【カイロ=岐部秀光】イラクの首都バグダッドで、旧米軍管理区域(グリーンゾーン)に侵入し、連邦議会議事堂を一時占拠していたデモ隊が1日、撤収した。経済が停滞するなかで、人々の政治への不満が強まっていることが浮き彫りとなった。イラクの政治組織間の対立が一段と深まる兆しもあり、政治混乱は過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦にも影響しそうだ。
ロイター通信によると、デモ隊は反米主義のイスラム教シーア派指導者サドル師の支持者が中心。政府に汚職対策や政治改革を要求し、聞き入れられなければ週内にも再び結集すると訴えた。
デモ隊の要求は大統領、首相、国会議長の辞職も含まれる。デモ隊のスポークスマンはテレビ演説で、要求を通すため「あらゆる合法的な手段」を使うと明言した。
イラクでは2006~14年のシーア派主導のマリキ政権下で、政党や派閥に有力閣僚などのポストを割り当てる利権政治が強まった。汚職や縁故主義で政治が機能しなくなった。旧フセイン政権のスンニ派関係者は徹底的に利権から排除され、こうした人々の不満がISなど過激派の台頭につながった面もある。
マリキ氏を引き継いだアバディ首相は政治を立て直すため、官僚や学者らを中心とする実務者内閣をつくると表明したが、既得権益を持つ守旧派の議員が抵抗している。首相と同じアッダワ党出身のマリキ前首相も改革に反対の立場とされる。
今後の焦点はアバディ首相の改革案が議会の承認を得られるかどうか。失敗すれば、サドル師の勢力やスンニ派グループが反発を一段と強める可能性があり、首相の求心力低下は避けられない。スンニ派とシーア派の対立だけでなくシーア派内部の亀裂がさらに深まる恐れもある。
ISはイラク第2の都市モスルを支配し続けている。イラク政府は米国などの支援を得ながら奪還に向けた計画を進めているが、内部対立で中立的なイラク軍部隊の育成が遅れ、軍事作戦に影響する可能性がある。
サドル師はイラク戦争後、米軍の占領に反対し、武装蜂起したこともある反米主義者。11年に米軍がイラクから撤退を完了した後は、表だった発言を控えてきたが、今回のデモで再び存在感を示した。
サドル師の支持者の多くはバグダッド東部の貧困街に暮らす。ISに対する軍事作戦の財政負担が強まるなか、頼みの綱の原油価格は低迷が続く。物価高で貧困層の暮らしは苦しく、こうした人々の不満の受け皿としてサドル師が影響力を増しているもようだ。