ライシャワー事件以後、精神障害者は社会から隔離するべきだとする国策が進められた。
――時は流れ、精神科病院の長期入院患者を地域へ戻すという国策が進められている。
もっとも、病院から地域へとは言うが、実のところは病院の敷地内に増設する施設にベッドを移すことによって地域に戻したと解釈する流れが濃厚になりつつあるが、ここではその問題には横を向いておくこととする。
抗精神病薬の台頭、精神分裂病から統合失調症への呼称変更、精神科病棟における人権問題告発の活発化――。
精神疾患を取り巻く環境が様々な視点で転換を遂げた今、病院から地域へと謳われる。だが、地域社会がもつ精神疾患患者の印象はおよそ偏ったものではないだろうか?
こんな話がある。閑静な住宅街をイメージさせる第一種低層住居専用地域にグループホームの建設話が持ち上がると、住民は断固反対した。その理由とは、閑静な住宅街に利用者が徘徊されては……という理由は表向きであって、近くで住まわれたら〝こわい〟そして〝地価がさがる〟という偏見と打算であった。
世の中が精神疾患患者に対して抱く固定イメージはそんなものなのだろう……。
そうはいっても、健常者と非健常者、両者にとって合理的で利益的な結論が一朝一夕に出てくるものでもない。
さてそれよりも、精神疾患患者が地域で過ごすことに必要以上に警戒を示すことへの疑問である。
無論〝こわい〟人はどこにでもいるし、地価が下がる要因はグループホーム建設に限らない。また、超一等地に麻薬を扱う健常者が住んでいる場合だってあるかもしれない。
にもかかわらず、精神疾患患者は突然なにをするかわからないとして、地域生活を共にしたくないと直感する人々は少なくない。
何をするかもわからない? つまり、精神疾患に対するイメージと犯罪を直感的に接続してしまうのだろう。
ありきたりだが、精神障害者による犯罪率を検証する意味で平成25年度犯罪白書から統計値を引いてくると以下のようになる。
国民総数1億2000万人に対して、平成24年の刑法犯の検挙人員は約94万人となり犯罪率は127人に1人。
精神障害者数320万人に対して、同年の刑法犯の検挙人員総数3,460人 となり犯罪率は924人に1人。
もちろん、統計数字の一部を引用し、その高低だけで全てを語ることは不毛でしかないが、少なくとも精神疾患患者の全てを犯罪予備軍呼ばわりすることは間違いでしかない。むしろ、地域とは社会とは、日常生活能力に支障をきたす精神疾患患者を犯罪に巻き込んでしまうのではないか?
僕らの場合も、その心配はあった。
たとえば、金銭管理。
退院後の妻は小銭を勘定することに、とてもとても時間を要した。123円の買い物をするために1023円を取り出す理屈がまずわからない。なので最初から1000円を出すわけだが、釣り銭の877円が正しいのかどうかを数秒で判断することが出来ないのだ。
これは金銭をやりとりする〝相手〟によっては患者がいとも簡単に犯罪に巻き込まれてしまう可能性があることを意味する。
精神疾患患者は奇異であるという社会的印象を利用すれば、患者のSOSは狂言だと誤解されることだってあるだろう。
精神疾患患者の劣った行動能力を利用すれば何をしても通報されないといった悪意を助長してしまうことだってあるだろう。
1000円札一枚に関する被害であればまだ救われる。もしこれが、障害基礎年金といった生活を支える命銭であったり財産に関わる資産だったとしたらどうだろう……?
とにかく、国民総数の127人に1人が検挙される地域とは社会とは、正確な金銭の判断力が乏しい患者を犯罪対象の〝カモ〟にしてしまう危険性を常にはらんでいるのだ。
そして犯罪に巻き込まれてしまったことへの反応さえ鈍るようであれば、精神に病を負う人たちとは、犯罪に巻き込まれてしまう可能性が高いにもかかわらず防犯能力の低い人たちとも言えるだろう。
320万人の精神疾患患者の大部分は〝そういう人たち〟なのであって、つまり社会的弱者である。そして、こわがられる存在ではなく守ってやらなければならない存在である場合が多い。加えて、少し言動がスローであったり機転の利かない人であったりもするが、普通の人であることも多い。
にもかかわらず、精神障害者による一部の犯罪事実を根拠として犯罪予備軍呼ばわりすることは、どう視点を変えてみても理解できることではないはずだ。
一部の印象から認識が偏向してしまう怖さはここにある。
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このブログは、妻の医療保護入院による夫の感情体験を書籍化後、支える家族にとっての精神疾患について、感じること考えることをテーマに更新しています。
著書 統合失調症 愛と憎しみの向こう側
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