夜景が見える一番いい席。きっと半年かそれ以上前に予約しないと、取れないだろう。
固まる私。店内BGMがやけに大きく聞こえる。
何か返事しないと。
スタッフの一人がこっちを見ている。
ダイヤが光り輝いている。
まぶしくて見れない。
彼が私を覗き込む。
1分半の沈黙を破る。
「うん、ありがとう。よろしくね」
言っちゃった。言っちゃったよ。
彼の顔がパッとほころぶ。
あとは覚えていない。
その夜はとても苦しかった。
数年前にふたりは離婚し、私は母と二人で穏やかな毎日を送っていた。
イライラする。怒りたくもなる。
そんなとき。
彼におびえる自分が見える。
父に怒鳴られ、ひたすら謝る母親と重なる。
でも私は現に、何度か彼を怒らせている。
地雷を踏んでいる。
地雷は見えない。
「なぜこんなことで怒るの?」
それは私がずっと飲み込んでいた言葉。
母と同じ道を歩むのか。
それとも、ある程度地雷を見抜いてうまくやれるだろうか。
一晩考えて翌朝、婚約について考える時間が欲しいとお願いした。
「え?」
気まずい沈黙。
ここから逃げ出したくなる。
この人と結婚していいの?
誰か教えて下さい。