休止半世紀…復活ならず廃線 西武・安比奈線の歴史
川砂利運ぶ貨物線 バブル期には車両基地構想も

2016/3/5付
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 埼玉県川越市内を通る貨物線が廃線になることが決まった。西武鉄道の安比奈(あひな)線だ。半世紀にわたり休止され、ひっそりと消えていく路線の足跡をたどった。

 本川越駅の隣駅の南大塚駅北口を出ると、フェンスそばの鉄道敷地内に運行中の線路とは別の線路が延びているのに気が付く。この線路は道路をまたぎながら、入間川に架かる八瀬大橋付近まで続く。これが安比奈線だ。南大塚~安比奈を結ぶ3.2キロの単線で、開通は1925年(大正14年)。入間川の川砂利を採取する目的で建設された貨物線だった。

かつて1日7~8往復の貨物列車が走った
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かつて1日7~8往復の貨物列車が走った

 開業当時は蒸気機関車が走っていたが、電化後の50年(昭和25年)に川砂利の輸送量が増加。西武鉄道の61年の社内報には最盛期は月産3万トン規模だったと書かれている。安比奈線で運ばれた川砂利が西武池袋・新宿線の道床や、西武百貨店の建設資材にも用いられたという。安比奈線に近い大塚新田地区の自治会長を務める牛窪邦男さん(68)は子どもの頃、安比奈線を不定期に走る貨物列車を眺めていた。「当時は国道16号も通っていなかったので、遠くからでも貨物列車が走ってくる様子が見られたんです」と振り返る。

 入間川での川砂利の採取規制が厳しくなると、安比奈線は63年に休止され、線路や架線の柱が残されたまま20年以上が過ぎた。再び脚光を浴びるのはバブル経済期の80年代。約20ヘクタールの敷地に300両を留める大型車両基地構想が浮上した時だ。

 西武鉄道は西武新宿線の混雑率緩和のため、車両基地と新宿線を結ぶ引き込み線として安比奈線を復活する計画を描いた。引き込み線には新駅を設けるとされ、90年代に埼玉県による環境アセスメント(影響評価)の手続きも進められた。沿線での宅地開発の期待感も高まった。ただ、車両基地の予定地の買収が難航するうちにバブル経済が崩壊。新車両の導入やダイヤ改正による本数増で混雑率も緩和し、車両基地構想は宙に浮いた。

 西武鉄道では武蔵境駅(東京都武蔵野市)と是政駅(同府中市)を結ぶ多摩川線もかつては砂利貨物線だった。西武鉄道の前身である川越鉄道の企画展を開いた川越市立博物館の天ヶ嶋岳さんは「安比奈線沿いは田畑が多い。首都圏郊外で宅地開発がぎりぎり届かなかった境目のような場所だったのではないか」と語る。

 現在の安比奈線は国道16号などの道路が通る部分は線路が無く、線路のすぐ横まで住宅が迫る場所も多い。住宅地や田畑の間に細く伸びる原っぱのような風景が、列車が走らなくなってから過ぎた長い月日を感じさせた。

住宅地の間を通り、敷地内に雑草が生えている安比奈線(川越市内)
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住宅地の間を通り、敷地内に雑草が生えている安比奈線(川越市内)

NHKの連続テレビ小説「つばさ」の撮影場所にもなった
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NHKの連続テレビ小説「つばさ」の撮影場所にもなった


■廃線風の線路、鉄道ファンに根強い人気
 廃線のような風景を手軽に見ることができるため、安比奈線は一部の鉄道ファンの間で根強い人気がある。ただ、線路内は立ち入り禁止だ。
 安比奈線は2009年のNHKの連続テレビ小説「つばさ」の撮影に使われたこともある。
 川越市の第3次総合計画実施計画(2015~17年度)で安比奈線について「車両基地建設に伴い、旅客線化及び新駅の設置を促進する」と盛り込まれている。市はこの内容を見直す方針だ。

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