「デイリーポータルZの読者が好きなんですよ。すごく。」林雄司
思い出す言葉
仕事ができない上司は、部下にとってチャンスなんです
マネジメントとして活躍されている方にふと思い出す言葉をお聞きする「思い出す言葉 」。今回ご登場いただくのは、Webメディア「デイリーポータルZ 」の編集長、林雄司さんです。
「デイリーポータルZ」はニフティ株式会社が運営するオルタナティブサイト。2002年にスタートして以来、「面白いだけかと思ったらちょっと役に立つこともある。これは役に立つかもと思って読むとそうでもない」という記事を発表し続けています。
そして「デイリーポータルZ」は熱心な読者が多いことでも知られています。「ネットのコミュニティを突き詰めるとリアルになる」という林さんの考えから、読者との交流会も開催しています。編集長、ウェブマスターとしてマネジメントに携わりながら、ライターとしても活躍する林さんは、「企画」が注目されることが多い方です。今回はマネジメントに関わる「思い出す言葉」と共に、仕事への思いをうかがいました。
――「思い出す言葉」は「では続きは林から」。過去にどのようなエピソードがあったのでしょうか。
林 僕が20代半ばの頃に上司だった人の口ぐせです。ビジョンも判断力もない、社内でも評判のダメな人。でも僕は大好きだったんです。一緒に打ち合わせに行くと、名刺交換をしてから10分くらい「上司トーク」をするわけですよ。最近の情勢は、御社のご活躍は、とか。打ち合わせとは関係ない話で場を盛り上げた後に、「では続きは林から」。肝心の仕事の話は丸投げでした(笑)。
でも僕は上司としては最高だなって思っていたんです。見た目は貫禄があって、ドラマに登場するような部長のイメージそのもの。取引先は「かっこいい部長さんが来た」って喜んでくれる。仕事の話はしないけど話術で盛り上げてくれる。会社の名刺役と思えばすごくよかったと思いますよ。
――「大好き」と言い切れる理由をうかがえますか。
林 弱々しいダメなところが好きなんですよ。よく仕事の愚痴を言ったり、役員にいじめられてぼやいたり。トラブルが起きたとき二人で顧問に相談に行ったら、その場で寝返って僕だけ怒られたこともありました。腹が立ちましたけど、今思えば、何て人間らしい人だろうと。それに僕みたいだなって思ったから(笑)。自分を否定するわけにはいかないでしょう。
――共感するところもあったわけですね。でも仕事をするうえで困ったこともありそうですが……。
林 ビジョンも判断力もないから、僕が提案したことは全部「いいね!」って言ってくれる。理想的な上司ですよ。仕事ができない上司は、部下にとってチャンスなんです。逆に、ビジョンも行動力もある上司は最悪。いいように使われちゃうじゃないですか。やりたいことがある人にとっては、仕事のできる上司のほうが困りますよ。「上司が決めてくれない」ってぼやく人もいますけど、そう言っている時点で他人を頼ってしまっているわけです。自分で決めちゃえばいいんです。
――現在はマネジメントをする側になりました。どのような基準でスタッフを選んでいますか。
林 デイリーに執筆していたライターを、編集者として採用しています。ニフティに入社して配属された人はいません。サイトのやりたいことをわかっている人、やる気のある人に入ってほしかったので。
採用するときの一番大事な基準は、会社員経験があること。社員として編集者の仕事をするなら、社内でうまく立ち回る必要があります。予算を確保したり、経理部とコミュニケーションを図ったりできる人がいいですね。僕は下手なんですけど(笑)。ニフティにいるメリットは、お金を使えることだから。人を上手に動かせることも大切です。記事を書くなら1人1本ですけど、人を動かせば記事をいっぱい生み出せますよね。
――記事を拝見していると、編集部員との距離の近さを感じます。
林 チームのことも言っておきたいですね。みんな、すごく仕事が早いです。会社をうまく使う、プラス行動力があるので、頼んでおけばやってくれる。「崖を探しておいて」「気象予報士を呼んでスナックをやろう」「底なし沼っていうテーマがいい」、こういう無茶振りが多いですけど、応えてくれます。言われたことだけじゃなくて、自分で企画を立てて進めることもできる。
すごいですよね。マネジメントをする側になってから、かつての上司の気持ちがよくわかるようになりました。周りのスタッフに弱さを見せて、助けてもらうのはありだなって。いいスタッフ に恵まれたと思います。Webメディアの編集部としては年齢層が高めなんですけど、一緒に年をとってきたから付き合いも長いわけです。