大隅栄誉教授の最初の科研費採択は1982年度の「一般研究C」。ノーベル賞の契機となったオートファジー観察の88年に先立つもので、課題は「酵母液胞の生理・生化学的研究」だった。「研究の裾野を広く支援するのが科研費の一番の特徴」(文科省研究振興局)だ。
その後、応用向きのテーマなら別の研究助成や産学共同研究に進むが、基礎研究では科研費の他種目にステップアップする。運営費交付金由来の「個人研究費」は年数十万円と決して多くはない。そのため「私の研究のほぼ全てが科研費に支えられてきた」と、大隅栄誉教授は日本学術振興会発行の「科研費ニュース」で振り返る。
大隅栄誉教授への支援が急増したのは、科研費最大の種目「特別推進研究(特推)」に3度採択されたためだ。03―15年度の13年間で年1億円を確保した。
ライフサイエンス系は博士研究員(ポスドク)など研究室スタッフを多く抱え、それにより論文成果を積み上げる。ポスドクらの人件費を出せる高額研究費は大きな力となる。大学が受け取る科研費の間接経費も多くなり、優れた研究者は退職年齢を越えて雇用され、現場で活躍し続ける仕組みだ。
ただ、特推は新規採択が年15件ほどと少ない。著名研究者への支援へ偏りがちな現状を修正すべく、18年度に完全移行する全面改革では、「採択は原則1回」に変更する予定。「研究者の一世一代の挑戦を支援する」(同)ものとして、次のノーベル賞候補者の飛躍を後押しする。
(文=山本佳世子)
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国立大学の教授はさらに“研究貧乏”に。6割が年間50万円未満
明 豊
23時間前
個人的に政府のひもつきのお金はあまり好きではないが(いろいろ面倒)、独創的な学術研究、基礎研究はイノベーションの源泉であり、国別の論文量や引用率の低下を考えると、政府は「第5期科学技術基本計画」の中でしっかり手当していくべきだろう。科研費の件での大隅栄誉教授の言葉は本心であろうし、一方で以前から多くの課題も指摘されてきた。量の充実、質的な改革(審査システムを含め)は欠かせない。ただ公的資金をただただ増やすだけでなく、大学と産業界との連携も深化させないといけない。
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