フリーランスが人を雇う際のステップと、注意するべきポイント
人手が足りなくなってからでは遅い?フリーランスが従業員を雇用する方法まとめ
とにかく人手が足りない、常に自分の右腕になってくれる優秀な人材を確保したい……。フリーランスのなかには、こんなことを考えている人も少なくはないでしょう。
実はフリーランスでも、パート/アルバイトのみならず、契約社員、正社員を雇うことができます。しかし実際、人を雇う際の手続きは煩雑なのも確か。
そこで今回は、フリーランスが人を雇う際のプロセスと注意点をご紹介します。
1. 人を雇いたいと思ったら、まずやるべきこと…
「大きなプロジェクトを立て続けに受注した!」
しかし喜びも束の間、フリーランス仲間で作業をシェアしようと思ったけれど、全員忙しくて人が確保できずに困った、なんて経験をした人もいるのではないでしょうか?
また「もっと会社を大きくしたい」という目標を持っている人もいるでしょう。
そんな時に頭をよぎるのが人を雇うということ。
人を雇うにあたっての大まかなプロセスは
①雇用形態を決める
②採用活動を行う
③雇用形態に応じて必要な書類を処理
④所轄の場所に提出する
となっています。
そのためにも把握しておかなければならないのが、
●雇用形態
●必要な書類
●書類提出場所
という3つの項目です。
それぞれをもう少し詳しく見ていくと、下記の要素に分けられます。
雇用形態
・正社員
・契約社員
・パート/アルバイト
・業務委託
必要な書類
・契約関係
・保険関係(社会保険・労働保険)
・税金関係
書類提出場所
・労働基準監督署
・公共職業安定所(ハローワーク)
・年金事務所
・税務署
といった要素に分けられます。
どれも、大体の内容は推測することが出来ますが、明確なところは分からない、という人もいるかもしれません。
また「そういう面倒なことは社労士(社会保険労務士)に任せればいいのでは?」という見方もあるでしょう。
しかしながら、フリーランスとして事業を展開していく上で、必要とあらば優れた人材を確保することと、労働環境を整えることは、必須の項目です。雇用のために必要な作業や一連の流れは、大まかにでも押さえておくようにしましょう。
2.ゼロから学ぶ雇用のプロセス
人を雇う時、まず考えなければならないのが雇用形態についてです。
調べてみると、ひとことで「働く」といっても、さまざまな形態があることが分かります。
主な雇用形態
- パート/アルバイト
- 正社員
- 契約社員
- 業務委託
これらの雇用形態は、それぞれどのような違いがあるのでしょうか?
パート/アルバイト 気軽に雇えるイメージがあるけど実際は?……
法律的には、正社員よりも週あたりの労働時間が短い人がパートタイム労働者とされます。一般的にも、短時間だけ働き、正社員の補佐的な役割を担うといったイメージがあるでしょう。
そのため、学生が学業の合間に働いたり、主婦が扶養の範囲で週に数回だけ働いたり、というケースが多いようです。
雇う側としては「人が足りないから、パートでも雇うか」と気軽に考えがちですが、いい人材が集まらなかったり、正社員などに比べて雇われる側も定着しないという問題もあります。
一方で、パートやアルバイトとして雇用されていても、長時間働き、業務内容やスキルについても、正社員とあまり変わらないケースも多く見られます。それでも正社員と待遇に大幅な差があるようだと、パートやアルバイトで働く人材側に不満がたまり、モチベーションが下がることにもつながりかねません。
正社員と契約社員 法律上の違いはひとつだけ
「採用時に正社員を募集したほうが良い人材が集まると判断した」
「自分が雇用したいと思った人材がローンを組む予定があるなどといった理由で正社員にこだわっている」
採用するにあたって、こういったケースもあることでしょう。
フリーランスが正社員を雇うことなんてできるんだろうか……?と頭を悩ませる人もいるかもしれません。しかし、実際には雇う側が個人事業主であっても、正社員を雇うことは可能です。
その場合、4以下で述べるような、雇用保険、労災保険手続き等を行うことが必要となってきます。
そもそも契約社員と正社員の違いは、法律上において「契約期間が定まっているか」という点のみにあります。
つまり、正社員であれば「契約期限が定まっていない=定年までいてもいい」、契約社員は「契約期限を決めて働いているので、契約が更新されないと辞めなくてはならない」と考えられます。
しかし実際には、契約期間を更新するケースも多いようです。
さらに昨年度、労働契約法の一部が改正され、有期労働契約が何度も更新されて5年以上を超えた時は、労働者の申し込みに応じて、無期労働契約に転換できるというルールができました。
契約社員は契約期間が定められており、会社の経営状況に応じて解雇しやすいというイメージを持つ人も多いようですが、この点は人を雇う場合、押さえておきたいポイントです。
業務委託 あくまでも社外の人
エンジニアのなかには、業務委託で働いている人も多くみられます。
これは、会社に雇われるのではなく、社外の人間として業務を遂行するという業務形態。法律上も社外の人、外注スタッフの扱いになります。
なので、個人事業主同様、社員とは異なり、労働基準法などの適用外となります。
3.お互いに気持ちよく働けるように~労働契約を結ぶ~
人材を採用したら労働契約書の準備を!
雇用形態を決め、採用を行ったら、まずは労働契約を交わすことになります。
これは口頭だけでなく、必ず書面で行うようにしたいもの。
※1労働基準法により定められている労働条件は、書面での明示が必要となりますので、労働契約書には以下の労働条件を必ず盛り込むようにしましょう。
労働条件(必須項目)
●契約期間
●契約更新の基準(契約期間に定めがあり、更新することがある場合)
●業務をする場所、業務内容
●業務の始めと終わりの時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、
休日・休暇、交替制勤務のローテーション等
●賃金の決定、計算と支払いの方法、締切と支払日の時期、昇給に関する事項
●退職(解雇の事由を含む)について
※1. 労働基準法第15条第1項より
http://law.e-gov.go.jp/
なお、事業主が下記にあたる定めを行う場合、労働契約書内での明示が必要です。
定めをしない場合においては、下記の項目は明示する必要がありません。
労働条件(特定の定めを行う場合)
●退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
●臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
●労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
●安全及び衛生に関する事項
●職業訓練に関する事項
●災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
●表彰及び制裁に関する事項
●休職に関する事項
のちのちの手続きに必須、法定三帳簿を作成しよう
人を雇ったら、
「労働者名簿」「賃金台帳」「出勤簿(タイムカード)」を作成しなくてはなりません。
これらは法定三帳簿と言われ、記載すべき項目も法律で定められています。
これらは労働保険の申請時にも必要となり、※2 3年間の保存義務もあります
他にも、雇用主と従業員の間で誓約書を交わすこともあります。
誓約書の内容は企業によって異なりますが、主に次のような項目が盛り込まれるようです。
誓約書の主な項目例
●就業規則を守る
●業務命令に従う
●個人情報・顧客情報を漏えいさせない_他
特にエンジニアを雇用する場合、業務上、機密情報や個人情報に触れる機会も多いため、情報管理については細かい規定や罰則を設けるのが一般的です。ここでつまずくと雇用主の信用にも悪影響を与えかねません。
社内業務を円滑に進め、情報漏洩を防止したり不正を抑止するためにも、雇用の前段階で交わしておきたいものです。
※2. 労働基準法第109条より
http://law.e-gov.go.jp/
4.雇用するなら押さえておきたい。保険(労働保険・社会保険)の知識
まず、労働保険と社会保険ですが、
- 労働保険…労災保険、雇用保険
- 社会保険…健康保険、厚生年金保険
に分類されます。それぞれの詳細を見ていくと
労働保険 労災保険/雇用保険
労災保険
【内容】
労災保険は正式には労働者災害補償保険と呼ばれ、労働者が業務や通勤が原因でけがや病気をした際に療養費用や休養費用を補償するためのもの。
【加入条件】
※3 正社員、契約社員はもちろん、アルバイト1名を雇用した段階から加入する必要がある。雇用する側の個人事業主は加入対象外。
※3. 公益財団法人 労災保険情報センターより
http://www.rousai-ric.or.jp/
【書類提出場所】
労働基準監督署、公共職業安定所(ハローワーク)
雇用保険
【内容】
労働者が失業した際に、一定期間の生活を保障する。
【加入条件】
1週間の所定労働時間が20時間以上で、かつ、31日以上引き続いて雇用される見込みのあるもの。雇用主は加入対象外。
【書類提出場所】
労働基準監督署、公共職業安定所(ハローワーク)
【必要書類・手続き】
労災保険の加入手続き
●従業員を雇用した日(事業開始)の翌日から10日以内に、労働基準監督署に「保険関係成立届」を提出。
↓雇用保険にも加入する場合
●上記同様、従業員を雇用した日の翌日から10日以内に、公共職業安定所(ハローワーク)に「雇用保険適用事業所設置届」を提出。
●加えて、従業員を雇用した月の翌月10日までに、公共職業安定所(ハローワーク)に「雇用保険被保険者資格取得届」を提出。
※4. 厚生労働省「労働保険制度」より
http://www2.mhlw.go.jp/
この際には、賃金台帳、労働者名簿、出勤簿もしくはタイムカードなどの添付書類を提出するため、手続きまでに準備をしておく必要があります。
社会保険…健康保険/厚生年金保険
健康保険
【内容】
業務外でのけがや疾病に対して、その医療費を補てんする制度
厚生年金
【内容】
労働者が老齢、障害、死亡といった保険事故により所得を喪失した場合、本人や家族の生活の安定を保障する制度。
↓以下、健康保険も厚生年金保険も、加入条件や書類提出場所、手続きは同様です。
【加入条件】
個人事業主が雇った常勤社員が5人未満の場合、任意で社会保険に加入することが出来ます。(その際、従業員の半数以上が社会保険の適用事業所となることに同意し、事業主が申請して厚生労働大臣の認可を受ける必要が有ります)
一方、個人事業主が雇った常勤社員が5人以上になった場合、社員は社会保険に強制的に加入させることに。常勤以外のパートタイマーでも、1日または1週間の労働時間および1カ月の労働日数が、通常勤務者(正社員)の4分の3以上の労働者は適用される。
【ポイント】
採用側の個人事業者本人は国民健康保険、国民年金に加入することになり、健康保険や厚生年金保険に加入することはできません。
【書類提出場所】
年金事務所
【必要書類・手続き】
従業員を採用してから5日以内に、「健康保険・厚生年金保険新規適用届」「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を提出。被保険者に扶養家族がいる場合は「健康保険扶養者(異動)届」を提出。
また個人事業主の場合は、事業主の世帯主全員の住民票の原本などを添付しなければならない。
【ポイント】
保険の加入書類はダウンロードして記入し、電子申請や郵送も可能。窓口に行く手間を省くためにも、上手に活用しましょう。電子申請や郵送については、日本年金機構のホームページに案内が記載されています。
人を雇う立場になったら必須、税金関係の手続きも!
従業員に給料を支払うことになったら、給料から所得税を天引き(源泉徴収)して、税務署に収めることが必要になります。
そのためには、従業員を雇ってから1カ月以内に、税務署に「給与支払事務所等の開設届出書」を提出します。
※5. 国税庁「給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出」より
https://www.nta.go.jp/
手続きを行うと源泉徴収した所得税を納付する用紙が送られてきます。
納付を忘れるとペナルティが課されてしまうので、くれぐれも要注意です。
【ポイント】
※6 源泉所得税は徴収した日の翌月10日が納期と定められています。しかし、給与の支給人員が常時10人未満である源泉徴収義務者であれば、年2回にまとめて納付できるという特例措置が受けられます。
こちらを申請したい場合、税務署に「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」も提出することになります。
※6. 国税庁「源泉所得及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」より
https://www.nta.go.jp/
最後に
いかがでしたでしょうか? 人を雇うということは、確かに手続きが複雑で、手間がかかるのかもしれません。
実際、従業員を保険に加入させるのをうっかり忘れていて、のちのち従業員が退職する時になって発覚したというケースも少なくはないよう。
その場合、遡って保険料を徴収されるほか、追徴金が課されることもあります。
さらに、会社の信用も下がりかねませんね。
事業に適した雇用形態を考え、社会保険もしっかり整備して臨めば、かけた工数に見合うだけのバリューを発揮してくれる可能性があります。
これを機会に雇用というハードルを超えて、個人事業主としてステップアップを図ってみては?
※本記事は、2015年9月時点での情報を基に執筆しております。
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