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【今は昔】転生!かぐや姫【竹取の翁ありけり】 作者:七師

第1章「天照」

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卅漆.平安京1日観光ツアー

 雨はさらに2日ほど続いて、やっと晴れ間が見えた。といっても、まだ梅雨明けには遠く、梅雨の晴れ間の五月晴れだった。しかし、俺はこれを機会に以前からの計画を実行に移すことにした。


 題して、平安京1日観光ツアー。


 転生してからこっち、屋敷の外に出たのは上賀茂神社に行って天照に会った時だけだ。せっかく平安時代に来て、ライブの平安京が見れるのに見ないで過ごすという選択肢はない。しかし、貴族の娘がふらふら歩いて無事でいられるほど平安京は安全ではない。というか、以前一度外に出ようとして全力で止められた。


 (しかし、今の俺はあの時の俺ではない)


 男装して太刀を穿いていれば女性と思われることはないだろうし、たとえ襲われても馬鹿みたいな身体能力に加えて魔法チートをもってすれば、むしろ襲った方が可哀想なことになることは間違いない。留守番は、若干心配はあるものの式神に任せておけばいい。


 俺『さて。後はよろしく』

 式神『任せろ』

 俺『雪には絶対に迷惑をかけるなよ。かけたら紙に戻した後ビリビリに破るからな』

 式神『心配すんな♪』

 俺『墨だったら何をしても構わないから』

 墨「に゛ゃっ!!!」


 俺は墨を連れて庭に降りた。その姿は狩衣に指貫、太刀を穿いて烏帽子をつけていた。三羽烏を呼んで見つからないように門へと向かう。


 俺(それじゃ打ち合わせ通り)

 墨、三羽烏(アイ・アイ・サー)


 門に近づくと、墨と三羽烏が門番の気を引いて、その間に俺は身体能力の限界に挑戦して全速力で門を駆け抜けた。前回は夜だったから目立ちにくいものの今回は昼間なのでさすがにひやひやした。


 (やっぱり石ころ法師ほうしを手に入れるべきだな)


 石ころ法師とは、道端の石ころのように人の注意を集めない存在になるという法具で、法師の袈裟の形をしている。えっ? 青狸の持ち物でそんなのがあったって? そんな誤解だなぁ。何もやましいことなんてないですよ。まあ、立ち話も何なんであっちの部屋に行って話しませんか?


 ともかく平安京だ。俺は関東出身なので京都の地理には不案内だし、たとえ京都の地理に明るくても1000年前の街並みがどうなっていたかなんて知っているわけもない。だから、とにかく足の向くまま歩くだけだ。歩いている内に頭の中に地図ができるんじゃないかな。


 基本的な知識として、平安京は各辺が東西南北を向いたおおよそ真四角の都市だ。都市は道路でさいの目に区切られていて、東西の大路おおじやそれに区切られる区画を条、南北の大路やその区画を坊と呼ぶ条坊制じょうぼうせいで構成されている。北辺の真ん中が朝廷が置かれる大内裏だいだいりで、そこから南に平安京の中央を通る道が朱雀大路すざくおおじ、その突き当りが平安京の入り口である羅城門らじょうもんだ。


 住所の付け方は、まず朱雀大路を中心に東を左京、西を右京と呼び、その中を○条○坊と条と坊を用いて表す。さらに同じ条坊になる区画は小路こうじで4x4の16町に区切られていて、それぞれに番号が付けられている。


 人々の住居はこの町をさらに分割して建てられていて、上流貴族なら1町、その他の貴族は1/2町、一般の官人は1/4町、庶民は1/32町を住居スペースとして与えられた。ちなみに爺は俺がこっちに転生した後、年甲斐もなく昇進して貴族になったので1/2町の敷地に住んでいる。


 というあたりまでは事前知識として仕入れておいたのだが、実際に歩いてみて目につくのは側溝だ。それも意外に広くて深い。これは下水だ。梅雨の時期なので水が流れていて臭わないが、晴れが続いて水が枯れているときは結構臭いんだろう。


 道は結構広い。小路でも幅12メートルくらいあり、朱雀大路は幅80メートルもある。道を渡るだけで徒競走ができる。とは言え、貴族が多い区画はともかく、庶民が住む区画では小路に店を出していたり物を置いていたり、果てはなぜか大の字で寝ているやつがいて体感的にはもっと狭い。人の往来も多くて意外に混雑している。


 逆に貴族や官人が多い区画では、時折牛車が通って行く。貴族は基本的に外出の時は牛車に乗るのだ。牛車本体の幅は現代の自家用車と大体同じくらいだが、左右にお付きの人がついてまわるので、往来には自動車よりも幅を取る。側溝もあるので幅12メートルの小路というのは意外にちょうどいいサイズだ。


 ところでこうやって普通に解説しているが、実は俺は今、壮絶に浮いている。それもそうだ。俺の格好は結構いいところの貴族の坊ちゃんだ。烏帽子をかぶっているので元服しているとしても、背格好からつい最近元服したばかりの世間知らずに見えていることだろう。そんなのが牛車にも乗らずに徒歩でふらふら歩いて、あまつさえ貴族がまず足を向けることのない庶民の町を観察しているのだ。不自然この上ない。


 (なんか、みんな引いてるなー)


 庶民の区画を歩いているとあからさまに目を逸らして道を空けられる。超場違いな空気が充満している。変に関わり合いをもってとばっちりを食らってはたまらないという感じだ。


 (ちょっと立ち話なんて空気じゃないよなー)

牛車とはその名の通り牛に引かせる車です。平安時代には車を引く動物は馬ではなく牛で、馬車が使われるようになったのは明治時代だそうです。牛車は後ろから乗り込んで前から降りることになっていて、降りるときには牛を外して降りました。


牛車本体の幅は自家用車と同じくらいと書きましたが、実際のところ本体部分の幅と長さはそんなものですが、前に伸びた柄の長さや牛まで含めた全体の長さはもっと長く、また高さもずっと高いものなので、見た目は自家用車よりずっと大きいものです。


平安京の東西の大路を条、南北の大路を坊と呼ぶと書きましたが、東西の大路には何条大路という名前が与えられていますが、南北の大路には個別には何坊大路という呼び名ではなくそれぞれ名前が与えられているようです。

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