なぜ日本のメディアは「無関心の構造」をどうにもできないのか

社会問題解決「3つの壁」

あなたは、メディアによって動かされたことがあるだろうか。

たとえば、買い物のような消費活動においては、少なからずあるかもしれない。しかし、社会問題を扱うような記事に触れたとき、はたしてどうするか。そもそも身近ではない問題だとしたら、読むことすらしないかもしれない。

仕事としてメディアにかかわっていると、どうしても「無関心」について考えざるをえない。無関心に関心を向けながら、情報を発信し、読者が社会について考えるように働きかける、というのはそう簡単なことではない。

ここで紹介する一般社団法人リディラバ/株式会社Ridilover(以下、リディラバ)は、社会問題の解決に立ちはだかる「興味が持てない(関心の壁)」「情報がない(情報の壁)」「関わり方がわからない(現場の壁)」という3つの壁を乗り越えるべく、8年間活動を続けてきた。

具体的にはスタディツアーやメディア運営、修学旅行・企業研修などを提供し、社会問題に対する関心の低い人から高い人まで幅広くカバーしてきた。たとえば、ツアーではこれまでに200以上の社会問題の現場を訪問。参加人数はのべ6000人にもなるという。

そんなリディラバがいま、クラウドファンディングサービス「READYFOR」を通じて新しいプロジェクトを打ち出し、1000万円以上の資金を集めている。社会問題を知るためのメディア「リディラバジャーナル」を立ち上げるというものだ。プロジェクト実行者・リディラバ代表であり、この新しいメディアの編集長を務める安部敏樹さんに話を聞いた。

一般社団法人リディラバ/株式会社Ridilover代表・安部敏樹さん
一般社団法人リディラバ/株式会社Ridilover代表・安部敏樹さん

まずは知ることから!リディラバ・大人のための学校を実現する!

https://readyfor.jp/projects/12735

無関心を打破する

安部さんは「そもそも論」が好きな人である。どんなテーマにおいても、前提を確認してから、的確で本質的なアクションをしようとしている。昨年出版された経済学者・竹中平蔵さんとの共著『日本につけるクスリ』でもこの国の諸々の課題について大前提の確認からはじまり、深くてヒリヒリした議論がなされていた。

この本でもメディアについては言及されている。たとえば、日本では「ジャーナリズムとは何か」の共通理解がないことやメディアの「独立」の重要性などが挙げられていた。

安部さんにとって、メディアとは何なのだろうか。

「メディアを考える上で、言うまでもなく活版印刷の登場は大きかったですよね。これにより情報の非対称性が解消され、多くの人が情報を得ることができるようになった。聖書が世界中に広まり、新聞が生まれて産業となり……結果として人の行動を変えていきました。近年でもSNSが登場したことで、アラブの春のように、人がアクションを取ることがあちこちで起きています。

メディアの本質は、情報を提供した先に、人の行動を変容させることにあると思っています。しかしながら、昨今のメディア環境はそうなっていないのではないか。情報を与えれば与えるほど、身動きがしづらくなっているようにさえ感じます。こういう現状でいいのか、という疑問がかねてからありました」

リディラバの「メディア」はこれまで人を大きく動かしてきた。スタディツアーであれば、ある意味、強制的に動かなければいけない。実際に社会問題の現場を見たり体験したりすることで、当事者意識を育んでいくというわけだ。また、「ラバーズ」という会員制度(月額1000円)があり、社会問題に対する無関心を打破することに共感する人たちのコミュニティがある。

ただ記事などの情報を提供するだけがメディアではない。たとえ記事を配信するにしても、表面的な事象でなく、原因からしっかり掘り起こしていかないと、人の行動を促すところまではいかないのではないか、という思いがあるという。今回立ち上げるリディラバジャーナルはいわば「スロージャーナリズム」を実現するメディアである。

日本でも少しずつ社会問題やその解決策を積極的に伝えるメディアが立ち上がっている。リディラバジャーナルもそうした流れに位置付けられるのかと思いきや、少し違うらしい。「こうしたメディアは社会問題に対する取り組みや人にフォーカスしており、読後感が非常にいい。しかし、問題のマクロ構造に変化を与えているかというと、現状そうではない。なぜかというと、特殊な事例を伝えている感じがするからです」。

リディラバジャーナルでは、マクロ構造に一般例・代表例を出したり、問題の本質をつかむための報道をおこなうことが狙いとのこと。将来的には調査報道のようなところまで展開していきたいと考えている、と安部さんは意気込む。権力監視に代表されるようにメディアの役割はいくつかあるが、「複雑化した社会を解きほぐす」ことにかなり比重を置くようだ。

「世の中が複雑化していくなかで、その社会を理解できないから、若者たちは無力感に苛まれ、何をどうしたらいいのか分からないでいる。だから、いま地図のような役割を果たすメディアが必要であり、それをぼくらが担っていきたい」

社会問題を発信するむずかしさ

リディラバでは2010年から社会問題に関するニュース・データベースサイト「TRAPRO(トラプロ)」を運営してきた。今回のリディラバジャーナルと重なるところもありそうだが、どうなのだろうか。

トラプロは当事者や支援者も課題について執筆できるメディアだった。リリース数日後には、摂食障害の女性が投稿した赤裸々な記事が、多くの人に届いたという。その当時、社会問題に関するサイトとして、摂食障害までは視野に入っていなかったが、SNSや検索経由でたどり着いた当事者にたしかに読まれていた。他方で、子どもの連れ去り問題について、離婚した男性から、子どもに会わせてもらえない、という内容の投稿があった。安部さんも面白く読んだという。

しかし――。当事者の立場によっても見方や感じ方が違う。法律的な問題も絡んでくる。記事を掲載するメディアとしての中立性はどうか。また、語れる人しか書き込まないという別の問題も浮上した。結果、誰でも発信できるのではなく、メンバーらが投稿するかたちへと移行した。

その後も別の課題に直面した。トラプロでやりたいことが、ソリューション・ジャーナリズムなのか調査報道なのか定まらないまま運営をつづけ、さらには事業モデルもあまり深く考えていなかったという。そうした状態だったため、毎日読んでもらうほどの記事の本数を出せず、社内のリソースも割けず……多々の反省や困難があったそうだ。

「社会問題の現場にいる人は、当事者も支援者もじつはあまり言語化できていません。当事者の場合、それが問題だと思っていないことすらある。支援者にしても、もやもやした違和感をもとに活動して、『問題が何か』と問われたときにうまく答えられないこともある。つまり、他者を説得するところまで至っていないんです。そうした状態のまま情報発信しても、人を動かすことはできない。トラプロでは、そうしたいくつものハードルを実感しました」

トラプロというメディアではむずかしさを実感。しかし、ツアーのほうはどうだろう。運営者としては、問題を構造的に捉え、現場の当事者・事業者と信頼関係をつくり、長期的にかかわりつづけなければいけない。貧困報道をはじめ、一部のマスメディアが社会問題を消費するように報道することもあるなか、こうした部分はリディラバの強みになるという。

ツアーで問題を知り、関心の近い人と出会い、問題の構造を知ったり話し合ったりできる。さらには、主体性のある具体的なアクションにつなげていく。マスメディアはここまでできないが、リディラバにはできるかもしれない。今回のリディラバジャーナル立ち上げには、こうした背景もあるのだ。

「大人の学校」をつくる

このメディアでは大きく3種類の記事を1日1本ほど配信していくという。

1 リディラバのツアー現場での取材をもとにした記事

2 社会課題解決の各分野のフロントランナーたちに、問題の構造を多面的に議論してもらった対談記事

3 リディラバ独自の切り口で取材する特集記事

記事を書くのは、当面は、多くの社会問題の現場を見てきたリディラバのスタッフたち。複雑化・構造化した問題を過度に単純化せず、読みやすく面白いかたちで出していく。というが、これがむずかしい。リディラバジャーナルは、自分の半径5メートルを飛び越えて、社会問題を考えるための「大人の学校」としての役割をイメージしていると安部さんは言う。

「日本では大学卒業後、多くの人は会社人になりますが、10代のほうがよっぽど社会のことを考えていると思います。社会を考えるためのメディアがないから、また、アメリカのように年を重ねてから大学に入るような学び直しをする人も少ない(しにくい)状況がある。

となると、いま大人の学校のような機能を果たせるのはメディアしかないのではないか。毎日数分だけでも記事を読む時間をとり、社会に対する理解を深め、アクションにつなげていく。大人の学校が機能しないかぎり、子どもは大人に最適化しつづけます。大人は仕事だけしていればいい、わけではない。メディアを通じて、かっこいい大人をつくっていくことが大事だと思います。

SNSで自分の知りたい情報だけを見ている状態は、非常に心地いい。それはそれでいいけれど、もっと考えませんか、と提案したいです。1日たった5分だけでいいから、社会について考える時間をいただきたい。社会に関心を持って深く知らないと、そのぶん他者に厳しくなるし、知っていればやさしくなれると思っています」

「無関心の打破」を目標に活動してきたリディラバにとって、そもそも「関心」とは何だろうか。安部さんは「時間」だと言う。自分の限られた可処分時間のなかで、どこに時間を使うのか、それを関心だと捉える。前述のように、リディラバはツアーを提供している。数時間~数日にわたり、現場を体験。その先には移住・定住し、数ヵ月~数年のスパンで解決にあたる人もいる。ただ、数としてはまだまだ少ない。

だからこそ、薄くとも関心を持ってもらえる絶対数を増やすことが重要になってくる。社会を考える時間を使ってもらうためのメディアがリディラバジャーナルというわけだ。ただ、トラプロでむずかしさを味わったように、立ち上げたあとにも課題が出てくるかもしれない。

https://readyfor.jp/projects/12735
https://readyfor.jp/projects/12735

理解と共感の両立を

「メディアとして社会(問題)について伝えるときに『社会とは何か?』『社会問題とは何か』といった問いをしっかり考えないで記事をつくるとブレてしまうでしょう。感情を前面にして伝えてしまうこともあるかもしれないでしょう。

しかし、リディラバは長く活動してきたなかで、問題を構造的に捉えてきた、という自負があります。メディアのプロではありませんが、社会問題のプロです。だから、メディアのスタンスや価値観に共感してもらえるように運営したいです。

感情でなく、理解を、やさしさを。煽りでなく、理解と共感の両立を。そうした価値観をともに育てていける人の時間をいただきたいと思います」

実際のところ、私たちは社会問題について考えていないのだろうか。そもそも社会問題とは何か? 安部さんは自治体で「課」ができたとき、ある問題は社会問題になると説く。また、社会問題がマーケットとしての体をなしていないことについても嘆きます。

「日本のGDPは約500兆円ですが、その約25%はガバメントマーケット、つまり広い意味で社会問題の解決に充てられています。しかし、なぜこれほどの規模があるのに、マーケットになっていないのか。それは、社会問題の構造を解きほぐす機能がなかったからだと考えます。その点が解消されれば、マーケットにつながることでしょう。

たとえば、獣害。役場で鳥獣被害(対策)課ができることで、はじめて社会問題となっています。この解決のためにハンターに予算をつけて解決しようとしていますが、構造的に見ていくと、里山の問題でもあり、人工林という林業の問題でもあり、中山間地域のコミュニティの問題でもあり、高齢化や後継者不足の問題までも含まれます。

こうして構造的に捉えると、マーケットとして大きいことが認識できます。ただ、問題の構造をちゃんと理解できる人が企業や行政にほとんどいません。日本でも世界でも、多額のお金をガバメントマーケットにつぎ込んでも、いまだ解決に至っていない問題は多くあります。

パブリックセクターが『課』をつくったとしても、縦割りではあまり意味がありません。そこを横串で刺していかないと解決に向けて進まないのです。また、実際には社会問題のマーケットは大きいので、非営利団体だけでなく企業ももっと参入すべきでしょう。だから、企業はCSR(企業の社会的責任)としてだけでなく、CSV(共通価値の創造)にまで踏み込んできてほしいです」

「公共性がある奴がモテる社会を」――というのは、安部さんのモットーのひとつ。ネスレでは、リディラバのツアー参加が入社インターンとしてすでに組み込まれている。この秋からは、津田塾大でツアー参加が単位になる予定だ。確実に社会問題を理解することの動機も増えてきている。社会問題にくわしいことがかっこいい、となる日も近いのかもしれない。

リディラバジャーナルは、クラウドファンディングで集めたお金や既存事業の売り上げを運営資金に充てていく。将来的には、メディア単体として課金の仕組みをつくることも視野に入れている。それでもまずは、読者に理念に共感してもらうことから、この挑戦ははじまる。

ニューヨーク・タイムズの社会問題に関するページ(https://www.nytimes.com/column/fixes)
ニューヨーク・タイムズの社会問題に関するページ(https://www.nytimes.com/column/fixes)

ソリューション・ジャーナリズムの手引き

リディラバジャーナルと多少関係するが、NPO・NGOの情報発信にかかわったこともある筆者は、海外メディアを研究するなかで、ソリューション・ジャーナリズムの潮流に魅力を感じていた。

たとえば、ニューヨーク・タイムズは「Fixes」というページを持ち、アトランティック・メディアは「CityLab」というメディアを展開している。そのほかソーシャルグッド文脈では、「GOOD Magazine」や「Fast Company」といったメディアもある。課金モデルで順調に成長しているオランダのコレスポンデントというメディアもドイツやアメリカに進出し、注目を集めている。

海外では「ソリューション・ジャーナリズム・ネットワーク」という非営利団体が存在し、過去にはハンドブックも作成・公開している。朝日新聞IT専門記者の平和博さんは、そのハンドブックを紹介する記事で、ソリューション・ジャーナリズムを実践することのメリットを取り上げている。

1:良質なジャーナリズム

解決への取り組みも含めた、より広い視野で問題をとらえることで、より正確で完成度の高い良質なジャーナリズムになる。

2:読者とのエンゲージメント(つながり)の向上

問題解決へのプロセスを示すことで、より読者の関心を引きつけ、ソーシャルメディアでの共有を促すことにもつながる。

3:インパクトを持つ

単なる両論併記ではなく、問題への様々な具体的アプローチを示すことで、社会的な議論を建設的に前に進めることができる。

出典:(格差、教育、犯罪...その問題に解決策はあるか:ソリューション・ジャーナリズムの手引き)

ひるがえって、日本ではどうか。

安部さんほど「無関心」に関心を持ち続けてきた人はいないだろう。メディアが抱える課題をそもそものところから深く悩み考え、未来を描きながら現実的なアクションを積み重ねてきた人はいないだろう。こうした取り組みが、同世代の手によってはじまることには、胸を熱くするほかない。

まずは知ることから!リディラバ・大人のための学校を実現する!

https://readyfor.jp/projects/12735