米連邦準備理事会(FRB)の今年初の利上げ──昨年、金融引き締めに転じてから2度目の利上げ──に驚きはなかった。すでに当局者らの発言で慎重に下地が整えられていた。
だが、予期されていたからといって、14日の利上げは賢明だったということにはならない。FRBは、かねて利上げの根拠を探していた。現状を不自然な低金利と捉え、もっともらしい引き締めの口実があれば何でも使うべきだとする考えだ。
このやり方の問題点は、データの過剰な解釈による早まった利上げにつながる恐れがあることだ。結局のところ、FRBの今回の利上げはそれだった。
トランプ次期米大統領が公約どおりに大幅な財政拡張を実行した場合、金融政策は引き締めが必要となる公算が最も大きい。だが、インフレ率が目標に達しない状態が長期化し、インフレ期待も依然弱い現状で、借り入れコストを高めざるを得ない十分な理由はない。しかも、トランプ氏に見込まれる政策に市場が反応した長期金利上昇とドル高により、すでに金融情勢は引き締まっている。
FRBはこれまでと同様、インフレ率上昇の見通しの根拠を実体経済、特に労働市場の拡大に置いた。だが、失業率の低下は続いているものの、賃金と物価の連鎖的上昇を示すデータは乏しいままだ。この数年来、まずまずの経済成長にもかかわらずインフレ率はFRBなどの予測を下回る状態が続いており、最大生産能力の推計は金融政策の指針として信頼できないことを示唆している。
財政拡張政策に基づく金融政策の再調整は望ましい。だが、トランプ氏のインフラ支出計画は不明瞭なままだ。トランプ氏は、投資の拡大なしに法人減税を行うことをうかがわせる発言もしている。今後の展開のあやふやな予想に基づいて借り入れコストを上げること、さらに来年の利上げについて示唆するのは早計だ。
■トランプ氏の態度先読み、賢明ではない
同じことは、トランプ氏がFRBに影響力を振るおうとするかもしれないことに予防線を張ろうとする努力についても当てはまる。そもそも、そのような圧力の方向性ははっきりしない。選挙戦では、トランプ氏はイエレンFRB議長の低金利政策を強く批判した。
だが、大統領に就任すれば、人気を高めるための高成長を求めて考え方が変わるかもしれない。トランプ氏は過去に「低金利派」を自称している。低金利を毛嫌いする不動産開発業者もほとんどいない。
したがって、FRBがトランプ氏の財政政策に対する姿勢、あるいはFRBそのものに対する態度を先読みするのは賢明ではない。もちろん、米連邦公開市場委員会(FOMC)の欠員を埋めるトランプ氏の人材起用についても同じだ。FRBは1990年代前半から、FRBの独立性をおおむね尊重し、公然と厳しく批判したりイデオロギー本位のメンバーで固めようとしたりしない歴代大統領に恵まれてきた。その終わりが訪れようとしているのかもしれないが、それに対して現時点でFRBにできること、あるいはすべきことはほとんどない。
FRBは利上げの引き金を引いた今、追い打ちは時間の問題にすぎないという印象を与えることを避ける必要がある。来年は3回の利上げという見通しの変更をためらうべきではない。
米国は来年、政治的にも経済的にも極めて不確実性の強い局面に入る。米国に必要なのは、不適切になるかもしれない既定の政策を押し通すのではなく、状況に応じて動く構えを取る中央銀行だ。
(2016年12月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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