玄関のドアを開けると、すこし肌寒い風とともに濃厚なキンモクセイの香りに包まれました。
この木は、樹齢30年くらいです。電線に枝がかかってしまうため、定期的に枝を整えています。
この木を植えて、はじめて花をつけた年、親父の借金が発覚しました。額はたしか700万です。親父は某石油会社のグループ子会社の経理部長でした。そこそこの金額を決済する立場にあったため、銀行関係の接待で毎晩飲み歩き、家に帰るのはいつも夜中でした。
きっと、大きなお金を動かしているうちに、感覚がマヒしてしまったのでしょう。借金は街金ではなく、すべて銀行からでした。銀行は身元も収入も把握出来ていたので、気前良く融資(笑)してくれたようです。
本人の収入では、借金の元金が減らないので、結局、母親の貯金と、実家の土地を処分して払いました。
その後、2年間、キンモクセイの花は咲きませんでした。理由は分かりませんが、花をつけない年もあると聞きました。僕は、来年こそは、あの香りが戻ってくる。そう願っていました。
翌年、キンモクセイは見事な花をつけました。あの濃厚な香りが戻って来たのです。そして親父の借金が1000万あることが発覚しました。
…母の財産はすべて失われました。離婚も考えたそうですが、夫婦の借金は、共同責任になるので、離婚しても無駄らしく、それは保留したそうです。また、子供がちいさいうちは、離婚するのはよくないと考えて、耐えたそうです。
あれから、10年が経ちました。離婚は去年したそうです。今年はキンモクセイが咲きました。
僕の近所の、親父さん一家の話しです。町内のスピーカーおばさんから仕入れました。彼女の諜報活動は素晴らしい。こんな小さなエリアで埋もれてしまうのが、本当に惜しまれる才能です。