少女死亡火事 再審で母親ら2人に無罪言い渡し 大阪地裁

少女死亡火事 再審で母親ら2人に無罪言い渡し 大阪地裁
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21年前、大阪市で、小学6年生だった女の子が死亡した火事で、殺人などの罪で無期懲役が確定した母親ら2人の再審=やり直しの裁判で、大阪地方裁判所は2人に無罪を言い渡しました。検察は控訴しない方針のため2人の無罪が確定することになります。
平成7年、大阪・東住吉区で小学6年生だった当時11歳の女の子が死亡した火事では、母親の青木惠子さん(52)と、内縁関係にあった朴龍※ひろさん(50)が、放火や殺人の罪で起訴され、無期懲役が確定しましたが、大阪高等裁判所は、去年、「自然発火の可能性が否定できない」として裁判のやり直しを認め、2人は逮捕から20年ぶりに釈放されました。2人はやり直しの裁判で改めて無実を訴え、検察は有罪の立証や求刑をしませんでした。
10日の判決で大阪地方裁判所の西野吾一裁判長は、青木さんと朴さんにいずれも無罪を言い渡しました。
このうち午前中の青木さんへの判決では、2人の無期懲役が確定する根拠になった朴さんの自白について、「『ガソリンをまいて火を付けた』という自白のとおりに放火するのは非常に困難で、自然発火の可能性を否定できない」と指摘しました。
そのうえで「逮捕当初、朴さんは警察官から首を絞められるなど恐怖心を抱くような取り調べを受けて虚偽の自白が誘発されたほか、青木さんも精神的圧迫を加える取り調べを受けて虚偽の自白をせざるをえない状況に陥ったと認められる」として当時の捜査の問題点を指摘しました。
検察は控訴しない方針のため、2人の無罪が確定することになります。
※「ひろ」は「日」へんに「告」。

再審無罪までの経緯

平成7年7月、大阪・東住吉区で住宅が全焼し、小学6年生だった青木めぐみさん(当時11)が入浴中に逃げ遅れて死亡しました。2か月後、警察は、母親の青木惠子さんと、内縁関係にあった朴龍※ひろさんの2人が、自宅の車庫にガソリンをまいて火をつけ、保険金目的にめぐみさんを殺害したとして、放火や殺人の疑いで逮捕しました。逮捕当時、青木さんは31歳、朴さんは29歳でした。
裁判で2人は、「厳しい取り調べで、うその自白をさせられた」と無罪を主張。自白以外に犯行を直接裏付ける証拠はありませんでしたが、大阪地方裁判所は、「自白は信用できる」として無期懲役を言い渡し、その後、最高裁判所で刑が確定しました。
その3年後、2人は、再審=裁判のやり直しを求めます。弁護団の実験では、現場を再現した車庫でガソリンをまくと、途中で、車庫にあった風呂釜の火が引火して燃え上がりました。朴さんは取り調べの中で、ライターで火をつけたという自白をしたとされ、けがはありませんでしたが、弁護団は「実験の結果では、火をつける前に引火したのに、やけどもせずに放火するのは不可能で、自白の内容と矛盾する」と主張しました。
去年10月、大阪高等裁判所は、実験の結果などから「自白の信用性に根拠がなく、火事は、車の給油口から流れたガソリンに風呂釜から引火して起きた自然発火の可能性が否定できない」として、2人の再審を認める決定をしました。
無期懲役の刑の執行は停止され、2人は逮捕から20年ぶりに釈放されました。
青木さんは51歳、朴さんは49歳になっていました。2人はことし4月と5月に開かれた再審で警察の捜査を批判し、改めて無実を訴えました。
一方、検察は、「違法な取り調べはなかった」としながらも、有罪の立証や求刑はしませんでした。

母親「裁判所に感謝」

青木惠子さんは無罪判決のあと記者会見し、「警察官のひどい取り調べでの自白を裁判所が証拠から排除してくれたことで真っ白な無罪判決を受けることができた。裁判官に感謝したいです。裁判所から正式な謝罪はなかったが、最後に裁判官が目を見て『青木さんは無罪です』と言ってくれたので、それが精いっぱいの謝罪だと受け止めています。しかし、警察からの謝罪はこれまで一切なく、違法なことを明らかにしていくためにも今後、国家賠償請求を行います」と話していました。
そのうえで、「無罪判決を娘にも報告でき、娘殺しの母親から普通の母親に戻れるということで、きょうから新たな気持ちでまたスタートしていこうと思います」と涙を浮かべながら話しました。
また、青木さんは、きょう身につけた黄色のカーディガンとワンピースについて、「娘と一緒に無罪判決を受け止めるという意味で娘が好きだった黄色にこだわりました。ハンカチも娘が好きだったひまわりのデザインのものを探してきました」と話しました。
また、青木さんの弁護にあたった斎藤ともよ弁護士は、「再審の開始が決まって5年、きょうの日を迎えられました。有罪の証拠とされた自白に任意性がないとする判決だったので、これまでの苦労が報われたような気がします」と話しました。

朴さん「21年間の束縛から解放」

判決の言い渡しのあと朴龍※ひろさんは、裁判所の外で待っていた支援者から拍手で迎えられ、「おめでとう」と声をかけられました。
朴さんは「悲願の無罪判決を勝ち取ることができました。21年間の束縛からついに解放されました。自由です。無罪を信じて支援してくれたここにいる方々や刑務所で一緒だった受刑者など皆さんのおかげです。本当にありがとうございました」と話していました。

次席検事「基本に忠実な捜査を徹底」

2人の無罪判決を受けて、大阪地方検察庁の田辺泰弘次席検事は「証拠関係を検討した結果、被告人両名が有罪だという主張や立証をせず裁判所にしかるべき判断を求めていたもので、その点を踏まえて裁判所が判断したものと考える。今後は証拠の収集を十分に行うよう一層努め、基本に忠実な捜査を徹底してまいりたい」というコメントを出しました。

死刑・無期懲役確定し再審無罪は9件目

死刑か無期懲役が確定したあとに再審・やり直しの裁判で無罪が言い渡されたのは、戦後発生した事件では今回で9件目です。
このうち死刑が確定した事件では、昭和23年に熊本県で夫婦2人が自宅で殺害された免田事件や、昭和29年に静岡県で当時6歳の女の子が連れ去られて殺害された島田事件など4件に対してこれまでに再審で無罪が言い渡され、確定しています。
また、無期懲役が確定した事件では、平成2年に栃木県で当時4歳の女の子が殺害された足利事件や、平成9年に東京電力の女性社員が殺害された事件など4件で無罪が言い渡され、確定しています。