アップル・FBI問題が終わらない―〝暗号法案〟でバックドア議論再燃
コメントする04/29/2016 by kaztaira
テロ容疑者のアイフォーンを巡るアップル対FBIの騒動は、FBIが「ロック解除」に成功し、3月末に裁判所への申し立てを取り下げたことで、ひとまず幕引きとなった、はずだった。
※参照1:アップルとFBI:アイフォーン「バックドア」問題はスノーデン事件から続くせめぎ合い
※参照2:アイフォーン「バックドア」問題は米EUの新プライバシー協定にどう響くのか?
※参照3:アップルとFBI:「暗号は人権のツール」国連高等弁務官が動く
By ☰☵ Michele M. F. (CC BY-SA 2.0)
だが、問題は舞台を連邦議会に移して、なおくすぶっている。
火だねは米上院の有力議員2人が4月半ばに公開した〝暗号解除法案〟だ。
裁判所の命令によって、暗号化されたデータを解除の上、提出することを義務づける内容だ。
暗号への「バックドア(裏口)」を法制化するような内容に、IT業界や人権擁護団体だけでなく、議会内からも反発の声が上がっている。
法案が成立する可能性は高くはないようだ。
だが、「暗号化データへのアクセス」を要求する声が、アイフォーン問題の幕引きで消えたわけではないことを、法案は強く印象づけている。
●裁判所命令順守法
〝暗号解除法案〟を発表したのは、政府の情報収集(インテリジェンス)活動を監督する上院情報特別委員会の委員長、リチャード・バーさん(共和・ノースカロライナ州選出)と副委員長のダイアン・ファインスタインさん(民主・カリフォルニア州選出)。
4月13日付で〝討議草案〟という形で一般公開されており、まだ法案として議会に提出されているわけではない。
「裁判所命令順守法2016」と名づけられた法案は、全部で10ページ。
情報もしくはデータに関して、正式な裁判所の命令を受けた全ての者は、適時に、当該の、判読可能な形での情報もしくはデータを提出しなければならない。あるいは、当該の情報もしくはデータの取得のために、適切な技術的支援をしなければならない。
具体的な技術についての記載は一切なく、「判読可能(intelligible)」という語句の説明の中で、「暗号化された情報もしくはデータが復号されたもの」との記述があるぐらいだ。
つまり、裁判所の提出命令がある情報やデータは、それが暗号化されていれば、暗号を解除して提出せねばらなない――とだけ定めた法案だ。
捜査とセキュリティ、プライバシーのバランスについても、具体的には触れられてはいない。
「いかなる組織、個人も法の適用を免れることはできない」とし、ファインスタインさんは法案の趣旨を声明の中でこう述べている。
私たちがまとめたこの法案は、裁判所が技術的な支援や暗号化データの提出を命じたら、企業や個人はそれに従うべきである、と定めているにすぎない。今日ではテロリストや犯罪者が、法執行機関の捜査を妨害するために、裁判所の命令があるにもかかわらず、ますます暗号を利用するようになっている。個人データを守るためには強力な暗号が必要だが、テロリストが米国人殺害の計画を立てているなら、それを知る必要もある。
さらに、4月27日には、両議員連名でウォールストリート・ジャーナルに、法案の趣旨を説明する投稿記事まで掲載している。
●IT業界からの手紙
渦中のIT業界は即座に反応した。
アップル、グーグル、フェイスブック、マイクロソフト、ツイッターなどが加盟する「リフォーム・ガバメント・サーベイランス」などIT業界4団体は連名で、4月19日、バー、ファインスタイン両議員宛ての書簡を公開した。
書簡では、「政府が暗号システムにおけるセキュリティの脆弱性を義務づけるようなことは避けねばならない」と指摘した上で、こう述べている。
法案は、デジタル通信やデータ保管を手がける事業者に対し、裁判所の命令によって、政府がデータを〝判別可能〟な状態で取得できるよう、義務づけるものだ。この義務化は、企業や利用者が暗号技術を使う場合に、その技術は第三者からアクセルが可能なつくりになっていなければならない、ということを意味する。そのアクセスは、悪人たちに利用される可能性もあるということだ。
そしてその悪人には、犯罪者や外国政府も含まれる、と。
ネットの人権擁護団体「電子フロンティア財団(EFF)」も、すでに特設ページを開設。地元議員に対して、法案反対の請願をするよう呼びかけている。
議会内から懸念の声は上がっている。
上院財政委員会の委員長なども務めたロン・ワイデンさん(民主・オレゴン州選出)は、ツイッターでこう述べている。
この危険な反暗号法案が上院の議場にきたら、私はフィリバスター(議事妨害)で応じる。以上。
●暗号と捜査の軋轢
暗号と捜査の軋轢は、クリントン政権の「クリッパーチップ問題」から延々と浮かんでは消えてきた議論だ。
1993年、当時のクリントン政権が電話機やコンピューターに「バックドア(裏口)」つきの暗号化チップ「クリッパーチップ(MYK-78)」を導入しようとし、大規模な反対運動の末に頓挫した。
昨年11月のパリ同時多発テロで、「スノーデン事件」のエドワード・スノーデンさんがCIA元長官らによる非難の的となったのも、暗号とバックドアのせめぎ合いが背景にある。
※参照:パリ同時多発テロで、なぜスノーデン氏が非難されるのか?
スノーデン事件によって暴露された情報監視活動を受け、アップルやグーグルなどのシリコンバレーのIT企業はこぞってサービスのセキュリティを強化した。
これに対し、米連邦捜査局(FBI)のジェームズ・コミー長官らを筆頭に、テロ・スパイ対策の一環として、暗号化された通信を解読できる「バックドア」の法制化を推進。
シリコンバレー企業はこれに反発し、オバマ政権に法制化阻止のロビー活動を展開した結果、「バックドア」法制化は10月初めに見送りとなった。
その巻き返しがアップル・FBIの「ロック解除」問題へとつながっていた。
今回の法案を巡る議論も、その延長線上にある。
ただ、ロイターが4月初めに情報筋の話として報じたところによると、ホワイトハウスは、この法案を支持しない方針を早々に決めたという。
成立の可能性は高くない、との見立てもそのあたりから来ているようだ。
とはいえ、「暗号バックドア」陣営も息が長い。
20年越しの議論が、そう簡単に雲散霧消するとも、思いにくい。
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※このブログは「ハフィントン・ポスト」にも転載されています。
Twitter:@kaztaira