ラウンジャーに寝転がってコミュニティペーパーを読んでいたら、ページの3分の1ほどもある、若い、いかにも屈託がない5人のイギリス人の男女の写真があって、「Team Brexit」と書いてある。
なんじゃ、これは、と思って読んでみると、イギリス人は欧州の助けなどはなくても、ちゃんと健康にやっていけるのだということを世間に見せるためのランニング・チームだという。
ますます、なんのこっちゃ、だが、到頭イーストベイ・クーリエという最も豊かでリベラルな地域のコミュニティペーパーにまで、こんな記事が出てくるようになってしまったことに軽い衝撃を感じる。
Brexitは人種差別とは何の関係もない、という建前になっている。
大陸欧州との考え方の違いや大陸欧州的に硬直した官僚主義と、イギリス的価値は相容れないと述べているだけである。
Brexit支持者の主張であって、日本でも未だに人気があるモンティパイソンのメンバーも、同じ趣旨を述べています。
人種差別とは何の関係もないBrexitは連合王国の正式の外交方針になって、その結果、アジア人は路上で唾を吐きかけられ、ロンドンで生まれて育ったジャマイカ人は「国に帰れ」とクルマから叫びかけられる。
たいてい白い人しかいない夜更けの小さなスタンダップコメディクラブでは、中国人や日本人を嘲笑するネタが、ぐっと増えている。
80年代に日本人とみると、すれ違いざまに「自分の国へ帰れ、猿め」と述べたりするのは戦争を通じて日本人への憎悪を育んだ老人たちか、パンクなにーちゃんたちと決まっていた。
ことさら判りやすい扮装のスキンヘッヅがダブルデッカーの二階席で跳びはねながら、誰に向かってなのか「ジャップ、国へ帰れ」と、アホはアホらしく集団で床を鳴らして跳びはねていたのを最後に見たのは1991年ではなかったろうか。
舗道から眺めていたガキわしは、どうも、治らないよね、このわしらのビョーキ、人種差別は北海文明の本質なのではなかろーか、と子供らしからぬ諦念をもって考えていたのをおもいだす。
あの頃は専ら日本人が対象だったが、この頃なら、中国人が対象だろう。
あの剃りハゲたちくらい頭が悪ければ、どこかで頭の線がショートして、いつのまにか中国は日本に戦争を仕掛けて勝利したことになっていそうな気がする。
まだ日本が国として存在すると、わかっていないのではないか?
大統領選挙期間中、Steve Bannonがトランプ陣営で軍師を勤めているようだというニュースは英語人の眉をくもらせた。
バノン?
あのバノンかい?
飲んだくれの白人至上主義者。
他人種を絶滅させるというようなことになると、ますます働きがよくなる鋭敏な頭脳の人種差別主義者。
いや、人種差別主義者という言葉は正確ではなくて、もっと正鵠を期せば人種絶滅主義者だろう。
アフリカ系人などは根こそぎにしてしまえばよいし、アジア人は平べったい顔を見ただけで虫酸が走る、という絶対白人優越主義の伝道師バノン。
トランプがただの「おやじパリス・ヒルトン」から、もう一歩さらに危険な人物へ変貌したのではないか、という考えがみなの頭をよぎって、嫌な気持ちがした。
しかし、まさか、いくらトランプがバカでもバノンは極右への影響力を利用するために陣営に導き入れただけだろう。
「そこまでのことは起きるわけありませんよ。現実の世の中は案外と無事平穏にすすむものなんですよ。あなたはオーバーだなあ、わっはっは」なのは、程度は異なっても日本人だけではない。
西洋の人間もおなじで、最大の根拠は、いろいろあったのは事実だけど、世の中はまだ続いているじゃない。
心配しないでのんびり行こうぜ、ということであると思われる。
いままで大丈夫だったのだから、これからも大丈夫ですよ。
それに戦争みたいなものも二度の大戦から人類はたくさん学んだからね。
Steve Bannonが入閣した、というニュースは、おおげさでなくて、鈍器で頭を殴られるくらいの衝撃だった。
なあああーんとなく、それでも「海の向こう」のことであったアメリカのバカタレぶりが、他人事ではなくなって、自分の仕事の分野でも対処しなければいけなくなったのは、まさにSteve Bannonが入閣したせいだった。
背景のおおきな絵柄の政治的な事柄が市場に直截影響を与えるのは、80年ぶりというか、わしキャリアでは初めてです。
Bannon入閣のニュースでボーゼンとしているうちに、バノンはあっといまにNSC (National Security Council)、日本語でなんと呼ぶのかいま調べてみるとアメリカ国家安全保障会議を牛耳る地位についてしまった。
もう意図を隠さなくなった、というべきで、バノンの「世界を地獄の業火のなかにたたきこんで、その混乱のなかから白人種が世界の支配者として復活する」というヒットラー的な人種闘争の年来の信奉者であることを考えれば、自由に戦争という外交手段を操れるポジションにつくことは、ずっと前からの戦略だったのでしょう。
考えてみると、権力の働きという角度から考えると、要するにミャンマーでクー(クーデター)が起こって軍事政権が誕生したのと同じ事で、好戦性において、民間人と軍人の立場が逆転しているだけで、シビリアンコントロールが徹底した制度を逆手にとったバノンらしい妙手と言えなくもない。
むかし不穏な時期のオーストラリアのアウトバックに行こうと思って、近所のオーストラリア人に治安を聞いたら話の最後に「ぼっちゃんは白人だから大丈夫ですよ」と言うので、ぶっくらこいてしまったことがあった。
え?おっちゃん、いまもう90年代だよ?
もうすぐ21世紀なんだよ?
それで、白人じゃないと無事じゃないかもしれないの?
うっそおー、と思ったが、
今度、折りを見てモニとふたりでアメリカの中西部の田舎を旅行してまわって、いろいろな人と話してみようと思っているが、
90年代などはかわいいもので、いっそ30年代まで逆行したような雰囲気であるらしい。
21世紀になっているのにジョージ・タケイたちが、また日系人狩りが始まるのではないかと心配しているのは滑稽だと書いている人を見かけたが、アメリカ人が排外主義に走ったときの暴力性と徹底ぶりを肌で学習した世代にとっては、この白人至上主義が、日系人にまで及ばなければ、そちらのほうが不思議だと感じている。
もしかすると日本人が無事でいられるのはハワイとオレゴンとカリフォルニアくらいだけになってしまうのかもしれない、と不安な未来像を組み立てている。
Bannonのやり方や考え方をよく知っていれば、ムスリムバンは、別に徹底しなくてもよい、まして、テロ対策だなどとは発案者の当の本人が露ほども信じていないのは、誰にでもわかる。
彼が踏み出したのは、白人支配復活への戦略の第一ステップで、まず国内で騒擾を起こして混乱を起こすこと、だいたいみっつくらいの種類の騒擾を起こして、国内が昏迷していけば、その次は国外での騒擾で、国家主義的な「愛国心」を大規模に育てることを目論むだろう。
ターゲットは無論中国だが、バノンは、それこそ「ナチの手口」を、意味も判らずに使った日本の政治家とは異なって、長年研究を重ねてきているので、手強い敵は我慢しうるかぎり後において、取りあえず、油断している日本をターゲットにするつもりかもしれない。
ツイッタで、こりもせずに日本語で英語世界で行われている観測を述べたら、
「不安を煽るな」から始まって「ジャパンハンドラーが去ったので大丈夫です」
「世界2位と3位のGDPの国を破滅に追い込むなんて考えられない」
という人が案の定やってきて、すぐさま中止して、
「おかあさんは、死なないんだよね?」と母親の膝にすがりつく幼児を思わせるような日本のひとの、いつもの、「なにも悪いことは起こらない。絶対、絶対、起こらない」の反応を楽しむだけにしたが、現実から顔をそむけて、自分が心のなかに描いた暢気な書き割りだけを見つめて暮らせば、結局はどうなるかは1945年に日本を襲った徹底的な破滅の教訓が教えている。
トランプは、日本が安全保障上、完全にアメリカに依存していて、しかも政権はマヌケなことにアメリカが日本の利益を守るために行動すると盲信している好戦性の強い政権であることを見逃すはずがない。
トランプが、というよりもバノンが、ということになるが。
バノンという人は悪意と他人種への憎悪の炎のなかに立っているような人で、善意志などは鼻で笑う人だが、厄介なことに戦略的な勘と機敏な行動力には恵まれている人であって、NSCのまんなかに座らせてみると、破壊神が降臨したような、このくらい世界を破滅に追い込むことに向いたひとはいない。
イスラム人を入国禁止にして、なぜアメリカを分裂させるようなへぼな政策を初めに打ち出すのか、とヒョーロンカ的な気楽さで述べている人達がいるが、
スティーブ・バノンは分裂と混乱をこそ望んでいるのだ、ということを知らないのではないだろうか、と考える。
ヒラリー・クリントンが代表するようなエスタブリッシュメントによる安定は、バノンにとっては最も苛立たしい停滞であり、粘着して、アメリカ社会にこびりつくような富者の驕りにしかすぎなかった。
彼は破壊者であって、建設には興味をもっていない。
ワイフビーターでアルコール中毒なのは、よく知られているが、妻を殴ったりウイスキーを毎夜ひと瓶開けて怒鳴り散らすよりも有効な自己の解放を発見したバノンは、日毎、活き活きとした表情を見せるようになっている。
そして、念願どおり破壊の王の玉座に座った彼の手には、世界をなんども焼き尽くすだけの核兵器が握られているのです。