SIerからWeb系への転職を考えるエンジニアは多いもの。クライアント企業に常駐して、大人数で大規模システムの一端を担うSIerと、小さな組織でサービスを作り続けるWeb系では、その働き方や求められる資質は、同じエンジニアとはいえ、正反対と言えるほど異なるものがあります。
それなのになぜ、SIerからWeb系へとキャリアチェンジをするエンジニアは後を絶たないのでしょうか?実際にSIerからWeb系への転職を成功させた2人のエンジニアに、転職に至った経緯を伺うとともに、SIerからWeb系への転職を成功させるための秘訣を探ってみましょう。
文系の大学を卒業し、新卒で独立系のSIer企業に就職したAさんは、クライアント企業のなかでチームの一員として、キャリアのログ管理システムや基地局の死活監視システム、証券系アプリのサーバーサイドなど、主にビッグデータ周りのシステム開発に携わってきました。SIerで働いた2年9ヶ月間に入った現場は計6つ。一度も同じ会社の人と一緒に働いたことはなかったと言います。
「よその会社でお客様に囲まれて働いていたので、休み時間も常に気が抜けず、ずっとお行儀よくしなければいけないという居づらさはありました。わからないことがあっても、気軽に聞ける人がいないので、自分でなんとかするしかない。毎週末のように本屋さんへ通い、一日中、喫茶店で勉強をしていましたね」と当時を振り返ります。
AさんがWeb系企業への転職を考えたのは、「そろそろ実力もついたので、やりたいことをやろうと思ったから」と、「末端で営業に振り回されるのが嫌になったから」という2つの理由が大きいと語ってくれました。
「SIerでの仕事は、自分のやっていることが、どんな人に使われて、どう喜んでもらえているのかが、見えにくかったので、自社サービスを持っているWeb系企業の方が、やりがいがありそうだなと思いました。当時、自分の単価がそれなりの額になっていたので、エンジニアとして実力もついてきたなと感じていた頃。そろそろ能力を高める目的ではなく、やりたい仕事をやってもいいかなというタイミングでもありました。また、ちょうど同じくらいの時期に、営業がクライアントに不義理をして、せっかく自分が現場で築き上げた信頼をふいにしてしまった。下流のSIerですと立場も弱く、そういう大人の事情に振り回されるのが、嫌になったんです」(Aさん)
約3ヶ月の転職活動を経て、Web系企業へ転職を果たしたAさんが今の会社に入社したのは、2014年1月のこと。今では同社のWebサイトの1つでプロジェクトリーダーをしています。
「SIerにいた頃は、小さなミスから生じた問題でも公的機関から警告を受けるミッションクリティカルなところでしたので、何をするにもガチガチでした。商用環境へのリリース作業ともなると、ものすごく分厚い手順書通りに、隣でサポートの人に確認されながらキーボードを打って、実行の許可が出たら、やっとエンターキーを押すみたいな。今のWeb系では考えられないですよね。最初にWeb系に来たときは、逆に『リリースしてからブラッシュアップしていく』というやり方への戸惑いが大きくて…。感覚が慣れるまでに、結構時間がかかりました。SIerとWeb系では、優先させるべきことがまったく違うんですよね。SIerでは確実性が最優先なのに対し、Web系では何よりもスピードが大事。本当はもっと時間をかけて、しっかり設計して良いプログラムを書きたいのに、会社の体制的に許されないというジレンマはあります」と言うAさん。
その分、歯車として正常に機能することを求められたSIerに対し、Web系は自分の裁量の幅が広いので、やりがいが感じられるのだと言います。
今の会社に入社を決めた大きな理由のひとつとして、「人事の人が会社について生き生きと語っていたから、きっと良い会社なんだろうなと思った」と話すAさん。実際に転職するにあたり何か対策はされたのでしょうか?
「特にしていません。Web系の言語を独学で勉強しても、実務レベルにはまず届きませんから。独学程度で“やれます”“できます”というのはあまり意味がない。履歴書や職務経歴書を書くときに大事なのは、とにかく正直に書くことです。話を盛ってしまうと、面接の場でボロが出ることもあるし、入ってからできないことがわかったら、『なんだ、口だけか』というレッテルを貼られて、結局つらい思いをすることになるので。自分の場合は、『Javaができるんだから、PHPも勉強すればすぐにできるようになるだろう』と思っていたので、スキル的な不安はありませんでしたし、書類や面接でもその旨を素直にお伝えしました。自分ができることを正直に提示して、“それでもよろしければ”というスタンスで、転職活動には臨んだ方がいいと思います」とアドバイスを送るAさん。
最後に、「SIerとWeb系には、それぞれまったく別の良い面と悪い面があります。同じWeb系のなかでも、技術に特化しているところもあれば、技術より事業の拡大を優先させるところもあるので、しっかり調査して自分にフィットする会社を見つけて欲しい」と話してくれました。
2002年からエンジニアとなり、汎用機の仕事をしていたというBさんは、COBOLを使いながら4年ほどSIerで働きました。地方自治体の住民票発行システムや、住基ネットの導入などを担当していたBさんは、その後、Web系の案件に入りたいと希望を出し、同じ会社内で異動を果たします。Web系では検索サイトやストリーミングサービスの裏側のシステムに携わっていたとのことです。そして2010年12月に、今のWeb系企業に入社しました。
以前の会社はいわゆるブラック企業で経営に不安があり、長くはいられないと感じていたというBさん。今の会社に転職した理由については、「以前の会社では、入社してすぐに人を管理する側に回されて、プログラミングをする機会が少なかったんですよね。エンジニアはマネジメントもプログラミングもできたほうがいいと思いますが、自分はマネジメントにシフトするのが早すぎたと感じていて。マネジメントをするにはプログラムが書けたほうが説得力が増すと思ったことと、新しい環境で、新しい技術を学んだ方が成長を見込めると考え、転職に踏み切りました」と語ります。
とりあえず「自分の市場価値がどれほどなのか」を調べてみようと、転職サイトに登録をしたBさん。20社ほど提案を受け、面接へ進んだ5社のうち、1社目で決まった今の会社へ就職することに。
「直近の1年間、プログラムを書いていなかったので、そこがやはり転職ではネックになると思っていました。でも『まったくやっていません』と言うのと、『品質管理はやっていたので、ソースを開いてチェックはしていたし、コードレビューもしていました』と言うのでは、印象が全然違う。自分のなかではどうでもいいと思うようなことでも、細かく掘り起こして、少しでもアピールにつなげる工夫をしていました」(Bさん)
SIerとWeb系では開発環境や開発スタイルが大きく異なります。使用する言語はもちろん、組織での働き方やセキュリティ・テストに対する考え方など、さまざまな点に違いがあり、知識・経験が足りていないのは当然のこと。
そこを心配しすぎると、面接官の目に“自信のない人”と映ってしまうため、わからないことはわからないと正直に伝えた上で、「SIerとしてどういう仕事をしてきて、何に重点を置いて仕事をしてきたか」「知識不足をカバーするために、これから勉強していく意欲」を伝える努力が大切なのだと言います。
「面接官は人を見ているので、落ち着きながらも熱心にアピールすることが大切。最初は大変かもしれないけれど、SIerでしっかりやっていればWeb系に転向しても数ヶ月で慣れるので、大丈夫です。自分も今の会社に入るまでCakePHPは1ヶ月しかやったことがありませんでしたが、入っていきなりCakePHPの案件に入っています。欲張っていろんな言語をやるよりも、ひとつの言語を突き詰めて理解しておけば、他の言語になったとしても必ずできるようになる。本を読むだけでは意味がないので、自宅でサーバーを構築するところから始め、実際にプログラムを動かしてみることをオススメします」と話すBさん。
若いうちにSIerに入り、ビジネスマナーや常識といった“社会人としての土台”ができた上で、Web系に転向したことは、キャリアとして成功事例だったと考えているのだそうです。とはいえ、「今までのやり方が正しいとは思わないほうがいい」とも語り、「勇気を持って、今までのやり方を変えられるかどうか」がWeb系で成功するためのポイントだと説きました。
お二人の話からも、SIerとWeb系では、ありとあらゆる面で大きな違いがあることがわかりました。ただひとつ言えるのは、「チャレンジしたい気持ちさえあれば、別業界だからといって、尻込みする必要はない」ということです。お二人の経験談を参考に、勇気と自信を持って転職に臨んでみてはいかがでしょうか。
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