auの「au WALLET Market」が、1周年を迎えました。au WALLET Marketとは、auショップとネットの双方で商品を販売していくショッピングモールのこと。
ライバルのECサイトとの大きな違いは実店舗の有無にあり、auショップで店員の案内を受けながら、ネットで商品を買うことができます。実店舗では商品を見られるわけではないため、いわばセミリアルな購入体験と呼べるのかもしれません。Webに関しては、KDDIが子会社化したルクサを活用し、レストランやスパなどの体験をタイムセールで販売しています。
鳴り物入りで始まったau WALLET Marketですが、昨年12月には2500店舗のauショップに拡大。8月には会員数が、350万を突破しました。「店頭が急速に伸びている」(KDDI コンシューマ事業本部 コンシューマビジネス開発部長 村元伸弥氏)というように、当初7:3でWebが多かった比率も、5:5になりました。売上についても、「倍以上になっている」(同)といいます。
▼KDDIの村元氏
▼店舗とWebの比率は5:5になり、売上も倍以上に拡大
「ネット+実店舗」でシニア層の取り込みを狙う
ネットショッピングが当たり前の人からすると、ネットショッピングを使うのに、わざわざauショップの店員に案内してもらうのは手間がかかるだけですが、このサービスのターゲット層は、スマホも使っていないような比較的年齢の高いユーザーです。結果として、auショップでの利用者層は、40〜60代が多く、男女比も半々程度。Web側と比べて顕著に違うのが、60代が他の年齢層と同じぐらいの比率になっているところにあります。
▼ネットに比べると店舗は60代の比率も高い
運営している中で課題も見えてきたといい、ユーザーからは「店頭で実物を見て購入したい、取扱商品を増やしてほしい、オリジナル商品がほしい」(同)といった声が寄せられているといいます。1周年を機に、こうした声を受けた改善も行っていきます。
実物を見たいという要望に対しては、auショップを活用。選ばれた店舗に専用の陳列棚を設置して、一部の商品を展示します。
単にサンプルとして置かれているのではなく、実際に購入することも可能。auショップを、キオスク的な方向に変えていくというわけです。現時点でも8店舗の直営店で実施されていますが、これを3月までに、1000店舗まで拡大する予定。直営店が近くにないユーザーでも、auショップでレトルトのカレーやジュースが売られている様子を、見ることができるようなるかもしれません。
▼その場で購入できる店舗を1000まで拡大予定
▼キオスクのような陳列棚をauショップに設置する
2つ目の商品数に関しては、9月に20万点へとラインナップを拡充します。現状では8000点ほどのため、その数は20倍以上です。さすがに急拡大すぎて、商品の案内がうまくできないのでは......という不安もありますが、これだけの点数をそろえたのは「店舗は入り口の体験で、リピート購入していただけることもある。そうこう方のニーズに応えるため」(同)だといいます。
▼商品ラインナップは9月に20万まで拡充
ちなみに、店舗に来てau WALLET Marketを使い、継続して2回目以降の商品を購入しているユーザーは「大体15〜20%」(同)、決して多くはありません。8割以上のユーザーが、1度きりの購入で終わってしまっているのです。ラインナップを拡大したのは、こうしたユーザーの要望に応えるとともに、継続率を上げていく狙いもありそうです。また、「(継続して購入するための)Web側のUI、UXがイケてない。店頭の商品をリピート購入できるUI、UXはリニューアルする」としています。
▼現状は味気ないUIだがリニューアルの予定も
ここでしか買えない「茶碗蒸し」が絶品だった
もう1つの要望である、ここでしか買えないオリジナル商品があるという点には、「1周年特別商品」という形で応えてきました。特別商品は「一流シェフが贈る至福の逸品」と銘打ち、4名の有名シェフとコラボ。イタリアンの「イル ギオットーネ」、和食の「賛否両論」、スイーツの「パティスリー ポタジエ」、中華の「麻布長江 香福筵」。これら名店のオーナーシェフ、オーナーパティシエが、auのCMキャラクターをイメージしたメニューを開発しました。
▼1周年特別商品としてさまざまなシェフとコラボ
発表会では、これらのメニューを実食できたため、一通り、味を確かめてみました。試食が始まったのがちょうどお昼時で、がっついて食べているように見えたかもしれませんが、あくまでも仕事であることは付け加えておきたいと思います。
中でも「これは旨い」と思ったのが、賛否両論の「茶碗蒸しと椀めしのセット」。特に茶碗蒸しは、プリプリとした触感が絶妙で、マツタケの香りもしっかり楽しめました。通信販売のため、冷凍で届くメニューになりますが、ここまでのクオリティが出るのが驚きです。家にいながらにして、外食気分を味わえるでしょう。▼賛否両論の「茶碗蒸しと椀めしのセット」
▼絶品だった茶碗蒸し
▼あっさりしていながらも、風味が抜群な椀めし
金太郎をモチーフにした「金華豚の点心セット」も、満足できました。シューマイの歯ごたえもちょうどよく、プリッとしていながらも、口に入れるとしっかりと肉汁のうまみが伝わってきます。餃子も、皮がモチモチとしていながらも、厚すぎず、餡の肉や野菜のバランスがよかったと感じています。逆に、「鬼ちゃん」をモチーフに味噌を加えたピザは、残念ながら、少々しょっぱすぎた印象。同じシェフの作るハンバーグはおいしかったので、auであることを意識しすぎてしまったのかもしれません。
▼食感、味ともに満足度の高い「金華豚の点心セット」
▼ピザは少々塩気が強すぎた印象
「ちょっといいもの」訴求、イメージは成城石井?
と、ここまで簡単な食レポをしてみましたが、確かに平均して、クオリティが高いのは事実。それもそのはずで、先に挙げた茶碗蒸しと椀めしのセットは、税込みで7560円もします。1つあたり、1000円以上するわけで、これでマズかったら、さすがに暴動もの。逆に言えば、値段なりの期待に応えるクオリティに仕上げてきたと考えることもできそうです。▼コラボ商品の価格は少々お高め
特別メニューほどではありませんが、au WALLET Marketの商品は、確かに高めのものが多い印象。それもそのはずで、コンセプトに「ちょっといいもの」を掲げているからです。お米や水だけでなく、レトルト食品も、コンビニなどではなかなか手に入らないような、上質なものが多く取りそろえられています。筆者が勝手に抱いている印象で言えば、紀伊国屋や成城石井のような、高級路線を打ち出しているスーパーのイメージに近いかもしれません。
あえてauショップで注文しなくても...とも感じる
クオリティは確かな一方で、価格を見ると、やはり少々とっつきにくいことは否めません。気軽にケータイを買ったり、料金プランを相談したりするauショップのイメージと、マッチしているとは言いがたい印象も受けました。あえてauショップでそれを注文しなくても......と思ってしまうのです。20万点に商品を拡充する際は、「洗剤など、日常使いできる商品を増やす」(同)とのこと。方向性が変わる可能性はあるものの、どこまで広い層に受け入られるのかは、現時点では未知数です。
▼商品ラインナップ的に富裕層向けのイメージも
逆に、ちょっといいものがあるau WALLET Marketを来店動機にするのであれば、もっとショップのスタッフに専門の商品知識が必要になりますが、残念ながら、携帯電話を販売しながら、そこまでの教育していくのは難しいような気もしました。それを本気でやろうとするのであれば、auショップを本気でコンビニやスーパーにするという気概を持ち、プロモーションももっと積極的に展開していく必要がある気がしています。
また、現状では「物流面も大きな課題」(同)だといいます。au WALLET Marketは「消化仕入れ」と呼ばれる販売方法を採用していますが、これは小売りが在庫を持たない仕組みのこと。その結果として、発注からユーザーの手元に商品が届くまでに、1週間以上時間がかかるケースもあります。KDDIにとってリスクが少ない一方で、ユーザーには不便な状況になっているのです。
KDDIでは、携帯電話やアクセサリーのために作った物流センターを利用し、日用品は素早く届けるように改善する計画もあるそうですが、Amazonや楽天、ヨドバシカメラなど、大手ECサイトがスピーディに商品を届けていることを考えると、KDDIも対応は急務と言えるでしょう。リアルショップとECを組み合わせるという珍しい手法を採用しているだけに、まだまだ解決しなければならない課題も多そうです。