2014/10/17(金)更新
そういえば、最近のDJのライブシーンを思い出すとアナログレコードがないのでした!盤の良し悪しを自慢するなんていうことは、もはや過去の話なんですかね。
先日、娘に連れられてヒップホップのライヴに行ってきたのですが、驚いたことがあったので質問です。ランDMC全盛期を通過してきた私の感覚では、ヒップホップのライヴといえばステージ上には2台のターンテーブルとミキサーがあって当然。しかし、見る限りそのライヴにはターンテーブルがなかったんです。あるのはPC(Mac)と、平べったいミキサーのような箱(あの箱はなんですか?)。もう、ヒップホップのライヴにターンテーブルはないのが常識なんですか? すっかり置いていかれてしまった感…。
娘さんとヒップホップのライヴに行くなんて、いい感じじゃないですか。反抗期はなかったんですか? 僕も将来、娘とそうやって出かけられるかな? ってな話はさておき、ご質問の件にお答えしましょう。
おっしゃるとおりヒップホップのライヴの機材といえば、2台のターンテーブルとミキサーでした。それまでのステージといえば、ギターにベースにドラムにキーボード、それにアンプだのなんだのがズラリと並んでいるのが当たり前。だからこそ、シンプルすぎる構成が衝撃的だったわけです。
そしてその構成は、ヒップホップのライヴにとっての常識でした。ブレイク・ミックス(2枚のレコードの同じパートを交互にプレイしてビートをつくる手法)とラップという必要最低限の構成が最高にクールだったわけです。
ところがそうしたあり方は、いま大きく変わっています。というよりは、もうかなり前からですけれど。たとえば僕の記憶をよりどころにするなら、7~8年前に見たHOME MADE家族は、その時点ですでにターンテーブルを使っていませんでした。当時はいまほどデジタル音源が浸透していたわけではありませんが、CDJを使用していたのです。彼らはポップ寄りのグループなので、「ヒップホップはこうあるべし」というようなスタイルに固執する必要はあまりなかったのかもしれません。が、それだけでもかなりの衝撃でした。
さて、そこから数年が経過し、時代はデジタルへ突入しました。音楽はダウンロードするものとなり、アナログレコードをライヴで使用する機会はぐんと減りました。CDJはまだ使用されていると思いますが、それでもだいぶ少なくなったと思います。
では、どうしているのか? そこに今回の答えがあります。つまりはPC音源を用いるようになったわけです。PC音源を使用するデジタルのハードウェアにもいろいろあるのですが、ヒップホップの場合にはRANEの“SCRATCH LIVE”やNATIVE INSTRUMENTSの“TRAKTOR SCRATCH”のような、デジタル音源をターンテーブルで操作する機材が一般的です。iTunesに入っている音源を、インターフェイスを通じてターンテーブルに送り、ターンテーブルにセットしたレコード状のディスクで拾うという流れ。つまり、あたかもレコードを扱うような感覚でプレイできるわけです。
ヒップホップの場合は「2ターンテーブルズ&マイクロフォン」が基本ですから、そのスタイルを再現できるということでSCRATCH LIVEやTRAKTOR SCRATCHは「新たなスタンダード」として浸透していったのでしょう。いまでは、ほとんどのヒップホップ・アーティスト/DJがこれを使用しているのではないでしょうか。
ただし、その流れすら変わりつつあるようです。それが、KANIDASさんの見たスタイル。いまやターンテーブルすら必要ないと考えるアーティストが出てきたんですね。そこでターンテーブルのかわりに使われていた機材というのは、おそらく「コントローラー」です。簡単にいえば、ミキサーと小型のターンテーブル2個がついた機材。そこだけで、PC内のiTunes音源を操作してしまえるわけです。
「2ターンテーブルズ&マイクロフォン」というスタイルにこだわる気がないとすれば、なるほど画期的かもしれません。そうでなくともヒップホップは、新しいテクノロジーを柔軟に受け入れながら成長してきたカルチャーですしね。
とはいえ個人的には、やはりターンテーブルからは離れたくないのですが…。
■この記事の回答者「印南敦史」
1962年東京生まれ。Webディレクター/フリーライター/音楽ライター/コピーライター/編集者。株式会社アンビエンス代表取締役。音楽レビューサイト「3055」編集長。『ブラックミュージックこの1枚』(光文社知恵の森文庫)、『音楽系で行こう!』(ロコモーションパブリッシング)など著書多数。最新刊は『Juicy REMIX 1980-2011』(リットーミュージック)。
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