この連載では、在庫回転率の改善ノウハウを公開しています。
弊社が不良在庫による倒産の危機を乗り越える過程で得たノウハウです。
在庫が増えて困っている方、資金繰りに困っている方、ぜひ読んで下さいね。

第1回:不良在庫で倒産しかけた弊社が、ユニクロより高い在庫回転率で復活した話
第2回:「1カ月で311万円」取り返し、ネットショップの資金繰りを改善した方法

前回の記事では、在庫回転率を改善するコツはとにかく余分な在庫を持たないことだという説明しました。
そして、余分な在庫を持たない2つの方法のうち不良在庫を一気に削減する方法について説明しました。

前回の記事の最後に、不良在庫を一気に削減しても翌月にはまた在庫回転率が悪化する可能性が高いという欠点があることを指摘しました。

今回の記事では、その欠点を補うことができる方法として在庫回転率の改善効果を持続させる方法を紹介します。
これが余分な在庫を持たない2つ目の方法になります。

それでは参ります。

なぜ在庫回転率の改善効果が持続しないのか?

在庫回転率の計算式は下記の通りです。

在庫回転率 = 売上高 / 平均在庫高
※平均在庫高 = (期首在庫高 + 期末在庫高) / 2
※月の在庫回転率を計算する場合、期首 = 月初、期末 = 月末
※年間の在庫回転率を計算する場合、期首 = 年初の月初、期末 = 年度末の月末

前回の記事で紹介した、不良在庫に絞り込んでセールを行い不良在庫を削減する方法の場合、セールを行った月の月末(期末)在庫高が小さくなる(計算式の分母が小さくなる)ので在庫回転率は向上します。

会計上、この月末在庫高はセール翌月の月初(期首)在庫高とイコールになりますので、ここまでは在庫を上手にコントロール出来ていると言っても差し支えないと思います。

問題はここからです。

ネットショップを運営しているとセール翌月も仕入れは続くわけですので、不良在庫を生み出さない上手な仕入れが出来なければ、結局、セール翌月の月末(期末)在庫高は増えてしまうことになります。

そして会計上、この月末(期末)在庫高はさらにその翌月の月初(期首)在庫高とイコールになり、その月もまた不良在庫を生み出さない上手な仕入れが出来ない限りは月末(期末)在庫高が増えてしまうということになります。

この繰り返しの結果、また不良在庫の山が出来上がり、在庫回転率が急降下してしまうのです。

下記の表は、弊社が運営しているベビー服ネットショップ『べびちゅ』の不良在庫セール前月から不良在庫セール2か月後までの在庫回転率の推移です。

不良在庫セール直前の月 0.7回転
不良在庫セールの月 1.0回転
不良在庫セールの1か月後 0.8回転
不良在庫セールの2か月後 0.76回転

この表からも、不良在庫セールは一時的に在庫回転率を改善する効果があるものの、不良在庫を生み出さない上手な仕入れが出来ない限り在庫回転率は悪化してしまう、ということがわかるのではないでしょうか。

それでは不良在庫を生み出さない上手な仕入れ方法を考えるために、まず不良在庫が生まれる理由を説明したいと思います。

なぜ不良在庫が生まれるのか?

仕入れを行う時、皆さんはどういう基準で仕入れ個数を決めていますか?
弊社が色々なネットショップの話を聞いていると、

「これは売れるはずだから多めにしよう」

という勘に頼った仕入れや、

「10個完売したから10個仕入れよう」

という同数仕入れを行っているネットショップがほとんどでした。

これらの例からわかるように、不良在庫が生まれる理由は仕入れ個数の決定に根拠らしい根拠がないからです。

同じペースでずっと売れ続ける商品は存在しません。
大まかに言うと、少しずつ売れ始め、売れ行きのピークを迎え、少しずつ売れなくなっていくという売れ行きの流れがどんな商品にも必ずあります

根拠らしい根拠を持たずに仕入れを行うのは、売れ行きの流れを無視して仕入れを行っているのと同じです。
このような仕入れが不良在庫を発生させてしまうわけです。

これから不良在庫が発生する仕入れパターンを説明しますが、その前に販売個数(売れた個数)や仕入れ個数を視覚的に捉える方法を説明します。

販売個数と仕入れ個数は面積で考える

下記のグラフは、商品の売れ行きの流れ(以下、売れ行き曲線と呼ぶ)を記したものです。
(クリックすると拡大します)

売れ行き曲線の内側の青色斜線の面積が、この商品の販売個数になります。
販売個数は売れ行き曲線の面積と同じだという考え方は、この先でも使う考え方ですのでここでよく理解をしておいて下さい。

また、仕入れ行為を行うタイミングは、必ず売れ行き曲線上のどこかのタイミング(赤丸)になることもご理解頂けると思います。

ここまでが理解できましたら、次のグラフをご覧下さい。
(クリックすると拡大します)

売れ行き曲線上のどこかのタイミングで仕入れを行った場合、赤色長方形で囲まれた面積が実際に仕入れた商品個数を表すことになります。

ここで重要なポイントは、仕入れ個数を表す赤色長方形の面積は、期間の長さで決まるということです。

分かりやすく言うと、何日で売り切るつもりで仕入れるかで販売個数が決まるということです。
これが仕入れで重要な根拠になります。

では、何日で売り切るつもりの個数かを意識せずに仕入れを行ういくつかのケースを参考に、不良在庫が生まれる様子を見ていきましょう。

不良在庫はこうして生まれる

次のグラフをご覧下さい。
(クリックすると拡大します)

このグラフは、売り始めの時期に「お、これはたくさん売れそうだ!」と思って、何日で売り切るかを考えずに仕入れを行ったケースを表現したグラフです。

このグラフの赤色斜線部分の面積が売れ残り個数になります。
しかし売り始めの時期に行った仕入れなので、何日で売り切るかを考えずに大量の仕入れをしたとしても(もちろん限度はありますが)青色斜線部分の面積でカバーできる可能性が高いと考えられます。
そのため万が一売れ残ったとしてもおそらく不良在庫として気にしなければならないような個数にはならないはずです。

さらに次のグラフをご覧下さい。
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このグラフは、どんどん売れていて社内が盛り上がっている時期に「よし!もっと売るぞ!」と思って、何日で売り切るかを考えずに仕入れたケースを表現したグラフです。

このグラフも赤色斜線部分の面積が売れ残り個数になります。
先ほどと同様に青色斜線部分の面積である程度は売れ残りをカバーできそうですが、赤色斜線部分の面積の方が大きいため売れ残って不良在庫になる可能性が高いと考えられます。

何日で売り切るかを考えずに仕入れを行ってしまうと、このようなケースで不良在庫が発生します。

次のグラフもご覧下さい。 (クリックすると拡大します)

このグラフは、売れ行きがピークの時期に「まだまだ売れるぞ!ガンガン行こう!」と思って、何日で売り切るかを考えずに仕入れを行ったケースを表現したグラフです。

このグラフも赤色斜線部分の面積が売れ残り個数になります。 ピーク以降は青色斜線部分がないので、売れ残りをカバーする手段がありません
ピークの時期に大量の仕入れをすることが、どれほど大きな不良在庫リスクを生むかがよくわかるのではないでしょうか。

最後に次のグラフもご覧下さい。
(クリックすると拡大します)

このグラフは、売れ行きが落ち着いてきた時期に「前にあれだけ売れたから、同じぐらい売れるだろう」と思って、何日で売り切るかを考えずに仕入れを行ったケースを表現したグラフです。

このグラフも赤色斜線部分の面積が売れ残り個数になります。
過去に売れた成功体験が頭に残り過ぎていて、売れ行きが下降トレンドであることに気付かずに仕入れを行うと、売れ残りが発生して不良在庫が生まれる可能性が高まります。

いかがでしょうか。
もし皆さんのネットショップで不良在庫が増えているなら、これらのグラフで説明したケースが実際に起きているということです。

では、不良在庫を出来るだけ発生させないためにはどうすれば良いのでしょうか。

不良在庫リスクを下げる仕入れ方法

先ほど、何日で売り切るための個数を仕入れるかという視点の欠如が不良在庫を生むという説明をしました。

ということは、今の仕入れタイミングが売れ行き曲線の上昇トレンドなのか、ピーク付近なのか、下降トレンドなのかを把握して、それぞれに対して最適な期間を算出し、仕入れ個数を決定すれば、不良在庫リスクが極小化されるということになります。

しかしこれは需要予測などの少し難しい話になってしまい、一般のネットショップが簡単に実行できることではありません。

そこで、『べびちゅ』では次のようなルールを決めて仕入れを行っていました。

毎月1~15日までの仕入れ発注 5~7日分
毎月16~31日までの仕入れ発注 3~5日分

『べびちゅ』では、当月仕入れた商品を当月売り切るために、月の前半は期間を長めにとり、月の後半は期間を短めにとるようにしました。
このルールは需要予測ほどの精度にはなりませんが、決めた期間で売り切ることができる個数を想像しながら仕入れるだけでも不良在庫リスクを低減することが可能です。

「それなら期間設定を1日にしたら不良在庫リスクがもっと低くなるのでは?」

と思う方がいると思いますが、それは例えば「明日この商品が売り切れるかどうかを予測しなさい」と言われた場合を考えてみると間違いに気付くはずです。

明日という1日で売り切れるか売り切れないかの確率は半々なので、これではギャンブルと同じになってしまいますよね。
1日よりも2日以上の期間で売り切ることを考える方が、ギャンブルとしてはリスクが低いというのは感覚的にもわかるのではないでしょうか。

期間を定めることには他にもメリットがあります。
下記のグラフをご覧下さい。
(クリックすると拡大します)

このグラフの赤色斜線部分の面積は売れ残った個数を表しています。

決めた期間で売り切ることができる個数を想像して仕入れた場合、仕入れ過ぎてしまうという事態に陥るケースはあまり起こらないと思いますので、この赤色斜線部分の面積は小さいものになります。
つまり、売れ残り個数が少ないということです。

次回の仕入れが青丸のタイミングだとすると、赤色斜線部分の売れ残り個数を青色斜線部分(青丸の仕入れタイミングより前に売れるはずの販売個数を表す面積)で吸収できれば良いわけですから、不良在庫になるリスクは更に低減します。

ここまでの説明で、何日で売り切るための個数を仕入れるかという視点を持てば不良在庫が生まれる可能性が下がるということをご理解いただけたと思います。

冒頭で説明しましたように、不良在庫を生まない上手な仕入れができれば在庫回転率の改善効果を維持することができますので、ネットショップの資金繰りは一気に改善していきます。

まとめ

いかがでしたか?

もしあなたのネットショップで不良在庫が増えていたり、資金繰りに困っていたりするなら、前回の記事と今回の記事を参考にして在庫回転率を改善して下さい。
弊社に出来たことですから、きっとあなたも出来るはずですよ。

この記事では、在庫回転率の改善効果を維持するための出来るだけ簡易な方法を紹介しました。
しかしこれではまだこの連載が目標にしている「在庫をコントロールする」というレベルには到達していません
当然ですが、この記事で紹介した期間の決め方では大きな誤差が出ることがあるからです。
そこで『べびちゅ』では、いくつかの工夫をしました。

次回の記事では、そのあたりの説明をしていきたいと思います。