料金10倍!「要介護1、2の生活援助サービス」“全額自己負担化”で、払う額はいくら増える?

ニュース 2016/09/13
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
差し込み
厚生労働省は、「要介護1、2の生活援助サービス」を介護保険の対象から外し、原則として全額自己負担にすることを検討しています。保険適用のサービス範囲を狭めることで、介護の保険料増加や人材不足などに歯止めをかけることが目的です。

そこで今回、要介護1、2とはどんな状態をいうのかを始め、要介護1、2で受けられる家事援助サービスの内容、それが全額自己負担になった場合、支払い額がいくら増えるのかをご紹介。約30万人の高齢者に影響を及ぼす可能性があるとされている今回の制度見直しが、利用者またはその家族へ具体的にどのような経済的負担を強いるのか、お伝えします。

※この記事は2016年8月末時点の内容です

そもそも「要介護1、2」って?要支援との違いは?


要介護度は、介護サービスを必要とする度合いのことです。「要支援1~2」「要介護1~5」の7区分があり、「要支援」とは将来的に介護を必要とする可能性があり、6ヶ月以上掃除や料理など身の回りの世話の一部に支援を必要としている状態にあること。一方「要介護」とは、食事や排せつなど生活を営むうえで不可欠な動作、「日常生活動作」に介護が必要な状態が6ヶ月以上続いている状態を指します。

なかでも「要介護1」は、要介護状態のなかでは最も軽度なレベル。目安としては、食事や排せつ、入浴などといった「日常生活動作」と、立ち上がり、歩行などといった移動はほとんど1人でできるものの、不安定さが見られるため、部分的に介助が必要だったり、理解力が落ちたりしている状態を言います。

「要介護1」の人が介護保険を使って受けられるサービス


・週3回の訪問介護
・週1回の訪問看護
・週2回の通所系サービス(デイサービスでの食事、入浴など)
・3ヵ月に1週間程度の施設への短期入所(ショートステイ)
・福祉用具の貸与(歩行杖など)

そして「要介護2」は、要介護1よりも多くの介護を必要する状態。食事や排せつなどの「日常生活動作」に加えて、立ち上がり、歩行などの移動、掃除、身だしなみのなどの動作に何らかの介助や見守りが必要な状態を示します。

「要介護2」の人が介護保険を使って受けられるサービス


・週3回の訪問介護
・週1回の訪問看護
・週3回の通所系サービス(デイサービスでの食事、入浴など)
・3ヵ月に1週間程度の施設への短期入所
・福祉用具貸与(認知症老人徘徊感知機器など)

今回の制度見直しでは、この要介護1、2に該当する人々が介護保険で受けられる訪問介護サービスのうち生活援助サービスの料金を、利用者の全額負担とすることが検討されています。

「生活援助サービス」の内容が知りたい!


要介護に認定された人々が受けられる訪問介護サービスは、大きく分けて2種類。1つは「身体介護」、もう1つは「生活援助」です。

「身体介護」サービスとは、ホームヘルパー(訪問介護員)が利用者の身体に触れて行うサービスのことを言い、入浴や着替え、おむつ交換、排せつ、食事の介助などが該当します。これに対して「生活援助」サービスとは、ヘルパーが利用者の日常生活の手伝いを行うサービス。調理や掃除、洗濯、買い物といった家事に加えて、薬の受け取りも含まれます。

日本には、そんな「生活援助」サービスを受けることによって、自宅での独り暮らしや家族との暮らしが可能な要介護1、2の人々が、多く存在します。なかには、できるだけ自力で生活していくためにあえて「身体介護」サービスを受けず、「生活援助」サービスのみを受けているという人もいるでしょう。しかし他方では、「介護のプロであるヘルパーを家政婦代わりに使っている」という批判もあるのです。

「生活援助サービス」の負担額はこう計算されている!


介護サービスにかかる費用は、「単位」という方法で計算します。例えば生活援助サービスに必要な単位数は、20~45分未満で183単位、45分以上は225単位と定められています。

多くの市町村でサービス料は単位当たり10円程度で計算されているため※、20~45分未満の生活援助サービスを受けた場合には、目安として約1,830円の利用料金が発生します。しかし現在、生活援助サービスは介護保険の対象となり、自己負担額はその1割であるため、サービス利用者は183円だけを支払えばいいということになります。

※ 単位当たりのサービス料は時間帯や市町村によって異なるため、利用前に確認が必要です

負担額が10倍に!週3回の利用で負担額が24,000円/月以上増える!


要介護1、2の生活援助サービスが介護保険の対象外となり、全額自己負担になった場合には、利用者の支払う額は幾らぐらい増えるのでしょうか。

たとえば現在、要介護1、2の人が生活援助サービスを45分間利用した場合、1割負担なので

・225(単位)✕10(円)✕1割=225円

1回あたり225円の支払いとなりますが、全額負担になった場合は

・225(単位)✕10(円)=2,250円

となり、負担額が10倍になります。
計算すると、1回の利用につき約2,000円、自己負担額が増えることになります。

さらに週3回のペースで生活援助サービスを1ヵ月利用した場合、

・現行の制度   225(単位)✕10(円)✕12回✕1割=2,700円
・制度見直し後  225(単位)✕10(円)✕12回=27,000円 

となり、制度改定後には、自己負担額が1ヶ月あたり約24,000円分も増えることになります。

厚生労働省のデータによると、2014年度の国民年金の平均年金月額は54,000円、厚生年金の平均年金月額は148,000円。この年金額を見てみれば、生活援助サービスが全額自己負担になった場合、サービスを利用する一人暮らしの年金生活者に負荷がかかることは、容易に想像できるでしょう。

さらに、生活援助サービスを必要とする多くの人々が自宅で暮らせなくなったり、家族の負担が大きくなり、介護離職するケースが増えてしまうといったことも懸念されています。

軽度の要介護者への生活援助は、「地域支援事業」への移行を検討


厚生労働省は社会保障審議会で、要介護1、2の生活援助サービスの負担額見直しについて議論を続けていて、制度改正・実施については、早くとも2018年度からとなる見通しだとされています。

制度改正によって、介護保険の対象外となる軽度の要介護者への生活援助サービスについては、地方自治体による「地域支援事業」に移行することが検討されています。このことを踏まえて厚生労働省は、状況に応じて地方自治体へ補助を行う姿勢を見せています。

「地域支援事業」は、要介護状態になることを予防するほか、要介護状態の人ができるかぎり自立した生活を送れるように支援することを目的として、地方自治体が実施している事業です。

厚生労働省は2015年4月から、そのなかで新しい介護予防・日常生活支援総合事業をスタート。具体的には介護度が軽度の人のために家事支援サービスなどを提供していて、介護福祉士などといったプロではなく、研修を受けた地域の人たちが家事支援を担当しています。

利用料金は、従来のヘルパーなどによるサービスよりもやや低額となっていて、現在は介護認定が「要支援」の人のみ利用している状態です。厚生労働省は、2017年度中には同事業の全自治体での実施を目指していますが、介護サービスが部分的に地方自治体に委ねられることで、地域格差が生じてしまうことを懸念する声もあがっています。

まとめ


要介護1、2の生活援助サービスが全額自己負担となる今回の制度改正については、賛否両論があります。しかし増え続ける介護保険料や介護人材不足の現状を鑑みると、今後、利用者の負担増を避けるのは難しいと言えるでしょう。

生活援助サービスを始め介護保険制度の見直しは、私たちの両親や祖父母、さらに私たち自身の老後にも影響を及ぼすものです。今後もしっかり動向をチェックしていきましょう。

参考URL:
・「生活援助」介護保険外に?…人材・財源、見直し議論-yomi Dr.
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160614-OYTET50031/ 
・東京新聞:「要介護1、2」の生活援助サービス見直し 「介護保険の対象外」検討:暮らし(TOKYO Web)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/living/life/201605/CK2016051102000186.html 
・平成26年度厚生年金保険・国民年金事業の概況について| 厚生労働省
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000106854.html
・地域支援事業|東京の福祉オールガイド 高齢者|福ナビ
http://www.fukunavi.or.jp/fukunavi/eip/04korei/service/07sikumi/07_05chiikishien.html
・新総合事業 実施は18% 4月までには32%| シルバー産業新聞
http://www.care-news.jp/news/insurance/1832.html

関連ジャンル: ニュース

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「ニュース」の人気記事一覧

「総合」の人気記事一覧