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営業職の「自爆営業」って、どうにかならないの?

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photo by 33mhz

 

 ちょっと前から、「自爆営業」という言葉を耳にするようになりました。2013年11月に官房長官が言及したことによって、この単語が周知されるようになったらしい。

 



 この自爆営業、様々な企業で当たり前のように行われ、決算前などには多くの従業員が「自爆」していることが想像されるけれど、どうにかならないものかしら。軽く調べてみました。

 

 

「自爆営業」とは

自爆営業(じばくえいぎょう)とは企業の営業において行われている社員の負担。商品を販売するという営業職に就いている社員が、その商品が売れない場合には自腹でその商品の購入することでノルマを達成するということ。

自爆営業 - Wikipedia

俗に、社員が営業ノルマ達成のため、不要な自社製品などを買わされること。また、保険業界などで、社員が自分や家族などの名義で契約を結び、保険料を負担させられること。自爆。

自爆営業 とは - コトバンク

 

 この言葉を聞いたことのない人でも、このような行為の存在は知っている人が多いと思う。要するに、「ノルマ未達成を避けるため、自腹を切って商品を購入すること」かと。

 

 僕自身も営業として働いていたけれど、こんな言い回しがあるとは知りませんでした。Googleトレンドで見てみると、2012年頃、急に出てきたように見える。

 

 

 その上で検索してみると、どうやら「キャリコネ」の口コミを取り上げた記事から話題に挙がり始めたものらしい。こちらでは、日本郵便保険業界旅行業界について言及されています。

 



 それに対して言及しているのが、こちらの記事。

 



 コメント欄も含めて、「え?当たり前でしょ?嫌なら辞めればいいじゃん」といった、冷ややかな反応であるような印象。その上で、Twitterのツイートを引用する形で締めくくっています。

 

「自己負担した分は『その企業で働く権利』を買っていると思えばいい」

 

 ……やっぱり、従業員が都合よく使われている感じが否めません。ずっとずっと続けられてきた、「当たり前」のことなのかもしれませんが、これが「当たり前」で通ってしまうのには違和感を覚える。どうにかならないんです?

 

「辛いのは管理職」「連帯責任のプレッシャー」

 「自爆営業」で検索してみると、上位に出てくるのはほとんどが「郵便局」の話題。そこでは、営業員が嫌々ながらも「自爆」せざるを得ない現状が記されています。

 ノルマ未達成だと上司に恫喝されるだとか、全社員の前で晒し上げにされるだとか、販売ロールプレイをさせられるだとか。

 

 その一方で、ノルマを割り振る「管理職」視点の「自爆」を取り上げているものもありました。ポプラ社より発売されている本、『自爆営業』の一部を紹介した内容、とのこと。

 

 しかし、自爆営業で辛い目に遭うのは下っ端だけではなく、むしろ「年賀状は何枚売ったんだあ!」と恫喝する管理職だ。ノルマは、個人や班だけではなく、局全体にもかけられている。ノルマに達しない局の幹部は、日本郵便の支社などに呼び出しをくらいお咎めを食らう。

 だから、管理職は、数万円どころか、年賀状だけで10万円単位の自爆をしている。印刷されたばかりの年賀状は4000枚入りのダンボールに納められているが、管理職はこのダンボールごと自爆する。

郵便局にはびこる「自爆営業」 自腹10万円は当たり前 | 日刊SPA!

 

 「ダンボールごと自爆する」という字面が、どこかシュールながら、笑えない。自分が勤めていた営業所のトップは、怒鳴ることはあれど、自爆まで勧めていたような記憶はないので、良い上司だったのだと思います。

 

 この件について、日本郵便の広報局に問い合わせ、回答をまとめている記事がありました。

 

「ノルマという形で課しているつもりはまったくない。一般的にノルマというのはなんらかの形のペナルティーが伴うが、ペナルティーはまったく設けていない」

「ものを売るからには目標を定め、それを達成しようと社員一丸となって売っている。普通のやり方だと思う。目標達成できないとなったときには、チームなどで話し合いをしながら、うまくやっていくようにしている」

「局所的にそういうこと(自爆営業)が行われた事実があったことは、認識している」

「自分で買い取るということは、実際の需要がないということ。需要がないものを、あたかも売ったようにして、目標を達成したかのようにすることはおかしいと指導している。社員に買い取らせるようなことはしないように、管理者に話をしている」

郵便局、局員による年賀はがき“自爆営業”横行の実態〜ノルマは一人2500枚… | ビジネスジャーナル

 

 日本郵便に限らず、「自爆」の起こっている企業の多くが同じように答えそうな気がするんだけど……。

 上層部からすれば、「そこまでする必要はないのに、どうして自腹を切るんだ」という認識なのかもしれない。……いや、どうなんだろう。上が何を考えているかは、よく分からないです。

 

 他方、現場ではノルマ達成の厳守を日々、突っ込まれ続け、半強制的に「自爆」をするような空気になっているのだと思います。

 特に、アルバイトなどの非正社員の場合は、正社員になるためにノルマの継続達成が必須だったり、いつクビにされるか分からない、といった強迫観念もあるのではないかしら。結果、それが「当たり前」となってしまう。

 

「自爆」を誘発する、燃えやすい「空気」

 この手の問題では、営業の「ノルマ達成」が義務なのか否か、という点が議論されることもありますが、それよりも大きな問題は、この「自爆」が当たり前となっている「空気」だと思います。それを強いる「構造」と言ってもいい。

 

 会社の中でうまくやっていくためには、協調性が重視されがち。誰だって、人間関係や雰囲気の悪い職場では働きたくないし、自らその「空気」を悪くしたいなんて思わない。

 そんな中で、みんなが「当たり前」にやっていることを拒否するのは、とてつもなく難しいと思うのですよ。いずれ辞めるつもりならともかく、日々の生活の中で長時間を過ごす「職場」という環境で居心地が悪くなるのは、なるべく避けたいところ。

 

 自分とは別の営業所ですが、地方に配属された同期は、「あんなの無理、断れない」と、何とも言えぬ表情で語っておりました。できるだけ買わないで済むように誤魔化してはいるようなのですが、それが続くと、面倒になって全額購入……という状態。

 本筋とは無関係ですが、地方勤務ということもあって、先輩に勧められるままに車を購入した結果、「もう辞められねえ」と嘆いてもおりました。むしろ諦観しきったというか、一周まわって生き生きしているようにも見えましたが。

 

 特に、新入社員で「自爆」が当たり前の場所に配属された場合、それを避けるすべはないに等しいと思います。日々の業務に忙殺されて、ただただ先輩に従うのみ。疑問を抱く隙すらない。気づいた頃には、それが「当たり前」になっているはず。

 

 僕の勤めていた営業所では、上から「自爆」を半ば強制されるようなことはない、と書きました。ですが、先輩の中には、微妙にノルマに足りない分を補填するべく、自腹を切っていた人も結構いました。結果、「部屋が商品だらけに!」なんて笑えない話も。

 入社当時、いろいろと教えてくださった先輩からは、「一度やると『ちょっとならいいや』となりかねないから、やめとけ」と言われていたのですが、僕も何度か切ってました。自腹。「まあ自分でも使うし……」と言い訳しながら、いつの間にか。

 

 そんなこんなで、「自爆営業」は多くの営業職についてまわるものだと思う。というか、そもそも「自爆」という言葉もちょっとおかしいような。

 

 自腹を切っているのは確かに自分だけれど、自分の意思というよりは、その場の「空気」に強制されていることも否定できない。

 「嫌なら拒否するか、辞めればいいじゃん」という指摘もその通りだとは思います。けれど、そんな簡単に逆らえないし、辞められないような職場環境、生活状況があるからこそ、「自爆営業」が問題視され、話題となったのではないでしょうか。

 

 月末や決算前になると、急に職場が燃えやすい気体で満ち満ちて、上司が「ノルマ」という名の火をくべに迫ってくるか、周囲に誘発されて自然発火するか。誰かが着火して爆発してしまえば、みんな一斉に誘爆するしかないのです。

 

 月末最終日……休日出勤……うっ、頭が……。

 

 

まんまるマルマイン (ポケモンえほん)

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