アメリカで週4日労働のほうが週5日労働よりも効率が良いという認識が広がりつつありるらしい。しかし、日本ではサービス残業や休日出勤がまだまだ当たり前のような業界も少なくない中、週4日労働などは夢のまた夢のような話にも思える。
では、なぜ働く時間を減らす必要があるのだろうか? そのことで得られる最大の恩恵とはなんだろうか? なにをどうすれば働く時間を減らすことができるのだろうか? 週4日勤務を導入しているNPO法人フローレンスの代表理事・駒崎弘樹がTOKYO FM「TIME LINE」で語る。
10分で読める記事 わずか
駒崎弘樹 (NPO法人フローレンス代表理事、以下 駒崎)
今井広海 (アナウンサー、以下 今井)
@ TOKYO FM「TIME LINE」 (2014/09/09)
今井:
アメリカでは「週4日労働・週休3日のほうが週5日労働・週休2日よりも効率が良いんじゃないか」という認識が広がりつつあると言います。「American Journal of Epidemiology」の研究 によりますと、週に55時間、つまり週5日の労働に換算しますと5日間・毎日11時間働いた人は週40時間・4日間で毎日10時間働いた人よりも「知的作業の効率が下がってしまう」そうなんですね。
また、Googleのラリー・ペイジCEOは自分の会社で実行はしてはいないものの週4日労働制を推奨 しておりまして、プロジェクト管理ツールBasecamp のジェイソン・フライドCEOは、従業員に対して1年のうち半分は週4日労働・週32時間という勤務体系を採用して、ほかにもこの勤務体系をとる企業が複数あるそうです。
週休3日制を導入しているフローレンス、その背景と恩恵
今井:
そのような働き方はアメリカだから可能なんではないかと思われるかもしれませんが、実は日本でも週4日労働・週休3日制を導入しているところがあります。駒崎さんが代表を務める認定NPO法人フローレンス です。今夜議論するのは「週4日労働の恩恵」。さて、駒崎さん、早速伺いますが、フローレンスで導入している週4日労働、具体的に言うとどういうものなんでしょうか?
駒崎:
我々は「病児保育」という、子どもが熱を出したり風邪をひいたりした時にその子の家でお預かりしてあげるというような事業をやっているんですが、そこで働く保育スタッフの方々が週5日の人もいれば週4日の人もいるという形で働いています。
今井:
それは選択制なんですか?
駒崎:
はい。最初、週5日だけだったんですよ。ただ、色々話を聞いていくと、「実は週4日で働けたらそれが良いのよね」なんていうふうに言われたりしたので、「じゃあ、試しにやってみよう」と。で、週4日なんだけども時給じゃなくて月給で払っていこう、と。その分、1日分給料が安くなっちゃうけれども、もしもそういう働き方がしたい人がいたら良いかもしれないな、と思ってやったんです。
そうすると、実際かなり手が挙がりまして、採用力のプラスにもなって、だいたい40人ぐらい保育スタッフがいるんですけれども、そのうちの3分の1ぐらいが週4のスタッフですね。
今井:
どんな方が週4日勤務を希望されているんでしょうか?
駒崎:
週5日だと自分のやりたい勉強ができないとか、あとは主婦の方で週5丸々働いちゃうと疲れるんだけども週4だと自分のペースで体力も温存しながらできるとか、色んな事情があるんだなというふうなことは、やってみて分かったことですね。
今井:
その成果なんですけど、メリットというのが出ているというふうに感じますか?
駒崎:
そうですね。単純に「人を採りやすくなった」というところはありますよね。
今井:
採用に人がどんどん応募してくる、と?
駒崎:
そうですね。週5で、しかも熱を出した子どもの家に行くっていう仕事だとちょっと体力的に厳しいっていう方もいらっしゃって、なかなか狭き門だったんですけれども、「週4だったらできるかな」みたいな形で手を挙げてくださる方がかなり増えましたね。
今井:
今お話を伺っていると、賃金よりも自分の時間や体力の面で考えた働き方をしたいという方が結構いらっしゃるということなんですね。
駒崎:
そうですね。
フローレンス代表の駒崎は「一切残業無し」
今井:
ちなみに駒崎さんは代表でいらっしゃいますけれども、自ら実践して週4日ということもあるんですか?
駒崎:
いや、僕は週4日ではないんですけど(笑)、ただ、経営者っていうと無茶苦茶忙しいっていうイメージがありますよね。死ぬほど働いている、みたいな。
今井:
ありますね。なんでもやらなくちゃいけないっていう。
駒崎:
でも、僕が働いている時間は9時~18時なんです。つまり8時間労働・残業無しで、今日は特別に夜に働いていますけど、いつもは6時に終えて、7時前に家に帰って、ふたりの子どもをお風呂に入れて、ご飯を食べさせて、寝かしつけて、そこから自由時間、みたいな生活をしてるんですよ。
今井:
へー。今、経営者目線でお話されていましたけど、その意味で良いますと、Googleのラリー・ペイジCEOは、推奨はしてはいるものの、まだ自分の会社では実行していない、と。
駒崎:
ラリーはね、やっぱり、やってから言えって感じです(笑)。「ラリー」とか言っちゃいましたけど(笑)。
今井:
(笑)。
「1日8時間働くって、いつ誰が決めたんだ?」
今井:
アメリカでもなかなか実行できないのに、日本だとなかなか難しいんじゃないかな、というようなイメージを持ってしまうんですけど、フローレンスが導入できた理由というのはどういうことでしょうか?
駒崎:
単純に僕が「やってみようよ」っていうふうに言ったからだけなんですけど。でも、やってみたら、ある程度上手くいったっていうところがありまして。ただ、普通の会社の普通の職場で週4でっていうのはなかなか現実感が無いと思うんですよ。でも、よくよく考えみましょう、と。「週5×8時間」って誰が決めたんだ?と。「8時間働く」っていつから始まったか?ってご存知ですか?
今井:
いわゆる「9時~5時の8時間」ってことですよね? いつなんだろう? やっぱり戦後間も無くというようなイメージがありますけど。
駒崎:
実はですね、これ、130年前にアメリカのメーデーにシカゴで「8時間労働にしろ」って労働者がストライキをしたことから始まってるんですよ。「8時間は働く時間、8時間は休息、8時間はオレたちの好きなように」っていうスローガンで労働者が立ち向かって、それで獲得したのがこの「8時間労働制」なんです。そこから変わってないんですよね。
今井:
130年前から。
駒崎:
日本だと戦後間も無く、1947年に「労働基準法」ができましたよね。その時に「8時間労働」が決められたわけなんですけど、それでも70年前ですよ。70年前ってどんな時代かと言うと、農業と工業で働く人が7割を占めていたという時代なんですよね。今それが何割と言うと、農業と工業を合わせても3割ちょっとですよ。全く働き方の環境が変わっているのにもかかわらず、働き方の法律は変わってないっていう話なんですよね。
ここをなんとかしなきゃいけないので、週4日がどうこうとかじゃなくて、本当は1億2000万人いたら1億2000万通りの働き方を許容するっていう社会が我々の目指すべきところなんじゃないかなっていうふうに僕は思うんですよ。8時間働く人もいれば7時間の人もいるし、週5の人いれば週4の人もいるし、あるいは男性でも女性でも働きやすいし、あるいは定年以降も自分なりに働けるし、あるいは性的マイノリティの人だって差別されずに働けるし、そのように多様な、しなやかな働き方が認められる日本社会っていうのを僕は作りたいなと思うんですよね。
今井:
今、1日8時間労働導入の経緯を伺って、元々は労働者が声を挙げて1日8時間になったということを考えると、今回も自分たち、働いている人間がもうちょっと意見を言っても良いのかなっていう感じはしますよね。
駒崎:
そうですよ。だって労働基準法が70年前でしょ。でも、僕はやっぱり法改正して「労働基本法」みたいなものを作って、そもそも「働くとは?」、「日本人にとって働くとは?」っていうのを大上段に掲げて、それに向かっていこうよ、というふうなビジョンから降ろしていきたいですよね。
「日本人は『社会人』じゃなくて『会社人』ばかり」
今井:
そういうふうに「働き方を変えたい」という駒崎さん、「働き方革命―あなたが今日から日本を変える方法」 という本を出版されてますけども、じゃあ現在の日本の働き方についてどういうふうにお感じになっているのかということですけども?
駒崎:
これは「勿体無い」ですね。「勿体無い」です。つまり、日本の労働生産性 って残念ながら先進国の中で低いんですね。で、先進国の中で最も働いているっていうデータもあるぐらいで、つまり長く頑張って働いているけれどもアウトプットは低い、みたいな状況になっているんです。
そうじゃなくて、ある程度、時間を区切って働いて、成果はちゃんと出して、とっとと家に帰って家族のために時間を使いましょうよ、と。あるいは地域社会のために時間を使いましょうよ、と。色んな自分の世界を持ちましょう、と。でも、今だと会社と家の往復だけで、「社会人」とは言え、それじゃ「会社人」じゃないか、と。
今井:
そうですよ。8時間働いた上で、更に往復2時間、3時間かかっている人もいますからね。
駒崎:
そうなんですよ。なので、我々の理想は我々が好きなように働けるっていうことを社会がバックアップする、そういう理想を掲げて、例えばテレワーク、在宅勤務っていうのを導入していったりであるとか、あるいは週5じゃなくて週4労働って決めたらそれでも良いじゃないかっていうふうにできるとか、あるいはフリーランスで働く人だってちゃんと保険に入れるようにとか。
そういう色んな多様でしなやかな働き方を支えられるような制度って、そろそろ僕らが声を挙げて、描いていっても良いんじゃないかなって思うんですよね。
「女性が活躍できなかったら間違いなく日本の未来は無い」
今井:
フローレンスの場合は駒崎さんが導入したということですけども、実際に日本の企業が週4日・週休3日を導入するとなると1番の課題となってくるのはどんなことだと思いますか?
駒崎:
「そんなふうになったら、みんな、サボっちゃうんじゃないか、君」みたいな話だと思うんですけど、別に全員が全員「週4にしたい」って言わないわけなんですよ。やっぱり給料はとりたいっていう人はいますし、色んな人が色んな働き方をしたいっ言ってるんで、それを組み合わせれば良いだけかな、というふうに思いますよね。
今井:
今のフローレンスのケースを聞きますと、週4日を選択をされている方がいて、子育てがあるから週5日は辛いよというような方も結構いらっしゃるということでしたけども、その「女性」という点で言いますと、先日、内閣の改造がありました第二次安倍改造内閣ですけども、「女性活躍担当大臣」という新ポスト ができました。これ、どうでしょう? 働き手としての女性の活用について、どういうふうに思われますか?
駒崎:
女性が活躍できなかったら、もう日本に未来は無いですよ、正直言って。と言うのも、2050年に高齢化率40%ですよ。つまり、人口のうちの4割が高齢者っていう未曾有の社会に突入していくわけで、これは人類史上、今まで無かったそうなんですね。共同体の中で4割が高齢者の社会って。で、人類の中で我々が1番最初にその問題を解く、みたいな状況に晒されるわけで。その一方、働き手は今の3分の2になるっていうことで、すごい減るわけですよ。で、働き手はすごい減って、でも高齢者を支えなければいけないって、これ、ほんとに持続できんの?っていう状況ですよね。
そこで唯一の希望が、実は日本は先進国の中で最も女性が働いていない社会なんですよ、働けるのに。そこには色んな壁があるわけですよ。差別があったりだとか、子育てしながらだと働き辛いとか。そういうのはどんどん取っ払っていって、働きたいと思う女性がどんどん働ける社会を作るっていうのは、日本の命運がかかってますから、そこを政府とか安倍さん任せにしないで、僕たち、普通の人たち、特に男性が働き方を変えて、職場でも女性の働き方が云々とかって女性だけに期待するんじゃくなくて、男も自ら長時間労働をやめて成果を出していくっていうふうに切り替えていかないと、日本の未来は無いかな、と思います。
今井:
この週4日労働・週休3日について、やはり色んな声がありまよね。「週休3日なんて経団連さまも自民党さまも許さないだろう。できれば理想だけど、現実味は無いな」という厳しいご意見であったり、一方、「確かに短時間勤務を育児や介護以外に広げても良いかも。職場の理解によりますが」というような期待する声もありますけどね。
駒崎:
そうですね。でも経団連は関係無いですよ。僕らがどう思うか、どう行動するか、どう声を挙げるか、それによって歴史は変えられると思います。
今井:
声を挙げるときのポイントというのはあるんですか?
駒崎:
「こういうの、良くない?」っていう感じでどんどんやっていけば良いと思います。あとは勝手にやれば良いと思うんですよ。例えば男性の育休だって、僕は経営者なんですけど実は2回とってるんですよ。2か月とってるんですね。経営者が2か月いない会社ってあんまり無いと思うんですけど、それでも家で1.5時間だけパソコンの前でメールとビデオ会議をするだけでできちゃったんですよね。
これって常識的には「そんなの無理だろう」ってみんな思うと思うんですよ。多くの経営者が「自分がいなきゃ回らないだろう」って。でも、常識なんてクソ食らえ、と。自分が新たな働き方を試してみる、上手く行ったらそれを会社に広げてみる、そうやってイノベーションって起こると思うんですよね。
だから、アップルのプロダクトのイノベーションを口を開けて待ってるだけじゃなくて、僕らは働き方のイノベーションっていうのを、自らの半径5メートルの中でやっていかなきゃいけないって思うんですよ。
今井:
TIME LINE、今夜討論したのは「週4日労働の恩恵」でした。
世界的には130年前に、日本では70年前に決まった「週40時間労働」がいまだにスタンダードになっているのは確かにおかしいです。特にこの20年で多様な働き方ができるようになったはずなのにも関わらず、相変わらずサラリーマン的なライフスタイルを送るということがデファクト・スタンダードだというのは異常とも言えます。昔サラリーマンだったころ、「月・火に勤務、水曜日が休み、また木・金と勤務、そして土・日が休み」という2・1・2・2制だとどんなに良いだろうと妄想していました。実際には6・1か7・0の生活でしたが・・・。駒崎さんがおっしゃる通り、しなかやで多様な働き方を早く認めて、女性がどんどん働ける環境にしていかないと、本当に日本の未来は無くなってしまいます。(編集長)