コンテンツマーケティングとSEOはこれからどうなる?―渡辺隆広×宗像淳【前編】「コンテンツマーケティング元年」を振り返る

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国内でも注目度が急速に高まっているWebマーケティング手法「コンテンツマーケティング」。その国内での普及を目指し、市場黎明期からコンテンツマーケティング支援を手掛けている株式会社イノーバと、SEOの観点から顧客のWebサイトの価値最大化をサポートする株式会社アイレップ。この両社が「共同メディア」として立ち上げたコンテンツマーケティングとSEOの専門メディア「The Content Marketing」が、オープンから半年を迎えた。それを機に、今回は両社の事業を牽引する2名を迎えて「コンテンツマーケティング元年」と呼ばれた2014年を振り返り、将来への展望を語ってもらった。

【後編】2015年はコンテンツマーケティング実践の年 ※近日公開予定


株式会社アイレップ 取締役 兼 SEM総合研究所 所長 渡辺 隆広(わたなべ たかひろ
株式会社アイレップ 取締役兼 SEM総合研究所 所長 渡辺 隆広(わたなべ たかひろ)

明治学院大学 国際学部 国際学科 卒業
日本のSEO黎明期である1997年よりSEOサービスを開始。2005年4月より株式会社アイレップにてSEM総合研究所所長を務める。日米欧の検索業界の市場調査、サーチマーケティング関連のソリューション開発、検索エンジン企業への事業展開アドバイスなども行う。
SEO分野での第一人者として多くの執筆・講演活動で活躍中。著作多数。
専門誌・サイトでも多数の連載記事を担当し、その高い専門性で人気を博している。
株式会社イノーバ代表取締役社長  宗像 淳(むなかた すなお)
株式会社イノーバ代表取締役社長
宗像 淳(むなかた すなお)

東京大学 文学部 卒業
ペンシルバニア大学ウォートン校MBA
1998年に富士通に入社し、北米ビジネスにおけるオペレーション構築や価格戦略などの広汎な業務を経験。
MBA留学後、インターネットビジネスを手掛けたいという思いから転職。
楽天で物流事業立ち上げ、ネクスパス(現トーチライト)で、ソーシャルメディアマーケティング立ち上げを担当するほか、事業開発部長として米国のベンチャー企業との提携をまとめた。
2011年6月に株式会社イノーバを設立し、代表取締役に就任。

【前編】「コンテンツマーケティング元年」を振り返る

<目次>

コンテンツマーケティングが注目された背景

宗像 渡辺さんとお会いするのは、今回が初めてですね。SEO(検索エンジン最適化)の最新の話を聞けるのではと、対談をとても楽しみにしてきました。

渡辺 こちらこそ、イノーバさんと当社(アイレップ)との間で取り組みがスタートして1年近くになりますが、こうした対談は初めてなので、コンテンツマーケティングに関する宗像さんの考えを直接うかがえる貴重な機会だと思っています。

宗像 さっそくですが、渡辺さんは最近、コンテンツマーケティングの世界的イベントである「Content Marketing World 2014」に行かれたんですよね。今回が初めてですか?

渡辺 はい。アメリカ北東部オハイオ州のクリーブランドで開催されたのですが、数百人くらいのイベントだろうと思って行ったら、公式発表によると2,500人から3,000人ほど集まったそうです。1日に6つから7つのセッションが同時開催され、それが4日間続くのですが、コンテンツマーケティングへの世界的な注目度の高さを改めて感じました。

宗像 日本では、今年(2014年)の初めに、雑誌『宣伝会議』2月号の「400社への調査で見えた。国内企業のデジタルマーケティング実態」という特集で、コンテンツマーケティングが今年注目のマーケティング施策の第2位に選ばれました。ちなみに、第1位は「オウンドメディアマーケティング」です。それで、日本でも今年は「コンテンツマーケティング元年」などと言われました。

私としても、コンテンツマーケティングという言葉が企業の間にだいぶ浸透してきていると実感しています。アーリーアダプター(新しい商品やサービスを早い段階で取り入れる人)への認知はすでに済んでいて、実践の段階へ進んでいる。そのような状況を、渡辺さんはどのようにご覧になっていますか。また、コンテンツマーケティングが注目され出したきっかけについても、お話しいただければと思います。

渡辺 コンテンツマーケティングが注目されるようになった一番大きな理由は、Googleが検索アルゴリズムを大きく変え、ユーザーにとって有益なコンテンツを持っているWebサイトを検索結果画面の上位に表示させるという、明確な方針を打ち出したことでしょう。ご承知のとおり、Googleは2011年2月に「パンダアップデート」を行いました。これによって、検索結果画面の表示に変動が見られ、企業側では検索エンジンからの流入を得るためには、コンテンツに力を入れるしかないと考え始めました。

この点、当社では「自然リンク」という観点からコンテンツ自体が必要という認識を持っています。誤解をしてほしくはないのですが、リンク(外部施策)が不要というわけではありません。外部施策は必要なのですが、Webサイトの構造をしっかり作る、Web標準に従ってマークアップをする、さらには品質の高いコンテンツを持つという内部施策も重要です。

2010年くらいまでは、有料リンク(外部リンク)を買ってくれば順位を上げることができたのですが、現在Googleがそのようなリンクを発見した場合には無効にするので、非常にリスクが高い。そのため、人為的に作られたリンクではなくて、ほかの人と共有したいと思って貼られるリンク、つまり「自然リンク」を獲得することが重要と考えているのです。

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宗像 確かにリンクを貼るという行為を考えると、多くの場合は、そのコンテンツを「誰かに教えてあげたい」「誰かに伝えたい」というのが理由になりますね。「Content is King」という言葉があるように、良いコンテンツがあることが前提というのは、我々も全く同感です。

渡辺 ソーシャルメディアの普及により、FacebookやTwitterを通じて良質なコンテンツを多くの人に届けることができるようになりました。その何%かの人が自分自身のブログやホームページにリンクを貼ってくれれば、それが自然リンクになります。

当社がコンテンツマーケティングに力を入れている理由は、パンダアップデートの存在はもちろん、今後のSEOの施策を考えていくうえで、そのリンクを得る手段としてコンテンツを提供すること、要するに「良質なコンテンツをユーザーに提供する代わりに自然リンクを得る」という仕組み作りが必要だと考えているからです。なお、アイレップとしてはもう少し以前からの、つまりはパンダアップデート以前からの取り組みもあるのですが、それについては後ほどお話ししたいと思います。

それでは、宗像さんがイノーバ創業時にコンテンツマーケティングを主軸に据えられたのは、どのようなきっかけだったのですか?

宗像 きっかけとしては、大きく3つ挙げることができます。まずは、「マーケティング」そのものへの着目。次に、「インバウンドマーケティング」「コンテンツマーケティング」という言葉との出会い。最後は、自分自身がコンテンツマーケティングを実践してみて、ビジネスにおけるその威力を実感したことです。

渡辺 なるほど。順番にお話しいただけますか。

宗像 最初の「マーケティング」への着目ですが、これは新卒で入った富士通での経験がベースにあります。地方の中小企業を訪ねたときに、せっかく良い製品を作っているのに、それを宣伝する手段がない、販路が開拓できないことに気づきました。その経験から、日本の企業はマーケティングに課題があるのではないかと考えるようになりました。

次のきっかけが、ネクスパス(現・トーチライト)というベンチャー企業で、ソーシャルメディアの企業利用について事業機会を探索していた2009年頃のことです。当時は日本でソーシャルメディアといえばmixiといった時代で、Facebookはほとんど知られていませんでした。

そのようなころに、アメリカでのソーシャルメディア動向、マーケティングへの応用などを調べていて、「インバウンドマーケティング」という言葉に出会いました。インバウンドマーケティングとは、役立つコンテンツを提供することにより、見込み客の方から「見つけてもらう」のを目的としたマーケティング施策です(※参考1)。ほぼ同時期に「コンテンツマーケティング」という言葉にも出会ったことから、実際にネクスパスでブログを書き始めました。そうしたところ、お客様から「読んでますよ」と反響をいただくことが増えて、受注につながるようになったのです(※参考2)。

※参考1 インバウンドマーケティングとは何か
※参考2 コンテンツ・マーケティングに取り組むべき8つの理由

渡辺 そのようにして、実践のフェーズに移られたわけですね。

宗像 はい。良いものを書けば自然リンクが貼られるし、アクセスの増加や問い合わせにもつながると実感できました。ブログはイノーバを創業してからも続けているのですが、その威力を肌身で感じるとともに、当初からの「日本企業にマーケティング力をつけさせたい」という思いもあって、コンテンツマーケティングを当社のサービスの中心に据えることにしたのです。

SEOの最新動向——オーサーシップ(著者情報)の表示廃止をどう見る?

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宗像 先ほど、「パンダアップデート以前からコンテンツについて取り組みがある」とおっしゃっていましたが、そちらについてお聞かせください。

渡辺 当社では、イノーバさんと業務提携をしてコンテンツマーケティングのスキームを作っていますが、それまでコンテンツを軽視していたかというと、決してそうではありません。10年くらい前に「ロングテール」という言葉がAmazon.comのビジネスモデルを例に注目されましたが、その頃から、「検索キーワードはもともとロングテールだ」ということを当社ではすでに認識していました。

具体的な例を挙げましょう。携帯電話の料金の格安プラン、いわゆるMVNO(格安SIM)というものがありますが、それを申し込む人がいきなり「MVNO」というキーワードで検索するかというと、そんなことはありません。おそらく、「格安 携帯」「格安 スマホ」などといろいろ検索をしていくうちに「SIM」という言葉にたどり着き、そこから「格安 SIM 比較」などで検索して、実際のサービス提供会社のページから最終的に申し込むことになります。

最近では、このようにユーザーがたどる経路を「カスタマージャーニー」と言うのですが、以前から「ファネル」という呼び方もされています。一般に、企業ではラストクリックだけに注目するけれども、当社はもともとファネルの上側・入口(認知段階のユーザー)に着目しており、これらに対してアプローチすればコンバージョン(成約・購入といった最終成果)を改善できるという考えのもとにサービスを提供しています。いずれGoogleがコンテンツを重視してくるということを見据えたうえで、SEOのサービス設計を行ってきたのです。

宗像 なるほど。根幹はコンテンツマーケティングやインバウンドマーケティングと同じですね。コンテンツを重視することを見据えたうえでSEOのサービス設計を行ってきたというお話でしたが、ぜひSEOの最新動向についてお聞かせください。例えば、Googleではオーサーシップ(コンテンツの著者情報)を重視すると言っていたのに、検索結果画面においてそれを表示しないことが最近報じられていますね。

渡辺 検索結果画面に表示されるWebサイトの説明文を「スニペット」と呼ぶのですが、そこにGoogle+ に登録してあるプロフィール写真が掲載されるようになりました。よく知られた人物ならクリック率が上がる可能性があるので、オーサーシップもきちんと対応していた方がいいという流れになったのです。

もう少し大きな観点から説明すると、コンテンツの品質を評価するにあたり、「コンテンツ(文章)そのものを評価する方法」と「第三者の評価を使う方法」とが考えられます。ここでいう第三者とは自然リンク、(Googleは明言していませんが)検索クエリの需要や数量の変化、Google+ で共有ボタンが押された回数などです。それに加えて、そのコンテンツを書いた人の評価(誰が書いたのか)も重要です。なぜなら、過去に優れた論文を書いた人の新しい論文は、ある程度の質が担保されているはずだと推定できるためです。このような観点から、「誰が書いたのか」が重要となるわけです。コンテンツマーケティングやSEOは、良いコンテンツを作り続けていれば間違いないというひとつの土台はあるのですが、それ以外について予測するのは難しいと言えます。

宗像 Googleがいつ、どのようなアップデートを行うかは予測できないので、検索結果画面での表示が廃止されても、Googleからコンテンツの品質を評価されるにあたって、著者情報は依然として重要であるということですね。

渡辺 予測できないという点では、コンテンツを作成する過程でGoogleが理解しやすいように、文字列に意味を与える構造化データを作った方がいいのではないかということも、以前から言われています。ただ、私個人の考えでは、それが浸透するのは10年くらい先になるのではないかと思います。

検索情報は企業のマーケティングにとって「宝の山」

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宗像 SEOについて考えていたときに非常におもしろいと思ったのが、ユーザーが検索している情報をGoogleが開示してくれることです。こんなに貴重なユーザーデータやリサーチデータはなかなか手に入りません。まじめにマーケティングに取り組んでいる企業にとっては、この検索クエリ(検索するときにユーザーが入力する単語)を毎日見て、その単語がなぜ検索されているのか考えないとダメなんじゃないかと。人が何を探しているかがデータとして可視化されていて、それを利用できることはマーケティング的に非常に有効です。今まで自分たちの顧客がどこにいるかが見えなかったのが、見えるようになったわけですから。活用次第では、海外へ事業展開することだって可能です。

私は、Googleがコンテンツ重視を打ち出しているのは、SEOを一般的なものにしている側面もあるのではないかと思っています。従来は、リンクを買うイコールSEOのような風潮があり、SEOを学ぶこと自体がテクニカル過ぎて極めて難しかった。ところが、キーワードを分析したり、コンテンツを作ったりするのは、エンジニアではない文系人間でもできますからね。コンテンツを強化することがSEOにもつながるという、正しいWebマーケティングの考え方が広まるといいなという思いがベースにあります。

渡辺 先ほどソーシャルメディアの話題が出ましたが、ユーザーが情報にアクセスする手段として、2000年代は検索が主流でしたが、2010年代以降はソーシャルメディアの存在が大きくなったと思っています。検索の場合、情報を発信した後、実際にユーザーが自分のWebサイトに来るまでにタイムラグがありますが、ソーシャルメディアにはそれがない。見出しや最初のリード文でユーザーが興味を持ちそうなもの、クリックしたくなるようなものを出せば、ユーザーをすぐに集められるようになったのが、大きく変わったところですね。

宗像 SEOやリスティング広告というのは、ある意味、Googleが探し当てた「宝の山」ですよね。検索エンジンを作り、検索に連動した広告を作ったことで、購買意欲の高い見込み客が集めやすくなり、企業にとってはビジネスをしやすくなったと思います。

その一方で、さまざまな企業にコンテンツマーケティングの話をしながら、ひとつジレンマだなと思うのが、時間に余裕のあるユーザーたちがソーシャルメディアでシェアする情報に対して、欲しいという気持ちを起こさせるのが難しい点です。これは、テレビCMがやろうとしていることに似ていて、脱広告的なアプローチであるコンテンツマーケティングにとって矛盾しているんです。

渡辺 リスティング広告は、購買意欲があり、興味が健在化しているユーザーがターゲットです。そのため、検索から購入完了までの道はそれほど遠くないのですが、コンテンツマーケティングやソーシャルメディア経由で来るのは、もっと前の段階の人たちです。これらの人たちを連れてくるという重要な役割はあるものの、その直接的な効果をお客様に説明するのは難しいと当社でも感じていますね。

宗像 私がコンテンツマーケティングを好きで、当社のメインの事業としているのは、それがお客様にきちんと向き合うための手段であるというのが理由です。これは、SEOにも共通することでもありますね。つまり、企業は本来お客様と向き合うべきなのですが、規模が大きくなればなるほど、お客様よりも競合他社を見るようになるし、さらに大きくなると社内を見るようになってしまう。

コンテンツマーケティングは、本来見るべきユーザーに対してきちんとコンテンツを作り、それを経由して買ってくれたかどうかを検証するものです。つまり、企業として本来やるべきことを当たり前にやりましょうというものであるため、コンテンツマーケティングをきちんと取り入れて、運用できるような社内体制を構築すれば、企業のビジネスのあり方として非常に良いのではないかと思っています。

<後編へ続く>

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亀山將

株式会社イノーバマーケティング部所属 | コンテンツマーケティング専門メディア「The Content Marketing」編集長 米国ニューヨークで経営学を、スイス/英国でホスピタリティマネジメントとマーケティングを修める。中国での五つ星ホテル開業支援などを経て帰国後、企業向けMICEイベント企画制作、マーケティング支援等に3年間従事。その後独立し、NPOなど非営利団体を含む各種新規事業の立ち上げ支援を行う。2014年、株式会社イノーバに参画。

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