ローカル線の救世主にも思わぬ苦労
地方の足を支えるローカル線の名物として猫が活躍している。和歌山電鉄(和歌山市)の「たま駅長」や、ひたちなか海浜鉄道(茨城県ひたちなか市)の駅猫など、集客に一役買って「救世主」になった例もあるが、飼う側にも覚悟と苦労が必要なようだ。【米田堅持】
「おまえはいったいどこの猫だ」
ひたちなか海浜鉄道の那珂湊駅(ひたちなか市)のホームで声をかけた駅員に「にゃーにゃー」と鳴きながらすりよる1匹の迷い猫。まだ1歳未満とみられ、子猫らしい表情が残る。人に慣れていることから飼い猫だった可能性も高い。同駅には2匹の駅猫、「おさむ」と「ミニさむ」がいるが、迷い猫を追い出すような動きは見せないという。
「8月26日に現れたが、痩せていたので子猫用の餌をあげたら回復して居着いてしまった」と、同鉄道の吉田千秋社長。「人なつっこいので、うっかり列車に乗ってしまわないかと注意している」ともいい、新たな悩みの種になっているようだ。
おさむもミニさむも、もとは2009年に同駅にやってきた迷い猫だったが、保護されてからは地元をはじめ多くの人に愛される駅猫となった。11年3月の東日本大震災の影響で全線不通になった時にも駅猫目当てのお客が来るほどの人気者で、同鉄道が苦しい時を支えた救世主でもある。
今回の迷い猫は、おさむやミニさむよりも若く、人気者になりそうだが、吉田社長は駅猫を増やすことには否定的だ。
「責任を持って飼うには体調や年齢も考慮する必要もあり手間がかかる。おさむは推定15歳と高齢なのでミニさむのように出歩かないが、専用の食事を用意するなど、きめ細かく世話をしている。地元の獣医さんの協力で、2匹の駅猫には予防接種や避妊手術もした。本業は鉄道なので、猫の世話ばかりするわけにいかない」
以前にも、別の迷い猫やミニさむの子供は引き取ってもらったことがあるといい、新たな猫の出現には困惑を隠せない。迷い猫はそんな吉田社長の苦悩をよそに、「我が輩は猫である」とばかりに、名前もないまま先輩猫の寝床に遠慮なく入り込み、存在感を発揮しているという。
吉田社長は「何らかの事情で飼い猫が迷い込んだ可能性もあるので、警察にも相談して飼い主を探している。見つからなければ、新たな飼い主を募りたい」と話している。