まわりの筋肉の使われ方が違うことを解明

・「胸声」と「頭声」を鍛え、その声区の間の切り替えポイントを解消して「中声」を使えるようになろう、という考え方

・それまで「経験」や「イメージ」でのみ伝えられてきた「複数の声区をまたいでも滑らかに発声する方法」を、科学的に解明しようとした


・具体的な方法として、声帯の使い方や呼吸法共鳴のさせ方についての考察を行ったが、その中でも「母音の純化」という概念は重要で、かつ現代にも通じる部分がある

・「母音の純化」→適切に「母音」をコントロールすることで、声帯や共鳴の状態を適切にコントロールできる、という考え方


・弱点としては、元祖だけあって「やや古い知識」で書かれている部分が多いため、ごく最近出てるようなボイトレ本とは若干内容が違っていますね

・特に、「2声区+融合声区」という考え方は、今主流の「3声区+α」理論とは似てるけど根本的に違うので注意


・ちなみに日本で有名なYUBA先生はリードの弟子らしいよ



雑に説明するフレデリック・フースラー

1965年に原著出版)


・キーワード→「歌うための肉体」「アンザッツ(声を当てること)」


・発声に関わる構造(特に声帯、喉頭などの筋肉の働き)を解剖学的に徹底的に研究した人

・「○○(顔とか胸とか)に声を置く」とかいう、伝統的発声訓練でもよく言われる意識をしたとき、声帯や喉頭の筋肉などがどのように働くかを解明した

・「(顔とか胸とかに)声を置く」イメージで発声したときに、本当にその特定部位が共鳴するわけではなく、声帯の振動の状態や声道(喉や口)の状態が変わることによって声が変わるのだ、というパラダイムシフト


・イメージではなく、科学的な現象として「声を当てる」トレーニングを整理→「アンザッツ」

・たくさん(7つ前後)の「アンザッツ(当て方)」を提唱

・全ての「アンザッツ」をバランスよくトレーニングすることで、人間本来の持つ「歌うための肉体」を取り戻すことができる

・現代的な暮らしの中(言語以前の原始的な発声を忘れてしまった身体)では、適切なトレーニングをしなければ「歌うための肉体」が失われた状態になる

・歌手であっても、偏った「アンザッツ」ばかり練習することや、偏った「アンザッツ」にこだわった歌唱をすると、「歌うための肉体」は失われ、不健康な声、不健康な歌唱になる

・声帯と共鳴だけでなく、呼吸についても自然志向


・フースラーに対する批判は色々あるけど、「とにかく自然バンザイ!」という思想はとかく批判されやすいものである

・また、アンザッツ理論に対する間違った理解と、その間違った理解に基づく批判もたいへん多い



雑に説明するリチャード・ミラー

1985年に原著出版)


・キーワード→「歌手のフォルマント


・それまでの解剖学的な発声理論に「周波数帯分析」などの音響学的アプローチも加え、発声理論のさらなる現代化をした人

・フースラー、リードよりはちょっと後の時代の人で、これらの良い点をまとめつつ、科学の発展により誤りとわかった部分を正した


・音響分析などを活用し、良い発声に共通するフォルマント(倍音構成)として「歌手のフォルマント」を提唱

・「歌手のフォルマント」を実現、保持するための方法を様々な面から具合的に提示


・正直まだ全然読めてないのでもう少し勉強させて



その他、現在のボイトレの潮流など


などなど、とりあえず3人紹介しましたが、いわゆる「現代的なボイストレーニング」を提唱しているところは、だいたいこの3者の影響を受けていると考えていいかなーと思います。


・無理な力は入れるだけ害

→「自然」、つまり人体の本来の働きを解剖学的に知り、それに沿った発声をしよう

→変な表情を固定したり、特殊な呼吸法を行ったりはしない

・声区を滑らかに行き来できるようになろう

→そのためには声帯や声道が適切な状態にある必要があり、姿勢から何から大切なんだけど、特に「母音」は超重要

→声区は声帯の振動の仕方の違いによって生じるから、それに沿ったコントロールが必要だよ

…みたいな。

だいたい、必ずこの辺は共通していると思います。


例えば、最近流行っているボイストレーニング法と言えば、「Speech Level Singing」というのを本当によく聞きますね。

どいつもこいつも二言目にはセス・リッグスかよという感じですが、実際すごく整理されてて勉強になります。


Podcast by SLS master instructor John Henny|桜田ヒロキ ヴォーカルスタジオ


この辺はミラーの志向よりちょい軽めの声だったりするのかなあ、と思ったりもしますが、上に書いたような共通点は確実にありそう。



余談1


「身体の仕組みを知って」「ニュートラルな状態をつかめば」「そこから重くする(クラシックっぽくする)のも軽くする(POPSっぽくする)のも自由自在!」って考え方が私は好きなのですが、そういう考え方を実現するためにとても役立ちそうなのがこの本。



科学的なボイトレの入門書にはぴったりの1冊。

「身体のこの部分をこうすると、こうなるよ」というのはたくさん書いてあるけど、それを「こうするのが正解」という書き方ではなく、「どうするかはあなた次第」という書き方が多くて、まあ現代的だなあと。



余談2


リードやフースラーの話を改めて少し調べてたら行き当たったサイト。


ボイストレーニング論 | 語り部のほとりで


うちのブログより詳しいよー。

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