Twitterの誕生と成功の裏側には、どんな物語があったのか

印南敦史 | ライター
2014.04.25 07:30

ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り


辞書の"tw"のところを見ていった。(中略)そして、それがそこにあった。「特定の種類の鳥の小さなさえずり」読みつづけるうちに、ノアの動機が速くなった。「ふるえるような小さな声やくすくすと笑う声などの、似たような音も指す」これだ、と思った。「動揺や興奮によるおののき」
動詞もおなじ、"twitter"(ツイッター)。(中略)
日が沈みはじめ、アパートメントが暗くなるころに、ノアは急いでエブ宛にメールを書いた。「ツイッターというドメイン名をどう思う?」と書いてから、決めの文句を説明し、つけくわえた。「まったく新しいレベルの結びつき。とか、そんなようなものだ」(86ページより)


たとえば「ツイッター」という名称が決まった瞬間の、この描写。『ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り』(ニック・ビルトン著、伏見威蕃訳、日本経済新聞出版社)を読んでいると、あたかも新たなカルチャーが誕生したその場に居合わせたような気持ちにすらなってきます。それほどリアルで、ときに切なくもあるということ。

農家の息子から億万長者となったエバン・"エブ"・ウィリアムズ、スティーブ・ジョブズに強い憧れを持つ元ITオタクのジャック・ドーシー、明るく社交的で、人の気持ちを考える穏やかな心の持ち主のクリストファー・"ビズ"・ストーン、仕事に人生を捧げるもその存在を消し去られてしまうノア・グラス。ツイッターを生み出した、それぞれが個性的な4人を軸に、ツイッターの創業から成功までを追ったドキュメンタリーです。きょうは、この本をご紹介したいと思います。

なかには私と話をするのを渋った方もいたが、時間を割いていただいたことに永久に感謝する。名前を記して感謝できない情報源もいるーー私が真実を見つけるのを手助けしたために、仕事や友情が危うくなるおそれがあるからだ(後略)。(389ページ)


著者は「謝辞」に、こう記しています。しかし、これが決して大げさな表現ではないということは、読み進めていくうちにはっきりとわかるはず。なぜなら冒頭に示したようなワクワクするようなエピソードから、絡みついてくるさまざまなトラブルに至るまで、ツイッターがたどってきた道のりをリアルすぎるほどリアルに映し出しているからです。

中でも強い印象を残すのは、成功と比例して際限なく泥沼化していく人間関係。本書のなかで大きな比重を伴っているそれは、たしかに情報提供者の「仕事や友情が危うくなるおそれがある」ほど赤裸々です。


ツイッターの共同創業者のノア、ジャック、エブ、ビズは、すべて自意識(エゴ)の影響を受けていた。それに衝き動かされていた。ノアの場合、エゴは反省の道具で、過去に自分が悪いことをした相手を理解し、将来、もっといい人間になろうとした。ジャックには逆の影響があり、過去に自分に悪いことをした人間のことをいつまでも恨み、将来、自分がスポットライトを浴びる場所に戻る方策を練った。(226ページより)


この記述に明らかなとおり、「だれがCEOになるんだ?」とか「ツイッターを発明したのは僕だ」とか、些細ではあるけれども根の深い、そして修復が非常に難しい諍いがどんどん肥大化していったわけです。とりわけインパクトがあるのは、追い出された挙句「意識的に」消えていったノアとは対照的に、「自分さえよければいい」という姿勢を隠そうともしないジャックのあり方です。

解雇されてからの彼はどんどん攻撃性を増していき、「数十人の献身的な社員たちが、新アイデアを組み立て、開発し、サイトを生かしつづけていなかったら、ツイッターは他の多くのスタートアップとおなじように破綻していたかもしれない(227ページより)」にもかかわらず、「ツイッター誕生を、事実とは違う親和に仕立てようと」していきます。

パーティーの席、ジャックが憧れの存在だったラッパーのM.I.Aと歓談していたときのエピソード。


ふたりがしゃべっていると、エブが近づいてきて自己紹介した。「あなたもツイッターのひとなの?」M.I.Aがエブにきいた。(中略)
「CEOです」
たちまちM.I.Aの注意がエブに向き、話を邪魔されたジャックはむっとした。エブがCEOだと名乗れることが、ジャックには口惜しかった。「みなさんが集まったところを撮らせてもらえませんか?」だれかがきいた。機嫌の悪い顔をしているジャックも含めた写真が撮られた。(中略)エブが向きを変え、にっこり笑った。ブラックタイが曲がっている。だが、ジャックは笑わない。(中略)その一瞬の光景は永遠に残る。(263ページより)


実際にその写真が掲載されていることもあり、たとえばこの記述などはとてもリアルに響きます。

しかも事実に基づいているだけに、本書は誰もが望むようなハッピーエンドで締めくくられるわけではありません。しかしだからこそ、人間が本来持っている「意欲」「友情」「エゴ」「孤独」「希望」「絶望」などが浮かび上がってくるのです。

つまりこれは、ITにおける歴史的な一断片をクローズアップした資料的な書籍であると同時に、人間本来の人間らしさをこれでもかというほどの生々しさでクローズアップしたドキュメンタリーでもあるわけです。だからこそ、読み終えたあとも不思議な読後感がずっと残り(しかも、それは不快なものではありません)、「もう一度読みたい」という気持ちにすらさせてくれます。


(印南敦史)

  • ツイッター創業物語 金と権力、友情、そして裏切り
  • ニック・ビルトン|日本経済新聞出版社
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