苦難に満ちた今シーズンを振り返って。ドルトムントファンとしての在り方
「つきみねさん、わたし、今季のドルトムント観るの辛くて。」
ビールを片手に普段はクールな彼女が低迷するチームに対する愚痴を呟き、黄金色の僕らを魅了するきらきらしたものを二人して飲み干す。
おそらく多くのドルトムントファンが多くの敗戦に嘆き、がっかりし、そしてまさかの最下位転落にショックを受けた方も多かっただろう。今季は多くの金銭を費やして選手を獲得したにも関わらず全く機能しないまま冬を迎え、なんとかしてウィンターブレイクまでたどり着いた有様だった。
かつてドルトムントを熱狂させた英雄の香川復帰に盛り上がるドルトムント界隈。そして復帰初戦のフライブルク戦のゴールという完璧なカムバック劇。まるで出来過ぎた情熱的な脚本だ「なんだ?ルールナハリテン紙が脚本書いてるのか?」と冗談交じりに思っていたがそれは転落の始まりでもあった。
シーズン前半ふがいないリーグ戦に僕らは打ちのめされ、一方チャンピオンズリーグでは快勝し朝から良い気分に浸る。そしてそれは精神衛生上非常に難しい。CLで快勝→リーグ戦で惨敗。このおかしなリズム。リーグ戦では明らかにドルトムントのやり方が研究され、そしてレバンドフスキを失った影響はあまりに大きかったことは誰の目にも明らかであった。全然勝てないままようやく勝利を収めたグラッドバッハ戦、試合後は歓喜と安堵と一抹の不安が入り混じっていた反応を覚えている。
後半のリーグ戦2戦目のアウクスブルク戦で厳しい敗戦を喫し、僕らの忍耐もいよいよ限界かと思われたが、ファンは一枚岩だったような気はしている。それはワッケ社長・ツォルクSDに対する信頼、そしてこの難局をユルゲン・クロップと共に乗り越えるんだという意思もツイッターからは感じられていた。もちろんクロップ監督は限界という反応もあったが、「クロップならなんとかしてくれる」という祈りにも近い信頼が僕にはあった。いいや僕だけじゃない。周りの多くのファンがそう思っていた。
光明
僕らにとって唯一といっていいほどの光はエースのロイスの契約延長である。何故こんなボロボロの状況、そして来季はCLに出場するのは難しいと分かっていながらも、バイアウト条項を破棄した新たな契約延長に踏み切ったのかはいまだに謎である。彼ならばマドリーにも行けただろう。あの契約延長はドルトムントファンの心に希望の灯をともし、ロイスがドルトムントファンの中で唯一無二の絶対的な選手になった瞬間でもあった。
2月末のシャルケとのダービーマッチではドルトムントファン同士で久々に観戦したが最高の試合で、オーバメヤンとロイスのバットマンのパフォーマンス、そして今季最も苦しんだムヒタリアンが身体ごと押し込むゴールで突き放す素晴らしい展開で、僕の隣で飲んでいたファンはムヒタリアンのゴールに涙を流していた。ファンにとっても彼の不調は自分のことのように辛かったのだ。
ユルゲン・クロップの退任
クロップ辞任会見のツイートが流れ始めたとき、なんとなく雰囲気で彼の辞任会見はおそらく本当に始まるだろうと思っていたが、本当に始まってしまいその時飲んでいた酒の味は無味無臭のように感じた。誰もが一つの時代が終わりを告げる時がきていると感じていたが、僕らはユルゲン・クロップと共に新しい時代を築いていきたいと望んでいた。
どうしようもない空虚感が漂っていたが「再びボルジグプラッツをパレードしたいね」という最後の一言。それが選手に再び火をつけたのは明らかであった。チームはその後息を吹き返し、クロップが最も手をかけていた香川とムヒタリアンも復調していきシーズン最終盤へ加速していく。
バイエルンに対する勝利
今季最も最後まで祈り続けた試合だった。ポカール準決勝のバイエルン戦はまさにドラマティックな結末であった。ランゲラクが何度も神がかり的なセーブを見せ、双方120分の死闘の後PKへ。PKはあまりにあっけない展開であったが、3本目、元ドルトムントのゲッツェのシュートを完璧に弾いた瞬間はまさに今季のハイライトといってもいい。印象的なシーンだったし、裏切り者のゲッツェとの対比、そしてランゲラクの献身が報われた瞬間だった。
PKをただ黙って見つめていたクロップ監督であったが、勝利が決まった瞬間誰よりも早くベンチを飛び出し歓喜の輪の中に走っていく。これこそドルトムントゲームだろう、僕は天を仰いで気が付いたら泣いていた。ポカール決勝、優勝できたら最高の幕切れだと。
おとぎ話の結末
ポカール決勝は周りの声にも押され観戦会を行うことに。30名ほどの仲間が集まったがこれは僕が開催してきた観戦会の類では最高の動員数であった。僕は試合が始まる前にファンの前でこう言った「今夜タイトルを取れれば、このクソみたいなシーズンも全部笑って終えることができます。そしてクロップ監督とケールにとって最高の幕切れだ」と。
試合は序盤にオーバメヤンのゴールで先制。その時のバーの狂気といったら言葉にはできない。あの場にいた人間のみに味わうことができる特権である。誰もが考えられる最高の結末を頭の中に想像することを始めていただろう。しかし試合は今季のドルトムントを象徴するようなあっけない守備崩壊。最後の最後に悪癖がでてしまい、失点を重ねるごとにバーの雰囲気は重みを増していき祈りも届かないような有様であった。
試合は終了したが、誰も席から立ち上がろうとはしなかった。いや立ち上がれなかったのだ。クロップ監督との別れが唐突に胸を叩く。去来する何かを各自画面にうつるうなだれる選手やクロップ監督を見ながら消化していたのだと思う。ほとんど声を発することもなかったが、セレモニーが終盤に差し掛かると少しずつ今季の健闘を称える声が聞こえてきた。その後クロップ監督は「勝っていたらアメリカ映画のようだった」とジョークを飛ばし、これで良かったのだとクロップ監督は僕らにそう言いたかったのかもしれない。
ファンとしての在り方
クロップ監督はホームでのラストゲームが終わった後「次の監督と比べるようなことはしてはいけない。幸せや可能性が狭まってしまう」という言葉を残している。クロップ監督の次は誰がやったって難しいが、結果が出なければ当然風当たりは強くなるだろう。
僕が言いたいのは、まずトゥヘルに時間を与えて欲しいということ。僕は短期的な成功は求めていないし、新たなプロジェクトは中長期的な観点でチームを育てて欲しいということ。気長にチームを見てもらいたいし、トゥヘルに実力がないわけではない。確かに大きなクラブでの指揮経験はないが戦術的な柔軟性、若手の抜擢、選手の起用などはクロップ監督とは違った魅力を持っている。トゥヘル監督をまず僕らが信頼しなくてはいけない。
そして僕らはビッグクラブのファンではない。常勝であったり、常にタイトルを獲らなくては気が済まないのならば今すぐドルトムントのファンを止めるべきだ。ドルトムントはそういった類のクラブではない。ブンデスリーガ2連覇したときはとにかく強かったが今は残念ながらそうではない。むやみに期待のハードルをあげないことをお勧めする。
けれどもそういった類じゃないクラブにも関わらず応援をするのは、このクラブの「感情的」な部分に魅せられているからだろう。毎年必ずどこかで観る者が心揺さぶられるドラマがある。そんな感情のジェットコースターに乗っているからこそ、もうそこからは降りられないのだ。癖になってしまっている。クソみたいな今季もなんだかんだ最後まで楽しめた。これで良しとしよう。
今季は最下位まで転落してしまったが、どこか楽観的に構えていた人も多かったように思えた「落ちるとこまで落ちたしあとは上がるだけだ」と。これがバルセロナのファンならば泡を吐いて倒れているだろう。僕らは試されていたのだ。良い時しか見てこなかったファンが勝てなくなったらどういう反応を起こすのか。そして応援することを止めるのかと。
忘れられない一言がある。今季下位に低迷していた頃長くドルトムントを応援している人が、飲みながら僕らに向かって笑ってこう言った「なーにあの経済危機の頃に比べたら、全然大丈夫大丈夫」と。あの一言がどれだけ僕の心を救ったのか、今振り返ってみると大きな一言だったなと思っている。
周りの多くのドルトムントファンはこの厳しい試練に勝った。これこそ僕らが今季得ることができたタイトルみたいなものだろう。辛く悲しいことがあまりに多かったが、見方を変えれば個人的には周りのドルトムントファンとの繋がりを強固にできたシーズンでもある。来季もよろしくお願いしたい。
「つきみねさん。わたし、今日の試合終わっても多分泣かないと思う」
試合前に二人で飲んだとき、白ワインを片手にクールな彼女はクロップ監督の別れについて呟き、透き通った僕らを魅了するきらきらしたものを二人して飲み干す。さっぱりとした白ワインの味だった。
しかし彼女は試合後、セレモニーで映し出されたクロップ監督の姿を見上げ静かに涙を流す。それはなんともいえない美しい光景で、彼女の透き通った感情があふれ出していた。
そして思うのだ。ボルシア・ドルトムントはなんて人々の感情を揺さぶるチームなのだろうかと。そして僕らはどうしようもなくこのクラブを愛しているのだと。
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