土に触れる生活が心身の健康につながる。抗ストレスの妙薬は「土壌」にあった:研究結果

土壌に生息する細菌に、抗炎症や免疫調節、ストレス耐性などの性質がある──。そんな研究結果を、米国の研究チームが発表した。アレルギーやメンタルヘルス障害の原因のひとつとして、わたしたちが泥や土に触れる生活から離れたことも影響していると示唆されている。

fertile soil

MINTR/GETTY IMAGES

現代社会では、われわれ人間の大部分が農業や狩猟採集生活から遠ざかり、都市部で暮らしている。それからというもの、確かに生活はより便利になったが、同時にわれわれの健康に貢献してくれる微生物との接触からも遠ざかってしまったのかもしれない。

近代社会で増加傾向にある疾患に、花粉症をはじめとするアレルギー、ぜんそく、自己炎症性疾患、ストレス関連からくるメンタルヘルス障害がある。その原因のひとつとして、すべてのものに抗菌剤を使用する「過剰清潔社会」が疑われているが、われわれが泥や土に触れる生活から離れたことも一因であることが、新たな研究により示唆されている。

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このほど学術誌「Psychopharmacology」で発表された論文によると、土壌に生息する腐生性細菌マイコバクテリウム・ヴァッカエ(Mycobacterium vaccae)には、抗炎症、免疫調節、およびストレス耐性の性質があることがわかった。そしてこれらの保護効果は、この細菌が持つ特殊な「脂質」が要因のひとつであることが今回の研究で明らかになったのだ。

抗炎症効果のある細菌の脂質

「この細菌には保護効果をもたらす特別な“何か”があり、この細菌が作り出す脂質はその主成分のひとつだと、われわれは考えています」と説明するのは、米コロラド大学ボルダー校の統合生理学教授クリストファー・ラウリー博士である。

以前より、身体に起きる炎症反応が、心的外傷後ストレス障害(PTSD)など、ストレス関連障害のリスクを高めることが示唆されていた。当時の研究では、熱処理されたマイコバクテリウム・ヴァッカエのワクチンを注射されたマウスは、まるで抗うつ剤を投与されたかように行動を変え、それらの脳には長期にわたって抗炎症作用があったことが報告されている。

また、2016年にラウリー博士が発表した論文では、ストレスを感じさせるイヴェントの前にマイコバクテリウム・ヴァッカエのワクチンを皮下注射されたマウスは、そうではないマウスと比べ、PTSDとストレス誘発性大腸炎が予防された。さらにその後、マウスを再び同様のストレスにさらしたところ、それらは不安が軽減されたかのように振る舞ったという。

しかし当時、研究チームはマイコバクテリウム・ヴァッカエに驚くべき効用があることを知りながらも、それがどのように体に作用するのか原理がわからなかったという。「この新たな論文は、その理由を明確にしたものです」と、ラウリー博士は言う。

薬箱を開く“鍵”のように免疫細胞に作用する脂質

「人類と共進化してきたこの細菌には、思いもよらない役割があるようです」と、ラウリーは話す。「これらが免疫細胞に取り込まれると、受容体と結合して、数々の連なる炎症反応を遮断する脂質を放出するのです」

研究チームは、マイコバクテリウム・ヴァッカエに特有の「(10Z)ヘキサデセン酸」と呼ばれる脂肪酸のみを取り出し、化学合成して、それが免疫細胞のひとつであるマクロファージとどのように相互作用するかを調べた。

するとこの脂質は、細胞内でペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)と結合し、炎症を引き起こす多数の経路を阻害することがわかった。さらに炎症反応を促す刺激を与える前に、細胞を同脂質に晒した場合では、炎症に対する耐性が強化された。つまりこの研究は、ストレスに耐性のあるワクチン生成、および薬剤開発への可能性を示唆しているのだ。

「これは細菌叢の一種の、ほんの1株に過ぎません。しかし、土壌には数百万もの菌株が生息しています」と、ラウリー博士は言う。「わたしたちは、健康維持のために進化してきたメカニズムを見極める点において、氷山の一角を見始めたにすぎません。それはわたしたちに畏敬の念を起こさせるはずです」

「ストレスワクチン」の開発なるか

ラウリー博士は過去にも、「健康的な微生物」に触れる生活と、メンタルヘルスの関連性を裏付ける数々の研究を発表している。泥やホコリにまみれる環境にある農村の子どもたちや、ペットとともに育った子どもたちは、ペットのいない都市部の住人よりも強い免疫システムをもっており、精神疾患のリスクが低い傾向があるのだ。もしかすると、自然が提供する微生物叢から断絶された生活を送る人々が、長いあいだ心身の健康を維持するのは難しいのかもしれない。

研究チームはこの知見をふまえ、近い将来、マイコバクテリウム・ヴァッカエをベースにした「ストレスワクチン」の開発に着手したいと語っている。

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必要な人材には最高水準の報酬? 年収中央値から見えたテック企業それぞれの事情

米証券取引委員会(SEC)の新ルールが導入されて以降、テック企業の年収中央値に関する2回目の開示データが出揃い始めた。高額な報酬に人材確保を巡る企業間の熾烈な競争が透けて見えたほか、報酬の差からは各社によるビジネスモデルの違いが改めて浮き彫りになっている。

TEXT BY SCOTT THURM
TRANSLATION BY SHOTARO YAMAMOTO/DNA MEDIA

WIRED(US)

money

「競争していくには給料をしっかり払わねばなりません。求める人材を手に入れるには最高水準の報酬を与える必要があることに、最高経営責任者(CEO)たちは気づいたのです」 PHIL ASHLEY/GETTY IMAGES

経済危機の影響が色濃く残る10年ほど前、米国議会は1本の法案を通過させた。この法案は、最高経営責任者(CEO)の報酬に対する従業員の年収中央値の比率を開示するよう、上場企業に求めるものだ。企業の行き過ぎた活動と給与の不平等に光を当てるのが狙いだったが、巨額の役員報酬を抑制することで経済危機に対応できると議会はにらんでいた。

この要請が、大多数の企業に対して効力をもつようになったのは2018年のことである。テック企業の2回目の開示データがこのほど出揃い始め、米国トップクラスの高給取りたちの報酬についての全容が、少しずつ明らかになってきた。このデータを見ると、仮に膨大な数の従業員の時給を10ドル未満にまで引き下げれば、どのようなデメリットがあるかも見えてくる。

あの企業の年収中央値は?

例えば、グーグルの親会社アルファベットの18年の年収中央値は25パーセント増えて、24万6,804ドル(約2,700万円)だった。これは『WIRED』US版が把握しているテック企業十数社のうち最大の上げ幅であり、最高額となる。

アルファベットの広報担当者によれば、この大幅な上昇の要因には、自社株あるいはその購入権の付与状況の変化が挙げられる。従業員が17年に実質的に受け取った報酬額は、通常の半額だった。このため「全額支給」が18年に再開されると、報酬額が一気に跳ね上がったというわけだ。

これとは対照的に、フェイスブックにとって、18年はさまざまな危機を耐え忍ぶ年となり、現在は採用に四苦八苦していると報じられている。こうした状況であれば、経営陣が従業員をつなぎとめるために給与をアップするのではないかと思うかもしれない。しかし、フェイスブックの年収中央値は前年比で約5パーセント減の22万8,651ドル(約2,500万円)だ。『WIRED』US版が分析対象としている企業のなかでも最大の下げ幅だが、フェイスブックの広報担当者は「特別な理由はない」と話している。

シリコンヴァレーで活動するヴェテラン人事コンサルタントのヴァレリー・フレデリクソンによると、こうした状況は特に驚くべきものではないという。「入社希望者は、それでもフェイスブックで働きたいと思うものです。給与削減も受け入れるでしょう」と彼女は話す。「給与と地位が大幅に下がってでもフェイスブックで働く人を何人も見ています」

 median pay

2018年の年収中央値を見ると、グーグルでは増加する一方、フェイスブックでは減少している。アルファベットは24万6,804ドル(約2,700万円)で、フェイスブックは22万8,651ドル(約2,500万円)だった。証券取引委員会(SEC)に提出された従業員の年収中央値に基づくデータ

テック企業の年収中央値のからくり

開示されたデータを見れば、全体として巨大テック企業の金払いは極めてよいことがわかる。ツイッター、モバイル決済で知られるスクエア、ヒューマンリソースソフトウェアの開発を手がけるWorkday(ワークデイ)、グラフィックチップメーカーのNVIDIA(エヌヴィディア)は、それぞれ18年の年収中央値が15万ドル(約1,600万円)を超えている。

政府のデータによると、サンフランシスコ・ベイエリアにおける18年のソフトウェアエンジニアの平均賃金は14万ドル(約1,500万円)であり、米国の平均値である10万4,000ドル(約1,100万円)よりはるかに高額となっている。

「企業間の競争が激化しています」とフレデリクソンは語る。「そのなかでやっていくには、給与をしっかり支払わねばなりません。求める人材を手に入れるには最高水準の報酬を与える必要があることに、CEOたちが気づき始めたのです」

テック企業の給与の違いには、それぞれの企業のビジネスや経営方法の違いが反映されている。例えば、グーグルの年収中央値がほかより高いのは、99,000人の正規従業員のほかに多数いる臨時従業員や契約社員の給与が反映されていないためだ。ブルームバーグは18年、グーグルで働いている人々のうち半数以上が非正規雇用だと報じている

同じように、アマゾンの28,836ドル(約310万円)という低めの数字には、ほとんどの従業員がソフトウェアを扱うような仕事ではなく、倉庫での棚卸しや注文の対応に従事している事実が反映されている。なお、これは海外拠点をすべて合わせた従業員の年間賃金の中央値である。

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広報担当者によれば、米国内の従業員の18年の年収中央値は35,096ドル(約380万円)だった。11月1日に、同社が米国内での最低時給を15ドル(約1,600円)に引き上げたためだ。