“ホリエイズム”を体系化した『嫌われる勇気』の衝撃
古賀史健(以下、古賀) 本日はお忙しいなか、ありがとうございます。
堀江貴文(以下、堀江) こちらこそ。
岸見一郎(以下、岸見) 今日の対談を楽しみにしていました。
堀江 おふたりが執筆された『嫌われる勇気』は、僕の『ゼロ』の担当編集者・柿内芳文さんから「堀江さんの思想にそっくりだから、とにかく読んでみて」と何度も勧められていたんですよ。先日ようやく読む時間が取れて読んでみたら、もうほんとうに滅茶苦茶ビックリしました。自分が言いたかったことがすべて書かれているといっても過言ではないくらい似ていて……。
古賀 僕もそう感じました。
堀江 本を書いたり、講演をしたりするのって、要は自分の考え方がどうしてこうなったのかということを整理して説明する作業ですよね。それを何回も繰り返すことによって、自分の考えが体系化されていく。でも、『嫌われる勇気』を読んだら、僕の考えていたことは、僕が生まれるずっと前にアドラーが体系化していたことがわかった。本当に驚きですよ。最近、講演会で「『嫌われる勇気』を読めば僕の言いたいことが書いてある」と言っているんです。僕が長々と話すより、そのほうがわかりやすいかもしれません(笑)。
古賀 特にどのようなところに共感しましたか?
堀江 いろいろあり過ぎて一つには絞れませんが、「他者の課題を切り捨てよ」という発想は本当にそのとおりだなと思いました。たとえ相手が自分のことを嫌っていたとしても、それは他者の課題であって、自分とは関係ないことであるという考え方ですね。あと、「人生とは連続する刹那である」という言葉にも感動しました。
古賀 まさに、「今に全力を尽くす」堀江さんの生き方そのものですよね。読者からは、「目から鱗が落ちた」や「人生観が180度変わった」という感想が寄せられたのですが、堀江さんにとっては、「そうなんだよ!」って感じだったということでしょうか。
堀江 よくぞ言ってくれた!という感じでした。僕が本を書くと、ある種の色眼鏡で見られてしまうことがあると思うんです。「お前だからできるんだろう」とか、「普通はそんな生き方はできないよ」とか。でも、アドラーはそういう考え方をきちんと理論立てて体系化している。僕の生き方が特殊ではないということを証明してくれているんです。
古賀 『嫌われる勇気』は哲人と青年の対話という構成を取っていますが、堀江さんは普段は相談を受ける側、どちらかというと哲人の側ですよね。
堀江 そうそう。哲人ほど悟ってないですけど、僕のところには青年のような若者がたくさん来ますよ。彼らは本当に青年とそっくり。僕の言うことに対して「なるほど」と納得するのですが、「でも〜」と付け加えて実行できない理由を並び立てようとする。
岸見 カウンセリングでは、その「でも〜」を少なくするのが目標になるんです。堀江さんのおっしゃるとおり、どんなに具体的なアドバイスをしても、「でも〜」と言っている限りは絶対に実行はしません。しかし、「わかりました」を引き出すためには、「でも〜」を繰り返す過程が必要でもあります。堀江さんのように「でも〜」なしにアドラー心理学を受け入れる人もいるかもしれませんが、ほとんどの場合は抵抗しながら徐々に納得して受け入れていくというパターンが多いです。
世の中の起業家はほとんどがバカ?
古賀 堀江さんにも、青年みたいな時期ってあったんですか。
堀江 それがあんまりないんですよ。振り返ってみても、子どもの頃からアドラーの思想を無意識に実行していたような気がします。そのせいで、いろいろ軋轢を生み苦労しましたけど(笑)。
古賀 堀江さんはしばしば「拝金主義」という表現のされ方をしますよね。でも、堀江さんはお金をある種の「自信」をつけるための手段であるととらえている節があると思うのですが。
堀江 自信をつけるためには、「成功体験」が必要になります。でも、「成功」って明確な基準がないじゃないですか。その点、お金は「数字」になって出てくるのでわかりやすく、ビジネスであれば「多く稼いだほうがいい」というシンプルな基準もある。つまり、ルールが明確で、誰でも参加できる平等なものなんです。
岸見 なるほど。
堀江 たとえ頭が悪くても、他に秀でている部分があれば商売では勝つことができますからね。「お金を稼いだ」という、誰にでもわかりやすい成功の形が作れるんです。だからこそ、僕は『稼ぐが勝ち』という本であえてお金を稼ぐことを勧めていたのですが、変な誤解をされてしまって「拝金主義」のレッテルを貼られてしまいました。
古賀 そうですよね。
堀江 こんなことを言ったらあれなんですけど、成功した起業家の大半はバカなんですよ。大バカですね。でも、逆に頭のネジが抜けているからこそ、上手くいくという側面もあると思う。『嫌われる勇気』で書かれているようなことを、天然で実行してしまっているんです。そして、クオリティ・オブ・ライフが高く、いきいきしている人が多いということも特徴です。でも、サラリーマンには、目が死んでいる人が多いですよね。毎日満員電車で通勤して、仕事が嫌だ嫌だと言いながら生きている。僕はそういう人たちは、小利口だから駄目だと思っています。下手に利口だから未来のリスクばかり考えてしまう。この前、年金の心配をしている20代の女の子に会いました。どうかしていますよ!
岸見 自分の人生にうすらぼんやりした光を当てて、先が見えるような気がしてしまうんでしょうね。
堀江 なにが起こるかわからない現状を、「なにが起こるかわからないからワクワクする」と感じるのか、「なにが起こるかわからないから怖い」と感じるのか。この違いは大きいと思います。『嫌われる勇気』の言葉を借りれば、「連続する刹那を生きる」ということになるでしょうか。わかりもしない未来に怯えていることが、いかに人生にとって無駄なのかということを伝えたくて、僕はよくバカな経営者の話を人前でするようにしています。
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