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盾の勇者の成り上がり 作者:アネコユサギ

盾の勇者の成り上がり

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研究所訪問

 その日の昼。

 今日はラトの研究所の様子を見に来た。

 アトラとサディナペアはフォウルと一緒にLv上げに出かけた。

 サディナと一緒というのが怪しいけれどな。海にでも行ったのだろうか。


「これは私達が城下町で戦っている間にナオフミ様達が調査していた研究所から押収した物なのですか?」


 様々な魔法道具の研究機材や、大きな試験管その他諸々が研究所内で無造作に保管されている。

 一応はラトと谷子、その他インテリ派の奴隷、城の研究者が一緒になって設置作業中だ。


「そうだ。なんだかんだで出来る事は何でも取り入れていかねば、波を乗り越える事は出来そうにないからな」


 ラフタリアが何も入っていない試験管を指で突いている。

 そうそう、あのババアは現在、村に居る奴隷の中で戦いを望む奴隷共に訓練をしている。

 ラフタリアの様なスパルタ教育をさせるかの見極めをしている最中だ。


 候補者にはふんどし犬も入っていたな。

 行かせるか悩む所だ。

 なんだかんだで守りが手薄になるし、アイツは奴隷共の中ではリーダーと言わないでもムードメーカー的な部分があるからな。

 まあ、ラフタリアが帰ってきているし、どうにかなるだろうけどさ。

 って、そんな事は良いんだよ。


 今はラトに研究の状態はどうなっているかと聞かないと。

 バイオプラントの研究だけをさせてる状況だからなぁ。もう少し好き勝手にさせても良いと俺は思っている。

 やるべき仕事はちゃんとしているし、ラトの研究も最終的には役に立つだろうと評価している。


「あら? 伯爵……今は侯爵だったかしら? どうしたの?」


 ラトが大きな培養層で何か石板に向かってパチパチと打ち込んでいた。

 これって、俺の世界で言う所のパソコンの様なモノなのだろうか?

 作業を中断してラトは俺に話しかけてくる。


「定期視察だ。どうだ? 調子は?」

「そうねー……侯爵が手に入れてくれた機材の調整を行っている所よ」


 培養層の中を、ラトの親友らしい魔物が泳いでこっちに手を振っている。

 手を振り返すと、嬉しいのか目を細めてくるくると回った。


「何が出来そうだ?」

「今のところは未定ね。あの子のボディを作るにしてもね」

「そうか」


 援助次第で優秀な戦力が作れそうだから期待はしている。

 ま、生物災害とか起こされたら困るから出来る限りは監視しないといけないけどさ。

 この場合は……魔法災害? 錬金災害とか呼ぶのかもしれないな。

 でも、ラトってかなり慎重に研究を繰り返すタイプだから、その心配も無用か?

 バイオプラントの研究も出来る限り慎重にをモットーにしていたようだったし。

 ざっくりと俺が改造しているからどうにかなっているけど、ラトだけに任せていると時間が掛り過ぎる風潮はある。


「勇者の武器の複製概念は一応目を通したのは前にも話したわね」

「ああ」


 コストが割に合わないと一目で見抜いていた。


「となると成長する武器の作成は無理そうか?」

「そうでもないわね。そっちの問題はどうにかなりそうよ?」

「具体的には?」

「ちょっと試作段階なんだけど、これを見て頂戴」


 と、ラトが石板に指を置くと、石板から液晶画面が飛び出して一つの設計図を表示する。

 3Dのように何かの物体が構成されていた。

 見た感じだと、馬車か?

 ただ……なんて言うか生き物っぽい。昆虫……か?


「なんだこれ?」

「大型の馬車型魔物よ」

「は?」

「まだ構想段階だけど、成長する武器……いえ正確には武器型魔物を作りだすには試作モデルを作って縮小して行くしかないわ。これはその試作第一号」


 えっと……つまり人造魔物で馬車を作ってから小型化に向かう訳か。

 なるほどな。

 問題はこんなのを引いて動く方だ。

 うちのフィロリアルは引くかな?

 フィーロは嫌がりそうだ。

 というか魔物だから物を乗せる事が出来るのか?

 乗ったらそのまま食われそうで怖いぞ。


「何が出来る予定だ?」

「魔法援護と追加するオプション次第ね。ツルとかを付けて敵を縛り上げるとかは出来ると思うわ」

「ふむ……馬車としての機能はするのか?」

「そこは要研究、まあ言うなれば自走出来ない魔物でしかないからあくまで試作よ。上手く行き次第、破棄するわ」

「そうか」


 確かにこう言う難しい魔物は試作しなきゃいけないだろうしな。

 多少サイコが入っているが、ラトを配下に加えた時点で今更だ。


「これが成功したら、次がこれ」


 と、映し出されたのはリーシアに持たせているフィーロ着ぐるみだ。

 そこに様々な要素を追加するのか文字がびっしりと書き込まれている。


「見た感じだと着ぐるみに付与をするようにしか見えないが?」

「違う違う。着ぐるみ型の魔物よ」

「はぁ……」


 ラトがポンと石板を押すと映像の着ぐるみが動き出した。

 フィーロが走っているみたいだ。


「問題はフィロリアルの変異種があれだけいるから必要かどうかなのよね。遠回りになりかねないのが最大のネックよ」


 確かにそうだな。

 だが、発想は面白い。成長する防具という考えだ。

 そういや新調した蛮族の鎧には成長する力という付与効果があるんだよな。

 一体どういう物なのか不明だけど。


「これが成功したら……目的である武器型魔物となるのだけど、完成は先ね」

「わかった。具体案を聞けただけで十分だ」

「……異端とか、却下とか言わないのね。驚いたわ」

「何を今更。良心に訴えかけるとかか? 俺はこの世界出身じゃないから倫理観は知らん」


 こう見えてこの世界に来る前は根からのオタクだったんだだぞ?

 完全にサイコパス入った科学者が出てくるマンガとか、グロゲーだってやった事がある。

 それに比べればまだマシな方だろう。


 なにより、実現できれば戦力になる事は間違いないだろう。

 馬車型の魔物は上手く行けば自走する車の様な魔物へと転換できる。

 いや……上手く行けば乗り込み型のロボットとか作れるかもしれないとかは、考え過ぎか。

 下手にマシン傾向にさせるよりもファンタジーな感じでロボットがあると燃える展開だ。


 戦力になるかは別だけど、夢くらいはあっても良いだろう。

 成長する着ぐるみもそうだな。

 下手に防具を打ち直すよりも最終的には強くなるかもしれない。


「発想はどれも面白いものだ。最終目標を成長する武器にするだけでは無く、もっと可能性を模索すると良い」

「……ここまで私の事を応援してくれるのは侯爵が初めてよ」

「礼を言う暇があるなら結果を出せ」

「侯爵らしいわね」

「抜かせ、さっそく作業に取り掛かれ、そうだな……バイオプラントで馬車型の植物を試作した方が早いかもな」

「そうね」


 と、案を出しているとラフタリアがおずおずと引き気味に声を掛けてくる。


「なんか凄い話をしていらしたようですね」

「そこまで凄くは無い。こう言う技術と言うのは夢から発展するもんだ」


 飽くなき探求心と夢が無ければ、進歩なんてするはずも無い。

 常識なんて言うのはその時々で変わって行くんだ。

 俺の世界じゃ奴隷なんてモノは非常識となっているが、この世界、この国では当たり前として使役される存在だ。

 誰かの目を気にしていたら本当に欲しい物なんか手に入るはずもない。


「で? お前の大事な相棒の体はいつ頃制作に掛るんだ?」


 ラトの目的っておそらく、あの魔物を強くするという物に行きつくのだろうし、舵取りをするのは、そこを踏まえれば良いんだ。


「単純に外へ出すにはホムンクルスで複製用の体を作れば良いのだけど、それだと強くなれないのよ。だから付け替えが出来るような……言っては何だけど竜帝の核石の様なシステムを搭載したいの」

「なるほど、ホムンクルス、ね」


 自らの相棒を最強の存在にさせたいという善意。

 その善意に相棒も応えたいと願っている信頼があるからこそ、ラトは研究を続けている。


 仮に体の制御に失敗しても、即座に失敗を取り戻せるように……相棒に竜帝の核石のように新しい体に乗り換えられるようにしたいんだな。

 ガエリオンが良い事例だ。

 子ガエリオンの中に親ガエリオンが同居している。スイッチで直ぐに出てくるからな。

 一応は出ていられる時間があるらしいけど。

 言いかえればラトは相棒を竜帝にさせてあげたいんだろう。


「ま、その研究を完成させるついでに俺の頼んだ物を作り上げてくれれば良い」

「……侯爵には逆らえないわね」


 なんとも微妙な顔でラトは頭を掻いて頷いた。


「そう言えばドラゴンの核石……」


 ラフタリアが腰に下げていた袋を取り出す。


「なんだ?」

「あ、はい。師範と一緒に修行の合い間にドラゴン狩りをしていまして、これがお土産です。必要だと聞いたので。他の物は村の倉庫へ運んで置きました」


 と、ラフタリアは袋の中身を見せてくれた。

 中には竜の核石が大量に入っていた。

 ひーふーみー……かなりの数だ。

 どれだけ戦っていた訳?

 ドラゴン狩りとかしてたのかよ。


「じゃあガエリオンを呼ぶか」


 そう言う訳で、丁度研究所に顔を出したガエリオンを呼んだ。


「ふむ、これは大量に核石があるな」

「しゃべっ――」


 袋の中身をチェックしながら呟いたガエリオンを見て、ラフタリアが驚いている。

 そういえばまだ話してなかったな。

 というか、コイツはラースドラゴンの時、意図的に黙ってやがったし。


「ああ、ガエリオンは喋れるんだ。ほら、以前ドラゴンゾンビと戦っただろう? あれの生前がコイツだ」

「せ、生前……? ど、どういう経緯で生き返ったんですか?」


 適当にガエリオンについて話しておく。

 さすがのラフタリアもかなり驚いていた。


「これだけあれば、我も相当強くなるぞ」


 核石はドラゴンに取ってドーピングアイテムらしいからなぁ。一応は役に立つだろう。

 良い土産だ。しかも倉庫に色々と物を入れてくれたらしいし。

 後でイミアの叔父に武器防具を作って貰うとしよう。


「結構な割合で竜帝の欠片が混ざっている。これは助かる」


 ガエリオンがザザーっと袋の中身を頬張って一気に食べる。


「売ったら高く売れるんだから、もっと大事にしろ」

「ふんっ、その分我が強くなるのだから目を瞑れ」


 まったく、このヘタレ竜は……態度だけはデカイな。

 パアッとガエリオンが仄かに光を放つ。


「ふむ……ふむふむ」

「何かわかったか?」


 失われた竜帝の知識、主にLv100の限界突破の方法を聞き出せれば良い事この上ない。


「残念だが、今回の欠片には汝の欲する方法は無かったようだ」

「くそ!」


 手に入る情報がランダムだからか、中々当たらない。


「ただ……」

「ただ?」

「ドライファの上の魔法、リベレイションは勇者にしか使えないと言う事がわかったぞ」

「知っとるわ!」


 何故、俺が既に手に入れている情報ばかりが集まる。

 まあどっち道使い方を覚える必要がある訳だから、無意味とは言わないが。


「他に、前回の四聖勇者と前々回の勇者達は、波から生き残る事は出来ても勝つ事は出来なかったと言うのが思いだせたぞ」


 ん? 生き残る事は出来ても勝てなかった?

 どういう事だろうか? 生き残れれば勝ったような物だろ?

 試合に勝って勝負に負けた様な物か?

 やはり波の正体は不明だ。


「……四聖は絶対に殺してはならん……波を乗り越える事が難しくなる。おそらく七星であっても出来れば欠けさせてはならないようだ。そして、今回の波が最後だ。失敗は世界が滅ぶ」


 今回が最後……おそらく次の波が、では無く、俺が召喚されて戦う羽目になった波の全てを含めてだろう。


「そして四瑞は……」

「四瑞は?」

「思いだせん。欠片で思いだせたのはこれまでだ」

「そうか。少しは役に立ったな」


 なんだかんだで、欠落している情報を拾えるのはありがたい。

 欲しい情報以外にも、今回の様な思い掛けない話が聞けたりするからな。

 問題は何をすれば勝ちで、どうしたら負けなのか、だ。

 波からやってくる敵を全て滅ぼしたら勝ちなのか、それとも別の何かがあるのか。

 やはり、これからも核石を集める必要がありそうだな。


「他にクラスアップ補助が出来る数が増えた。させたい奴が居るならば、いつでも言うがいい」

「あいよ」


 俺はガエリオンに蛮族の鎧に付けていた核石を外し渡して、更新させる。

 ……微妙に鎧の能力が上がった。


「そう言えば、錬金術師よ。我の体を調べたかったのだったな」

「そうね」

「我も貪欲に強さを求める。機材が揃ったのならいつでも改造に参加しようではないか」

「谷子が騒ぐぞ」

「ウィンディアは気にせんでも良い。強くなければ守れる者も守れん」

「ラトはドラゴンの意識継承を参考にしたいんだと、出来る限り教えてやれ」

「とは言うが、息の吸い方を教えるような物だぞ?」


 む……的確な返答をガエリオンの奴がしやがる。

 そりゃあ難しいな。


「こっちで勝手に調べさせて貰うから良いわよ。そのついでに改造を模索してあげる」

「ふふふ、まずはフィロリアルの次期女王に勝つ強さを得ねばな」


 邪悪に笑うガエリオンだけど、ライバルがフィーロと言う所で底が知れるな。

 まあ、こんな感じでラトの研究所訪問は終わった。

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