「妖怪ウォッチ」はなぜ子供達に受け入れられたのか(上)…メディアミックス編
「メディアミックス」とは言葉通り、複数のメディアで同一作品・世界観を共有するものを展開し、相乗効果を狙うもの。異なるメディアで作品を披露することにより、多方面の属性からファンのハートをつかむことが出来るのと共に、「流行っている」「皆が知っている」といった普及感を演出できる。本屋やコンビニで同じテーマを持つ商品を見かければ、作品そのものを知らなかった人も目に留め、興味関心をいだくきっかけになるかもしれない。
「妖怪ウォッチ」は元々メディアミックス(開発元のレベルファイブでは「クロスメディアプロジェクト」と呼んでいる)戦略を前提としており、多方面でのメディア展開を前提としていた。この手法は同社では先行して「イナズマイレブン」「ダンボール戦機」などで実行しており、経験は豊富。
子供向けということもあり、作品そのものでもビジュアルはそれらしさを満載しているが、2013年7月の「妖怪ウォッチ」発売当時からアニメっぽさを前面に押し立て、ハードルの低さを演出し、子供達の注目を集めている。
↑ 「妖怪ウォッチ」初代の紹介用映像(公式)。アニメそのもの。【直接リンクはこちら:【PV】『妖怪ウォッチ』 】
またソフト発売とほぼ同時期に子供向けの漫画誌別冊コロコロコミックスで連載がはじまり、世界観の補完を試みている。その後、他のソフト同様時間の経過と共にソフトの売れ行きも少しずつ落ちていくが、設定の巧みさ、ゲームそのものの内容の奥深さなどが子供のハートをつかみ(詳しくは後編で解説)、他のソフトと比べて販売本数の落ち方はゆるやか。さらに2013年11月にはコロコロイチバン!で、年末には女の子向け漫画雑誌ちゃおでも連載が始まる。
特にちゃおは50万部を超える発行部数を示していることに加え、女の子向け雑誌であることから、これまでとは異なる新たな属性へのアプローチに貢献することになる。このあたりからソフト本体も再びセールスが伸びはじめる。数々の新作に混じり、半年前に発売されたタイトル「妖怪ウォッチ」が販売本数で年末商戦で上位につく、奇妙な状況が展開されることになった。
そして2014年1月には「テレビアニメの放映開始」「ともだちウキウキペディアの展開」「玩具の妖怪メダルの発売」など、一気に複数メディアでのアプローチが始まる。特にテレビアニメの影響は大きく、子供達の話題に登ることとなり、それがソフト本体、同じ世界観を有する各種関連玩具への注目につながり、相乗効果を果たし、ますます人気は高まることとなった。
↑ テレビ東京によるアニメ「妖怪ウォッチ」の作品に関する公式映像。【直接リンクはこちら:妖怪ウォッチ 「ゴールデンウィークは妖怪がいっぱい! ほか」】
あとは続編にあたる「2」の発売決定が後押しする形となり、「2」の予約受付開始までセールスは再び伸び、その後実際の「2」発売まで堅調な売れ行きは続く。発売から1年近い2014年5月には販売本数(出荷では無い)100万本を突破し、いわゆるミリオンセラーの仲間入りも果たした(出荷ベースでは1か月前の2014年4月に達成している)。
↑ 「妖怪ウォッチ」単週販売本数推移(メディアクリエイトの公式単週発表データを基に独自作成。一部データ欠損のため自動補正部分あり)
↑ 「妖怪ウォッチ」累計販売本数推移(メディアクリエイトの公式単週発表データを基に独自作成。一部データ欠損のため自動補正部分あり)
ゲームソフト本体以外のメディア展開タイミングを見ると、発売と同時に漫画の掲載開始、年末に向けてさらに2本(うち1本は女の子向けという新たな属性へ)の連載をはじめ、それと前後してテレビアニメに関する情報を流し、冬休みの子供達に興味関心を引かせるネタを各種提供し、年明け早々にアニメの放映スタート。ゲームの中にも登場するキーアイテムであり、さらにゲームとの連動性も有する「妖怪メダル」など各種玩具の発売、ゲーム筐体的な「ともだちウキウキペディア」の稼動を始めるといった形で、子供の視線を非常に気にしたタイミングによる盛り上げ方をしているのが分かる。
特にテレビアニメによる「子供達の間」で交わされることを前提とした共通の話題の提供効果、ゲームの世界観を多くの人に知らしめた告知効果は大きく、セールスを大きく引上げ、直後に展開された関連玩具の盛況ぶりにも大きく貢献することになった。テレビアニメそのものがゲームの世界観をたっぷりと盛り込み、非常に分かりやすいゲームチュートリアル的な意味合いを果たしたのもポイントといえる。
「子供達の間」の共通の話題としての「妖怪ウォッチ」の実力は、先日バンダイが発表した人気キャラクターの投票結果からも現れている。不特定多数と接触する機会を有することになる小学生時分になると、「もっとも好きなキャラクター」として男子だけでなく女子においても、「妖怪ウォッチ」が登場し、自分一人だけの楽しみとしてよりは、友達との対話の中での話題として使われていることが分かる。
↑ もっとも好きなキャラクター(2014年)(男子)(再録)
↑ もっとも好きなキャラクター(2014年)(女子)(再録)
ゲームとのタイアップとしてテレビアニメが展開される事例は多いが、タイミングの問題や内容におけるゲームとの連動性から、必ずしも期待した効果を得られないこともある。その観点では製作サイドがどこまで狙っていたのか、それとも偶然なのかまでは分からないが、優れた内容と絶妙なタイミングによる各種メディアによる展開、特にテレビアニメの投入時期の巧みさが、今回「妖怪ウォッチ」を大いに盛り立てた勝因の一つと判断しても良いだろう。