2009年にマイケルがあの世に旅立って、そろそろ丸8年となります。
マイケル・ジャクソンについて、みなさんは、どのようなイメージをお持ちですか?
希代のダンサー、奇人変人、子供好き、皮膚の病、やさしい人、King of pop、整形、慈善活動家、裁判沙汰、誇大妄想家、児童虐待の被害者、完全主義者…様々なイメージがあると思います。
どれもマイケルらしいと私は思います。
そうした、いろいろな顔を見せてくれたところがエンターテイナーとしてのマイケルの魅力だと感じています。
没後8年という中途半端な時期に、この記事をふと書こうと思ったのは、先日、音楽ストリーミング・サービスであるSpotifyで聞いたアルバムが、きっかけです。マイケル没後に発売された"Xscape"という作品を何の気なしに聞いてみたところ、大変感動したからです。ちなみに"Xscape"は「エスケイプ」と読みます。
マイケル・ジャクソンとの出会い(1980年代前半)
当時小学生、NHKの『海外ウィークリー』(たしかこういうタイトルだったはず…)という海外事情を扱った番組で、『スリラー』のミュージック・ビデオ(MV)を見たのが、私とマイケルの出会いでした。おそらく、世界で最も知られたMVではないでしょうか。なお、マイケルはMVを、こだわりを持って「ショート・フィルム」と呼んでいました。MVの概念を変えたと言われるこのビデオは、単に曲をプロモーションするだけでなく、ビデオそのものをアートに高めたものだと思います。小学生だった私は、ゾンビとダンスする狼男・マイケルが、ただただ怖く、強烈なインパクトを受けました。
マイケル・ジャクソンの楽曲との出会い(1980年代後半)
小学生だった時の旧担任の先生が、マイケルのアルバム、『スリラー』と『BAD』の入ったカセットテープを貸してくださいました。当時は、カセットテープを複製する機能がラジカセ(ラジオとカセットテープ・プレイヤーの複合機)に付いており、自分のカセットテープに複製し、何度も聞きました。初めは、「どうしてボーカルがこんなに、くぐもった感じなのだろうか」と、違和感があったのを覚えています。しかし、やはり楽曲がすぐれているためか、とにかく時間があれば、それらのテープを聞くようになっていました。マイケル・ジャクソンというアメリカン・エンターテイナーがもつ魅力が、極東アジアの少年の心に届いたのでした。
『デンジャラス』(1991年)
高校生の時に『BAD』以来の待望のアルバム、『デンジャラス』が発売されました。喜んでCDを買い求めました。とにかく、「マイケル、かっこいい!」と思いましたね。
おそらくこのアルバムで一番有名な曲は"Black or white"だと思います。人種差別の深刻さというものを教えてくれたのは、今、思うとマイケルのこの曲だと思います。MVの最後の部分では、いろんな人種の男女の顔が次々と別人に変化していくという場面があります。「性別や人種が違っても、人間、たいして違わないんだよ。仲間なんだ」というマイケルからのメッセージだと思います。こうした意見表明の仕方が大変スマートだと思います。このMVも非常に有名だと思います。みなさんの中にもご覧になられた方がおられたら、うれしく思います。私は、このMVで、アジア系の、少しはにかんだ笑顔を見せる女性がとても印象に残っています。こうして書いていると高校生の時は、スパイク・リー監督の『マルコムX』という映画を観たりしたことも思い出しました。
ガンズ・アンド・ローゼズのギタリスト、スラッシュとの共演が実現したのも、このアルバムの魅力ですね。
『ヒストリー』(1995年)
この2枚組のアルバムが発売されたのは、私が大学生の時でした。1枚はベスト盤、もう1枚は新作となっています。CDを買ってから、そのまま友人のアパートに遊びに行った私は、自宅に帰ってCDを聞くのを待ちきれず、「聞かせてくれ」と友人にお願いして、友人のオーディオで聞いたのを覚えています。なお、友人が読んでいたスポーツ紙が「(バブルの頃に流行ったディスコ)ジュリアナ東京の閉店」を報じていました。そんな時代です。
このCDのブックレットがなかなか衝撃的でした。マイケルと歴代アメリカ大統領が一緒に映った写真が収録されているのです。正直「何だかな~」と思いました。マイケルほど、名声を得た人物が、わざわざ、こうした形で権力者と近いことを必死にアピールしているわけです。また、『ヒストリー』には、マイケルが幼い頃に体験した児童虐待を、モチーフにしたであろう作品が入っています。巨大な名声の影の、巨大な闇を感じさせる作品でした。
アルバムの最後を飾る、"Smile"はマイケルの楽曲の中でも屈指の出来栄えです。絶望の暗黒の世界に、やさしい光を射し込む大変温い作品仕上がっています。
『インヴィンシブル』(2001年)
長い間、沈黙していたマイケルが、突如、新作を発表します。
私は、この作品の発売を、たまたま訪れたCDショップに、このCDが陳列されていたことから知りました。もちろん、即、購入しました。
このアルバムの感想は、一言「長すぎる」です。
マイケルの情熱あふれる態度はよく伝わるのですが、少々、いや、かなり長いと言わざるを得ません。不惑をとうに過ぎたマイケルが、自身のキャリアの行く末に不安を感じたため、とにかく曲を詰め込んだという印象を受けます。
"Butterflies"、"Speechless"、"2000 Watts"といった名曲もきちんと収められています。
ただ、全体的には、マイケルの焦りを感じさせる出来になってしまったと思います。
死(2009年)
これまた、突然でした。
しかも、ロンドンでの引退公演の直前というタイミングでした。大変、残念という言葉以外に表現のしようがありません。
死後、程なくロンドン公演のリハーサルの模様を映した"This is it”という映画が封切られました。劇場で見てみましたが、私の感想は「マイケル、本気出していない」というものでした。
どう見ても、マイケルは、本番に備えて、エネルギーを温存しているように見えました。ですから、本当に、ロンドン公演が実現しなかったことを悔しく思いました。最高のパフォーマンスを見せてくれたはずなのに…。
『Xscape』(2014年)
マイケルの没後、発売された音源です。
私は、アーティストの没後に発売された音源を、どうしても一段低く捉えてしまいます。何といっても、本人の「お墨付き」でないのですから。
というわけで、発売されてから何年も経っているにもかかわらず、ずっとこの作品については無視してきました。
ところが、先日(2017年)暇つぶしに聞いてみたところ、大変すばらしいと感じました。
ああ、マイケル、やっと自分自身に戻れたんだね、と感じました。
この作品のマイケルは、とてものびやかに、自由な感覚で歌っています。感動的です。
実は、"BAD"以降の作品について、私は、いずれも傑作だとは評価しつつも、一連の不満を抱いていました。それは、完全主義という十字架をマイケルが背負っているように思えてならなかったということです。『スリラー』の大成功。つねにナンバーワン・エンターテイナー、King of pop でなければならないという重圧がもたらす苦しみ。そうしたものを、マイケルが送り出す音から感じ取っていました。
そうした苦しみから、マイケルが解放された姿が、この作品では楽しめます。
本人の「お墨付き」がないからこそ、こうした重しから自由になったマイケルを、ファンが楽しむことができたというのは、悪い冗談のようなのですが、とてもうれしく思いました。
きっと、天国のマイケルは、生前に感じていた、あらゆる重圧がもたらす苦しみから解き放たれて、この作品で聞かせてくれるような、のびのびとした歌を歌っていることでしょう…。
ありがとう、マイケル・ジャクソン。
これからも私はマイケルのファンであり続けます。