地方都市をむしばむ危険ドラッグ
10月28日 16時00分
事件や事故が相次ぐ、危険ドラッグ。
危険ドラッグの使用などが疑われる人の検挙数は、9月までで、去年1年分を大きく上回る「359件」。
その影響は東京や大阪など大都市圏だけでなく地方都市にも広がっています。
静岡県内で危険ドラッグの取材に当たった静岡放送局の松尾恵輔記者と鈴木志穂子ディレクターの報告です。
空き店舗狙う危険ドラッグ店
私たちが取材を始めたのは8月。
すると、危険ドラッグを売る店が、巧妙に地域に入り込んでいることが分かってきました。
浜松市内にあった危険ドラッグの店は2年前、輸入雑貨の店をやりたいといってテナントを借りていました。
しかし、店が実際に売り始めたのは、危険ドラッグでした。
商店街の人たちに話を聞くと、「空き店舗を抱えていたので、若者向けのちょうどいい店が入ってよかったと思った」と当時を振り返りました。
9時間暴れ続けた男性
取材の中で、この店で買った危険ドラッグを自宅で吸引して、家族の男性が大暴れしたという女性に出会いました。
自宅を案内してもらうと、壁には無数の穴が開き、ガラスも粉々に割れていました。
女性によると、男性は誰かに殺されるという妄想に取りつかれ「爆弾が落ちてくる」などと叫びながら、9時間にわたって室内で暴れ続けたということです。
取締り乗り出す「麻取」
こうした危険ドラッグの店を追い詰めようと、警察や県だけでなく、厚生労働省の麻薬取締部、通称「まとり」も動き出しました。
浜松の店を含め、静岡県内すべての危険ドラッグ店に対し、立ち入り検査を実施。
違法かどうかにかかわらず、店の全種類の商品を回収し、静岡県内で合わせて100種類の危険ドラッグの販売停止を命令しました。
この立ち入り検査によって、浜松の店は廃業に追い込まれました。
「麻取」の検査逃れる店舗
しかし、「麻取」の一斉検査のあとも、依然として、営業を続けている店がありました。
店内をのぞくと、そこには新たに入荷された商品が陳列されていました。
さらに、取材すると、この店の近くで商品を吸った人が、警察官を相手に突然暴れ出す騒ぎも起きていました。
当局のたび重なる取締りの網をかいくぐって、危険ドラッグの業者は販売を続けていたのです。
不動産と連携し抑止力に
静岡県警察本部は業者が新たに出店するのを防ぐため、店を貸す側の不動産業者との連携を始めています。
店を貸す際に交わす契約書に、「危険ドラッグを扱っていることが分かった場合は契約を解除する」と盛り込むことにしたのです。
契約書に盛り込むことで、危険ドラッグを販売する業者が、出店をためらい、抑止力となることを狙っているのです。
全国でも、取締りの強化が進み、違法となる指定薬物の数を大幅に増やしたことで、危険ドラッグの店舗は、ことし3月の時点で251あったのが、先月には78まで減少しています。
半数以上の自治体が規制へ
さらに、地方自治体もこれに歩調を合わせて、危険ドラッグを規制するための条例を独自に設けるなどの動きもでています。
NHKは47都道府県に危険ドラッグに関する条例についてアンケートを行ったところ、「すでに条例を成立した」と回答したのは9つの都府県さらに、「検討を進めている」と回答したのは黄色の18の府県に上り、半数以上の都府県で、危険ドラッグの規制に関する動きがあることが分かりました。
なかでも、鳥取県は成分がまだ特定できていない危険ドラッグも大麻や覚醒剤のように使用や製造を禁止できる条例を成立させていて、国も同じような法律を制定しようとする動きがあります。
悪質巧妙化する手口
しかし、こうした販売店を1つ1つ廃業に追い込んでいくなか、新たな問題が起きていました。
店以外で入手する悪質で巧妙な手口が増えていたのです。
その1つが「インターネット」を使った販売です。
そのネット販売を取締るための麻取などだけでなく、民間でもヤフーなどのIT企業がみずからサイトの監視に乗り出す動きが始まっています。
ネット監視で拡散防げ
監視は、「合法ドラッグ」や「合法ハーブ」そして、高揚効果をあおるような「アッパー」などのことばをキーワードに販売サイトを見つけ出し、削除を依頼します。
最近では、日本語で表記しながら海外のプロバイダーを経由して販売する業者もいるということです。
この団体では、国内、海外を問わずサイト管理者に「削除依頼」を出すととともに、厚生労働省の麻薬の担当部署や警察にも情報を提供しています。
開始から4か月、これまで80近いサイトに削除の要請をしてきましたが、それでも新たな商品が出てくるといいます。
取材をしていると、規制や取締りを免れようと次から次へと新しい商品や販売方法を生み出す業者の巧妙さを感じずにはいられませんでした。
先日も国内の製造工場が摘発されましたが、今後は販売先だけでなく、海外から入ってくるルートも含めて、製造元を絶つということが必要となってきていると思います。