全国網羅に65年!住宅地図の未来

全国網羅に65年!住宅地図の未来
ビルや店舗の名称、住宅の居住者まで記された「住宅地図」。役所や交番などで目にした方も多いかもしれません。ことし6月、大手地図会社のゼンリンは、伊豆諸島の村の調査を終え、全国1741市区町村のすべての住宅地図が完成したと発表しました。創業の地、大分県別府市で住宅地図の製作を始めてから65年。「紙」から「デジタル」に時代が大きく変化する中、地図の活用は意外なところで広がっています。(北九州放送局・木村光宏記者 ネットワーク報道部・岡崎靖典記者)
ゼンリンはことし6月、東京都の島しょ部の利島村、新島村、神津島村、三宅村、御蔵島村、青ヶ島村、小笠原村の調査を終了し、全国の1741市区町村の住宅地図が完成したと発表しました。専門家によると、国の全域を網羅する住宅地図は世界でも類を見ないということです。

それは別府温泉から始まった

ゼンリンはことし6月、東京都の島しょ部の利島村、新島村、神津島村、三宅村、御蔵島村、青ヶ島村、小笠原村の調査を終了し、全国の1741市区町村の住宅地図が完成したと発表しました。専門家によると、国の全域を網羅する住宅地図は世界でも類を見ないということです。
住宅地図の原型が誕生したのは、創業の地、大分県別府市で温泉の魅力などを紹介する地図入りの観光冊子を作ったことがきっかけでした。地図に書き込まれた温泉宿や飲食店には、観光客が大勢押し寄せたことで評判になったのです。会社には「うちの店も地図に載せてほしい」という声が多く寄せられ、昭和27年に今のかたちに近い「別府市住宅案内図」が完成しました。

参考にしたのは、住民の名前が書き込まれた江戸時代の古地図でした。これが地元の役場や警察にも好評だったため、ほかでも需要が見込めるに違いないと考え、全国に地図作りを広げていきました。地図作りには気の遠くなるような労力が必要だといいます。調査員は自分の足で街を歩きながら、住宅一軒一軒の表札からビルに入るお店の名前まで確認します。いまでも全国で1日およそ1000人の調査員が歩いて最新の街並みを地図に反映させています。住宅地図のデータは、東京などの大都市では毎年、更新。それ以外では3年から5年に一度、更新するということです。

紙からデジタルへ

長い歳月をかけて蓄積した住宅地図のデータ。カーナビやスマートフォンなどの普及に伴って、活用の方法も「デジタル」に変化しています。

ゼンリンでは住宅地図のデータを「Google」や「Yahoo!」に提供しています。紙の住宅地図は長らく主力商品でしたが、2000年代に入ると、デジタル情報の売り上げが逆転。いまでは紙の地図のおよそ5倍に上っています。

ゼンリンがことしインターネットを通じて行ったアンケート調査では、移動する時に使う地図に「スマートフォンの地図」をあげた人は54.9%だったのに対して「冊子・紙の地図」をあげた人は24.2%にとどまりました。

この会社が、いま力を入れているのは、3次元の立体地図。背景にはドローンの普及があります。建物などの高さが入力された3次元の地図データを活用して、ドローンが建物などが密集した都市部でも安全に飛行できるようにしようというのです。すでに国の研究機関と共同で、ドローンの自動飛行の実験を行っています。
データの作成には、足で情報を稼ぐ調査員とは別に、車の上に取り付けた特殊なレーダーや360度撮影できるカメラなどの先端機器を活用し、道路や街の姿を立体的に把握して再現するための情報を集めているということです。住宅地図に、建物の高さや障害物の有無などのデータを加えた「空の3次元地図」。この会社では、さらに全国に張り巡らされた送電線に沿って、ドローンが自動飛行する、いわば「空の専用道路」を整備し、より遠い場所まで荷物を運ぶ構想も進めています。

新しい“地図”の魅力

デジタルが主流になりつつある地図業界。もはや「紙の地図」は消えゆく運命にあるのかと思いきや、思わぬところで地図ブームが起きています。

カーナビに使う地図データを売る東京カートグラフィック。地図を絵柄にしたノートやハンカチ、バッグなどを売り出したところ、年2割のペースで売り上げが伸びているというのです。
また、地形図を販売している日本地図センターでは、ことし5月、古い地形図をリサイクルして「地図扇子」を売り出したところ1千本が数日で完売。6月に追加で売り出した、6種類1千本はウェブサイトでの販売が20分ほどで売り切れ、店にも行列ができたということです。

ゼンリンも地図柄のマスキングテープやクリアファイル、ゴルフウェアなどの販売を始め、売り上げは好調だということです。紙の地図の販売は減少していますが、地図を絵柄にした“地図グッズ”は大人気となっています。

災害には“強み”も

「紙の地図がなくなることはない」と断言する専門家もいます。紙の地図には、デジタルに代えられない強みや魅力があるといいます。その強みが最大限に発揮されたのは、6年前の東日本大震災だったといいます。広い範囲で停電し、携帯電話やスマートフォンが役に立たなくなっても、被災者の支援活動を支えたのは紙の地図でした。住宅地図や津波の被災状況を示した地図が大きな助けになり、被災地では、自治体の職員や自衛隊員らが地図を広げて現場の状況を書き込んだり、支援計画を立てたりする様子があちこちで見られました。

日本地図学会の伊藤等事務局長は「たしかにデジタル地図は紙よりも便利かもしれない。ただ、紙の地図が持つ強みは、どんな状況下でも見られる安心感と一覧性だ。災害など非常時にはデジタルは役に立たないし、観光ガイドブックなどもデジタルより紙のほうが使いやすい。どちらかが生き残るのではなく、紙とデジタルの利点の使い分けが有効なのではないか」と話しています。
災害など緊急時の備えだけでなく、思い出を書き込んだり、新婚当時の昔の町並みを思い起こしたりするなど、手に取ることのできる「紙の地図」だからこその味わいがあるのも事実。時代の変化とともに音楽を聴く手段がCDからデジタルへと移り変わった今も、アナログレコードに根強い人気があるように、紙の地図にも色褪せない魅力があるのではないでしょうか。