東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 社説・コラム > 社説一覧 > 記事

ここから本文

【社説】

年のはじめに考える 海に吹く風つかまえて

 東京電力福島第一原発廃炉への長い道。政府は工程表の見直しを去年の暮れに正式決定し、例えば使用済み燃料の搬出が最大五年、遅れることになりました。つくづく困難な道のりだと、あらためて実感させられます。

 それ以外にも大きな課題が二つ。一つは燃料デブリについて。メルトダウン(炉心溶融)した核燃料が、原子炉格納容器の底まで溶け落ち、冷えて、さまざまな形状に固まったもの。その取り出しは、四十年がかりという廃炉作業の最難関だとされています。

 政府と東京電力は、周辺の放射線量が1、3号機に比べて低く、比較的アプローチしやすい2号機から、来年中に搬出を始めることを決めていました。

◆1グラムからの遠い道のり

 ではどうやって取り出すか。検討内容の一部が明らかにされました。ロボットアームを使って、まずは一グラム程度を試験的に数回取り出してみたあと、徐々に量を増やしていくという方針です。

 デブリの量は2号機だけで約二百四十トン。1~3号機で約九百トンに上ると推定されています。一グラムから一歩ずつ。本当に気が遠くなるような道程ではないですか。

 短時間で人を死に至らしめる高線量のままの格納容器内、作業はすべて遠隔操作のロボット頼み、文字どおり手探りで進んでいくしかありません。

 昨年二月、未知の惑星の赤く荒れ果てた大地のような、2号機格納容器の底部。ロボットアームが初めて燃料デブリとみられる小石状の塊に触れ、わずかに持ち上げることができました。

 「八年かけて、やっとデブリに触れることができました。感慨深いものがある」

 原子炉メーカーの技術者のその時の感激ぶりが忘れられません。ほとんど触れただけなのに。

 もう一つは、汚染水。政府は、原発構内のタンクに今もたまり続けている、放射性トリチウムを含む汚染水の処理方法を、そのまま海に流すか、蒸発させて大気中に放出するか、その両方か、三案を提示しました。

 いずれにしても苦肉の策。風評被害を恐れる漁業者の猛反発は必至です。しかし、汚染水の処理が進まなければ、廃炉はさらに長引きます。廃炉費用だけで八兆円。工期の遅れなどがあれば、その程度では、収まりそうにありません。これほどやっかいで、お金もかかる原発に、なぜ日本政府はこだわり続けているのでしょうか。

◆もうお話にもならない

 「世界レベルでは原発なんて、もうお話にもなりません」。自然エネルギー財団事業局長の大林ミカさんは断言します。

 フクシマの衝撃で安全費用もかさみ、原発は急速にコスト競争力を失いました。一方、再生可能エネルギーは、風力や太陽光を中心に競争力を高めています。太陽の光も風も安全な上にただだから。

 中でも大林さんが特に注目するのが洋上風力発電です。海上に風車を立て、海風でそれを回して電気をつくります。

 国際再生可能エネルギー機関(IRENA)は世界の洋上風力の導入量は、二〇五〇年までに千ギガワット(大型原発千基分)に達すると予測しています。

 長い海岸線を持つ島国日本は、英国やデンマーク同様、洋上風力の潜在力が豊かな国。温暖化への危機感も募ってか、大手電力会社や外資が参入を進めています。

 東北電力は、青森県つがる市沖で出力四十八万キロワット、東電は洋上風力最大手のデンマーク・オーステッド社と共同で、千葉県銚子沖で三十七万キロワットの計画を進めています。北欧最大のエネルギー企業、ノルウェーのエクイノール社も日本オフィスを開設し、営業活動に乗り出しました。

 電力会社だけではありません。昨年清水建設は、五百億円を投じて高性能クレーンを備えた世界最大級の洋上風力発電施設の建造専用船(自航式SEP船)を発注し、話題になりました。

 ところが政府の導入目標は三〇年までにわずか〇・八ギガワット。原発一基分にもなりません。二〇年までに八~十五ギガワットという中国や二五年までに五・五ギガワットという台湾にも見劣りします。

◆原子力の呪縛を解けば

 この期に及んで原発(三〇年度に電源構成比20~22%)や、石炭火力(26%)を重視する国のエネルギー基本計画が、頭を抑えているからです。

 大林さんは指摘します。

 「これを外せば、民間の動きはさらに活発になり、海外からの投資も加速して、日本の洋上風力発電は一気に伸びる。温暖化対策も進みます」

 来年はエネルギー基本計画見直しの年に当たります。見直し作業は今年から。原発と石炭の呪縛を解いて、海風を呼び込まなければなりません。

 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報