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都営大江戸線 運転士のコロナ大量感染で減便ダイヤ

東京都交通局では、運転士のコロナ大量感染により、地下鉄大江戸線の運転士が足りなくなる事態が発生した。
2021年1月11日までを目途に、大江戸線は7割程度の減便ダイヤで運転する。


報道によると、運転士167人のうち、21人が出勤できない状態だそうです。

……うーん、あくまで乗務員経験者の私の感覚ですが、これくらいなら年次有給休暇の取得制限(=時季変更権の行使)や、休日労働をねじ込みまくる力技で何とか回せそうな気もします。

また、昔聞いた業界話なので真偽は不明ですが、東京都交通局は、人員がけっこう余裕のある体制だったとか。
某知事に代わってから、そのへんの余裕がなくなったかもしれませんが。

それはともかくとして、これ、他社との直通運転がない大江戸線だったのが不幸中の幸い。
直通のある路線で減便となると、他社との調整が困難極まりないので。
 

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運転士は「路線ごとの教育」を受ける必要がある


今回の減便ダイヤについて、みなさんは一つ疑問に思っているかもしれません。

大江戸線の運転士が足りなくなったのはわかった。
じゃあ、他の浅草線とか新宿線から運転士を持ってきてカバーできないの?

はい、基本的にはできません。
一言でいえば、運転士には守備範囲があるからです。

鉄道運転士の免許は全国共通ですが、運行システムや車両、運転のルールなどは、鉄道会社ごとに違います。
いや、同一社局内でも、路線によって仕様が異なることはザラです。
この路線はATCだけど、あの路線はATS、みたいに。

そのため、運転士は免許の他にも、「その路線を運転するための教育」を受ける必要があります。
大江戸線は、「大江戸線用の教育」を受けた運転士しか乗務できません。
「浅草線用の教育」しか受けたことがない運転士では、大江戸線に乗務できないのです。

もちろん、複数の路線の運転経験・知識を持つ“オールラウンドプレイヤー”もいるはずですが、そういう運転士は少数でしょう。
仮に、浅草・新宿・三田線の運転士に、大江戸線の経験者がそれなりにいたとしても、彼らを引き抜いたら、今度は引き抜かれた側の路線の運行が苦しくなります。

今回の減便ダイヤには、こうした事情があります。

事務職社員をたまに乗務させる制度が某会社に存在する


さて、このような乗務員の大量感染は、今後も発生する可能性が大いにあります。
鉄道会社には備えが必要ですが、減便ダイヤ以外に手はないものか?

ここでは一つ、参考として面白い取組みを紹介します。

どこの鉄道会社かは忘れましたが、運転士から事務職へ異動した社員を対象に、ときどき乗務させる制度があるそうです。
いってみれば、「たまに運転士制度」。

なぜ、そんな制度を導入しているのか?

事務職としてデスクワークばかりしていると、現場感覚を忘れてしまいますよね。
そのせいで現場とうまく連携できなかったり、現場の要望が理解できなかったり……というマイナスを防ぐのが目的の施策です。
ようは、「本社の連中は現場のことを何もわかっていない!」的な不満を解消するため。

この施策、「事務職にも現場感覚を持たせる」という目的が第一義ですが、副産物として、「いざというときの控え運転士を確保する」という効果もあります。
今回の大江戸線のように、“レギュラー選手”から欠員が出た場合でも、“控え選手”がカバーできるわけです。

もちろん、この「たまに運転士制度」、言うほど簡単ではありません。
社員管理が大変です。
具体的には、運転士として必要な身体要件や知識・技能をキープさせなければならず、そのための管理や教育の手間がかかります。
運転現場と事務職の部署をまたぐので、勤務表を作るのも一苦労でしょう。

ただ、そうした苦労を乗り越えながら、「たまに運転士制度」を運用している鉄道会社があることは事実です。

普段から減員への備えが問われるコロナ問題


さて、今回の減便ダイヤの話に戻ります。

「運転士が足りなくなったので減便」は、お客様に迷惑をかけてしまう最終手段。
やむをえないと言ってしまえばそれまでですが、できれば、控え運転士の確保という手段で凌ぎたいところです。

「運転士の免許持ちだけど現在は他職」という社員は、鉄道会社内にたくさんいます。
(私もその一人ですが)
その中から、視力などの身体要件がまだセーフな人を集めて、控え運転士としての復職教育を施しておく。

もっとも、こうした控え運転士養成にも多大な困難が伴います。

  • 誰を選抜する?
  • 復職教育の中身は?
  • 人員に穴の開く部署はどうする?
  • 復職教育にかかるコストは?


一朝一夕では無理です。
今から慌てて考えるのではなく、コロナで運転士が不足する事態を想定して、どこまで準備をしてあるか?

勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む

かの有名な『孫子』の言葉ですが、「成功する人は、事が始まる前に準備してあるもの。逆に、事が始まってから対応を考えているようでは失敗するよ」という意味。
ようは事前準備の大切さを説いた言葉ですね。

……と偉そうなことを言いましたが、ウチの会社は大丈夫かなあ。


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