CULTURE
ビールをクソみたいなものにした巨大企業と、僕はこう闘ってきた 告発 クラフトビールの雄「ブリュードッグ」CEOに直撃インタビュー「パンク起業家の頭のなか」
Interview with Katsunao Ishii (Courrier Japon)
ジェームズ・ワット
PHOTO: CHRIS RATCLIFFE / BLOOMBERG VIA GETTY IMAGES
「事業計画なんか時間の無駄だ」「始めるのはビジネスじゃない。革命戦争だ」……こんな文言の続くビジネス書が、いまベストセラーになっている。英国の人気クラフト・ビールメーカー「ブリュードッグ」のCEO、ジェームズ・ワットによる著書『ビジネス・フォー・パンクス』である。クーリエ・ジャポンはこのパンクなCEOをすでに紹介しているが、この10月、緊急来日したジェームズ・ワットにインタビューした。この男、本物だ!
──「クーリエ・ジャポン」では、「ガーディアン」紙に報じられたあなたの記事を翻訳して紹介しました。常識外れの起業家を称える記事でしたね。ブリュードッグは、2007年の創業からわずか9年で、クラフト・ビールの業界で最も成功したと呼ばれる企業になりました。あなたは何を大事にして、大きな成功にいたったのですか。
僕らが一貫して大事にしてきたのは、まず第1にビールそのものだ。僕らは、ビールに対して熱い思いがある。ビールは愛すべきものだから、ビールに対する人々の考え方を変えたいという強い気持ちを持っていた。
もう1つは、ブリュードッグの社員なんだ。最高のビールを作るだけでなく、社員にとっても最高の企業でありたいと思っている。
ビールと社員の両方にフォーカスすることで、迅速に事業を構築できたのだと思う。
──今回の本『ビジネス・フォー・パンクス──あらゆるルールを打ち破れ!』というタイトルも刺激的です。タイトルにこめた意味を説明してもらえませんか。
僕らのビールは、パンクのためにあると言い続けてきたんだ。パンク・ロックにおけるDIY(Do It Yourself=自分たちでやる)主義を、ビジネスに取り入れたかった。
既存のシステムを壊したかったら、僕らはそのシステムの外に生きねばならない。自分たちでできることは自分でしようと決意した以上、他の奴らに頼る必要なんかなかった。
パンクのミュージシャンたちが、自分たちのレコードを自費出版するのに必要な技術を学んだように、僕らも成功するのに必要な技術を学んだ。彼らは現状の外側に、また普通というものの外側に生きていたんだ。
僕にとっては、それがビジネス・フォー・パンクスの重要な核だ。現状の外側に、素晴らしいビジネスを作り上げた。
あまりにも多くの人々がルールに縛られている。でも、考えてみれば、思い浮かぶはずだ。やり遂げる方法が必ずある、と。それがイノベーションを得る方法であり、新しいアイデアを得る方法なんだ。
ビジネスの世界では、ルールに従いすぎることで、イノベーションを得られない場合がよくある。僕はずっと革新的で、人々を驚かせるようなことをやってきた。それができたのは、完全にルールを無視してきたからだ。
それに、こうすべきだという考え方じたいを知らなかった。会社を立ち上げる前、僕は深海トロール漁船の船長だった。どうすべきなんか、かいもく見当もつかなかった。とりあえず前を向いて、やりたいようにやってみたんだ。そうしながら、この会社の理念を作り出した。
英国のブリュードッグの醸造所にて
PHOTO: JEFF J MITCHELL / GETTY IMAGES
──会社設立の頃は、苦しかったでしょう。
最初の1年半は、その日をやり過ごすのに必死だったよ。とても暮らせないので、ブリュードッグとは別の日銭仕事もしていた。もう生活できない、と実家へ戻ったぐらいだぜ。お金は減る一方、それに借金は増える一方だった。本当に苦しい1年半だった。
スコットランド人は、僕らが作るようなビールをあまり好まなかったし、飲まなかったんだ。どんなに美味しいビールだと言っても気に入ってもらえなくてね……。それでも僕らは信念を曲げず、こだわり続けた。いいものを作れば、自分たちは大丈夫だという信念があったから。
──当時の資金状態は?
手持ちが3万ポンドで、銀行からの借り入れが2万ポンド、合計5万ポンド(約1200万円)。事業を始めるにはそれほど多くはない額だね。だから、創業1年目と2年目は、僕自身の給料はゼロだった。自分に給料が出せるのに2年半かかったよ。その頃はようやく従業員も20人になっていたけどね。
──今回の『ビジネス・フォー・パンクス』は、単なるビジネス書というよりも、イノベーターでありたいと考えるあらゆる人向けの本だ、というような書評がずいぶん出ています。あなたが支持を受けるのも、時代の反映でしょうか。
ビジネスのスタイルや環境は急激なスピードで変化している。10年や15年前ならば事業の成功に必要だとされていたようなことは、いまや必要とされない。自分に合ったやり方で事業を始めるしかないよね。
現状に従おうとするのでなく、勇気を出して信念を持ってオリジナルな事業を始める連中や、過去の慣例にとらわれようとせず、独自の道をいく連中がたくさん出てきたってことだよ。
──ブリュードッグの短い歴史のなかでも、伝統的なビール業界や、既得権益をもつ業界団体と、ずいぶんと対立があったようです。あなたはどのように過去の因習と闘ってきたのですか。
これは奇妙なことなんだが、僕らが会社をスタートさせるまで、業界の規制に反論したり、法律を変えようとしたりする人がいなかったんだよ。デカい企業に立ち向かう奴なんていなかった。僕らは、規制や法律なんて知ったことじゃなかった。ただ自分たちが信じるものを立ち上げ、オープンにやりたかっただけだ。
正直でいたいと思ったんだ。満足がいかないのであれば、システムを壊そうともしたよ。満足のいかないものをただ受け入れることはやめて、それを変えていこうと努力したんだ。
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