高齢者は運転免許証の返納で特典が受けられる?バス・タクシーの乗車券や商品券も

免許返納で特典が受けられる?バス・タクシーの乗車券や商品券も
近年、お年寄りが引き起こした交通事故の報道が増えています。年々交通事故件数が減る一方で、高齢者が引き起こす交通事故件数はさほど変わらないため、より目立つようになったことが一因に挙げられます。

高齢者が起こす事故の中には高速道路の逆走、歩道への進入、建物への突入など、危険なものが見られます。そのような事故では複数の死傷者を出すこともあります。高速道路の逆走は入り口や出口を間違えてUターンするケースが多く、これは通行区分違反に該当します。歩道への進入や建物への突入は、アクセルとブレーキの踏み間違いに起因する場合が多く見られます。この場合は運転操作不適に当たりますが、けが人が出た際は過失運転傷害の罪で処罰を受けたり、違反点数がついたりすることがあります。

法令違反別・年齢層別交通死亡事故件数(平成27年)
【参考】:特集「道路交通における新たな目標への挑戦」 II 近年の道路交通事故の特徴

高齢者と全年齢の平均で法令違反別に事故件数を比べると、通行区分、優先通行妨害、一時不停止、運転操作不適において高齢者の事故が多くなっています。特に運転操作不適の件数が突出して多く、いかに操作ミスが多いかがわかります。

免許返納で運転経歴証明書が発行可能

高齢になると運転に適さない身体機能になってしまったと自覚、あるいは周囲に説得されることがあります。その場合は、有効期限以内の運転免許証を返納し、運転免許の申請取消しを行うことができます。

運転免許を自主的に返納された方は、ご希望であれば「運転経歴証明書」を交付してもらうことができます。これは運転免許証と同じサイズのカードで、身分証明書としても利用できます。

免許を自主返納した人への優遇措置の一部

運転免許を自主返納されますと、公共交通機関の運賃割引のような優遇措置を受けられる場合があります。これは各自治体や企業、団体が行っているもので、お住いの地域によってサービスの有無・内容は異なります。

以下に全国にある免許返納をされた方への優遇措置の内、ごく一部をご紹介いたします。ご自分のお住いの地域で、どんな優遇措置が受けられるか気になる方は各自治体にお問い合わせください。

福島県 小野町

運転免許を自主返納した70歳以上の高齢者を対象に、商品券2万円分が交付されます。タクシー料金助成も同時に始めたとのことです。町内の移動に限り、800円を超過した分の金額を町が負担します。タクシー助成は身体障害者や妊産婦、70歳以上または免許を返納した全町民が受けられるそうです。

茨城県

いばらきコープ生活協同組合が商品の配達料を2年間無料にするサービスを開始。配達料の180円が無料となります。茨城県では各警察署と運転免許センター以外にも交番や駐在所でも自主返納手続きができるそうです。

埼玉県 杉戸町

町内巡回バス回数券60枚(5000円相当)が交付されます。運転免許証自主返納した65歳以上の町民が対象となります。巡回バスは公共施設や大型店などを網羅しているとのことです。

千葉県 我孫子市

市内のタクシー会社のタクシー利用券2,000円分と市内の路線バスが2年間半額で利用できます。県内の警察署や運転免許センターで自主返納の手続きをする70歳以上の方が対象です。

静岡県 沼津市

市内の65歳以上の免許自主返納者であれば、運転経歴証書提示によってバス・タクシー利用券がもらえます。この利用券は1枚5000円分となっています。

福井県 越前町

コミュニティバスの運賃が無料になるサービス。65歳以上の免許返納者であれば、10年間コミュニティバスの運賃が無料になります。

岐阜県 下呂市

萩原町の商店街のスタンプ会加盟店で押してもらえるポイントが、運転経歴証明書提示によって2倍になります。通常100円で1ポイントのところ、2ポイントになります。350ポイント貯めると500円分の買い物ができます。運転経歴証明書を申請する人が顔写真撮影を多く利用するようになったことで、サービスが始まりました。

大阪府 堺市

75歳以上の後期高齢者向けにタクシー乗車券(1人あたり500円券12枚)が進呈されます。申請には警察署や運転免許試験場にて免許返納の際に発行される「申請による運転免許の取消通知書」の写しが必要になります。

愛媛県 松山市

公共交通機関の乗車券(5,000円相当)の交付と温水プールなどの入場料割引が受けられます。乗車券は松山市在住の満65歳以上の方で、平成25年6月1日以降に免許証を自主返納した方が、施設使用料割引に関しては平成29年4月1日以降の申請者が対象です。窓口にて「交付決定者証」を提示する必要があります。

福岡県 福岡市

福岡市交通局が運転免許返納割をスタート。地下鉄全線定期券「ちかパス65」の購入者で運転免許を自主返納した人には半額分のポイントが贈られます。1か月6,000円で乗り放題になる定期券ですので、3,000ポイントがもらえます。1年間に2回まで、つまり計6,000円が得られることになります。

長崎県

居住地域の路線バスが定額で乗り放題になる「免許返納者パス」を県営バスが導入。免許返納者パスは長崎、伊勢早、大村の一部地域でそれぞれ地区別に販売。住まいの地域でのみ買うことができます。1か月券(税込み3,000円)と3か月券(税込み9,000千円)があり、利用期間は証明書が交付された日から1年間となっています。

大分県

大分市のタクシー会社、第一交通が運賃割引サービスを実施。運転免許を返納した高齢者が対象で、運転経歴証明書を提示すると運賃が1割引となります。同社のタクシーであれば、県内全域で利用が可能とのことです。

※これらは各地の優遇措置のほんの一部です。詳しくは各自治体にお問い合わせください。

優遇措置のメリット

地方では自宅から最寄りの公共交通機関までのアクセスが良くないといったケースは珍しくありません。そのため、自動車が生活の移動手段として重宝されています。自動車免許を返納し、移動手段がなくなってしまうと、多大な不便を強いられます。自治体としては自動車というインフラが使えなくなる代わりに、移動手段の一回的な助成を行うことで免許の返納を促す狙いがあります。そのような理由で、地方の免許返納の特典にバスやタクシー、電車の割引券や乗車券が多く見られるのです。

免許返納の優遇措置は自治体が予算を捻出して行っている場合もあれば、民間企業が自ら取り組んでいる場合もあります。自治体による優遇措置の場合は、企業に適宜お金が支払われるため、その分売上になります。中には、ふるさと納税の税収を予算の財源にしているところもあります。その場合は全国の納税者によって、町にお金が回っていることになります。

また、お年寄りが公共交通機関を使って出歩き、用事を済ませることで、家にいるよりも経済効果が生まれます。このように、免許返納の優遇措置には地域活性化の効果も期待できるのです。

各自治体では、優遇措置を開始してから返納にくる高齢の方が増えたという声が多く報道されています。有効期限付きとはいえ、5,000円や3,000円分の乗車券が手に入るということが、免許返納に悩む高齢者の背中を押す要素となっているようです。

免許返納のデメリット

免許返納を促すことによる短所はほとんど無いように思われます。挙げるとすれば、今まで出かけていた方の交通手段がなくなるため、出かける機会が減るということです。

しかし、軽度認知症の方が運転を止めた場合は、症状が進行してしまうことがあります。外出が減ることで刺激が減り、認知機能が急速に低下、そのまま症状が悪化するリスクが高くなります。軽度認知症と診断されたら、症状の進行を阻止するためにも、適切な食習慣、運動、コミュニケーションに対するご家族のサポートが必要です。

まずは話し合い、納得のいく形で返納へ

自動車は遠くへのアクセスを容易にしてくれます。私たちは通勤、買い物、通院、銀行や郵便局の利用、余暇活動などをすることができます。その充実度合いは暮らしの満足度に直接関わることです。免許を返納するということは、認知症と診断された場合や判断力・動体視力が落ちた状態では仕方のないことではありますが、本人にとっては大きなストレスとなることもあり得るでしょう。

また、運転に必要な能力が衰えてきている方の中には運転免許の申請取り消しを希望しない方もいるでしょう。しかし、周囲の人に勧められたことがきっかけで免許の返納をするのは、比較的よくあるケースです。頭ごなしに強要するのではなく、話し合い、納得してもらうことが大事です。そして、免許センターや警察署に赴いた際には、優遇措置を受けるのに必要な運転経歴証明書の申請をしてみてはいかがでしょうか。

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