- 作者: 矢野徹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2016/02/25
- メディア: Kindle版
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ウィザードリィ日記―熟年世代のパソコン・アドヴェンチャー (角川文庫)
- 作者: 矢野徹
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 1989/07
- メディア: 文庫
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故・矢野徹さんの『ウィザードリィ日記』を知っていますか?
たぶん、「何それ」という人が大部分だと思うのですが、『カムイの剣』など多数の作品がある作家・翻訳家の矢野徹さんが、パソコンの存在を知り、『ウィザードリィ』というゲーム(1981年にApple版発売)に、NECのPC8801MRでハマり、それをきっかけにパソコン文化にどっぷりとつかっていく様子を記録していったものです。
この日記、SF界の権威である『星雲賞』も受賞しています。
この記事を読んだのがきっかけで、今回、30年ぶりくらいに再読してみたのですが、読んでいると、いろんなことを思い出しますね。
三階の階段室を出たところで、ROTING CORPSEという気持ちが悪いものに出会うが、戦うまでもなくクライストのDISPELLで消えてくれる。かけられていた悪の呪文を解いたということだろうか。エレベーターに行く途中、CAPYBARASの友好的一団に会う。どういうものだろう。CAPYなんとかは? 字引で引いてみると、カピバラというのは南米のジャングルに住む大きな鼠らしい。ああこわ。
それにして、ほうぼうでドアがパッと見えては、すぐに消えるのが不思議だ。そのたびに向きを変えさせられているのかもしれない。最初のドアを入ってすぐ左のドアに入ると、エレベーターはすぐだとわかる。一階の廊下でSCRUFFY MAN五人に襲われたが、いちばん弱いはずのフィンレイがHALITOで一人を殺した以外は、みな逃げた。フィンレイなかなかやるなと見直す。
城に帰ってみると、全員がレベル7になっていた。
30年前は、「カピバラ」も知られていなかったんですね。
今の「ボタンを押しているだけで、綺麗なグラフィックと重厚なサウンドでプレイヤーをストーリーに浸らせてくれるゲーム」は確かに凄いし、もう後戻りはできないような気もするけれど、昔のパソコン(マイコン)の線画とテキストで構成されたダンジョンには、今のゲームにはない「夢想の余地」みたいなのがあったよなあ、って。
そういえば、テレビゲームの「野球」も、カセットビジョン時代はコンピュータ対戦で相手はバットをひたすらブルンブルン振り回しているだけでした。
ファミコンの『ベースボール』で、3Dになって見た目はすごくなったんだけど、選手に個性はなかったんですよね。
そこで、こちらで勝手に「4番目のバッターだから、山本浩二!チャンスだ!」と思うことにして、チャンステーマを口ずさみながらコントローラーを握り締めていたものです。でも、山本浩二はピッチャーゴロで、ピッチャーの打順で、ホームラン打ったりするんだよね、全員同じ能力なので、そうなっちゃうんだけど。
『ファミスタ』で「選手の個性」が表現されたときには、「これはすごい!」とゲーム仲間たちと指の皮が剝けるまで遊び続けたものです。レースウェイズ!!
その流れで、個性を突き詰め過ぎてバントホームラン!という『燃えろ!プロ野球』とかが出てきたりもするわけですが。
そういえば、テレビゲームが出たころって、シューティングゲームの自器が3機あったら、それぞれ搭乗者の名前をつけて、最後の1機は「お前に地球の運命がかかっているんだ!」とか脳内で気合いを入れていたよなあ。
演出が乏しいほど、人間の想像力っていうのは、それを補おうと活動してくれるのかもしれません。
カムイの剣の絵はまったくきれいだが、動きが遅すぎるからアメリカ人には向かないだろう。ウィザードリィは黒白がほとんどだが、動きが速いので退屈しない。それにしても、山小屋の場面で、いっこうに前に進んでくれないので業をにやし、FUCK YOUと打ち込んだら「どうFUCKしていいのか、わかりません」と、画面に出たのには苦笑した。セーブできないから、また最初からやりなおしするほかない。
ああ、昔のアドベンチャーゲーム、懐かしいなあ、『デゼニランド』で先に進めなくて、一日中和英辞典を手に、片っ端から動詞を入力しまくっていたのを思い出します。
ゲーム内で使用できない動詞だと「○○というのは、使えません」みたいな返事が出て、使える動詞だと「ナニヲ ○○ スルノデスカ?」って返ってくるんだよね。
それで、とりあえず「使える言葉」を探していたのです。
まあ、あれが「いい時代」だったというのは、部活のシゴキを大人になってから「青春だなあ」とか言うのと同じことかもしれない。
でも、ひたすら懐かしいし、当時はパソコンの前にいるだけで、なんだか自分が「ニュータイプ」になったような気がしていたのです。
あの頃のワープロソフトの使いづらさや、マニュアルのわかりにくさについて、ひたすら矢野さんが苦言を呈していたり、途中で『ウィザードリィ』のキャラクターが、女性たちと「とっかえひっかえ仲良くする」場面が延々と描かれていたり。
そういえば、30年前の僕は、矢野さんがあまりにもこういう性的な場面ばかり書いていたので、「何なんだこのスケベじじい(すみません、当時は本当にこう思ってました……)、『ウィザードリィ』を汚すな!」とか、読みながらけっこう憤っていたんですよね。
あと、「有名人は、こんなにあっさり高いマイコンを買えたり、ゲームソフトを貰えたりして羨ましいよなあ」とか。
途中で、僕の愛機だったX68000発売のニュースも紹介されていて、「ああ、この時代だったのか」と懐かしくなりました。
ああ、この時期はまさに、日本が「バブル経済」に浮かれていたのだよなあ。
矢野さんは、太平洋戦争経験者として、そういう日本の姿に、けっこう憤ってもおられるのです。
『ポプコム』とか『バグ・ニューズ』という雑誌名を見るだけでも、懐かしくなります。
あの頃のパソコンは、まだ、好事家たちのものだったんですよね。
書店で、『I/0』を読んでいたら、その場にいたオジサンが、「イチ、ゼロ……って、これ、何の本?」って尋ねてきたのを思い出します。
『テクノポリス』の「美少女ゲーム特集」とか、表紙がかなり「美少女」になっていて、レジに持っていくのが恥ずかしかった……
30年前は「つい最近の話」として読んでいた日記だったのに、今読むと、懐かしい話ばかりです。
そして、それぞれの時代に「いま」をそのまま記録しておくというのは、後世の人びとにとっては、重要な過去を知る史料になるのだな、ということもわかります。
2016年にこの日記をはじめて読む人は、日本のパソコン黎明期の「空気」を少しだけでも吸うことができると思うんですよ。
宮野さんの話。ドラゴンクエストの作者とハバロフスク経由モスクワへ、ゲームの筋作りに行った。ただし、作れそうになかったという。そのときに話し合ったことというほうが面白かった。「いまの作家が小説にかける時間よりも、ファミコンやコンピュータ・ゲームを作る人のほうが、物語の筋を考える時間がはるかに長い」というのだ。編集部の人だから、実態をよく知っているのだろう。
出た、日本で二番目に有名な未発売ゲーム『白夜に消えた目撃者』!!
(ちなみに一番は『ザ・ムーンストーン』。僕が決めました)
って、シナリオハンティングの時点で「作れそうにない」って思っていたのか……
長年期待していて、損した気分だ……
正直、どういう人にオススメしていいのか、ちょっとわからないところはあるのですが、僕は30年ぶりに読んでみて、ものすごく楽しかったので、ここに記録しておきます。
よいしょ、よいしょ。
- 作者: ベニー松山
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