リットルは大文字か小文字か2015/01/19(月)
最近、小学校〜高等学校の教科書では、単位の「リットル」の表記が大文字の "L" になっているものが多くなっています。かつて使われていた「ℓ」(←筆記体の小文字の「エル」のつもり)という記号は、もう使わないことになりました。いくつかの教科書出版社の解説によると、平成23年の文部科学省による教科書検定において「単位は国際単位系に準じること」という検定意見が出て、それに各社が倣った、という経緯であるようです。
「リットル」は国際単位系そのものではありませんが、「国際単位系と併用できる単位」として使用が認められています(参考:産総研計量標準総合センター・国際単位系)。記号は "l"(小文字のエル)または "L" で、どちらを使ってもよいことになっています。補足すると、国際単位系では本来単位の表記は「人名に由来する単位名は先頭文字を大文字にする。それ以外の単位名は小文字で表記する」のが原則なのですが、リットルについては、小文字の "l" が数字の "1" と紛らわしいため、特例として大文字の使用が認められているものです。
私自身はもちろん「筆記体小文字のエル」で習った世代ですので、実験ノートを書く時は、未だに「筆記体小文字のエル」を使っています。国際単位系では「単位は(斜体でなく)立体で書くこと」と決められていますが、手書きの時に斜体と立体を書き分けてもあまり意味はありません。ただ、学生と議論する時は、意識して立体の "L" を使うようにはなってきました。「立体小文字のエル」は数字の1と紛らわしい上に書きにくいので、私は使っていません。
化学系の学術研究の世界ではどうなっているでしょうか。出版物では、国際単位系の取り決めに従い、立体小文字の "l" か大文字の "L" か、どちらかを使います。どちらを使うかは、版元によって違います。たとえば、アメリカ化学会 (ACS) の論文誌は「大文字のエル」に統一しており、「小文字のエル」で原稿を提出しても、編集段階で大文字に修正されます。一方、英国王立化学会 (RSC) の論文誌では、著者のスタイルに任せているようです。ただ、RSC の論文誌でも、「大文字のエル」を使う人の方が多いようです。例えば、Dalton Transaction の最新号の論文を調べてみると、「大文字のエル」が27報、「小文字のエル」が6報と、「大文字のエル」の方が主流です(両方混在している行儀の悪い論文も4報ありました。RSCは編集段階で細かい「直し」が入るのが特徴だったのですが、最近はそれほど厳密でもないのかな)。この業界では、「リットル=大文字のエル」という認識が確立しつつあるようです。
なお、併用単位を好まない人は、リットルの代わりに dm3 を使います。これはこれで、慣れてしまえば「dm3」がリットルに見えてくるのであまり困らないのですが、初めて見ると「なんだこれ?」と思ってしまいますね。
今後はどうなっていくのでしょうか。現在、小・中・高等学校の教育現場で「大文字のエル」が事実上標準化していることを考えると、今後は日本国内では「リットル=大文字のエル」という認識が一般になっていきそうです。そのうち、筆記体のエルで書かれている食品ラベルなどを見て、子供が「何これ?」と言い出すようになるのでしょう(すでにそうなっているかも)。