少しずつ秋の気配。
今年は冷夏だったのか、害虫に遭遇することもなく過ごせたのは良かったけれど。かと言って冬の訪れを感じさせる空気はおそろしい。じりじりと孤独の存在感が増す。もう、私は冬がやってくるのが怖くなってしまった。
「寒いねえ。寒い、寒い」と言えば、「ああ、もう!」と、乱暴に私の手をとり、でも優しくポケットの中で温めてくれる誰かの手は無い。少し背の低い彼の横顔はよく覚えているけれど、彼の名前も、電話番号もとっさに思い出せなくなってしまった。
彼は時々、「僕がちゃんと勉強して、良い大学に入って、良い会社に入っていれば、仕事を辞めさせてあげられたのに…ごめんね」と目に涙をため、時に、それをこぼした。
私が体調の悪い時は、症状に効くらしい食材で、料理を作ってくれた。彼は煙草もお酒も呑めないので、彼といる時は私も同じように煙草もお酒も呑まなかったから、彼といる時の空気はとてもとても美味しく感じた。
最後に大きな喧嘩をした時、「仕事や勉強よりも、身体を大切にして、もっと笑顔になろう。どうして自分に必要なことが分からないんだよ!!!」と叱られた。サイクリング中の、池尻大橋で。
彼のような人とまたすぐに知り合えると思っていたけれど、なかなかうまくいかない。美容業界に転職し、彼の言っていたように、以前よりも笑顔で社交的な女になったのに。“あの頃は若かったから素敵な人と出会えたのだ”とだけは思いたくなかった。美容業界だからこそ。
:::::::::::::::
これまで「はてなブログ」をやっていく中で、高学歴であるとかキャリアウーマンであるとか美人であるようなことをほのめかす記述をしてしまったばかりに、中傷コメントをされてきました(※煽り系の記事については自己責任と認識しています)。それはオフラインでも似たようなもので、男性と“マウンティング”することが多々ありました。彼らにとって、私は“女の子”ではなかった。かと言って、“男”でも無かったように思う。
私が学歴のことについてしばしば記述するのは、仕事等で受験勉強よりしんどいことなんていくらでもあったけれど、やはり人生最初の苦境で、両親の反対を押し切り、国立大専願というプレッシャーの中で取り組んだことだからだ。根負けしてサポートしてくれた母が「もし合格しても、この苦労が一生続くのよ?」と忠告してくれたり、「変わってあげられなくてごめんね」と涙ぐむのも無視し、私は勉強してしまった。
東京には沢山の人がいるはずなのに、私が学歴や仕事を鼻にかけることを、努力の結果として認めてくれ、「頑張って東京に来てくれたから知り合えたんだね」「まだ助けてあげられなくてごめんね」「もう頑張らなくていいよ」と、涙まで流すような男性に、あれ以来、出会えない。本当に私は愚かだったと思う。素敵な想い出なんて、噛み締めているうちに味が無くなるチューイングガムのようなもので、そんなものよりも、私はずっとのんびりとささやかな幸せに浸っていたかった。
まるで双子の片割れのような、言葉が無くても通じ合えるような恋人や配偶者のいらっしゃる方におかれましては、どうぞ私のようにならぬよう、大切にしていただきたいと思っております。
:::::::::::::::
私自身の体調も悪く、それより先に家族が体調を崩し、この夏は看病や家事等で、特に夏らしいこともせず終わりそう。そして、上京したばかりの頃のように、再び飛行機雲に惹かれる今日この頃です。