それはサイバースパイ活動や大量のデータ漏洩、ソーシャルメディア上での偽ニュースの流布、そして中道派の大統領候補を攻撃するロボットが登場する物語だった。
だが、2016年の米国の大統領選とは対照的に、フランス大統領選は偽情報キャンペーンの力より、むしろその弱点を浮き彫りにした。
エマニュエル・マクロン氏は大統領選で勝ったが、同氏を標的にしたようなキャンペーンがほかの国で繰り返されるのはほぼ確実だ。英国の秘密情報部(SIS、通称MI6)は5カ月前、偽ニュースを利用しようとする組織的な取り組みがもたらす民主主義への脅威について警鐘を鳴らした。
■情報漏洩にロシアの痕跡
そうした懸念の先頭にくるのは、またしてもロシアだ。マクロン氏の選挙陣営は、ロシア国営メディアの「ロシア・トゥデー(RT)」と「スプートニク」のフランス語版を通じてマクロン陣営を中傷しているとしてクレムリン(ロシア大統領府)を非難し続けた。
サイバーセキュリティーの専門家によると、マクロン氏の政治運動「前進」からハッキングされた大量の文書が大統領選の直前にリークされた件にもロシアの痕跡がみられる。専門家の多くは、前進に対するサイバー攻撃は、米大統領選に介入したと批判されているロシアのハッカー集団「APT28」(別名ファンシーベア)と関係していると考えている。ロシア政府は一貫して、これらの選挙への介入を否定してきた。
選挙に狙いを定めた偽情報作戦は、なぜフランスで失敗したのか。ソーシャルメディアのデータを検証した専門家らは、さまざまな要因を引き合いに出す。
一部は構造的なものだ。フランスの大統領は国民から直接選ばれるため、特定の選挙区を標的にして結果に影響を及ぼすのが難しい。また、フランスのメディア界は、米国よりも伝統的なニュースメディアが情報源として支配的だ。
フランスの選挙に関係した80万件のツイートに基づき、英オックスフォード大学が先月実施した「コンピュテーショナル・プロパガンダ・プロジェクト」の研究では、「オルタナティブ」といわれる非標準的な情報源に基づくツイートは全体の20%にとどまり、60%近くが主流派の情報源に言及していたことがわかった。米国の選挙について同じ研究チームが実施した調査では、偽ニュースと主流情報の驚くような対比が明らかになった。主要激戦州のミシガン州では、その比率が1対1だったのだ。
情報機関関係者やセキュリティーアナリストらは、反マクロンの偽ニュース作戦は、文化的な不手際と戦術的なミスにも苦しめられたと話している。