2014年10月09日
融解するオタク・サブカル・ヤンキー:ファスト風土適応論
シロクマ先生(http://d.hatena.ne.jp/p_shirokuma/)の新刊を読みましたので、感想を。
- 作者: 熊代亨
- 出版社/メーカー: 花伝社
- 発売日: 2014/10/02
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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本の概要
この本は「ロスジェネ心理学」の続きのような話と考えれば良いでしょうか。対象は、ロスジェネ世代(1970〜82年生前後)のちょっとこじらせてしまったオタク・サブカル(・ヤンキー)の方々かと思います。実際、シロクマ先生のブログを読んでいるメイン読者もそのあたりかなと思いますし。
話の粗筋は以下のとおりです。その昔(?)、オタク、サブカル、ヤンキーという言葉から我々が典型的なものとしてイメージするような人々がいた。そのような人々は、尖った生き方をしていた(1995年頃まで)。その後、これらの人々の尖り具合は減っていき、徐々に融解・融合していった。ライトなオタクとも、サブカルとも、ヤンキーともとれるような人々が増えていった。それは、近年のファスト風土論の中で脚光をあびたマイルドヤンキーと言われるようなリア充の方々である。そうした地元に密着しながら、人間関係を大切にし、相互に承認を与えることでしぶとくゆるゆると生きている人たちの生き方も悪くない(村社会2.0)。むしろ、尖ったオタク・サブカル(・ヤンキー)であろうとし、適切な発達(エイジング)ができなかった人々は大変である、といった話だと思います。
自意識・アイデンティティの問題をこじらせてしまった人々に、ゆるく生きるのも悪くないよと説いているような心地よさを感じます。それはもしかすると、今の自分が30歳を過ぎて、どこかで生き方のシフトチェンジを図らなければならないと感じているからかもしれません。つまり、ガリガリと睡眠時間を削りに削って論文書き続けるだけが人生ではないよ、ということです(悪魔の囁き?)。こうした言葉によって、おそらく少し楽になったり、生き方を変えることができたりする人もいるのかなと思います。
本の内容から連想したこと
いわゆる高齢ポスドク問題の一部も、自意識をこじらせてしまったオタク・サブカル問題と重なるところがあるのだろうなと思いました。一度選んだ研究者(ある研究領域についてのオタク(消費者)兼クリエーターになること)への道を降りることがいかに難しいか、ということは自分の周りを見ていれば痛切に感じることです。私個人は今の職場になんとか拾ってもらったわけですが、もしそのような幸運がなければ、おそらくアイデンティティの一部と化した研究から離れることが難しくなり、自分の年齢や発達段階も考えずに突っ走り続け、どこかでエンストを起こしていたかもしれません。確かに、アイデンティティとなったものに入れ込みせず、軟着陸していくことは大切でしょうが、それがとても難しいことも間違いないと思います。適切に年を取ること、特別ではない自分を認めていくことはとても難しいことです。研究室に張り付き、外の人間関係がおろそかになっていれば尚更です。
この本自体は、上にも書いたようにいわゆるロスジェネ世代のオタク・サブカルの人向けに書かれたものだろうと推測しますが、現在博士課程にいるとかポスドクやっているという人も、読んでおいて損はないかなという気はします。人生は色々です。
ただ、もしかすると、こうして一般書店に並ぶような本の中でちょっとしたネットの有名人の精神科医の先生から「ゆるく生きるのも悪くないよ」と言われても、「お前はそんなにゆるく生きてないじゃん!」と思う人もいるかもなとは思いました。
- 作者: 熊代亨
- 出版社/メーカー: 花伝社
- 発売日: 2014/10/02
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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