以前「無料漫画アプリは紙の漫画の敵なのか?」という記事で、無料漫画アプリが紙の漫画に与えるプラスの影響についてお話ししました。
〉無料漫画アプリは紙の漫画の敵なのか?(前編を読む)・(後編を読む)
今回は、電子書籍のお話をしたいと思います。当然ですが、それまで紙で読まれていた漫画を電子書籍で読むようになったら、それは紙の漫画の売上にとってはマイナスになります。そのため、電子書籍は紙の漫画にとってマイナス影響しかないように思われます。
しかし最近、「電子書籍の影響で紙の漫画が売れる」というちょっと面白い現象が起きております。以下に具体的なケースを挙げてご紹介します。
夾竹桃ジンさんの漫画『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』は、新米児童福祉司の奮闘を通して児童虐待の闇に迫る衝撃作です。2010年から小学館「週刊少年サンデー」で連載を開始し、その後「少年サンデーS(スーパー)」に移籍、2013年に完結しました。
〉作品紹介ページ ―小学館「クラブサンデー」内
http://club.shogakukan.co.jp/book/detail-book/book_group_id/91/
2年前に完結した作品ということで、ここしばらくは市場にもほとんど在庫がなく、売上も数えるほどしかないという状態でした。しかしそんな『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』が、ある日突然再び売れ始めたのです。こちらのグラフをご覧ください。
▼『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』コミックス単行本第1巻の売上(日販 オープンネットワークWIN調べ)
急に売れ始めた原因を調べてみると、電子書籍サイトが作成したバナー広告で作品が紹介されたことが影響していると分かりました。皆さんも、パソコンやスマートフォンを使っていて、電子書籍サイトのバナー広告を見かけることが増えてきていると思います。もちろんその広告を見て電子書籍を購入する方もいると思いますが、書店で探して単行本を買っていらっしゃる方もたくさんいたのです!
ちなみに『ちいさいひと 青葉児童相談所物語』はあまり市場に在庫がなかったこともあり、多くの書店で品切れが続いておりました。しかしこの度、全6巻の重版がかかることになりました!ドラマ化・アニメ化でもないのに2年前に完結した作品に重版がかかるのは、異例の事態です。上のグラフでも重版が投入された10月10日以降、再び売上が大きく跳ね上がっております。今なら書店店頭でも購入しやすくなっているはずですので、興味のある方はぜひ探してみてください。
もう一つのケース『恋は雨上がりのように』をご紹介します。
眉月じゅんさんの『恋は雨上がりのように』(小学館)は、クールな性格の女子高生が、アルバイト先であるファミリーレストランの冴えないおじさん店長に恋をする物語。寡黙でクールな美少女と、まさか自分が彼女に好かれているなんて想像さえしていないバツイチ子持ちのダメ店長との関係が、非常に微笑ましい作品です。今年1月に第1巻が発売されて以来、売れ行きは非常に好調で、当サイト「ほんのひきだし」で発表した「2015年上半期で1番売れたコミック第1巻は何だ?上半期コミック第1巻売上ランキングBEST 50」でも第13位にランクインしております。
〉『恋は雨上がりのように』作品紹介ページ(試し読みあり) ―小学館「スピネット」内
http://spi-net.jp/monthly/comic014.html
こちらは『恋は雨上がりのように』コミックス単行本第1巻の売上のグラフです(日販 オープンネットワークWIN調べ)。
発売当初から売れていて、さらに口コミでじわじわと人気を伸ばしていた『恋は雨上がりのように』第1巻ですが、9月に入って一気に売上が跳ね上がっています。第3巻が発売された影響もありますが、実はこのタイミングで、電子書籍サイトのバナー広告で『恋は雨上がりのように』が紹介されていたのです。こちらは市場にも比較的在庫があったため、かなり大きく売上が伸びております。
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このように、電子書籍サイトのバナー広告の影響で、ほとんど売上がなくなっていた作品が重版されるきっかけになったり、既に売れている作品がさらに売れたりしているのです。ちなみに書店員さんでこの現象を掴んでいる方も多く、電子書籍サイトのバナー広告をチェックして、在庫がない商品は追加発注したりもしているそうです。
スマートフォンやパソコンを介してwebコンテンツに触れる機会が多くなることで、紙の雑誌や漫画を読む時間が奪われたり、電子コミックに読者が流れたりする側面はあると思います。しかし「無料漫画アプリは紙の漫画の敵なのか?」と同様に、今回の事例でも、多くの人の目に触れることで紙の漫画の売上が跳ねています。
これは、紙を好む漫画ファンはまだ根強くいて、まだまだ漫画には隠れたポテンシャルがあるということの証明でもあると思います。