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2015.10.3 SAT
TEXT BY LIZZIE WADE
WIRED NEWS(US)
Rainforest. Morning sunlight from Shutterstock
数年前、パナマのある研究室でスミソニアン熱帯研究所の植物生理学者クラウス・ウィンターは、10種の熱帯樹の苗を、測地学用の小さな温室に植えた。
いくつかは樹木の故郷の密林を模した26℃の温室で育て、別の樹木は人がやっと耐えられるほどの高い温度の温室で育て、さらにいくつかは人も耐えられないような高温下で育てた。ウィンターは、その環境に樹木がどのように対応していくかを調べようとしたのだ。
気候変動が進むとアマゾンは砂漠化してしまう、という悲惨な予言に慣れた耳にとって、その実験の結果は驚きだ。ウィンターの植えた樹木はほとんどが生き延びたのだ。それどころか、今日よりはるかに高い温度のなかで樹木はより速く成長し、より大きく生い茂った。高温のために育たなかったのは2品種のみ。それも設定した最高温度に耐えられなかっただけだ。
この結果を古生物学上のデータとつき合わせてみると、熱帯樹林にとってはむしろ高温の方が好ましいという考え方さえ成り立つ。なんといっても、その昔地球の平均気温が35℃だったころは、ミシガン州が熱帯雨林で覆われ北極圏にヤシの木が生えていたのだから。
しかしこれは、気象変動によって現在の熱帯樹林が何ら影響を受けないと言っているのではない。すでに影響は現れている。この実験結果からは決して、地球温暖化が深刻な問題ではない、などとは言えない。気候変動は間違いなくわたしたちの住む世界に終わりをもたらす。ただ、その後に別の世界が続くことを示しているのだ。
大量絶滅が起これば生態系に隙間が生じ、地球環境が変動すればそれに応じて新たな種が発生するだろう。やがてその新種が、予見しようのない自然淘汰の圧力を受けながらその隙間を埋めていく。そのとき、この世界がどのように変わっているかは、いまはまったくわからないし、その世界に人類が生き残っている保証もない。はたして、壮絶な嵐や海面の上昇、干ばつによる農耕の壊滅などの気候変動がもたらすあらゆる災害を、わたしたちの現代文明はなんとか凌いで生き残っていけるだろうか。それでも、ウィンターをはじめいくつかの実験結果から、光明は見える。
熱帯雨林が世界の気温上昇に適合していくには、長く厳しいプロセスが待っている。その間に消えていく種も多いだろう。それでも、「2100年になっても熱帯雨林は存在している」と、ユニヴァーシティー・カレッジ・ロンドンとリーズ大学の植物生態学者サイモン・ルイスは言う。しかも、現在知られている植物種の多くは、ウィンターの実験で見られた樹木をはじめとして、そのまま残っているだろう。
変わるものはといえば、これらの種の間に見られる関係性と、それぞれの種がエコシステムのなかで果たす役割であって、その結果、樹林の姿が変わってしまうのだ。「この変化を経て現れる新たな樹林の姿は、おそらくは今日の樹林とはずいぶん違っているでしょう」。ミシガン大学で熱帯樹を研究している進化遺伝学者のクリストファー・ディックはこう語る。
ウィンターの実験結果から、樹林の構造がどのように変化していくかのヒントが得られる。最高の温度環境でよく育ったのは、コーラルウッドの木 (Adenanthera pavonina)、イチジク属のフィクス・インシピダ、バルサの木 (Ochroma pyramidale) の3種だった。ウィンターが 「パイオニア種」 と名付けたこの3種はどれも成長が早く、空き地を見つけては繁茂して占領してしまう。フィクス・インシピダの戦略はさらに積極的で、最初は枯れ木に蔓のようにまとわりついて高く伸び、やがて生きた木にも蔓を広げてその木の成長を抑え込む。
こうした種は熱帯雨林を健全に保つために重要な働きをする。洪水や、古い大木が枯れ死して倒れるようなことが起きたときに、倒壊した古木を取り除くことで、森の再生を助けるのだ。
しかし、成熟した熱帯雨林であれば、これらの種のあとにさまざまな種が現れなければならない。それはより大きく、寿命の長い樹木であり、森を安定させ、昆虫や鳥、サル、蔓などを含む生態学上の要となって、何十年何百年にわたって生態系を支える。ウィンターの実験によれば、高温で最も大きな影響を受けるのがこうした「クライマックス種」だった。
つまり、クライマックス種の樹木は気温の上昇に伴って死に絶えるので、新たに置き換わることはない。「この先の熱帯樹林の将来を決めるのは、素早く広がっていく、動きの速い種の植物や動物たちが中心となるでしょう」とルイスは語る。それは、どこにでも根を生やし、あらゆる方向に蔓を伸ばすパイオニア種の樹木であり、成長が早くすぐに子どもを産み、また遠くまで走り回るネズミの仲間であり、森をひと飛びし、どこでも構わず巣をつくる鳥たちのことだ。
でも、こうした動植物はいまの熱帯樹林に生きる数多くの種のなかの、ほんの一部にすぎない。その他の大勢の種がいなくなれば、熱帯雨林はずっと単純な場所になってしまうだろう。
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