アリババ(ティッカーシンボル:BABA)は来週月曜日からロードショウに出ると予想されています。

これに先立ち、今日、ウォールストリート・ジャーナルが「アリババ上場時のスタビライゼーション・エージェントはゴールドマンサックスが務めることになった」と報じました。

スタビライゼーション・エージェントとは、上場時の安定操作を行う投資銀行のことを指します。具体的には:

1.人気が高すぎて売り物が無く、初値が付かないときは、売り向かう
2.公募価格割れになりそうなときは、公募価格で買い支える

などの作業を行います。

それでは具体的に安定操作はどんな段取りで執り行われるのでしょうか?

ここでは説明のため、100万株を公募したというケースを考えます。そしてグリーンシュー(Green Shoe)と呼ばれるオーバーアロットメント(割り当て過ぎ)オプションが利用可能だとします。

オーバーアロットメントとは「おっとっと……字余りで、余計に株を渡してしまった!」という、意図的な売り過ぎを指します。

下のグラフはアロケーションの一例ですが、全てを合計した株数は115万株になります。

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いま、会社が「出す」と言っている株数は100万株なのに、15万株、余計に、「無い株」まで売ってしまうわけです。これがオーバーアロットメントです

さて、仮に30ドルで値決めされたこのIPOが上場初日の取引で、$30.20で寄り付いた後、はやくも公募価格の$30めがけて下がり始めたとします。

スタビライゼーション・エージェントは$30ちょうどのところにBid(買い指値)を置き、この水準を死守する意図をマーケットにシグナルします。

一方、せっかちな投資家は、(なんだい!もっと騰がると思ったのに、話が違うじゃんか!)と、売り逃げようとします。その売り物をスタビライゼーション・エージェントが買い向かうわけです。

皆さんは「ゴールドマンは、自分のお金で怒涛の売り物に買い向かっているのか?」と思うかもしれませんが、それはそうではありません。上の説明で15万株、「売り過ぎちゃった」わけだから、それは空売りをかけたのと同じ効果が出ているわけです。言葉を換えて言えば、$30で15万株空売りした玉を、$30で15万株まで買い指値して買い戻しているにすぎないのです。つまり自分の腹は、ぜんぜん痛んでいないというわけです。

ただ$30での出来高が15万株を超えたら、オーバーアロットメント・オプションでこしらえた売り過ぎのポジションが全部チャラになってしまいますから、買い向かうパワーを使い尽くしてしまったことになります。

そうなると後は熱したナイフでバターを切るように、株価がどんどん溶けていってしまうのです。そうならないうちに、手持ちの駒(=15万株)を有効活用しながら流れを変えるのが、スタビライゼーション・エージェントの腕の見せ所というわけです。

なお、スタビライゼーション・エージェントを務める投資銀行が損をするのは、IPOが公募価格を割り込んだときだけとは限りません。

めちゃくちゃに人気が出たIPOを、なんとか寄らせるためにスタビライゼーション・エージェントが売り向かい、それが仇となって上に担がれて大損する場合もあります

一例として最初のインターネットのIPOだったネットスケープの場合、主幹事はモルガンスタンレーとH&Qでしたが、モルガンスタンレーのトレーダーは何とか初値を寄らせるために怒涛の買い注文に売り向かい、大損を出したという逸話があります。

なおアリババの売出目論見書での幹事の序列ではクレディスイスが一番左(ここが最上位)に来ています。だから普通ならクレディスイスがスタビライゼーション・エージェントを務めるべき場面です。

そのクレディスイスの頭を飛び越して、ゴールドマンが指名された背景には、先のツイッター(ティッカーシンボル:TWTR)のIPOで、ゴールドマンが良い仕事をしたことが評価されたことがあります。

いずれにせよ投資家からすれば、頼りにならないクレディスイスよりゴールドマンの方が安心出来ます。