玄界灘と限界オタ

インターネットで細々と生きています @toiharuka

アユハさん「鮫木さんがオン大会を開催してない世界線のまえだくんを止めなければこの世界は崩壊する」

『第259回マエスマ、優勝はcaptainzack!おめでとうございます~!』
また、か。荒れ狂うコメント欄を尻目にぼくはため息をついて、配信を閉じる。
まえだくんが主催するスマブラオンライン最大の大会マエスマでは、ここ数か月ほどcaptainzackが21回連続優勝を成し遂げている。
元々ベヨネッタをメインに据えていたぼくにとって、zackがベヨネッタを使って無双する様を見られるのは嬉しいことだった。最初のうちは。
インターネットをフル活用しアメリカから遥々参戦したzackは常に相手を圧倒し続けた。なにより、彼は決勝戦での試合はすべてウィッチタイムで撃墜を決めるのだ。相手が急に出した甘い空後を、くるりといなしてスローにする。あの時計がゆっくりと回り続けるのを、きっとぼくは一生分みたのだろう。
なにか、憎悪にも似た黒い悪臭がオンライン上に漂っているような、そんな気がした。もしくはずっと前からそうだったのかもしれない。


Twitterを覗くと、まえだくんのツイートが流れてきた。
『今回のマエスマ賞金は100万円!これがcaptainzack選手に送られます~』
うんざりしてすぐにスクロールする。すると、日本文化に順応したcaptainzackのツイートまで流れてきた。
『このたびは思いもかけない第259回マエスマ入賞、これもひとえに皆様のご助力ご指導、及びまえだくんの円滑な大会運営への尽力による賜物であると、誠に感謝いたしております。 そのうえ、ご丁重なお祝いを頂戴いたしまして、厚くお礼申し上げます。 このたびの第259回マエスマにおきましては、皆様の温かな励ましによって優勝することができましたものです。 本当にありがとうございました。』
ぼくは思わずスマホを投げ飛ばした。机の上のキーボードに当たって、モニターの裏に滑っていく。
しまった、と思いながらモニターの裏を覗き込もうとすると、キーボードの操作でモニターに映ったホームページが切り替わっていることに気が付いた。
「Twitch……聞いたことのないサイトだな」
軽く観察してみたところ、YouTubeのような配信サイトのようだった。だけど配信中の人物はひとりだけ。相当過疎ってるのだろうか。
なんとなく、興味本位でクリックしてみた。
モニターが爆発した。
部屋の端まで吹き飛ばされた。なんなんだ。
部屋中に黒煙が舞う中、人影がむくりと立ち上がった。
「恋心は超グリーディ……」
なんだこの人は。いつのまに部屋に?爆発に紛れて?そもそも何故爆発したんだ?
疑問はいくつもあったが、ぼくにはひとつ決定的に気になることがあった。
恋心は超グリーディ。
ぼくはその単語を、知っているはず、ということ。
具体的になにかは思い出せない。だけど、知っている、知っていなければならない。
黒煙をかき分けて、人影が近づいてきた。
姿が露わになる。ぼくは、この人物を知っている。
でも、知っているということしか知らなかった。
「失礼。ようやく世界線転移に成功したようだ」
その男は淡々と語り続ける。
「やれ、色々疑問はあるだろう。そもそも私が誰なのか、どこから来たのか。そして、何をしに来たのか」
こちらに相槌を打つ隙すら与えず、ただ淡々と。
「しかし、私が君に接触したことによって君の世界線認知は収束する。ふたつの鉄球の重力で歪んだトランポリンが、互いを引き寄せるように……または、窓を流れ落ちる水滴が他を巻き込んで加速していくように……」
ぼくはこの人を知っている。
「問おう。君の本当に住んでいた世界を」
全てを思い出した。
「タミスマが、ある」
記憶がなだれ込む。鮫木さんが連日大会を開き、オンラインスマブラに活気をもたらしていたあの日々を。
そして目の前の男についてもすべてを思い出した。東大卒Twitch社員、アユハさんだ。『恋心は超グリーディ』は彼のブログ名だ。
「その様子なら話は早い。この世界線は『鮫木さんがタミスマを開かなかった世界線』だ。その結果、まえだくんが暴走している」
「まえだくんが暴走?大会を開いているだけじゃないんですか」
「これを見てくれ」アユハさんがスマホを開き、スクショを表示する。

『立ち合いは強く当たって、後は流れでお願いします。ウィッチタイム用の空後のポイントは、蓄積ダメージが120%、131%、109%の順で。』
差し出し人の欄にはcaptainzackの名前があった。

「まさか」
「この世界のマエスマでは八百長が行われている」
ぼくは妙に納得してしまう。captainzackとはいえ、日本の強豪がひしめき合うマエスマでの21回連続優勝というのはいくらなんでも厳しい。しかし、対戦相手を買収してあるのなら話は別だ。
「しかし、これはcaptainzackの何十回目の炎上案件であって、まえだくんの暴走ではないのでは?」
「違う。この八百長を仕組んだのはまえだくんだ」
アユハさんは冷静に答えた。
「どうしてそんなことを?」
「まえだくんはマエスマに賞金を導入している。だが、賞金を参加者にわたすつもりがないんだ。zackに一定額を渡し、その何割かをzack自身に八百長として使用させている。金額が足りなければzackお得意の枕営業で押し切る。完璧なシステムだ」
「賞金をケチるために、わざわざこんな大掛かりなことをしてるんですか」
「まえだくんが狙っているのはもっと先だ。このシステムを利用すれば、賞金額は無制限に増やしていくことができる。払う必要がないからな。そして、賞金を増やせば大会の参加者も増え、スポンサーがつくことが予想される」
「スポンサーをつけるために、わざわざそんな……」
ぼくはそこまで言いかかって止まる。
元の世界線の記憶が戻った影響で、この世界線の常識をいくつか忘れていたのだ。
「気づいたようだな。この世界線では『国が大会のスポンサードにつく』」
この世界線ではありとあらゆる国が大会開催を支援している。
日本はもちろん、ドイツ、ベルギー……そして、アメリカ。
「人口の半分の大会参加者を確保できれば、その権力はアメリカ大統領を超えるとも言われている。これがどういうことか、わかるか」
ぼくは唾をのみ込んで答えた。
「核、ですか」
アユハさんは黙って頷いた。彼の差し出したスマホには、「核弾頭着弾予定地」と書かれたまえだくんお手製の地図が表示されていた。

ぼくたちは大阪にあるまえだくんの自宅の前まで来ていた。タミスマの主催者であった鮫木さんには、オンライン回線を通じて移動した電波体アユハさんにコンタクトを取ってもらい、途中で合流したのだ。
彼もアユハさんと話して、本来の記憶を取り戻したらしかった。
「まえだくんは、本当に良い人なんです。だけど、ボタンの掛け違いでこうなってしまっただけなんでしょう」
鮫木さんがそうこぼしたのを聞いて、アユハさんは頷いた。
世界線のズレというのは残酷です。なにかの手違いでふっとび倍率が0.9にずれてしまうと、ヒトラーノーベル平和賞を受賞し、オバマは邪知暴虐の大統領とされてしまう。我々はバタフライエフェクトに揉まれて生きているんです」
アユハさんはそう言いながら手元のアタッシュケースから小型の機械を取り出し、鮫木さんの腕に取り付けた。
「これはTwitchが極秘でのちょうさんと共同開発していた『バーチャルスマメイト』です。大会主催者達の『運営力』を数値化し、リアルタイムで全人類をそれぞれの大会参加者に割り振ります」
「そして、最後に大会参加者が少なかったほうが死ぬ……」
そう呟いた鮫木さんの目に宿っていたのは、恐怖ではなく闘志だった。
アユハさんが指を鳴らす。上空から、過去にひき逃げ未遂事件を起こしたスマfor上位プレイヤーのJKが操縦する戦闘機が飛来、まえだくん宅に突き刺さってそのまま爆発する。
焦土となったまえだくん宅跡地からゆらりと人影が現れた。まえだくんだ。
「何者か知りませんが、まえだくんの『運営』を邪魔するやつは消しますよ」
そう囁いたまえだくんには傷ひとつなかった。
「やはり今のまえだくんを物理ダメージで止めることは不可能か……」
アユハさんが鮫木さんに目配せをする。
頷き返した鮫木さんは『バーチャルスマメイト』を起動、その瞬間、大阪全土が仮想空間となった。

「これより第260回マエスマを開始する!」「第1回タミスマ、開始します!」
各運営が同時に叫ぶと、地響きが鼓膜を揺らした。
地面が盛り上がり、二隻の超弩級戦艦が姿を現す。
空中に浮かび上がっていくそれらの艦首に立つ二人は、同時に腕を振り上げた。
「「一回戦開始!」」
無数の砲撃が轟いた。
直後、爆風がこちらまできてぼくとアユハさんは吹き飛ばされた。なんとか瓦礫の陰に身を隠して、戦いを見守る。
爆発が間断なく続く。素人目に見ても形勢は互角に見えた。
「これは、不味い」
アユハさんがスマート眼鏡に表示された情報を読み取りながら呟いた。
「どうしたんですか」
「まえだくんが大会賞金を十億円に設定した。参加者が一気にマエスマ側に流れるぞ!」
アユハさんが吐き捨てると同時に、タミスマ戦艦の下部をマエスマ戦艦が放った巨大なビームが貫く。
タミスマ戦艦が大きく傾いた。艦首の鮫木さんは片膝をついて、なんとかバランスを取っている。劣勢は明らかだった。
「このままでは、核が撃ち上げられてしまう……」
アユハさんが悔しさをにじませたとき、ぼくはあることに気が付いた。
撃ち上げる?
ぼくはスマブラ3DSを取り出した。
「そんな化石を取り出して、一体何を」
「化石は化石でも、示相化石です。タミスマがあった、という証拠なんです」
ぼくはプリンを選択し、仮想空間内でシールドブレイクさせた。

シールドが割れた音とともに、プリンは空へ撃ち上がった。
それは、狼煙として。あるいは、試合開始のゴングとして。
「まさか、forタミスマで幾度となく使用されたプリンゴングか!?」
アユハさんが叫ぶ。
「こんなに懐かしいもの、ないでしょう」
ぼくが微笑したとき、マエスマ戦艦に異変が生じた。
パーツの一つ一つが分解されていき、そのパーツがタミスマ戦艦へと集まっていくのだ。
プリンゴングを見て、かつてタミスマに熱狂したことを思い出した者たちだった。部品は再構築され、新たに組み直され、巨大な砲塔となった。
「馬鹿な……」
呆然と立ち尽くすまえだくんに、鮫木さんは言った。
「まえだくん、元の世界線に帰りましょう。部屋を建て直し、いや、世界を建て直します」

砲撃が世界を貫いた。


『タミスママエスマ合同大会三回戦、開始します!配信台に呼ばれたプレイヤーは──』
まえだくんの声が響く。
「どうやら元の世界線に帰ってこられたようだな」
後ろを振り向くとアユハさんがいた。
「ええ、なにもかも元通りです。タミスマがあるのも、captainzackが参加してこないのも」
ぼくはモニターの方に向き直しながら言う。
開始した三回戦は、両者にラグが発生して右下でスマブラマークが回っていた。
「このマークが回っているのも。なにもかも元通りです」
何故かは忘れてしまったが、前の世界線ではこのマークが中々出なかった。なにか出る条件があったはずだが、今では思い出せない。
「回るスマブラマーク、凄く懐かしいな。前の世界線では滅多に出なかったが」
アユハさんも同じことを思っていたようだ。
「今思い返すと、前の世界線は不思議なことが多かったですね。何故か専用のタップを買ってswitchをネットに繋げてたり」
「無線全盛期の時代に恐ろしく逆行していたな。なにか理由があった気もするけど、忘れてしまった。この世界線に定着しつつあるのだな」
「まあ、そんなこといいでしょう」
まえだくんと鮫木さんはスマブラマークが消えるまでなんてことのない身の上話を交わしていた。これも大会の本来の姿だ。
きっと、この世界線以外にも「ずれた」世界線があるのだろう。だが、またそうなったならばこの世界線に戻してあげればいい。
回り続けるスマブラマークをみながら、ぼくは懐かしさを噛み締めた。

 

 

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正しい世界線にいるみんなはちゃんと有線にしようね

 

違法マクロコンの犯人を追え!FBI密着24時

 

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ぼくはこのFBIの仕事に誇りを持っている。市民の安全を守り、平和なアメリカを維持する。シンプルだ。
そのために行われている業務の一つに、プロファイリングデータの収集がある。
プロファイリングというと過去の犯罪事件の傾向を収集し、新たな犯罪の傾向を割り出すものだが、これはスマブラにおいてはプレイスタイルを分析することによって似たような統計を得ることができる。
例を挙げると、急に虚空で上スマを振り回し始めるとか、すべての行動の後隙にその場回避を入れ込んでいるとか、ミェンミェンとリトルマックのダブルメインとか……これらの場合、のちに犯罪に走る傾向が高くなる。
決して偏見ではない。統計上、裏打ちされた事実だ。
ただし、ぼくがこのときおこなっていたのは犯罪者の情報収集ではなく、あくまで一般人のほうだった。
何が異常かを判別するためには、何が正常かを知っておかなければならない。そうしなければ、だれかのシークがやたら空前を出しているのを見て、「FBIだ!」と叫びながら突入する羽目になる。あいにく、全世界のシーク使いを牢屋にぶち込むに彼らはあまりにも清廉潔白すぎる。


とあるカルフォルニアの銀行で行われたマネーマッチのリプレイ。すべてのマネーマッチがアーカイブされた国内銀行共用データベースは、一般人のプレイ傾向を知るにはちょうどよかった。
指の赴くままに許多のリプレイを鑑賞し、分析する。これを延々と繰り返すなかで、ひとつ、気になるリプレイがあった。
きっとふつうにみればなんの変哲もないリプレイなのだろう。
だが、「一般人の正常なプレイ」をうんざりするほどみてきたぼくにとって、そのリプレイははっきり異常だった。

同僚のニックを呼び出したぼくはリプレイのとあるシーンを再生した。
「マリオの掴みに対してジョーカーのこのレバガチャ。違和感があるだろ」
「いや、たしかにレバガチャのエフェクトが出てるけど」
同僚のニックは目を細めて、
「全部、掴み抜けが起きる前に投げられてる。マリオは掴み打撃は最低限しか入れてないな。競技レベルの上昇で様々なプレイヤーが早いレバガチャを行うようになったし、それに伴って安定を取ったこういう投げ方をするプレイヤーも増えてる。これじゃレバガチャの早さなんてわかるわけない。違うか?」
「違う」
リプレイをいじくり、ニックに問題のシーンを繰り返し映す。
「掴みの拘束時間が180F以下になったときの黄色い明滅があるだろう」
「そんなのがあるのか」
「仮にもFBIの職員なんだから覚えとけよ。掴まれたあと、黄色い明滅の始まるタイミングが早すぎるんだ」
レバガチャの入力数は%から逆算することが可能だ。
掴み後の基礎拘束時間は90Fで、1.0%の蓄積ダメージごとに1.7Fずつ増加する。掴み打撃で増加した%は計算されないから、掴まれた瞬間から何Fの拘束が発生するのかがわかるのだ。
そして、レバガチャでどれだけ拘束時間が削られるかも計算できる。スティック1入力が8F、ボタン1入力が14.4Fの拘束時間削減だ。
ニックが言ったように掴みのレバガチャ時には専用のエフェクトが出るため、どのタイミングでレバガチャを始めたのかも把握できる。
「掴まれたときが120%で、拘束Fが294F。掴まれてからレバガチャを開始したのが14F目。黄色の明滅が出たのは、その7F後だ」
目の前の同僚は、少し頭を捻って、あっ、とこぼした。
「……2F毎に1回のボタン入力が必要だ」
「その通り」
そして、スマブラSPには「別コマンドのレバガチャボタン入力には2Fの入力制限がかかる」という仕様がある。同一コマンドの場合は1Fの入力制限だ。
「つまり、このジョーカーは秒速30回の連打を、たった一つのボタンで行なっている。しかも、押し始めから正確に1Fの間隔を空けてな」
ぼくは、指をとんでもない速さで痙攣させ、一つのボタンを連打している人間を想像した。彼の目は虚ろで、だらしなく開いた口から唾液を垂らしている。何故?
「人間にそんな技が可能か?」
同じことをイメージしていたのだろう、ニックが解説してくれた。
「禁断症状を起こして手が震えてる薬物依存者にしか無理だろうな」
そうか、彼は薬物依存者だったのか。
頭の中のイカれた人物像に大きなバツをつけ、もう一つの可能性を口にしてみた。
「もしくは、『使えないはずの連射機能を使っている』か」
国内銀行共用データベースから同じジョーカーのリプレイ群をソートし、視聴する。ジョーカーが、台上のドンキーを降り空上連でハメている。
「この空上連も、よくみたら急降下のタイミングがF単位で一致している」
「操作精度が高いだけに見えないこともないが、こいつが『マクロ機能』を使ってるって言いたいのか?」
「そう考えるのが自然かもしれない」
「だが一度取り付けたプロコナイザーを無効化するなんて、どんな大企業がチャレンジしても不可能だったんだぞ」
ありえない、と言いたげにニックは首を振る。
ぼくは国内銀行共用データベースでさらにソートをかける。
このジョーカーは同じ銀行で、よくマネーマッチをしているようだった。
「確かめに行こう。カルフォルニア行きの便を頼む」

数か月の潜入捜査への英気を養うために空の旅を力の限りくつろぐことに決めたぼくは、カートを押す客室乗務員を呼び止める。
「アイスクリームありますか」
任天堂の低糖質豆乳バニラアイスならございます」
「じゃあそれで」
カートのクーラーボックス部分から、見慣れたアイスカップが出てきた。最初は固まっていてスプーンが入らないので、カップを掴んで手の熱で溶かしながら、フタの任天堂のロゴを見つめる。

Wii Fitとリングフィットアドベンチャーの成功は、任天堂の健康志向をとても強く後押しした。
運動補助だけでは健康をサポートしきれないと判断した任天堂は、このアイスのように健康食品事業を展開。
これが世界的に大ヒットしてしまって、任天堂はすっかりゲームを作ることをやめてしまった。今じゃダイエットフードといえばだれもが口を揃えて任天堂と言う。

ゲーム事業の撤廃に伴って、任天堂GCコン含むコントローラーの製造を停止したのは22年も前のことだ。しかし、高いゲーム性とesports人気に支えられて、スマブラの人気は現在も拡大を続けている。
純正のGCコンはすっかり洒落たアンティークとなった。新品のGCコンを手に入れそのまま実戦で使い古してしまう一部の変態的なマニアたちのせいで、その希少価値はあがりつづけた。状態のよいものが競りにかけられれば、オークション会場は怒号混じりに活気付く。そういう時代になった。
GCコンの製造が停止されたころから、下手すればいつか家が建つようなコントローラーでスマブラをする気にはならない、というまともな金銭感覚を持ったプレイヤーがGCコンの代わりを探し始めた。しかし、非公式コントローラーはあまりにも多種多様で、操作性は勿論のこと、重さやサイズ、デザインにすらこだわったプレイヤーらの意見はなかなか一致せず、それぞれの思う最適なコントローラーに枝分かれしていった。
一部を上げるだけでも、ホリクラシックコントローラー、BEBONCOOL、PDP Faceoff、Smashbox……Smash Boxに至ってはスティックすら存在しなかったが、どんなコントローラーでも使用するプレイヤーは一定数いると言ってよい。
しかし、これらのコントローラーは連射(ボタンを押したままにするとオートで連打される)やマクロ(一定の操作を記録しワンボタンで呼び出す)等の機能が多く盛り込まれていた。
大会を主催する首脳陣がそれらを放置するはずもなく、急遽資金を投じて対策を講じることにした。
そして、コントローラー開発各社にとあるICチップを配布した。
プロコンらしくするもの、Proconizer(プロコナイザー)と呼ばれたこの小さなチップは、既存の基盤に組み込むだけで連射・マクロ、その他ハードウェアチートと呼べるような機能の一切を制限した。たとえばPDP Faceoffの背面にある2つの追加ボタンは、なんの操作も割り当てられなくなる。
ご丁寧なことに一度取り付けると複雑なロックが掛かるので、外すことはできない。
プレイヤーたちは首脳陣の仕事をいたく賞賛したようだ。やっと自分の手に馴染むコントローラーを見つけたのに、使いもしないマクロ機能でそれらが競技シーンから追い出されることを危惧していたところだったから、この対応は願ったり叶ったりだったらしい。

ところで、スマブラがちょうどカルチャーとしてだけでなく、ビジネスとしての一面を帯び始めたのもこの頃からだ。
スマブラ人口が増えていくにつれ、高額なマネーマッチが行なわれるようになった。
文化から経済へ。
インターネットの発達によってPCモニターに張り付き株を売り飛ばすデイトレーダーが生まれたように、スマブラ競技シーンの発展はSwitchモニターに張り付き敵を吹き飛ばすプレイヤーが続出した。
最初は普通の会場で開かれる対戦会で行われていたのだが、彼らは現金での取引を主としたので、負けが込んでもすぐに降ろせるように銀行の近くに会場が設けられるようになった。やがて、対戦会は毎日行われるようになった。
プレイヤー数の拡大が続き、「マネーマッチは銀行の近くの会場で行われる」という認識が一般に浸透しきったころから、マネーマッチ会場を設置した銀行がぽつぽつと現れ始めた。やがて、銀行側がカジノさながらにチップを発行し、それらを勝敗が決したプレイヤーが授受するようになっていったのだ。
さらに各銀行はマネーマッチの勝率をリアルタイムで集計し、キャラ別で株を売り始めた。たとえばとあるキャラで有用な新テクニックが発見されて勝率が上がると、そのキャラの株の価値も上がる。これらはプレイヤーでない人々にも広く活用される投資先となったし、プレイヤー自身が自キャラの株を買い、キャラ開拓を重ね共有することで勝率を上げるという儲け方も一般化した。
同キャラ同士での仲間意識がより強く芽生え、各コミュニティは爆発的に拡大し、投資専門の動画勢も増え、メタゲームは加速していった。
こうして、スマブラはビジネスとしての性質を取り込みながら大きく隆盛していったのだった。
金が絡むようになると、問題も発生した。マネーマッチに勝ちたいあまり、様々な工作を行うプレイヤーが出てきたのだ。
手口は多岐に渡る。対面台で相手側モニターのゲームモードをオフにしたり、こっそりふっとび率を弄ったり、ロゼチコがモンスターボールをキャプチャしたり、自作ステージを選んで大量の大砲を降らせたり。
これらのスマブラ絡みの犯罪は基本的に州警察が処理するが、今回のようにプロコナイザーの無効化となると話は別だ。前例もなく、バックに組織があって、細工したコントローラーを配っている可能性が高い。州にまたがるような巨大犯罪として、こうしてFBIが直接調査する必要がある。
ある程度溶けたアイスにスプーンを差し込み、すくって口に運んだ。任天堂はこんなおいしいアイスを作り、アメリカ人の殆どを健康にしてしまった。現在アメリカの肥満率は一桁台で、平均寿命もぐっと上昇した。
放置したゲーム事業の方は今や巨大なビジネスに変貌した。しかし、こうやって法を犯す愚か者がいるというのは頂けない。アメリカ国民の安全を確保するエネルギーを蓄えようと、スプーンいっぱいのアイスにぱくついた。本当においしい。

マネーマッチ会場は盛況していた。すこしだけぐるりと歩き回ると、目当ての人物はすぐに見つかった。常人にはわからないレベルで操作をカモフラージュしているが、空上落としループをコントローラー背面のマクロボタンで入力していた。
少し意外だったのが、その犯人が女性だったことだ。
今回ぼくがこの会場に来たのは改造コントローラーの製造元を突き止めるためだ。そのためには情報を引き出すためにターゲットと親しい間柄になる必要がある。
男同士ならふつうに声をかけて仲良くなるだけなのだが、相手が異性だと少し別のテクニックが必要だ。自信があるわけではないが、やるしかない。

「今の対ピカチュウ、凄く上手ですね」
ぼくは自然な風を装って、声をかけた。視線は相手の目で固定する。
彼女は急な声掛けに、少し戸惑うようにしつつも返した。
「はい、それなりに研究したので」
ここだ。相手との共通項を提示して理由を作り自然に懐に入るための、お決まりの文章を出す。
「もしよかったらお伺いしてもよろしいでしょうか。ジョーカーでの対ピカチュウ、すごく悩んでいて」
やさしくみえるように微笑むと、彼女は頷いてくれた。
同キャラ同士での仲間意識というのはやはり強力だ。

そのあとは比較的簡単だった。できる限り相手の言うことに興味がある風を装って、会話を続けていった。
「なるほど、攻めに行かないんですね」
「はい、ここはラインを意識してですね」

「NBもあるし、ここは詰めてもいいんじゃないかい」
「この位置で撒かれたときかしら?基本的には」

「じゃあ、ここは間合いを取りながら」
「そうね、エイハで低リスクで」

「もう会場が閉まるのか。参ったな、まだまだ聞きたいことはあるのに」
「なら、この辺においしいイタリアンのお店があるのよ」

「オススメとかある?こっちに転勤してきたばかりで」
「じゃあカルフォルニアの本場のワインを──」

「MIT?すごい、それじゃエリートだ」
「あそこでしか学べないことがあって──」

そうして、ぼくは彼女に色々なことを教えてもらうことができた。
「今日はありがとう。キャラ対のこと以外も、色々教えてもらっちゃって」
「いいのよ。それより、しばらくこっちに住むんでしょう?」
「そうだね、また連絡するよ」
それを聞いて彼女は微笑んだ。正直言うと、綺麗だと思った。

解散したあと、ぼくは胸ポケットに隠していた小型マイクをオフにして、電話をかけた。
「ニック、解散したよ」
「一部始終を聞いてたから知ってる。FBIの『人付き合い』マニュアルの音声教材として導入してもいいくらいだな」
「茶化すのはやめてくれ」
ぼくがうんざりしていると、ニックが彼女のプロフィールを読み上げ始めた。
「ソフィア・ジェンキンス、25歳。マサチューセッツ工科大学工学部を卒業後、有名IT企業に就職。彼氏無し。今日引き出せたのはこれだけだったな」
接触を続けて、バックにいる組織を探ってみよう」
「よろしく頼むぜ」
電話が切れた。

それから一年ほど、ぼくはソフィアとの親交をゆっくりと深めた。
金曜日は仕事帰りに寄った風を装ってマネーマッチ会場に出向き、対戦を挟みながらソフィアを見つけて座学を持ちかける。
「やっぱり小戦場は拒否でいいんじゃないか?」
「その場合は相手の選択権が広くなってしまうわ。大丈夫よ、きっと相手も小戦場を嫌がるもの」
ソフィアの言葉には説得力があり、それでいて上品だった。ものを考えて発言することを心掛けているから、なにか言おうとする前に、指をあごにあてて考える癖があった。その仕草はひどく理知的で、次にどんなことを言って納得させてくれるのだろう、と期待してしまう。そんな魅力があった。
会場を後にして食事をするときもそのスタンスは崩れない。ぼくが仕事の愚痴(FBIで君を追跡しているとは言えないので、実際には架空のエピソードなのだが)を投げかけると、余裕が持てるような心のありかたについて答えてくれた。
しばらくあごに指を当てていたソフィアはゆっくりと口を開いた。
「あのね、人間が一度に脳に入れ続けられる人間の数ってすごく限られてるの。新たな人とのつながりを増やしていっても、昔に会った人との記憶は薄まっていって、次第に忘れていくのよ。たとえば大切な人が亡くなって悲哀に満ち溢れてしまったとしても、次第にその人が薄まっていけば乗り越えられるでしょう。脳のシステムは、そういうふうにできているの」
「ぼくの上司を亡き者にしてしまえ、ってことかい」
ソフィアは笑って、
「違うわよ、辛いようなら忘れてしまえばいいってこと」

彼女と話していると、彼女が身にまとった落ち着いた雰囲気をそのままぼくに分け与えてくれているようで、とても心地が良かった。

ただし、彼女は自分の正体を隠し続けている。改造したコントローラーを使っている素振りなんて一切見せない。
そして、ぼくも同じであることに気が付いた。
ぼくたちはお互いに自分を偽ったまま、お互いを理解していった。

あるとき、いつものようにイタリアンを食べていると彼女が口を開いた。
「わたしね、父親がコントローラー事業に失敗して自殺したの。20年前に」
え、と声が漏れた。なんの脈略もなかったのでびっくりしてしまった。
「プロコナイザーの普及に伴って、一部のコントローラーが廃れていったのは知ってるわよね。父親の会社はスティックの精度や持ち心地を犠牲にして色々な機能を盛り込んでたから、プロコナイザーは天敵でしかなかった」
ぼくは純粋に疑問に思って訊いた。
「どうして、そんな話を急に?」
「明日見せたいものがあるの」

帰路で電話に出ると、ニックが興奮しながらまくし立ててきた。
「ようやくわかったぞ。バックに組織なんてなかった。すべてあの女一人でやったことだ」
「本当か」
ぼくは驚いた感じで答えたけれど、実際のところはあまり驚かなかった。ソフィアならひとりでプロコナイザーを手籠めにしてしまってもおかしくなさそうだ。
「さっきの会話を聞いてたらピンときた。20年前に倒産したコントローラー制作会社。ここはプロコナイザーのせいで営業が傾いて、極秘にプロコナイザー無効化を企てていたらしい。FBIの捜査ファイルに残っていた」
「というと?」
「この会社のプロコナイザー無効化に関する資料は行方不明になっていたんだ。身辺の人間を総当たりしたらしいんだが、まさか五歳の娘に託しているとは思わなかったんだろう、唯一調べていなかった」
ソフィアが、亡くなった父親にどのように資料を渡され、どんなふうに無念を述べられたのかはわからない。だが、どれだけ重い呪縛になったのかは想像に難くなかった。
「状況証拠が揃い切った。あの女は単独犯だ。そして、プロコナイザーの解除方法を知っている。当局は二日後にSWATによる突入を行うことにしたらしい」
SWATなんて大げさだ、と言うと、ニックはいたって平坦な声色で、
「プロコナイザーの解除方法が外に漏れることはあってはならない、とのことだ。最早アメリカの経済はマネーマッチ無しでは成り立たない。俺もそう思う」
だから殺す、とは言わなかった。
どうやら、アメリカはぼくが思っていたよりも腐敗しきっていたらしい。
ぼくは一言、そうか、と呟いて電話を切った。

翌日、夕食後に訪れたソフィアの部屋はとてもさっぱりしていた。部屋の隅にある、電子機器類で乱雑とした机を除いて。
「あれはなんだい」
ぼくはその内訳を知っていて、それでもなお白々しく訊ねる。
ソフィアは答えない。口で答えるのではなく、実際にぼくにマクロを見せようと思っているのだろうか。
ぼくたちは無言でモニターの前に座り、コントローラーを挿して、ジョーカーミラーをした。
ステージは小戦場で、少し差し合いを繰り返した後、彼女の降り空上がヒットして、ぼくは台上に乗った。
ソフィアはスティックを動かさなかった。背面のマクロボタンをそっとぼくに見せるように、片手でコントローラーを持ったまま、手首を返した。
依然、彼女のジョーカーの空上ループは止まらない。
彼女の顔は伏し目がちに歪んでいた。懺悔の表情というのはこういうことを言うのだろう。
きっと彼女は秘密を共有できる相手を探していたのだろう。とても大きな隠し事を抱え続けることの辛さは、彼女に教えてもらってばかりのぼくも知っていた。
でも、なんでも知っている彼女も、唯一知らないことがある。
ぼくはあなたの罪をあばくためにあなたと親しくなりました。
明日が終わらないうちに、ぼくの仲間があなたのことを押さえつけて、そのまま撃ち殺してしまうでしょう。
頭の中でだけ僕なりの懺悔を思い浮かべていたら、だから一緒に逃げよう、なんて文章が音になって流れ出そうになって、ぼくは慌てて口を閉じた。

なにも言えなくなって、彼女の肩を抱いた。それでもなお彼女はマクロボタンを離すことができず、暗くて静かな部屋には、空上のヒット音だけが響いていた。


ソフィアがいなくなってから、二年が経過した。僕はサンフランシスコから元の職場に戻っていたが、ぼくの中でソフィアが薄まることはなかった。
どうしてあの日、一緒に逃げ出そうと言えなかったのか。ぼくの心のなかには、確実に後悔が募っていた。
ある日、ソフィアの部屋から押収されたデータ群を閲覧できることに気が付いた。これにはソフィア自身の施したロックが掛かっていて、だれにも解除できないだろう、とファイルの海に野ざらしにされていたのだ。
ぼくはパスワード欄に彼女に関するあらゆるプロフィールを入力し、ロックを解除することに成功した。彼女の父親の名前だった。
プロコナイザーの基礎構造からハック方法まで記されたこれらを、ぼくは必死に読み込んだ。あのときのようにソフィアが色々なことを教えてくれたような気がした。
ある程度の理解が進むと、プロコナイザーの機能を無効化するだけでなく、より強力な機能を後付けできることに気が付いた。
つまり、プロコンにできない操作だけでなく、一切の操作を効かなくする。
事実上のコントローラー破壊だ。
プロコナイザーのハッキングはワイヤレスで行われる。ソフィアは専用の器具を使っていたらしいが、これの周波数はどうやら無線LANでも利用できるらしかった。
FBIの権限を利用して、アメリカ全土の銀行のセキュリティに侵入する。普段出している電波のうち、これからほんの一部だけを間借りさせてもらう。

あのとき、ソフィアはぼくに罪を打ち明けた。秘密を共有するために。
では、罪を打ち明けられたぼくが彼女に対してもっとも誠実に応えるとしたら、なにができるのだろうか。
結果、ぼくは彼女の罪を一緒に背負うことにした。
エンターキーを押す。
アメリカ全土にある銀行の無線LANが、あらゆるプロコナイザーの機能を改変する。スティックが効かなくなり、ボタンが効かなくなり、様々なプレイヤーが「ガードした」「ジャンプした」と喚いているのだろうか、と想像すると少し笑えた。
アメリカの経済にすっかり組み込まれたスマブラは、今、完全に停止した。
このあと、ソフィアを殺して経済を回すことに執着したアメリカは、巨大な負債を抱えることになった銀行群を支えきれず、経済そのものを失うだろう。任天堂が釣り上げた平均寿命は、これからどれだけ下がるのだろうか。
生憎、この国がどんなに壊れようともぼくにはどうでもよかった。

とくにぼくは意図していなかったのだが、今日はソフィアの命日だったようだ。
椅子にもたれかかり、ふと彼女の言葉を思い出していた。
辛いようなら忘れてしまえばいい、という割には彼女は父親の遺言を忘れることはできなかったようだし、ぼくもぼくで彼女が死んでからも彼女の罪を背負おうとしている。
じつは似た者同士なのかもしれない、と気づいて、すこし嬉しくなった。

オフ大会の一回戦で必ず同じ人と当たってしまう

 

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「じゃあ12番台でお願いします」
「はい」
ぼくはカードを受け取り、対戦台に座って、隣の青年と顔を見合わせた。
「こんにちは」
「ご無沙汰してます」
お互いに深々と礼をする。
「しばらくお見掛けしませんでしたが、どうかされてたんですか?」
「いやあ、実は大学で短期留学をしてて。二年の終わりに行くと良いんです」
「あ、同い年だったんですね。すごく落ち着いてらっしゃるので、てっきり年上かと」
「よく言われます」
青年は笑みを浮かべた。
「それじゃ、戦場で」
「はい」

この毎月開かれる地元のオフ大会に参加すると、何故かぼくらは必ず勝者側一回戦で当たる。お互いのキャラは知っていて、対策も熟知しているので、最初のステージはBANを挟むことなく決まって戦場だ。
たいていはぼくが勝つ。キャラが有利なのもあるだろう。彼は負けるたびに「いやー、負けちゃった」と笑いながら頭をかく。ぼくも合わせて笑って、軽く世間話をしてから受付に行って、それぞれ次の対戦台に向かう。

出会って半年は経つが、一緒にご飯に行くわけでもなく、お互いに敬語を使い続けている。
そんな関係だ。

「じゃあ5番台でお願いします」
「はい」
対戦台に座る。
「こんにちは」先に座っていた青年が口を開いた。
「どうも。髪型変えたんですね」
「そうですね、もうそろそろインターンとかもあるので。さっぱりと」
「さっぱりと。ぼくは高校出てすぐ就職したから、結構懐かしいですね」
「社会人としてのアドバイスとかありませんか」
「そんな大層なもの、ありませんよ」
青年は笑って、コントローラーを挿し込んだ。
「それじゃ、戦場で」
「はい」
ぼくが勝った。
この後のトナメだが、彼はいつもそのまま敗者側で負けるし、ぼくもいつも勝者側二回戦で負けて、敗者側でも負けて、オフ大会としてのその日を終える。
お決まりだ。

「じゃあ13番台でお願いします」
「はい」
対戦台に座るが、青年の姿が見えない。
しばらくして、小走りでやってきた。
「すいません、ちょっとお手洗いに行ってました」
「大丈夫ですよ」
「すぐやりましょう。それじゃ、戦場で」
「はい」
途中まで優勢だったのだが、ぼくが復帰ミスをして負けた。

「じゃあ8番台でお願いします」
「はい」
対戦台に座る。
「こんにちは、早速ですが報告したいことがありまして」青年が遅れて座ってきた。
「どうも。もしかして、ついに?」
「やっと就職が決まりました。あと、彼女もできて」
「ああよかった。毎月会うたびに心配してたんですよ。長かったですね」
「ほんとですよ、インターンは一年半前から行き始めてるっていうのに。あ、彼女っていうのは前に話してた大学の同級生です」
「多分そうだろうなと思ってました。でも悔しいからあえて触れなかった」
青年は笑って、コントローラーを挿し込んだ。
「それじゃ、戦場で」
「はい」
ぼくが勝った。
今日の試合はなかなかに接戦だった。ぼくが早期撃墜を決めたと思ったら、相手もすぐさまやり返してくる。
二人とも決して上手いプレイヤーではないのだが、その拮抗具合を観戦しようと、三人ほどのギャラリーができていた。とても楽しかった。

「それじゃ20番台でお願いします」
「はい」
ぼくが対戦台に座ると、青年は静かに笑った。
「3か月ぶりですか」
「仕事、忙しそうですね」
「思ってたよりも三倍はきついです。今日も久しぶりの休みなんですよ」
「せっかくの休みにオフ大会、いいんですか」
青年は驚いたように少し目を見開いた。
「いやだなぁ、せっかくの休みだからオフ大会に来るんじゃないですか」
「たしかに。変なこと言っちゃったな」
「楽しまなきゃ損ですよ。じゃあ戦場で」
「はい」
彼はしばらくスマブラができていないのがプレイから見て取れた。以前より簡単に、ぼくが勝った。

それから、彼はめっきり来なくなった。一日の休みも取れないほど、仕事が忙しいのかもしれない。


「それじゃ13番台でお願いします」
「はい」
ぼくは対戦台に座るまで、対戦相手が青年だと気がつかなかった。髪は伸びていて、後ろ姿では別人にしか見えない。
驚きを隠しれないぼくはそっちのけで、青年は早口でまくし立てた。
「どうも。つい昨日に仕事を辞めました。ついにやりました。一年半ぶりのスマブラだ」
「お久しぶりです。最初は別の人かと」
「戦場でいいですか?いいですね」
「ああ、はい」
ぼくが勝った。

青年は以前のように笑って頭をかかずに、静かに画面を見つめていた。


「それじゃ5番台でお願いします」
「はい」
青年は先に対戦台に座って、トレモをしていた。
「どうも、今日も対よろです」
ぼくが声をかけると、青年はぶっきらぼうに答えた。
「よろです。終点で」
「はい」
彼は数か月前からメインを強キャラに変えていた。当然対策も変化し、ぼくたちのお決まりのステージは終点に落ち着くことになった。
仕事を辞めてからはずっとスマブラをしているらしく、ぼくでは全然歯が立たなくなっていた。ボロ負けだ。
対戦が終わると、彼は無言で立ち去って行った。
ぼくはそっとコントローラーを抜いた。

「それじゃ2番台でお願いします」
「はい」
彼は対戦台でトレモをしていて、ぼくを一瞥すると「終点で」と言って、そのまま口を閉じた。
ぼくは負けた。
最近は他のオフ大会でも結果を残し始めているらしい。ここで優勝するのも時間の問題だろう。

「それじゃ4番台でお願いします」
「はい」
無言で終点を選び、キャラを選んで、流れ作業を済ませるかのように殴られ続けた。負けた。
数時間ほどして、彼はついに念願の初優勝を決めた。一度も笑っていなかった。

ぼくは会場を出た。
最寄り駅の待合室で、彼が一度も笑わなかったことを思い出していた。
静かな待合室のドアが乱暴に開いた。青年だった。目が真っ赤に充血している。
数秒の沈黙があって、彼は待合室を出ていった。
ふと気になって、彼のTwitterを見に行った。優勝報告などはしていなくて、一言だけ、『虚しい』と呟いていた。

彼はまたオフ大会に来なくなった。



「じゃあ5番台でお願いします」
「はい」
対戦台に座って相手を待っていると、青年がふらふらとやってきて隣に座ったので驚いた。
「何年振りですかね」できるだけ自然な声色になるように意識して話しかけた。
「忘れました。あれから、スマブラは全くしていません」青年は静かに答えた。
「じゃあ、今日来たのはどうして」
「わかりません」
青年はまっすぐこちらを見つめなおした。
「あなたと、こうして話がしたかったのかもしれない」
真顔で言われてしまって、ぼくは思わず吹き出した。
「なんだそれ」
青年もつられて笑いだした。ひとしきり笑ったあと、それじゃあ対戦しようか、となっていたときに後ろから声をかけられた。
「あの、ここって5番台ですよね。対戦相手間違えてませんか」
「え」
青年のほうに振り返ると、「てっきり、また一回戦で当たるものかと思ってた……」と頭をかいていた。
ぼくはもう一度笑って、「大会が終わったらご飯でも行こう」と誘った。彼はゆっくりと頷いて、自分の対戦台を確認しに行った。

これ以来、彼とは一度も大会で当たっていない。
だけど、大会が終わったあとは一緒にご飯を食べるようになった。

大量のMkLeoにそれぞれ全キャラ極めさせて最強のキャラランクを作ろう

みなさんはキャラランク好きですか?

僕は好きです。リトルマックを一番上に置きます。カスですね。みんないろんな意見があっていいと思います。

 

では、世間一般で評価の高い、信頼されるようなキャラランクとはいったい何なのか?

たとえば、強いプレイヤーがしのぎを削って示した大会結果をもとに作るキャラランクは信頼してもよいと言っていいでしょうか。

僕がリトルマックをいくら強いと連呼しても、大会で結果を残せていないリトルマックが信頼されるようなキャラランクの上位に置かれることはありません。やったね。

まあ素晴らしい手法ではあるのですが、ひとつ問題が。

強いプレイヤーがどのキャラを選ぶかで、キャラの分布と強さが推移してしまうのです。

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このツイートの通り、スマブラforで最強を誇ったZeRoがSPでもディディーを使った場合、まあ大会上位に食い込んでくることは想像に難くないですし、キャラランクにも間違いなく影響するでしょう。

キャラの強さを量るのに、人の強さが要素として介入してしまう。これではよくない。

対照実験の基本は、1つの条件のみ変更し他条件は一致させるようにすることです。

 

ならば

全キャラをそれぞれ全キャラ数分のMkLeoに極めさせれば最強のキャラランクを組めるのでは?

 

と思ったわけですよ。

まあMkLeoをそんな大量に用意するなんて無理無理!w

みんなで蟹でも食べてましょう!パリッ、モグモグ、ウンメ~~~!!!

おわり

 

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上の文章は、僕が数ヶ月前に書いて投稿したブログだ。
その場のノリにまみれた安易な内容で、言うなれば出落ちでしかない。

幸いにも書き上げたのは深夜で(深夜じゃなければこんなブログ書かない)、投稿直後に読み返して「やっぱナシだな」と思い直し、すぐに非公開にした。
誰の目にも触れられることもなかった、と僕は思い込んでいた。

それから数週間後。
僕は行きつけのバーで、あとからカウンターに座ってきたきた外国人の男性に声をかけられた。
カウンターで様々な地位、世代の人間と会話できることはバーのより良い楽しみ方の一つだろう。まして国籍も違えば、実のある話を聞けるというものだ。僕は喜んで応えた。
男性とは予想以上に意気投合し、別の日にまた会うことになった。

 

約束の日に待ち合わせのカフェについたとき、あ、と声が漏れた。
男性の隣に座っていたのは、MkLeoだった。
最初に浮かんだのは疑問だった。
どうしてあの男性の隣に、世界最強のスマブラプレイヤーがいるのだろうか?
そして、じわじわと驚きに変わる。え、なんで?
あと正直に言っておくと、ここからは男性の話すことがあまりにも現実離れしていて、彼等の細かい表情や身振り仕草などは記憶できていない。ポイントのみを押さえて自分の中で咀嚼するのが精一杯だったのだ。だから、男性が言っていたことをなんとか正確に思い出しつつ、記すだけにしておく。

男性は、社会の仕組みがわからず混乱している幼稚園児を諭すように、一文ずつゆっくりと話してくれた。

まず、最初に一つ謝らなくてはいけない。君にとっては私はあのバーで初めて出会い、親睦を深めたように思えるかもしれないが、私はもともと君のことを知っていた。
君が数週間前に書いたブログを、私は読んだ。私たちと言ったほうがいいかもしれない。私たちとは何か、と言われても、君が今想像するよりももっと大きな組織としか言えないけどもね。
それから君の素性を調べて、少しだけ後をつけさせてもらった。バーに入ったときはチャンスと思ったね。不審がられずに話しかけるにはうってつけだ。
じゃあ私たちの目的はなんなんだ、という話になるんだが、ここで私の隣にいる、MkLeoが出てくる。
彼は確かにMkLeoだ。だが、数あるMkLeoの一人でしかない。

 

端的に言おう。
私たちは、MkLeoをスマブラのキャラクターの数だけ作った。クローン人間というやつだね。
MkLeoたちに1キャラずつ極めさせて、総当たりさせることで最高精度のキャラランクを作るためだ。
この発想には聞き覚えがあるだろうね。そう、君がブログで書いていたものだよ。
私たちも君と同じ発想に辿り着いていて、それを実行したというわけだね。


しかしひとつだけ問題があった。MkLeoたちに1キャラを極めさせる段階で、だ。
MkLeoたちを同じ施設に収容して毎日対戦させていたのだけど、キャラの練度がどれも向上しないんだ。元が強いのもあったが、それを差し引いてもね。
どうしてだろうかとお偉いさんが頭を捻ってみたら、思いつく原因は二つほどあるらしかった。


一つに、自分と同じ思考の人間と対戦しても得られるものが皆無なんだよ。彼らは双子みたいに、いやそれ以上に同一な存在だ。それを同じ環境に放り込んでも、一人分の発想力にしかならない。
二つに、競争心がまるで生まれないんだ。自分たちが元はひとつであることを知っているから負けても悔しくもなんともない。ゲーマーは、ゲーマーに限らず勝負師全体にも言えることだが、敗北することによって自身を否定されたように感じる。それが努力の原動力になる。
しかし彼らは自分が負けたのは自分であると知っているからね。普段から一緒に過ごしていると、それを一層強く感じるようだ。

そこで、私たちはMkLeoを引き離すことにした。
ひとつの施設ではなく、世界各地にね。
各々新しい環境で刺激を受けながら、新たなMkLeoを創り出す。そのMkLeoにとってはそこが第二の故郷、第二のメキシコになるわけだよ。
ただ、この計画はもちろん秘密裏だ。
クローン人間なんて人権問題のど真ん中だからね。Caption Zackの比じゃないほど炎上する。
だからMkLeoを住まわせてくれる協力者は、この計画に賛同してくれるような人間でなくてはならない。
ここまで言えばわかるだろう。
10万ドルある。5万ドルは前払い、もう5万ドルは後払いだ。MkLeoを君の家で預かってもらいたい。


結論から述べると、僕はこの申し出を承諾した。
一介の大学生にとって10万ドルというのは理屈抜きに大きい。
だが、それ以上に「人類最高のキャラランクを作る」という、なにか重大な使命とも思える何かに乗せられたのだ。
そうして、MkLeoが僕の家にやってきた。
彼は「Wii Fitトレーナー」、フィットレを極めるために生み出されたMkLeoだった。
外国人の男性は「数ヶ月ほどで迎えに行く。それまで頼むよ」と残して姿を消した。連絡先も寄越さなかった。

最初はなんとなく距離をとられていたように思う。
だが、僕が大学に行っている間に彼はオンラインやトレモをして、僕が帰ってきたら一緒に夕食をとり、そのあとはゆるりとトレモを手伝う。そういう生活を繰り返してるうちに、僕らは次第に打ち解けていった。
僕は敬意と親しみをこめて、僕の家に来た彼のことをFitLeoと記すことにする。


FitLeoが僕の家に住んでいる間の出来事を語ればキリがない。
お互いの食文化が混ざり合って夕食の定番メニューがタコスと味噌汁になってしまったのはまだマイルドなほうで、僕が大学から帰ると彼が猫を抱きこんでいて、散歩していたら拾ったので飼っていいか、と聞いてきたのは流石に面食らった。
しょうがないので猫には『Captain Zack』と名付けて可愛がることにした。FitLeoがいなくなった今も家にいる。
人が入っている布団の中に潜り込むのが好きなのは名付け方が悪かったのだろうか。

FitLeoとはほんとうに色々な話をした。メキシコと日本の文化の違いを楽しむ会話もよくしたが、スマブラのことに関して語る彼はことさら情熱的だった。
彼曰く、スマブラプレイヤーは一定以上の地力がつけばトレモとオンラインだけでも十分にキャラを磨き切ることができるらしい。
確認や操作の練習はトレモでやればよくて、その他の足りない要素はオンラインで補えばよい。オンラインでの勝ちを目指すと狂いかねないが、成長という点ではむしろキャラが多彩で充分だ、と。
メキシコという決してシーンが成熟していない土地でほぼ一人ながら腕を磨き続け、世界一に登り詰めた彼の理論は独特ながらも説得力があったように思う。
彼はその言葉通り、みるみるとフィットレを仕上げていった。
読み合いの深さや多彩な択、それを確実に実行する操作精度。

贔屓目抜きに、すでに全一フィットレに最も近いように見えた。

FitLeoはあるセットプレイを開発し、それを好んでいた。しゃがみと跳ね返るボールを駆使した、どんなプレイヤーでも一度は引っかかってしまいそうな動き。対応も複雑で難しい。
僕が覚えている中で、これを初見で対処できたプレイヤーはいなかったように思う。
彼がこのセットプレイを決めたときに「やっぱりこのキャラ強いんじゃないかなぁ」と、ぽつんとこぼしていたのを思い出す。
本心から、本当にそう思っているときに出る、こぼし方だった。
僕はFitLeoが最終的にどこまでフィットレの知らない強さを引き出してくれるのかと思うと胸が踊った。その日は嬉しさと期待余って夕食のおかずを一品増やしたほどだ。


それからしばらくして、最後の日がやってきた。呼び鈴が鳴ったのは夜のトレモ中のことだった。
ドアを開くと、立っていたのはあの外国人の男性だった。
「久しぶり、数ヶ月ありがとう。それじゃあ」
彼はそれだけ言って、FitLeoを連れて消えてしまった。
FitLeoがなにか残していったかというと、僕の方をみて少し頷いただけだった。最低限の荷物だけ持って、男性とともに消えていった。

前々から、迎えが来たときのことは二人で相談してあった。迎えが来たら、すぐに出発できるように事前に荷物をまとめておこう。行くときはすっぱりと、帰ってきてからまたゆっくりと話をしよう。

 

そうしてFitLeoは消えていった。彼が帰ってくることは二度となかった。

 

 

長丁場になるとは予想していたので、数か月まったく連絡がなくても僕は焦らずにいた。前より少しスマブラの頻度を増やして、FitLeoがふらりと帰ってくる日を待っていた。

「前よりも上手くなってるね。驚いた」

こう言ってもらえるのを期待して、僕はトレモに籠っていた。FitLeoがそうしていたように。

外国人の男性がチャイムを鳴らしたのはそんな中だ。彼はトランクを一本、携えていた。

 

「これは約束だった後払いの5万ドルと……」

男性はトランクの中から札束を丁寧な手つきで机に置き、最後にUSBメモリを取り出した。

「今回のMkLeoたちの対戦データだ。総当たりは十先で行われた。すべての対戦が記録してある。記念にあげよう」

MkLeoらの本気の対戦が観られる、というのは素直にありがたかった。

しかし、それよりも、だ。

「うちに来たMkLeoは、どうしたんですか?」

男性はぽかんとした表情を浮かべ、そしてすぐにニカッと口角をあげた。

「そうか、そこまで察しがついていたものだと思っていたが。わかっていなかったのか」

僕には意味がわからなかった。意味をわかろうとすることを無意識に拒んでいた、のほうが正しいのかもしれない。

男性は「このUSBメモリを開けば自ずと気づくだろう」と残して、さっさと帰ってしまった。

 

僕の部屋には、5万ドルの札束と、USBメモリが残された。

 

ノートPCに差し込んでファイルを開いた。一覧をスクロールしていくと、『WiiFit trainer vs Peach』というタイトルの動画があった。

なぜか手の先から血の気が引いていく。男性の上がった口角が、頭に焼き付いていた。

 

10-2。試合は一方的だった。

まさに異次元としか形容できないコンボルートを、MkLeoのピーチは次々と繰り出していった。

FitLeoのセットプレイが通用しなかったわけではない。最初の数戦のうちはなんとかストックを奪い、そのまま試合をとることもあった。

しかし、後半になるにつれて完璧に対応されていった。

キャラ性能の差はあまりにも大きく、残酷だった。

 

そうやって、僕はFitLeoの試合をひとつずつ、絞るように観ていった。

勝率はほぼ五割。だが、強キャラ相手に負けるときはとことん一方的だった。

あるマッチアップではリーチの短さが響き、どうしても届かない。あるマッチアップでは、機動力が手数に直結し、蹂躙され続けた。

そうしてフィットレが負け続けるところをみて、僕はようやく気付くことができた。

 

 

そもそも同じ人間を増やしたところで、事が済んだあとにそのまま人間社会に放り込むのはあまりにリスクが高すぎる。

ならば、MkLeoたちを作った組織は、MkLeoをもとの一人までに減らすのではないか。

クローン人間を一人に合体させると、記憶の混乱から精神が分裂すると聞いたことがある。僕がもし血も涙もない組織のトップなら、一番簡単な減らし方をするだろう。

できるだけ苦しくない、心地よい安らかな眠り方を。

そして、どうせ元の一人に戻すなら一番強いMkLeoを残すんだろうな。と、連敗し続けているフィットレの動画を観ながらぼんやりと思った。

これはあくまで僕の想像でしかない。もしかしたら、今もFitLeoはどこかで生きているのかもしれない。

 

でも、ファイルの最後についてきたキャラランクの一番上にいたのがピーチで、MkLeoがピーチをメインキャラにするというツイートをみたとき、FitLeoとは二度と会えないんだろうな、と否応がなく実感させられた。

その日からトレモはしなくなった。

 

 

 

それからしばらくしたある日、Twitterに流れてきたオフ大会の切り抜き動画を開いた。ピーチを使うMkLeoが対戦相手の攻撃を捌いて、完璧なコンボを決めていく。

僕は驚いた。その相手はフィットレだったのだが、FitLeoの開発したはずのあのセットプレイを使っていたのだ。

彼がどこからそのセットプレイを知ったのかは知らない。もしかしたら彼自身が編み出したのかもしれない。FitLeoがいなくても、キャラの開拓は確かに続いていくのだ。

 

そして、MkLeoはそのセットプレイを完璧に捌いてみせた。

まるで何度もみたことがあるかのように。

直感した。FitLeoはきっと、彼の中で生きているのだ。

MkLeoの中で、数ある好敵手のひとりとして。

僕はトレモを開いた。

FitLeoがそうしていたように。

 

 

 

おわり