2014-06-21
2014年上半期ラノベ周辺まとめ前編
はじめに
今年のラノベ周辺まとめは、読みやすさを考慮して、内容を前編・後編に分割しています。
前編では
・ラノベホラー
・時代ノベル
・リバイバルラノベ
といった文学的側面の強い内容を取り上げます。
後編では、
・ボカロノベル
・電子書籍
・実写化
といったメディアミックスを中心に取り上げる予定です。
「アタマから通して読まないと意味が分からなくなる」というようなことはないと思いますので、お好きな方から読んで構いません。
まずは、一般文庫/単行本から刊行されるライトノベル的作品(キャラノベ、キャラクター文芸、ボーダーズ)の概況を取り上げたいと思います。
数年前までは「ライトノベル的一般文芸」を指して、主に読者側から呼称されていたキャラノベですが、今年は大手出版社が続々と本腰を入れだし、本格的なビジネスの軌道に乗る兆しが見えています。
角川書店はキャラノベを専門的に取り扱う編集部署「キャラクター文芸部門」を創設し、文庫/単行本を横断してキャラノベを売り出しています。
キャラクター文芸部門で取り扱われる本は、
・ライトノベルレーベルでの作品発表歴はないが、ライトノベル扱いされがちな作家の作品(古野まほろ、小路幸也など)
・ホラー文庫
が主となっており、ラノベビジネス最大級の企業となったKADOKAWAの力を活かして毎月精力的に刊行しています。
そのKADOKAWA傘下で、キャラノベ大手の一角を担い、押しも押されもせぬ『ビブリア』を看板にするメディアワークス文庫ですが、それ以外の作品の売り出しにも積極的です。
『ビブリア』以外の看板作品としては、綾崎隼作品、入間人間作品、「日暮旅人シリーズ」、「0能力者ミナトシリーズ」、「絶対城先輩シリーズ」、『オーダーは探偵に』などがあります。『ノーブルチルドレン』、『絶対城先輩』、『0能力者ミナト』など盛んにコミカライズを行っているのも特徴です。
昨年より一般文芸を本格的に取り扱うことを告知していた富士見書房は、ようやく今年になって一般文庫レーベル「富士見L文庫」を創設。少女小説ジャンルの有名作家を多数起用するなど女性向けレーベルとしての色が強く、同じようなコンセプトで廃刊してしまったf-clan文庫の例や、集英社文庫と連携して高年齢層を狙い始めたコバルト文庫との競合など、不安材料は多い中でどう動くか注目です。
ノベルス/単行本ではキャラノベに分類される小説を多くリリースしてきた講談社も、MW文庫やL文庫のような一般文庫とライトノベルの中間にあたるレーベルの創設を明らかにしました。
高木敦史・深沢美潮・野崎まどなど、ハヤカワ文庫はライトノベル作家の起用に積極的です。ラノベ内外から非常に高い評価を得た野崎まど『know』を筆頭に、SF・ライトミステリの領域でさまざまな作品を刊行しています。
集英社文庫は「いきなり文庫」と銘打って、ラノベ作家を多数起用した文庫書き下ろし作品を多数刊行しています。今年からはさらに、コバルト文庫の一部作品を、集英社文庫の発売日と揃えて同じ売り場に置くというような連携を行っています。集英社文庫と連携するコバルト文庫は、一般のコバルト文庫と背表紙デザインが異なり、カバーにもコバルト文庫とは明記されていません。集英社版メディアワークス文庫的立ち位置といって過言ではありませんが、MWや富士見書房のように一般文芸寄りの新設レーベルを作るのではなく、ラノベレーベルからそのまま一般文芸にアプローチしていくことは稀有です。
幻冬舎文庫は、「新世代フェア」として、『ドリームダスト・モンスターズ』、『麒麟島戦記』、『おやすみなさいは事件の始まり』など文庫書き下ろしのキャラノベを精力的に刊行し始めています。
ライトノベルミステリに比べ作品数は少ないものの、最早ライトノベルとの結びつきなしには語れなくなったホラー。現代の日本のホラー小説は、ライトノベルと結びついて発展しているような気がします。
竹書房のタソガレ文庫は大元の竹書房文庫に吸収合併される形で休刊となりましたが、何故かその後の作品(『定時制幽霊学級』『Re:心霊写真部』など)は挿絵がふんだんに入るなどよりライトノベルに近い形式となり、パワーアップしています。
また、「まおゆう」で知られるtoi8をイラストレーターに起用した京都ものラノベホラー『京は成仏びより』(MFD)、角川書店から出たものを文庫化した矢崎存美『キルリアン・ブルー』(TO)、魔法少女というラノベ的テーマをグロテスクな描写で再構成した問題作『魔女の子どもはやってこない』(角ホ)など、角川ホラー文庫、MF文庫ダ・ヴィンチ、TO文庫、モノノケ文庫がラノベ系ホラーを精力的に刊行しています。
また、岩城裕明が『牛家』で日本ホラー大賞佳作を受賞し、講談社BOXからの再デビューを果たしました。
さらに、お店ライトミステリの次に来ると云われているのが妖怪テーマの作品です。
『絶対城先輩』シリーズ(メディアワークス文庫)、『路地裏のあやかし達』(メディアワークス文庫)、『朧月市役所妖怪課』(角川文庫)、『海波家のつくも神』(富士見L文庫)など時代小説/現代小説・ホラー/非ホラー問わず多くの「妖怪もの」作品が刊行されています。妖怪小説専門レーベルとしてモノノケ文庫が立ち上がり、ホラー系レーベルの角川ホラー文庫やMF文庫ダ・ヴィンチなども刊行に精力的。旬である夏に向けて、勢いは加速しています。
何故ここまで妖怪ものが流行しているのか。その理由は、本格的なホラーから能力バトル、ライトミステリにまで使える取り回しの良さにあるのではないでしょうか。加えて、「妖怪」というある程度キャラクターが確立していて馴染み深い題材には、読者も親しみを覚えやすいのでしょう。
ライトノベル作家の起用に積極的なハヤカワ文庫からは、深沢美潮久々の非電撃作品ではあるもののミステリとしての詰めの甘さが批判された『女優のたまごは寝坊する。』、高木敦史の越境作品『演奏しない軽音部と4枚のCD』などのライトミステリが刊行されました。
ミステリマニアから高い評価を受けた森川智喜『スノーホワイト』(講談社BOX)が、広義のラノベレーベルでは史上初となる本格ミステリ大賞受賞作となりました。周辺レーベルではここ数年『虚構推理』(本格ミステリ大賞受賞・講談社ノベルス)、『ビブリア古書堂の事件手帖』(日本推理作家協会賞ノミネート・メディアワークス文庫)などがノミネートされていますが、講談社BOXからの文学賞輩出は初となります。
このミス文庫は去年までの過剰なラノベ路線を若干控えめに。看板作品『タレーラン』の新刊が出たほか、『ホーンテッド・キャンパス』のイラストレーターを起用した『コレクター』、このラノ文庫からのリバイバル作品『空想少女は悶絶中』などが登場しました。なお今年の職業探偵枠は花屋(『花工房ノンノの秘密』)と鍼灸師(『鷹野鍼灸院の事件簿』)だ!
また、角川ビーンズ文庫やコバルト文庫、WHといった少女小説レーベルが積極的にミステリものを出すようになり、一般レーベルでのライトミステリの刊行が若干落ち着いていることもあって、少女小説へのスライドが進行しつつあるという見方もあります。
角川ビーンズ文庫はラノベ版作家有栖シリーズのほか、『幽霊弁護士・桜沢結人の事件ファイル』『よろず暗やみ解決屋 戦国敗者の復活ゲーム』といった新作ラノベミステリを精力的に刊行しています。
コバルト文庫のラノベミステリ2作『異人館画廊 盗まれた絵と謎を読む少女』と『世界螺旋 ―佐能探偵事務所の業務日記―』は、他のコバルト文庫とは異なる装丁で登場し、一般文庫と同じ場所に並べられて売られました。
新設の富士見L文庫からは、服飾をテーマにしたバディものミステリ『貴族デザイナーの華麗な事件簿』、バーテンダーが探偵をやる店ミステリ『バー・コントレイルの相談事』が登場。
この他ラノベミステリとしては、犯人当てキャンペーンが行われた綾崎隼『サクリファイス』、鳥葬シリーズ完結編となった江波光則『樹木葬 死者の代弁者』、伊坂幸太郎と成田良悟を彷彿とさせる作風の電撃大賞受賞作『博多豚骨ラーメンズ』、前回の『眼球堂の殺人』に続きイラスト推し路線のメフィスト賞受賞作『渦巻く回廊の鎮魂曲 霊媒探偵アーネスト』、収録短編が年間ベストミステリに選ばれた『偽恋愛小説家』、『アクロイド殺し』のネタバレが含まれていることで話題となったボカロノベル『女学生探偵シリーズ』などが登場しました。
「伊藤計劃以後」の旗を振り続けている限界研のブログ記事や『虐殺器官』『ハーモニー』アニメ化で加速した伊藤計劃の評価問題やSFマガジンの「ジュブナイルSF」記事から端を発した「ハードSF/ジュブナイルSF」論争(『魔法科高校の劣等生』はハードSFなのか、ライトノベルをジュブナイルと同列に扱ってよいのか)、大森望の日本SF作家クラブへの加入を巡っての作家同士の内紛など、夏というよりもはや内戦といったほうがよいほどの混迷を極めている日本SF。
ライトノベルSFでは、漫画でいうところの「進撃の巨人」「テラフォーマーズ」のようなパニックアクションものの人気作が多く登場しました。
MF文庫アペンドライン(MF異色枠)からは、「絶望」を売りにした海洋パニックアクションの『絶深海のソラリス』が、電撃文庫からは「スターシップ・トゥルーパーズ」を彷彿とさせるSF戦記パニックアクション『マーシアン・ウォースクール』が登場。
この他、メディアワークス文庫初のサイバーパンクSF『C.S.T. 情報通信保安庁警備部』、ループもの妖怪ファンタジー『ただし少女はレベル99』、まさかの「ニンジャスレイヤー」フォロワーとしてtwitter連載を始めてヘッズを騒然とさせた『ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド』、伊藤計劃を意識したアクションバイオレンスSF『シェーガー』などが登場しました。
既存シリーズとしては、並行世界スチームパンクSF『クレイとフィン』、残酷スーパーロボットラノベ『代償のギルタオン』など。
また、SFアンソロジー「SFマガジン700国内編」では、長らく単行本収録されていなかった桜坂洋『さいたまチェーンソー少女』と秋山瑞人『海原の用心棒』が収録され話題となりました。
海外作品では、 toi8イラストのスチームパンク少女ラノベ『少女は鋼のコルセットを身に纏う』や、toi8イラストのティーンズ向け海外ラノベ『ゲームウォーズ』、文庫版で何故か尻が強調されたエロティックな表紙になり読者を困惑させた『量子怪盗』などが登場しました。
時代ノベル
ラノベホラーと並んで今注目したいのが、時代小説+ライトノベルです。
「舞台となる時代の予備知識がないと難しい」「じじくさい」という理由から、長らく「ミステリ」「SF」と並ぶ相性の悪いジャンルと思われてきた時代小説ですが、近年ではライトノベルとの近寄りを予感させる作品群が多く出てきます。
富士見書房が去年創刊した富士見新時代小説文庫は、ライトノベル作家を多数起用した書き下ろし文庫レーベルです。メディアワークス文庫のような形ではありますが、MWとは違い、今のところ表紙はライトノベル志向ではありません。
また、妖怪小説専門レーベルのモノノケ文庫も、霜島ケイ・友野詳らライトノベル作家の起用に積極的です。時代小説限定という制限がなくなったようで、くしまちみなと『怪異トキドキあたる』などいくつか現代ものも登場してきています。
ライトノベル内では、新興レーベル・ぽにきゃんBOOKSから女性向け?のバディものである待田堂子『葵小僧knight』が登場。歴史研究家・瀧津孝の戦国戦記もの『戦国ぼっち』シリーズ(桜ノ杜文庫)も続いています。 GA文庫から刊行されていた『織田信奈の野望』は「全国版」として富士見書房に移籍。
この他、中谷航太郎『首売り丹左』(ハルキ)や武内涼『鬼狩りの梓馬』(角ホ)などファンタジーと迎合した作品も刊行されています。
ソフトカバー単行本として出るライトノベルは着実に数を増やし、今ではコーナーを見ない書店が珍しいくらいです。
「ファンタジー」「ティーンズノベル」「大人のライトノベル」など店ごとに名称はバラバラです。
勢いづいているソフトカバーラノベですが、ライトノベル作家の一般文芸への登竜門という意味合いが強かった一昔前とは異なり、今ではその多くをボカロ小説/ネット小説が占めています。
以前までソフトカバーラノベで出ていたようなラノベ作家の一般文芸作品はほとんど文庫にスライドしたというのが大きいのではないでしょうか。
ボカロ小説/ネット小説を除くと、ある程度実績のある作家による作品が多く、ソフトカバーでも単行本で出してもらえる、というのは作家にとっての一つのステータスになっているようです。
今年出た作品の中で最も注目されたのは、『フェノメノ』『魔法少女まどか☆マギカ』などで知られる一肇の越境作で、『幽式』『フェノメノ』の流れを汲んだ青春路線のソフトカバーラノベ『少女キネマ』。発売後から書店売上ランキングの上位に挙がり、注目を集めました。
Cノベ特別賞を受賞しながらノベルスではなくソフトカバーで発売されるという異例の措置が取られ、発売前から話題になっている異世界将棋ファンタジー『天盆』も注目です。
その他にも、天帝シリーズとセーラー服シリーズのクロスオーバー作品である古野まほろ『セーラー服とシャーロキエンヌ』、キャラクター文芸部門から発売された小路幸也『札幌アンダーソング』、ラノベホラーのジャンルで活躍する作者の異色作・矢部嵩『[少女庭園]』、森晶麿『偽恋愛小説家』、メディアファクトリー主催の「本の物語」大賞受賞作の藤石波矢『初恋は坂道の先へ』などが刊行されました。
旧作の再評価・リバイバルの進展
ライトノベルの読者層の拡大に伴って、大人を対象としたライトノベル復刊の動きが活発です。
『銀河英雄伝説』『アルスラーン戦記』のリブートが今年最大の話題でしょう。
前者は新アニメ化が決定し、後者は『鋼の錬金術師』『銀の匙』の荒川弘によるコミカライズが発表されたほか新作も決定するなど、さながら「田中芳樹イヤー」の様相を見せています。
一方、昨年よりリバイバルされている『ロードス島戦記』のスピンオフである「召しませロードス島戦記」では、「ロードス島が出るまではファンタジー氷河期」「ロードス島戦記は日本初のライトノベル」などのセリフが物議を醸しました。
また、ラノベミステリ三大奇書といわれながらも長らく入手困難であった海猫沢めろん『左巻キ式ラストリゾート』が星海社から復刊されたことも一部で話題になりました。
その他にも、今年に入ってリバイバルされた作品は数多く存在します。
児玉ヒロキ『イット』(ジグザグノベルス→ぽにきゃん)
桜坂洋『AllYouNeedIsKill』(SD→JBOOKS)
遠藤浅蜊『魔法少女育成計画』(このラノ→ソフトカバーラノベ)
藤間千歳『θ 11番ホームの妖精』(電撃→ハヤカワ)
これはライトノベルだけでなく、『ジョジョの奇妙な冒険』『宇宙戦艦ヤマト』『ピンポン』『美少女戦士セーラームーン』などサブカルチャー全般に渡ってリバイバル/旧作のメディアミックスが流行していることは記しておくべきでしょう。
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